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【カナダBC州の子育てレポート】第22回 コロナ禍での子連れ一時帰国、入管の最新事情

要旨:

3年ぶりに日本に一時帰国をしました。新型コロナウイルスの影響で日本の水際対策は今、とても厳しく、入国に必要な書類やファストトラックを利用するためのアプリなどによって、ただでさえ困難な子連れの一時帰国が、より一層困難を極めています。娘と2人でカナダから空路で成田空港へ降り立つまでについて、体験をレポートに書きました。

キーワード :
一時帰国、カナダ、成田空港、フライト、水際対策、検疫

2020年春、新型コロナウイルスの影響によりカナダ国境が閉鎖され、日本の地を踏まないまま3年が過ぎました。当時4月頭に予定していた私たちの日本行きもフライトまで2週間と迫る中、キャンセルとなりました。同時に娘の学校も休校、公園や図書館など公共の機関や子どもの習い事もすべてが閉まって、友人や同僚にも会えない中で1年半ぶりの帰国がなくなったことは、私にとって精神的に堪えました。未知のウイルスへの不安、いつまた日本の家族に会えるのだろうか、という不安を抱えながら過ごしていた日々を今でも思い出します。「きっと来年は日本に行けるに違いない」と言い聞かせていました。

その「来年(2021年)」がやってきても、一時帰国の願いはかないませんでした。まだオミクロン株が登場する以前、ワクチンが開発され、多くの人が接種することで集団免疫が生まれ、新型コロナウイルスを私たちの暮らしから排除することが可能なのではないかと私も信じていました。しかし、ワクチン接種の浸透には思っていた以上に時間がかかり、そうこうしているうちにウイルスが変異し、ワクチンを接種していても感染は免れない可能性も出てきました。ワクチン接種も2回だけでは十分ではなく、3回目が必要になってくるという話を聞くようになりました。

BC州の保健局からの発信で「Game has changed(状況が変わった)」というフレーズをよく耳にするようになりました。ワクチンによる集団免疫は望めない、ワクチン接種していても感染は免れないかもしれない、なぜならこれまでの株とは違いオミクロン株によってコロナとの闘いは変わったため、私たちの対応も変える必要があるという内容でした。ウィズコロナへの移行です。

一時帰国を決意

新型コロナウイルスが現れてから2年が経過し、これまで出来る限り外出を避け、人と会うことも最小限に抑え、子どもの習い事などもキャンセルしてきた暮らしから、少しずつ生活を変えていきたい思いが私自身にも生まれてきました。ウイルスを正しく恐れながら、コロナ以前のような生活に戻れるように身を守りながら、閉じてきた生活空間を開いていきたいと思い始めたのです。そうして帰れずに3年が過ぎてしまった日本にも、再び足を踏み入れたいと思うようになりました。日本にいる両親と、自分がワクチン接種を3回終え、娘も接種を2回終え、日本の水際対策でカナダからの帰国者に対する隔離期間がなくなった時点で、帰国しようと思うようになりました。

そうして日本領事館からの水際対策のニュースに日々目を通し、一時帰国の予定を4月に考えるようになりました。奇しくもそれはちょうど2年前のフライトと同時期であり、桜を見られるかもしれない私の希望と、日本の学校を体験したい娘の要望(半分は親の希望です)に沿ったものでした。

しかしながら、航空券の購入からして、簡単にはいきませんでした。航空会社によってはコロナ以前であれば毎日運航していたフライトも、週3便に減便になっていたり、羽田着の便がなかったりといった制限が見られました。また、ロシア対ウクライナの情勢もうけて、ガソリン代の急騰から航空券代はコロナ以前の3割増しになっていました。

渡航前の準備

私たちは日程に融通が利いたので、週半ばのフライトを仮予約したのですが、日本入国には到着72時間以内の新型コロナウイルス検査が求められていました。陰性証明がなければ飛行機には搭乗も許されません。出発時刻から72時間を逆算すると土日が入り、検査場が閉まっている、あるいは検査時間に制限があるということがわかり、フライト予定をまた組みなおすこととなりました。

このころ成田空港では検疫に「ファストトラック」というシステムが導入されることになりました。到着16時間前までに入国者健康居所確認アプリ(MySOS)でワクチン証明書や新型コロナウイルスの陰性証明をアップロードし、誓約書や質問票に回答。これを入国時に提示することによって、成田空港での入国審査の時間が短縮されるというものです。しかしこれを使用できるようなスケジュールでフライトを組むのに苦労しました。72時間以内に受けた検査の結果が出るまでには、長くて48時間を要するものの、16時間前までにファストトラックへの入力を済ませるには、検査がフライトの直前では困るからです。

検査場選びも二転三転したものの、結局実際に利用した知り合いに事情を聞いて、地元の空港内に隣接した検査場で、フライトの2日前に娘と受けに行きました。PCR検査は長い綿棒を鼻の奥まで入れるために、検査担当の看護師さんが娘に「ごめんね」と謝りながら作業してくれたのですが、娘はポケットに入れていたオモチャを目をつぶりながらもカチャカチャいじることで、うまく気を紛らわすことができました。

