CHILD RESEARCH NET

HOME

TOP > 論文・レポート > 子育て応援団 > 【ドイツの子育て・教育事情~ベルリンの場合】 第48回 コロナ下での夏休み旅行

このエントリーをはてなブックマークに追加

論文・レポート

Essay・Report

【ドイツの子育て・教育事情~ベルリンの場合】 第48回 コロナ下での夏休み旅行

要旨:

新型コロナワクチンの接種により、ドイツ国内の感染密度(過去7日間の100万人あたりの平均新規感染者数)は落ち着いていたものの、今年の夏休みは、海外旅行だと渡航制限や隔離日数制限があることから、我が家も多くのドイツ人同様、国内旅行をして短い休暇を過ごした。行先はバルト海のStralsund(シュトラールズンド)という町。感染対策を万全にしていったが、道中の列車内でも、宿泊先のユースホステルでも、きちんとルールが定められ、客もそれを順守しているようで安心した。旅先では、家族で自然を満喫し、コロナ下でも楽しい夏休みを過ごすことができた。

キーワード:
ドイツ, 夏休み, 家族旅行, コロナ下, シュリットディトリッヒ桃子
昨今のドイツの休暇事情

ドイツの学校の夏休みは6週間。帰省や旅行による渋滞などを避けるため、6月から9月の間で州ごとに開始・終了時期は異なりますが、その間、自由研究などを含めた宿題は一切出ません。また、ギムナジウム(小5/中1~高3の学校)には、通常の月曜日から金曜日の平日には週1回程度行われるクラブ活動はあるものの、日本の部活動のように週末や休み中も練習や試合が行われることはありませんし、サッカークラブや習い事もほとんどがお休みになります。ですから、子どもたちは完全にスイッチオフし「お休みモード」に入ります。

ドイツ語で休暇は「ウアラウプ(Urlaub)」と呼ばれ、ドイツ国民は数週間単位で旅に出ることが多く、大人は休暇のために働き、貯金をします。また、休暇の予定は前年から立てることが多く、秋になるやいなや翌年の夏休みの旅行チケットを取る人も少なくありません。

ちなみに、職場では毎年、年末に向けて従業員が翌年の休暇申請を行い、雇用主は従業員の休暇が重なって業務に支障が出ないように調整を行います。つまり、翌年の休暇予定は既にその前の年から立てなければならないほど、休暇は重要視されているのです。

一方で、休暇予定申請はなかなか骨の折れる作業です。というのも、当地ではフルタイム勤務の場合、与えられる約30日の有給休暇は、基本的に全てその年内に消化しなければならず、子どもの休暇に合わせて2週間休もうと思っても、職場に子どもがいる同僚が他にいると、休暇を希望する日程が重なってしまうことも多々あるからです。病欠時には有休休暇とは別に休暇が支給されるため、まるまる30日のお休みが頂けるのは有難いのですが、例えば2週間の休暇でも10日分しか消化できず、残りの20日をどの時期に消化するか、家族内と職場で同時に調整を行うのは一大作業なのです。

例年であれば、それくらい早くから計画を立てるドイツの休暇ですが、昨夏はコロナ禍真只中だったので、せいぜい街の郊外へ日帰り旅行かキャンプに行く程度の方が多かったようです。今年はワクチン接種がすすんだお陰で、そのような状況からは抜け出せたものの、まだまだウイルス蔓延は続いているため、渡航制限が発令されています。さらに、行き先によっては隔離期間が設けられていたことから、旅行先や日数が制限されているケースがあり、直前まで予定が立てにくい状況でした。ですから、例年のように海外などへ行くよりも、ドイツ国内旅行や自宅から近距離で行ける山などで、短い休暇を過ごした家庭が多かったようです。

