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【ドイツの子育て・教育事情~ベルリンの場合】 第49回 世界遺産も入場無料! ミュージアムサンデーにボーデ博物館訪問

要旨:

ベルリンの博物館、美術館はコロナ禍により長らく閉鎖されていたが、ようやく今夏から再開された。そこで、我が家では月初めの日曜日の入場料が無料となる人気企画「ミュージアムサンデー」を利用し、世界遺産の博物館島にあるボーデ博物館を訪れた。彫刻やコイン展示で有名な同館だが、子どもも楽しめるような工夫もなされていた。例えば、入場した子どもたちが、積極的に館内の展示物を鑑賞できるようなワークブックや、学校単位で参加できるプロジェクト“lab.Bode”が挙げられる。特に、“lab.Bode”では、館内の展示場の一部を子どもたちが作り上げることができる画期的なプロジェクトである。このように、幼少の頃から気軽に文化的・歴史的価値の高い展示物に触れる機会があることは、非常に恵まれていると思った。

キーワード:
ドイツ、ミュージアムサンデー、博物館島、世界遺産、ボーデ博物館、ワークブック、lab.Bode、シュリットディトリッヒ桃子

*本稿の記載事項は2021年10月時点でのものであり、規制内容などは随時変更される可能性があることをご了承下さい。

博物館島とミュージアムサンデー

ベルリンには博物館・美術館が170以上存在していますが、その中でもユネスコの世界遺産に登録されている博物館島(Museuminsel)は特に有名です。1830年に建設された旧博物館をはじめ、新博物館、旧国立美術館、ボーデ博物館、ペルガモン博物館という5つの博物館・美術館が、市内中心部のシュプレー川の中州北部に集結しており、毎年300万人以上の訪問者を魅了しています。

コロナ下では、文化施設全般は長らく閉鎖されていましたが、昨夏からようやく再開が許可されました。そして、毎月最初の日曜日には、博物館島の施設をはじめ、文化、芸術、デザイン、宗教、歴史、自然、日常の文化、テクノロジーなど、幅広いトピックを扱っている約60か所もの施設への入場料が無料となりました。「ミュージアムサンデー」と呼ばれるこの企画は、ドイツ連邦政府文化メディア委員会およびベルリン博物館同盟と協力したベルリン州が支援しています。その目的は、市民の文化参加を促し、文化施設を社会全体に開放すること、さらに、ベルリンの多様な文化に、老若男女、誰もが触れられるようにすることだそうです。

我が家でも、この「ミュージアムサンデー」企画に参加しているボーデ博物館を訪問してきました。本稿ではその様子をお伝えします。

チケットは即完売?!

「ミュージアムサンデー」に参加している施設への入場券は、入場無料日である月初めの日曜日の2週間前からオンラインで入手できます。コロナ下で訪問者数を大幅に制限しているので、予約時には15分おきに設定された入場時間を選ぶこととなります。チケットが余っていれば当日現地でも購入可能とのことですが、人気のプロジェクトですので、ほとんどの施設では、オンライン発売日に即完売してしまうそうです。

実際、私たちもチケットの予約開始日にウェブでアクセスしましたが、多くの博物館への入場枠は既に埋まっており、チケットが取れそうな博物館は限られていました。その人気ぶりに驚きましたが、あきらめずにまだ空いている施設を順に調べてみると、息子の希望リストの一つに入っていたボーデ博物館には、まだ空きがあるとのこと! 特に午前中の時間帯は取りやすくなっていたようです。こうして開館時間である10時の枠に予約を入れることができました。通常は、18歳までの子どもはいつでも無料ですが、大人は10ユーロ(2021年11月現在、約1,280円)の入場料がかかりますので、夫と私の分のチケット20ユーロ(同、約2,560円)分が無料になり、得をした気分です。