この検査を経て入手した陰性証明書は、苗字の表記に誤植があり変更が必要だったり、娘のパスポートの名前が長すぎて一行に収まらず、一目で陰性かどうかがわかりづらくなってしまったため、修正にも手間がかかりました。ただでさえ、子連れのフライトには準備に手間や時間がかかるので、こういった場合も想定して、特に子連れで海外渡航をする場合は検査とフライトの日程に気を付けて組む必要があると改めて感じました。

ファストトラックの利用についても、1週間ほど前から準備を始めたにもかかわらず、アプリのダウンロードがうまくいかずに困りました。このアプリは、アプリストアからダウンロードするのではなく、所定のQRコードからアクセスしてダウンロードする必要があるのですが、これがなかなか見つからず、実際に既定のアプリをダウンロードするまでに、相当の時間を費やしました。また、セットアップにもとまどい、何度か領事館に電話するなど時間がかかり、フライトまでに間に合わないかと、とても緊張しながら用意を進めました。

カナダー日本間のフライト前チェックインでは、すべての証明書を再度確認されたため、時間がかかりました。機内の搭乗客は少なめで、空席が目立っていました。私たちが利用したエアカナダは2歳以上はフライト時間中、常にマスクを着用するように言われており、乗務員と受け答えをする際には、食事中であっても、マスクを着けなおすよう注意を受けている搭乗客が多くみられました。子どもにとっては長時間のマスク着用は大変だと思いました。

日本への入国

飛行機が成田空港に到着してもすぐに飛行機を降りることは許されず、しばらくの間機内で待たされました。30分くらいはいたでしょうか。それでも「今日はラッキーだ。先日は2時間待たされた」という乗務員の声が聞こえたので、長いうちに入らなかったのかもしれません。離陸も30分ほど遅れたため、10時間以上のフライトに加え、この待ち時間は子どもにとってはとてもつらいものです。8歳の娘は、日本に到着した時間帯がカナダ時間では真夜中で、機内ではほとんど飲まず食わずで寝たのも1時間のみだったためか、「まだ出られないの?」とぐずっていました。

数日前からの緊張とストレスで私は体調不良になりつつあったものの、長い検疫プロセスはここからでした。ファストトラックの効果は、結論から言うと最初のステーションで紙に記入する作業が省けた程度に過ぎませんでした。スマホのアプリ画面を何度も提示し、陰性証明書やワクチン証明について同じ質問を何度も受け、ステーションからステーションへと、長蛇の列をゆっくりと進むのは、子連れには大変だと感じました。ようやく腰を下ろせたのは、PCR検査の結果が出るまでの待機場所で、そこまで行くのにゆうに1時間はかかったと記憶しています。娘は文句を言いながらもめげずに前に進んでくれました。検査30分前からは飲食禁止、待機場所まで自動販売機はないという情報を得ていたので、ペットボトルの水とスナック袋を用意していましたが、あまりの疲れから飲むことも食べることもできませんでした。検査結果が出るまで待機した時間は、30分足らずでしたが、陰性の人の番号のみが呼ばれ、呼ばれた人から関税のほうへ移動するというシステムで、残された人が陽性であることが周囲に分かりやすい上、陽性者、陰性者、ならびに検疫関係者がみな同じ空間に長時間いるため、感染対策という視点でもこの仕組みに疑問をもたずにはいられませんでした。

晴れて陰性だった私たちは、そのままスーツケースをもって入国となりました。この日、迎えに来るという両親を断って事前にホテルを予約していたため、空港からタクシーでホテルへと向かいました。ホテル内コンビニで娘に軽食を買い、私自身はスポーツドリンクを飲むだけでベッドに倒れこみました。

この3年間、日本はとても遠い国でした。自分は21世紀の移民であって、昔と違い、飛行機に乗ったら母国へいつでも戻ってこれると思っていたのに、こんなはずじゃなかったと何度思ったことでしょう。飛行機が到着してからも、入国まではさらに長い道のりが待っていました。ただでさえ、子連れの一時帰国は体力と気力が必要で、神経をすり減らします。世界中の人々が行きたい国を訪れ、帰りたい国に帰ることが、煩雑なプロセスなしにできる世界が、一日も早くくることを願ってやみません。


筆者プロフィール

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高井マクレーン若菜

群馬県出身。関西圏の大学で日本語および英語の非常勤講師を務める。スコットランド、アイルランド、オーストラリア、ニュージーランド、カナダなど様々な国で自転車ツーリングやハイキングなどアクティブな旅をしてきた。2012年秋、それまで15年ほど住んでいた京都からカナダ国ブリティッシュ・コロンビア州ビクトリア市へ、2018年には内陸オカナガン地方へと移住。現在、カナダ翻訳通訳者協会公認翻訳者(英日)[E-J Certified Translator, Society of Translators and Interpreters of British Columbia (STIBC), Canadian Translators, Terminologists and Interpreters Council (CTTIC)]として 細々と通訳、翻訳の仕事をしながら、子育ての楽しさと難しさに心動かされる毎日を過ごしている。

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