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【ノルウェー子育て記】第5回 進学の準備

ノルウェーに来て2回目の年越し。街中で打ち上げられた花火とともに、今年も健康に新年を迎えることができました。2021年は、2020年から続くコロナ禍に振り回された一年でした。予定していた学校の行事もなく、お友達の誕生日会も中止になったこともありました。どうか今年はすべての状況が良くなりますように!

高校進学の年

年末の大イベントであるクリスマスが終わると、1月2日からはほとんどの人が仕事を再開して通常の生活に戻ります。1月から始まる新学期を迎えて私も気分一新、前向きに物事に取り組もうと思います。家族の中の出来事でいえば、2022年は我が家の長女がとうとう高校へ進学します。親の都合で見知らぬ土地へ一緒にやってきて、彼女にも苦労があったと思いますが、そんななかで自分なりに将来のことを考えて、進学先のことも少しずつ調べている様子です。

ノルウェーでは、中学校での最終成績をもとに、高校へ進学の申請を行います。日本のように入学試験はありませんが、普段の成績が評価の対象になるので、毎回の定期試験の勉強をするときにも、テストを受ける時にも緊張するそうです。スウェーデンの中学校では5段階評価で、「5」が一番良い評価でしたが、こちらノルウェーでは6段階評価で、「6」が最高評価となります。基本的に公立高校へ進学する場合は、あまり通学に時間がかからず、自宅に近い高校へ進むことが望ましいとされているので、希望する高校を3つから5つほど挙げると、ほぼそのどれかに入学することができるようになっている、と私の同僚から聞きました。とはいえ、各高校には定員がありますから進学したい高校への申請時には、全教科の成績(6段階評価)の平均値が出され、その数値で他の希望者と競うことになるそうです。ですからどの教科もまんべんなく良い成績を取っておいた方がいいそうなので、中学生は大変だなあ、と思います。加えて、スポーツや音楽を専攻できる高校に入学を希望する場合には、成績のほかに実技やインタビューなどもあるということでした。

中学校でも、高校進学の手続き方法や、高校の選び方などを教えてくれる時間があるそうです。各高校では、中学生を招いて説明会などをしてくれる予定でしたが、それもコロナの影響で今年度は中止になるところが多く、知りたい情報を思ったように手に入れることがなかなかできないことも。こんなときには、インターネットで情報を集められるのが助かります。かろうじてオンラインで高校の説明会をしてくれるところがあったり、先日はある高校の先生が中学校へ来て、説明会をしてくれたとのことですが、やはり実際に高校へ行ってみるのとは全く違うようです。私の娘が希望する高校ではまだ何も説明会を行っていないということですが、最終的な進学希望先を申請するのは3月初頭だということなので、それまでに説明会がどうなるのかまだわかりません。

高校のコース選択

私自身もノルウェーでの生活が短いこともあり、高校に関する知識が少ないので、どんな進学先があるのか、私の住む西ノルウェーの地域の高校について調べてみることにしました(資料1と資料2)。まずノルウェーの公立高校の種類には大きく分けて2つあります。ひとつは、知識を身に着けたり、大学進学を目的にした進学コース。もうひとつは、将来の職業に関する知識を身に着けることを目的とした職業コースです。進学コースには5つのプログラムがあり、スポーツ学のプログラム、芸術・建築プログラム、メディア・コミュニケーションプログラム、音楽・演劇・ダンスプログラム、そして人文・経済プログラムがあります。特におもしろいなあ、と思ったのは選択肢が10もある職業コースのほうです。職業コースはその選択肢が豊富であり、かつ充実していることに驚きました。基本的に高校の期間は3年間なのですが、職業コースでは、さらに自分の目指す職業の分野で、職業訓練に1年間通うことも可能だということ。つまり、インターンのように実際の職場で職業訓練を受けることが可能だということです。高校での教育を受けて職業訓練も修了すると、トータルで4年間のコースに通うこととなります。職業コースには、土木関係、電気・機械関係、美容・健康関係、農業・林業関係などなど、様々なコースがあり、それらの中から選ぶことができます。1年生の時は教養科目を学ぶそうですが、2年生からは専門分野に分かれるようです。コースによっては、資格試験も取らせてくれるそうなので、若いうちから興味のある職業が決まっている子には、とてもいい環境だなあ、と思います。そういう背景を知ると、街中を歩いていてやたらと美容院が多いのにもうなずけます。高校に美容プログラムがあるので、そこで学び、資格をとった人が高校卒業後にすぐ美容師として働き始めることが可能なのですね。日本のように高校を卒業してから専門学校へ通うという手順ではなく、公的教育機関で職業の資格がもらえてしまうのには驚きました。比較的、小さな街なのですが結構な数のヘアサロンがあるのには、こういった理由があるのですね。

18歳で成人となり、独り立ちをすることが可能であるノルウェー社会の根底には、進学だけではなく就職も考慮した教育システムが整っている、という事実があることを知りました。中学校に通う娘の社会の授業では、練習問題の一つとして「自分が住宅ローンを組んで家を買うとしたらどんな方法があるか」など、非常に現実社会に関係した課題をこなしていることにも驚きました。今年は高校生になる長女の成長のスピードにあたふたしているうちに、あっという間に18歳で成人する日が来てしまうのかもしれません。そんなことを考えつつ、2022年も毎日を充実させていこうと思います。


筆者プロフィール
下鳥 美鈴

ベルゲン大学(ノルウェー)文学部外国語学科准教授。東海大学文学部北欧文学科卒業。ストックホルム大学で修士課程を終え、ウメオ大学(スウェーデン)で博士課程を修了。言語学博士。
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