ボーデ博物館

さて、ここで今回訪れたボーデ博物館について、ご紹介したいと思います。博物館島の北端に位置するこの博物館は、1904年に開館し、世界で最大かつ最古の彫刻コレクションや、ビザンチン美術、そしてコインコレクションが有名です。特に彫刻は、6世紀のビザンチン美術、10世紀から12世紀のロマネスク、12世紀から15世紀のゴシック、16世紀からのルネサンスやバロックといったといった幅広い年代のものが展示されており、多様な様式をカバーしています。

博物館自体もネオバロック建築で、入り口に立つとその荘厳さに圧倒されてしまいました。入り口の重々しいドアを開け、館内へ一歩足を踏み入れると、美しい内装のエントランスホールでドイツ帝国皇帝ウィルヘルム2世の巨大像が迎えてくれ、その豪華さに思わずため息が出てしまいました。入口の様子はこちら

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ボーデ博物館外観  正面入り口
  
いざ館内へ:彫刻とコインの展示がメイン

さて、いざ館内を進んでいくと、西暦500年頃から時代順に、様々な彫刻を目にすることができます。特に、古い教会で使われていた彫刻や絵画などキリスト教の展示物も多く、欧州における宗教の影響を感じました。

一方、コイン展示に関しては、数年前にここから重さ100キロ、マンホール大の巨大金貨(時価4億円相当)が盗まれる、という推理小説のような事件が実際に起きたので、かなり期待していったのですが、そのような巨大金貨はもはや展示されておらず、少し拍子抜けしてしまいました。

しかし、それでも、「どうやって持ち運びするのだろう?」というような大きなコインや、メルケル首相の顔をかたどったメダルの展示などもあり、興味をそそられました。ちなみに、200ユーロ、100ユーロの記念コインなどもあったので、実際に使えるかどうか、学芸員さんに聞いてみたところ「使用可能」とのこと。「ただ、レジの人は驚くだろうけどね!」と茶目っ気たっぷりに教えてくれました。

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入口対面に展示されている彫刻

    
子どもも楽しめる博物館

このように私たち大人は、歴史を感じさせる展示品に感銘を受けてきましたが、子どもが同じ視点で同じものを楽しめるとは限りません。しかし、この博物館では子どもが飽きずに積極的に館内の展示物を鑑賞できるよう、主に下記の2点の工夫がなされていました。

1)ワークブックの無料配布
子どもたちには入口で、展示物に関する質問などが記載されているワークブックが配布されます。例えば、エントランスホールのウィルヘルム2世の彫刻に関しては「彫刻の背景では何が起こっていると思う?」と問いかけたり、コインの展示場では、展示の説明と共に「どんなコインが展示されているか描いてみよう」「ユーロのコインを見つけてみよう! ユーロ以前のコインとの違いは何かな?」など、子どもたちが主体的に考え、鑑賞できるようになっています。

館内には多くの展示物があり、大人でも全て鑑賞するのが大変ですが、このワークブックには、各分野の展示からバランスよく質問や課題が示されており、重点的にそれらを鑑賞することができるようになっています。

また、「この博物館の中では、お母さんに抱かれた赤ちゃんの時から、十字架にかけられ、復活するまでの沢山のキリスト関連の展示が見られるよ。キリストとは誰だったのかな? なぜ彼の像がこんなに多く展示されているのかな?」といった質問がされています。吹き出しに自分の考えを書けるようになっていますが、既に「神の息子」「僕の息子」「この名前を初めて聞いた」など、自由な回答例が印刷されているので、取り組む子どもも記載しやすいようになっています。

今回同行した私の息子も、通常は、博物館に来ても、ある程度の時間がたつと退屈してしまうのですが、今回はこのワークブックのお陰で、沢山の展示の中から、ポイントを押さえて作品を鑑賞し、自分なりの考えや知見を広げることができたようです。

