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【ノルウェー子育て記】第1回 初めての転校

下鳥 美鈴

2021年2月 5日掲載

「スウェーデン子育て記」から引き続き「ノルウェー子育て記」と名を変えて連載を続けることになりました。その第1回をお送りします。

ノルウェーの基礎情報

ノルウェー王国は、北ヨーロッパのスカンディナビア半島西側に位置する国です。スカンディナビア半島東側のスウェーデン王国とは長い国境で接し、北方ではロシア、フィンランドと国境を接しています。首都はオスロ。2020年のノルウェーの人口は約540万人で、北海道の人口とほぼ同じくらいです。現国王はハーラル5世。そして2013年から内閣首相を務めているのは、アーナ・ソールバルグ首相です。ノルウェーの産業は主に漁業、林業、鉱業などですが、石油の原油輸出国としても有名です。ノルウェーの公用語はノルウェー語ですが、そのなかにブークモール(書き言葉)とニーノシュク(新しいノルウェー語)の2種類が存在しています。一般的に広く用いられているのはブークモールです。税率の高さでも知られており、日本の消費税にあたる間接税は25パーセントです(ただし食料品などは15パーセント、公共交通機関の乗車料金などは12パーセント)。

新しい学校の新学期

2020年は新型コロナの影響で、生活が大きく変わったという人が大勢いると思います。我が家でも私の仕事の都合により、家族で引っ越しをすることになりました。夫と娘2人の家族4人で長年住んだスウェーデンを離れ、お隣の国ノルウェーへお引っ越しです。14歳と10歳の子どもたちにとっては、生まれて初めての引っ越し、そして転校という人生の一大事を迎えることになりました。

隣国とはいえ、ノルウェーの学校の様子については何も知らなかったので、引っ越し前に少し調べてみることにしました。長女は中学生、次女は小学生なので、小学校と中学校について調べてみました。その中で一番驚いたのは、ノルウェーでは小学校も中学校も学校給食が無いということです。スウェーデンではずっと当たり前のように給食があったのですが、こちらでは毎日お弁当を持って行かなくてはいけないと知り、驚きました。このことをノルウェーの職場の同僚に話すと、「スウェーデンには給食があるのね!」と逆に驚かれました。隣国であっても、当たり前と思っていることが違うと実感しました。しかしお弁当といっても、日本のお母さんたちが作るような手の込んだものではなく、みんな簡単なサンドイッチと果物くらいしか持ってこないというので、ちょっと気が楽になりました。スウェーデンの学校では、給食が苦手な子どもがいたり、好き嫌いのある子がいたりして、かなりの量の食物が残ってしまうという話を、給食室で働いている友人から聞きました。共働きの家庭にとっては、学校給食の存在がとても助かるのですが、同時に大量に廃棄される食物の問題などを考えると、今後はスウェーデンでも学校給食制度が見直され、各自でお弁当を持っていくという選択肢も検討の余地があるのかもしれないと思いました。

ノルウェーでは、8月から新学年が始まり、秋と春の2学期制です。引っ越してまだ2週間しか経っていない中、いよいよ迎えた新学期の初日。私は小学生の次女につきそって学校へ行きました。朝、行ってみると、コロナ対策のために、子どもたちは校舎の外でクラスごとに集まっており、それから順に校内に入りました。転校生は娘一人だけだったので、学校にいる保護者は私だけでした。手洗いをした後に席につくと、先生の話があり、転校生として娘が紹介されました。あんなに緊張して真面目な顔をしている娘の姿を見たのは初めてで、私も少し緊張しました。初日なので授業はなく、担任の先生の話だけで終わりましたが、娘は休憩時間にはもうクラスの女の子たちと遊んだり、先生に聞かれたことにもちゃんと答えたりしていたので、本当にひと安心しました。学校で使う教科書は、スウェーデンと同じように学校から貸し出されるものなので、かなりボロボロになっている本もありましたが、これを借りて自分でカバーを付けて使います。ノルウェー語の教科書の内容は、スウェーデン語で日常会話に問題のない私にとっては、辞書を使いながら理解できる内容でした。小学生の次女には宿題のサポートをしてくれる先生がいたり、長女が通う中学校ではノルウェー語の特別授業が受けられたりするそうなので、その点についても安心しました。学校が始まってからは、毎日夕飯時には、その日覚えたノルウェー語を親子で教えあって地道に勉強しています。とはいっても、子どもたちのほうが生活に順応するのがはやく、私のほうが教えられることが多いので、子どもに頼ってしまう機会も増えてきました。今まで子どもたちを保護する立場だった私の役目も、こうして少しずつ変わっていくのだなあ、と感慨深かったです。