そんな中、我が家では今夏は1年8か月ぶりに、泊まりがけの旅行に行ってきました。本稿ではコロナ下での夏休み体験記をお伝えしたいと思います。

*本記事の記載事項は2021年8月上旬時点でのものであり、規制内容などは随時変更される可能性があることをご了承下さい。

コロナ下での電車移動

今年のベルリンの夏休みは6月下旬から8月上旬まででしたが、夏休み最終週週末に私たちはドイツ北部のバルト海にある町、Stralsund(シュトラールズンド)に行ってきました。バルト海はドイツ北部、ヨーロッパ大陸とスカンジナビア半島の間に位置しており、ドイツ人にも人気の観光地です。シュトラールズンドはメクレンブルクフォアポンメルン州に属していますが、ドイツ北端に位置する同州は人口密度が低く、コロナ下でも感染者が少ないことで有名でした。また、ドイツで海に面している都市は限られており、私たちは海が恋しくなっていました。ですから、久しぶりの旅行ということで、今回の旅行先には迷わずバルト海を選びました。


バルト海(赤マークがシュトラールズンド)


シュトラールズンドはユネスコの世界遺産にも登録されている、歴史ある港湾都市で、美しい港やビーチ、水族館など海洋関連施設が充実しています。ベルリンからは直通特急電車が出ており、気軽に訪れることができます。特急電車は全席自由席ですが、幸い、コンパートメント席が空いていたので、道中は私たち家族3人のみで個室を使用することができ、窓も常時開けることができたので、ウイルス感染の不安は少なくなりました。また、朝早い電車だったからか、乗車率もそんなに高いようにはみえませんでしたし、見かけた乗客は全員指定された欧州基準のFFP2規格マスク(微粒子ろ過率94%)を着用していました。ちなみに、指定席を予約できるICE(ドイツの新幹線)などでは、乗客間で適切な距離が取れるように、1席ごとの予約のみが可能になっており、50%の席の販売となっていました。

report_09_418_01.jpg   report_09_418_02.jpg
5人がけのコンパートメント席  シュトラールズンドの港

久し振りにベルリン市内を抜けていくと、牧場や農場などのどかな風景が広がります。基本的に、1年半以上ステイホームを続けていた私たちにとっては、これが新鮮で、車窓から緑が広がる外を眺めているだけでも全く飽きません。その他、気分転換にゲームをしたり、読書をしたり、おやつを食べたりしているうちに、あっという間に3時間がたち、シュトラールズンドへ到着です。

到着後、駅で真っ先に目についたのは、手を入れると消毒液が出てくる真っ赤な機械です。この機械はドイツ鉄道管轄の駅に設置されているもので、道中、気軽に手を消毒することができる便利なものですが、残念ながら使用している人はあまり見かけたことがありません。私たちはアルコールスプレーを持参していましたが、せっかくなのでこの機械でも手を消毒し、宿泊先へ向かうバス停へ向かいました。

report_09_418_03.jpg
駅に設置してある消毒液が出てくる機械

久しぶりのユースホステル

シュトラールズンド中央駅からバスに揺られて30分、街を抜け、うっそうとした森の入り口に宿泊施設最寄りのバス停はありました。森林の匂いを胸いっぱい吸いながら道に沿って5分ほど歩いていくと、今度は海の匂いがしてきます。海を一望できる大きな邸宅が連なる静かな道をさらに歩いていくと、突き当りに目的地が見えてきました。今回宿泊したのは、家族で会員になっている毎度おなじみのユースホステルです。

【ドイツの子育て・保育事情~ベルリンの場合】第21回 ドイツ流夏休みの過ごし方」でも記したように、8年前、初めてユースホステルに宿泊した時は、ホステル未経験の私はそれまで休暇で宿泊してきたホテルとの違いに戸惑いを覚えたものでした。しかし、その後、ユースホステルに家族で宿泊したドイツ国内の都市や町は片手では収まらないほどになり、今やホステル宿泊のベテラン(?)です。

ちなみに、ドイツでは長らく宿泊を伴う旅行は禁止されていましたが、今回宿泊したユースホステルは夏休みに合わせて6月下旬からオープンが許可されていました。

今回も二段ベッドが二つと小さなクローゼットと机、という簡素な部屋でしたが、8年前との違いは、シャワートイレ付きのプライベートルームということ! コロナ下で安心して宿泊を楽しむためにも、これは譲れない点でしたが、やはりこのタイプの部屋は人気だったようで、私たちが予約した時には1泊分しか空きがありませんでした。