2)プロジェクト"lab.Bode"
2016年から行われている"lab.Bode"というプロジェクトは、館内の展示場の一部を子どもたちが作り上げることができる画期的なものです。お話を伺った学芸員によると「このプロジェクトは無料で提供されており、どの学校も応募することができます。子どもたちはまずコンセプトやテーマを決め、展示する彫刻を館内の展示品から選びます。さらに、どのように展示するか、どうしたら同年代の子どもたちが楽しめるような展示になるか、目線はどのくらい低くしたら子どもでも見やすい展示になるか、などのポイントを考慮に入れつつ、各展示物のタイトルやテキストを決め、子どもたちが子どもたちのための展示を作るのです」とのこと。

今回展示されていたのは、ベルリン市内の小学校の6年C組の児童が「気候変動、動物保護、種の絶滅、環境保護、動物生活空間の破壊」をテーマに、ボーデ博物館内から13~17世紀の動物の彫刻を中心に選んだものでした。

作品の配置に関しては、まずは段ボールで彫刻品などの模型を作り、各作品の関連性を考慮しながら展示の配置を決めたそうです。来場した子どもたちが心地よく鑑賞できるように、座ることができる場所も多く設置し、聴覚からの情報も「展示」したい、ということで、森林の動物の声なども館内スピーカーから流れていました。

今回は動物の展示が多かったのですが、各展示には子どもたちが考えたコメントが添えられています。例えば、16世紀にイタリアで作られたというブロンズ製の犬の彫刻の横には「この犬はおもしろくて素敵な動きをしている。ぼくは犬が大好きで、うちにも一匹飼っている」と子どもらしく微笑ましいコメントがありましたが、一方で人間の子どもをくわえているライオンの像には「自然を破壊されたので、ライオンは貧しくて弱い人間を食べている」など、テーマに沿った辛辣なコメントがなされていたのも印象的でした。

さらに、展示物とともに、児童たちのプロジェクトに対する意気込みも記されていましたが、その中には「動物たちの生息地を奪い、破壊したときに動物がどのように感じるか、多くの人は想像できないだろう」といった深い内容のものも多く見受けられました。

この展示企画は、数年前のオーストラリアの山火事で多くの動物が犠牲になったことが動機になったそうです。ですから、展示場の壁には森の絵が示されていましたが、一方の壁には緑の森林、対面の壁には火事で燃えている真っ赤な森林の絵が描かれていました。音響効果もこれに準じて、水や動物の鳴き声が聞こえる穏やかな森林の音と、ぱちぱちと燃えるような火事が起こっている森林の音が繰り返し流されていました。

まとめ

連邦政府やベルリン州の支援により、文化や歴史展示物に身近に触れる機会が増え、生活に潤いがもたらされたことは非常に評価できることだと思います。当地では日々高い税金を払っていますが、それらがこのような形で使われるのは大歓迎です。

また、子ども向けにも様々な工夫が施されてあり、特に、子どもたちが自分たちで問題を見つけ、それを展示テーマとして、世界的にも有名な超一流の博物館の展示物を実際に選び、展示する、という素晴らしい機会が与えられていることに驚きました。

日本で生まれ育った私にとって、当時の日本では、博物館や美術館はなんだか敷居の高い施設というイメージで、訪れる機会はあまりありませんでしたので、このように幼少の頃から気軽に文化的・歴史的価値の高い展示物に触れる機会があることは、非常に恵まれていると思いました。今回の「ミュージアムサンデー」により、ますますその敷居が低くなっていることから、さらに一般市民への門戸が開かれることと思います。我が家でも、来月はどこの博物館・美術館を訪れようか、早速検討を始めたところです。

ちなみにボーデ博物館は、現在バーチャルツアーも提供しており、日本からもインターネットを通して訪れることができます。コロナ下では文化を体験する絶好の機会です。こちらから訪問可能ですので、みなさんもぜひ堪能されてはいかがでしょうか?


筆者プロフィール
シュリットディトリッヒ 桃子

カリフォルニア大学デービス校大学院修了(言語学修士)。慶應義塾大学総合政策学部卒業。英語教師、通訳・翻訳家、大学講師を経て、㈱ベネッセコーポレーション入社。2011年8月退社、以来ドイツ・ベルリン在住。
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