ノルウェーとスウェーデンの母語教育

言葉の違いについてさらに言えば、ノルウェー語とスウェーデン語は言語的に似通っていることもあり、簡単なコミュニケーションにおいてはあまり問題が無いのですが、確実に理解するには勉強が必要です。子どもたちにとっては、大切な知識を身に着けるために言語を習得することは必要不可欠なステップです。そのため現地公用語以外の外国語を母語とする児童に対して、スウェーデンでもノルウェーでも母語教育制度というものが用意されています。しかし、その目的をよく調べてみると、スウェーデンとノルウェーでは考え方が違うのかなと思いました。

まず今まで住んでいたスウェーデンの母語教育の目的を教育委員会のホームページ(参照1)で調べてみると、「児童が自分の母語について知識を深めること」(筆者訳)だそうです。言語というものは、それを話す人のアイデンティティーであり、考え方を形成するために重要な要素であることがその理由です。まずは児童の母語をしっかり習得することで、第2言語となるスウェーデン語を獲得しやすくなるといいます。実際に、スウェーデンの小中学校では母語クラスが教科の一つとして扱われるので、成績がつけてもらえます。スウェーデンの高校入試は、中学校での成績をもとに書類選抜される方式なので、母語クラスでの成績が良ければ、高校入学の考査に利用することもできます。つまり、現実的にはスウェーデンで生まれ育ち、スウェーデン語に何の問題もない児童でも、両親か片親のどちらかが外国人である場合、親の話す言語の習得を目的として学校で勉強することができるシステムです。私の日本人の友人の子どもたちは、日本語の母語クラスに通っている子が多く、その目的はスウェーデンでの授業についていくためというよりは、もう一つの母語となる日本語を忘れないため、もしくは上達させるため、というものでした。

こうした理解のままノルウェーに来て、ノルウェーの母語教育について調べたとき、大きな違いがあることに気が付きました。ノルウェーの文部科学省にあたる機関(参照2)が発行している文書によると、ノルウェー語以外の言語を母語とする児童に対する母語教育の目的は、ノルウェー語によるノルウェーの教育カリキュラムについていくためのサポートのようなものであり、ノルウェー語を習得することを目的とした補助的な役割だということです。それで、なるほどと納得したのですが、我が家の娘たちはスウェーデンで教育を受けてきてスウェーデン語を母語としているので、ノルウェー語での授業にはついていきやすい条件にあります。ですから、ちょっとした先生のサポートはあってもスウェーデン語での母語教育が必要なほどではないので、特別な母語での授業は必要がないという判断をされました。この場合、日本語は第3言語となるので、日本語での授業へのサポートも受けることはできません。

たしかに「母語教育」と一口に言っても、その定義や目的はさまざまに異なりうるんだなあ、と思いました。この記事の最初にご紹介した2つの公用語ですが、ニーノシュク(新しいノルウェー語)のほうは、外国語(おもにデンマーク語)の影響をあまり受けていない本来のノルウェー語を継承していくために作られたものです。そのような言語政策から考えても、ノルウェーの人は自国の言語というものに強い誇りをもっているのだなあ、と感じます。今後も日本やスウェーデンでの経験と照らし合わせて、ノルウェーの文化や考え方との違いなど、教育面での新たな発見をお伝えできたら嬉しいです。

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クリスマスのイルミネーションで飾られた街並み



筆者プロフィール
下鳥 美鈴

ベルゲン大学(ノルウェー)文学部外国語学科准教授。東海大学文学部北欧文学科卒業。ストックホルム大学で修士課程を終え、ウメオ大学(スウェーデン)で博士課程を修了。言語学博士。
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