それでも、一泊二食(食べ放題)付きで、大人一人44.50ユーロ(約5,785円、2021年8月時点)、子どもは36ユーロ(約4,680円、同)と安定の低価格です。さらに、今回のホステルは、地元の人しかアクセスしないであろう「ほぼプライベートビーチ」まで3分、森林へも数分、という自然を満喫できる絶好の立地でした。「子連れ家族大歓迎」なユースホステルでの滞在は、家族全員が満足できるものとなりました。

report_09_418_04.jpg   report_09_418_05.jpg
ユースホステル入口  敷地内の宿泊用建物

           
コロナ下での宿泊ルール

とはいえ、このご時世、何が起こるかわかりませんし、やむを得ず急にキャンセルしなければならない状況に陥るかもしれません。宿泊先でも様々なルールを設けていました。まず、キャンセルに関しては、感染者増加に伴い、メクレンブルクフォアポンメルン州が宿泊禁止令を出した場合は、無料でキャンセルできる、とのこと。さらに、宿泊の1か月前までに50%の宿泊料金を支払っておけば、もし何らかの都合で宿泊できなくなっても、予定宿泊日から36か月以内であれば、同じ州内の好きなユースホステルに無料で宿泊を振り替えることができる、とのことでした。

チェックイン時には、予防接種証明もしくは24時間以内の陰性証明が必要でした。さらに、施設内のルールは、館内に張り出されており、「自室以外でのマスク(FFP2もしくは医療用)着用、対人距離(1.5m)を取ること、手洗いの遂行」が強調されています。また、換気のため、部屋の窓は常に開けておくよう求められており、各建物の入口のドアは常に開けられていました。このようにルールが明確化され、周知されているのは、利用者にとっても安心材料です。

report_09_418_06.jpg
建物ごとに貼られていた施設内のコロナルール

さて、受付で受け取ったシーツや枕カバーで各自ベッドメイキングをしたり、持参したアルコールスプレーで部屋を消毒して荷解きをすると、あっという間に夕食の時間です。ユースホステルでは通常、食堂でビュッフェ形式の食事が提供されますが、ここでも、いくつかのルールが導入されていました。マスクの着用と消毒の徹底、そして対人距離を保つことです。食堂に入る前に、入口に設置されているアルコールで手を消毒しなければなりません。ドイツでは屋外ではマスクをしていない人が多く、この施設でもご多分に漏れずマスクなしの人を見かけたのですが、さすがに屋内の食堂では皆さんマスクを着用していました。当然、食事をサーブするスタッフの方々もマスクと帽子を着用しています。

また、食堂内の人数を制限するため、チェックイン時に希望の食事の時間帯を聞かれました。宿泊客をいくつかのグループに分け、時間差で食事をさせることによって、一度に食堂に滞在する人数を減らす、というのが目的のようです。テーブル間の距離も保つことができますし、ビュッフェに並ぶ人数も減らすことができます。ちなみに、1テーブルは8人掛けでしたが、だいたい1テーブルに1世帯が座り、隣接するテーブルは常に空いている状態でした。食堂の窓も常に開けられており、換気もばっちりです。

私たちは夕食も朝食も一番早い時間帯を予約しましたが、食べ物は豊富にありましたし、どこを見ても手付かず、きれいなままで衛生的でした。早起きは少し大変でしたが、まさに「早起きは三文の徳」で、気分良く、安心しておなか一杯食事をすることができました。 ちなみに、宿泊時のメニューは、晩御飯のメインがシュニッツェルとジャガイモとゆで野菜、さらにサラダやチーズ、パンのビュッフェ、という典型的なドイツ料理。夫と息子は大喜びでしたが、味は相変わらず「可もなく不可もなく」というレベルでした。一方、朝ごはんは、パン、シリアル、チーズ、ハム、野菜、果物各種のバイキング、と新鮮な素材が多く、朝から沢山食べすぎてしまうほど、満足できるものでした。

