ニュージーランドの学校は4学期制で、1学期から3学期までは10週間学校に行くと2週間の学期休み(スクールホリデー)があります。4学期が終わった後の夏休みだけは、1カ月半の長期休みがあります。南半球のニュージーランドでは、学年の始まりが2月となっていますが、日本に置き換えると夏休みが明けた後の秋から新学年がスタートするようなイメージです。この4学期制という制度は、10週間と比較的短かく、等しい長さで子どもの成長をとらえることができ、保護者の立場でも分かりやすく、子どもにとっても心理的に環境がリセットされる機会が多いというメリットがあるように思います。特に明文化されているわけではないのですが、4学期それぞれのタームは少しずつ目標が異なり、次のような形が一般的です。
各学期の過ごし方
【1学期】2月前半から10週間 | 新しいクラスが結成され、教師や生徒同士が知り合うことを重視する。前学年の復習をする。 |
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【2学期】5月前半から10週間 | 本格的に勉強に取り組み始める。 |
【3学期】7月後半から10週間 | 更に本格的に勉強をする。その学年のハイライトとなるような学習内容が扱われることが多い。 |
【4学期】10月中旬から10週間 | 夏休みに向けて徐々に勉強モードから抜けていく。学校や学外の習い事などの発表会シーズンでもあり、子ども自身の興味関心にも力を入れていく。 |
1学期は、新しい担任と生徒で新しいクラスが結成され、まずその環境に慣れることから始まります。お互いの自己紹介、自分の得意なこと、伸ばしたいこと、クラスとして慣れるためのアクティビティなどに多くの時間を使います。また、長期の夏休みは宿題がでるわけでもないので、前学年で習ったことを忘れてしまっている子も多く、その復習にもかなりの時間を要します。2学期、3学期が主に勉強を頑張る時期で、主要な外部テストやコンペティションなどもこの時期に行われます。そして4学期は、徐々に学年の終わりに向けて勉強モードから夏の気候を楽しんだり、学校でも演劇の発表会などに力を入れたりと勉強以外のことにシフトしていきます。
さて、学期中の過ごし方については4学期制は子どもにとっては良いなと思うのですが、保護者にとっては学期の終わりが年に4回もやってきて、その都度今回の休みに何をさせるか、いつ仕事の休みをとるかで頭を悩ませることになります。もちろん、何もしなくても良いのですが、特に小学校の低学年のうちは学期が始まると、「学期休みの間にやったことを書きましょう」「絵を描きましょう」「発表しましょう」といった自分の経験を共有する機会が学校でも多く設けられるため、全く何もしないで過ごすよりも、何かそうした場で言えるものがあった方が良いだろうと思っている保護者も多いようです。実際、ニュージーランドに来た当初、夫の上司から、「保護者は子どもにいろいろな経験をさせておいてあげた方が、子どもは学校で書いたり話したりすることがあるから勉強しやすいものだ」とアドバイスされました。そこまで直接的に学力への影響を考えていなくても、大きくなってしまうと子ども自身が勉強に忙しくなってしまうから、家族で長い時間一緒に過ごし、いろいろな体験をさせるなら小さいうちだとか、興味を広げてあげたいなどと思っている人も多いようです。また、学期期間中は会いにくい、遠いところにいる家族や友人に会っておきたいという人もいます。日本の場合、長期の休みには学習塾に通わせたり習い事をさせたり、いわゆる教育熱心な方も多いと思いますが、ニュージーランドでは、夏休みのような長期の休みならまだしも、両親ともになんて体験熱心なのだろう! と思います。
結局、国内海外を含めた旅行をしたり、遠方に住む家族を訪ね、そこで様々な体験をしたり、スポーツやアートなどの習い事で提供している各種のスクールホリデー・プログラム(学期休み中の集中レッスン)に申し込みをしたり、友人と遊ぶ計画を入れたり、保護者はその組み合わせに忙しく、ホリデーの始まる数週間前から、いろいろな友達から予定伺いの連絡が相次ぐようになります。いわゆる学童保育でも、ホリデープログラムを提供していますが、ただ預かるだけではなく何等かのテーマがあり、学びのあるプログラムになっているので、仕事を休まず2週間全て学童保育のプログラムに預ける場合も、かなり多くの体験ができるようになっています。しかし、2週間全て学童保育だけで過ごすのではなく、何らかの組み合わせをする家庭が多い印象です。
我が家も徐々に慣れてきましたが、外国人という立場で国内に訪ねる実家もない中で、子どもに合う体験をさせるというのは、当初は簡単ではありませんでした。そして徐々に夫が様々な案を考え、その中から子どもに合いそうなものをいくつか実行するという感じに落ち着きました。今回の息子のスクールホリデーの場合、1週間目は5日間連続で毎日30分の水泳のレッスン、2週間目は学童保育、夫が砂糖工場の見学に子どもたちを連れていく、幼稚園の時の仲良しの子と遊ぶ日というのを組み合わせることになりました。毎日、夫婦間で、どの日の何時にどちらが送迎するのかという綿密な計画を立てて過ごしました。その甲斐あってか、息子はとても楽しく充実した日々だったようです。
息子のホリデー明けの日には、早速、ホリデーの間にしたことを絵に描きましょうという時間があったそうで、砂糖工場で見た砂糖の山の絵を描いたそうです。砂糖工場に連れて行った夫は、その話を聞いてとても嬉しそうでした。「ほら、連れて行って良かったじゃない」といった具合です。その様子を見ていると、小学生の体験づくりに熱心になってしまう親の心境というのは、こうして生まれる面もあるのかもしれないと思ってしまいます。次のホリデーもきっと、夫は息子に何か体験させてあげたいと見つけてきて、私が精査するという家庭内会議が開催されるのだと思います。
因みに、7歳年上のインターミディエート・スクールに通う娘(12歳)の学期休みは、既に自分の好きなことが分かっているので、娘自身の関心に沿って計画を立てて過ごしています。また、仲の良い友人たちと会う機会も作っていますが、皆、プライマリー・スクールの頃よりも落ち着いた過ごし方をしていました。保護者が子どもに何をさせてあげられるのか幅広くリサーチして計画することは、この年齢の頃になると必要なくなり、それぞれの子どもの興味に即した過ごし方に変わっていくのかもしれません。
念のため補足しますが、子どもの体験内容で教師が読み書きのスキルを教える時の対応を変えるようなことは今までもありませんでした。子どもは自由に書くことを選ぶので、我が家の子どもたちも決して毎回、素敵な体験ばかりを学校で共有しているわけではありません。映えない体験を共有していた時でもきちんと学習に参加できていました。
東京大学大学院教育学研究科修士課程修了。幅広い分野の資格試験作成に携わっている。7歳違いの2児(日本生まれの長女とニュージーランド生まれの長男)の子育て中。2012年4月よりニュージーランド・オークランド在住。