コロナ下でも変わらないこと

さて、早い夕食を済ませてもまだ6時半、日没まで3時間ほどでしょうか。ユースホステルの部屋にはテレビなどはありませんし、せっかく自然が豊富なところに来たのですから、外に出ない理由はありません。早速、私たちは近くのビーチへ行ってみることにしました。潮の香りに誘われて3分ほど歩くと、広い海が目に入ってきます。生憎、宿泊1日目は時折パラパラと雨が降る肌寒い日だったのですが、そのおかげか、他には誰もおらず、まさにプライベートビーチ状態! 久しぶりに海を見た息子は興奮して「僕、泳いでくる!」とそのまま海に入っていきました。私はフリースを着て、スカーフをぐるぐる巻きにしている状態だったので、冷たい水に触れた程度で満足でしたが、ドイツでは日本の秋くらいの気温でも、湖や海で泳ぐ人が多く、この後、別の家族がやってきて、水に入って遊んでいました。

report_09_418_07.jpg   report_09_418_08.jpg
海を独り占めする息子  ホステルの庭でサッカーを楽しむ子どもたち

      

20分ほど経つと、さすがに少し寒さを感じてきたのか、息子は水から上がってきました。いったん、部屋に戻って温かいシャワーを浴びたものの、まだまだ外は明るく、幸い陽も差してきました。この施設でも、お庭が広くとってあり、ビーチバレーコートや、アスレチック、卓球台、そしてお決まりのサッカーゴールなどが設置されています。ちょうど、最後のグループの食事が済んだようで、沢山の子どもたちが外で遊んでいるのを見て、息子も自ら「僕もサッカーしてくる!」と言うや否や、あっという間に、他の子どもたちに交じってボールを蹴り始めました。8年前にユースホステルに宿泊したときには、少し照れ気味に他の子どもたちの間に入っていったのですが、今や率先してサッカーをするまでになっている彼を見て、その成長ぶりを感慨深く思いました。

このように、ユースホステルの大きな利点は、大体どこの施設でも、子どもも楽しめる場所が用意されていることだと思います。これはコロナ下でも変わりません。屋外であれば、感染の可能性も低くなりますし、何より、子ども同士で自然の中、思い切り体を動かすことは、とても健全なことだと思えました。日常生活では、知らない人たちと交流することはあまりないかもしれませんが、休暇中、同年代のその場に居合わせた子ども同士が、スポーツやアクティビティを通じて、ひと時を共有することができるのは素晴らしいことだと思います。

その間、大人は大人同士で散歩をしたり、ビールを飲みながらお庭でリラックスしたり、思い思いの方法で夕暮れ時を楽しみます。ドイツでは、子どもは子ども、大人は大人、と世界が分けられている場面が多く、例えば、大人数が集まる誕生日会では、大人用と子ども用でテーブルが分けられていたり、日常でも、子どもをベビーシッターに頼んで、夫婦でコンサートに出かける、という光景がコロナ前には珍しいことではありませんでした。「子どもと大人では、楽しめるポイントが異なる」というのがその背景にあるのですが、久しぶりにユースホステルに来て、その点を再認識した次第です。

report_09_418_09.jpg   report_09_418_10.jpg
庭で卓球を楽しむ子どもたち  ビーチへ再び

    
最後に

今回の旅行はコロナ下の宿泊ということで、感染対策に一番注力しました。アルコールスプレーや除菌シートを沢山持参し、気が付くと手指はもちろん、あちこちにシュッシュとスプレーしていた状態でしたが、実際、旅に出てみると、道中や施設内でもしっかりとルールが定められており、皆さんもそれらを守っていたため、安心した場面が多かったのも事実です。海沿いを散歩したり、遠くまで続く水面をぼーっと眺めたりしているうちに、久しぶりに心身ともにリフレッシュすることができ、コロナ下でたまっていたストレスがすーっと消えていきました。子どもも普段とは違う環境で、自然をエンジョイし、旅を満喫することができたようです。状況が落ち着いたら、もう少し遠くまで出かけてみたいと思います。


筆者プロフィール
シュリットディトリッヒ 桃子

カリフォルニア大学デービス校大学院修了(言語学修士)。慶應義塾大学総合政策学部卒業。英語教師、通訳・翻訳家、大学講師を経て、㈱ベネッセコーポレーション入社。2011年8月退社、以来ドイツ・ベルリン在住。
このエントリーをはてなブックマークに追加

TwitterFacebook

インクルーシブ教育

社会情動的スキル

遊び

メディア

発達障害とは?

論文・レポートカテゴリ

アジアこども学

研究活動

所長ブログ

Dr.榊原洋一の部屋

小林登文庫

PAGE TOP