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ノルウェーの父親たち

ジャン・ストロー (オスロ・ユニバーシティー・カレッジ社会科学部 准教授)

アン・ジャンセン (オスロ大学心理学部 リサーチフェロー)

2007年11月 9日掲載

要旨:

過去20年で、ノルウェー人男性の子育て参加は劇的な変化を遂げた。その変化は、家族の中の経済的な大黒柱として妻や子を支える父親から、子どもたちと日々活発にかかわる父親への変身である。男性たちは子育てへの関わりを深め、若い女性たちの多くは、より高い教育を受けるようになってきている。このような二つの変化、発展はノルウェー社会、ノルウェーの子ども達の生活にさらなる新たな変化を生み出していくに違いない。



過去20年で、ノルウェー人男性の子育て参加は劇的な変化を遂げた。その変化は、昔からずっと子育てからは一歩引いていたノルウェーの父親像からの脱却に特徴づけられるだろう。家族の中の経済的な大黒柱として妻や子を支える父親から、子どもたちと日々活発にかかわる父親への変身である。現代のノルウェーの若い世代は、父親も自分の子どもへの関心が高くなり、毎日の育児に大きな役割を果たしている。1993年、出産の際に、父親に6週間の有給の育児休暇をとる権利が認められた。当初その権利を実際に行使した父親は、4パーセントにすぎなかったが、今は85パーセントにまで増加した。

 

ノルウェーの男性が父親業や子どもと一緒に過ごす時間のプラス面に気づき始めたことは明らかだ。子どもの日々の生活に関わり、親としてのプライドと喜びをかみしめることができるのである。ノルウェーでは、都市部の公園で子どもと過ごしたり、息子や娘をサッカーの試合に連れて行く若い父親の姿をよく見かける。夕暮れ時に家を訪ねたら、子どもたちと一緒に、夕食の支度をする父親たちに会えるだろう。

他の多くの国と同様、ノルウェーでも、子育てにおける男性の役割は、母親の役割に比べて未だ小さいものである。出産に際しノルウェーでは両親に12ヶ月の有給の育児休暇が認められており、その12ヶ月間は二人で概ね自由に分けられる。男性が長い育児休暇を取るようになってきたと言って差し支えないが、多くの男性は父親を対象に認められている6週間の休暇をとることでよしとしている。子どもが生れたら二人で分けられると法律で決められている有給の育児休暇の90パーセント以上を女性が取るという状況が続いている。(Statistics Norway 2002)

両親が仕事に戻った後も、この性差による違いは続いていく。ノルウェー女性はかなり高い割合で労働市場に参入しており、1歳から6歳の子どもの80パーセントが保育園に通っている。しかしながらパートタイムに従事する女性が43パーセントにものぼり(男性では13パーセント)、家事と育児は今も主に女性が担っているという現実を反映している。離婚後の親権の行方も同様にこの現実を反映しており、共同親権が広がってきたとはいえ、主な養育者は依然として母親である。

 

それでも多くの男性たちが子育てに関わりたいと思っており、社会の課題として新たな問題点が浮上してきた。その中心的問題といえるのが、私達の社会において、男性たちには日々子どもと思うように関わる充分な時間がないということである。親子の触れ合いは、一定の計画通りに決まった時間に多くなるというわけではないので、時間の問題は簡単には解決されない中心的課題となっている。夜の7時から8時の間に家にいるのが重要で、その時間帯で子どもと強い絆を結ぶことができると信じている父親も、その多くは子どもが親を必要とする肝心要の時間を逃しているだろう。自分を愛してくれている大人の配慮や関心が本当に欲しいその時に子どもは、その大人の養育者と実際に接する必要があるのである。仕事場から子どもに電話をかけて、「おやすみ」をいうだけで、ことが足りるわけではない。子ども達の日々の生活のそこかしこ、呼ばれればすぐに応えられるところにいる必要がある。仕事で時間的にも拘束されるため、そうしたくても難しい父親もいるだろう。しかし、以前よりずっと多くのノルウェーの父親が、職場で声を上げ、自分たちはもっと家にいる必要があると主張している。子ども達は日常の家庭生活で自然に父親と接し話をする必要があることをはっきりと表明している。ノルウェーの指導者たちもこうした考えを受け入れるようになってきた。ノルウェーのホーコン・マグヌス皇太子と、イェンス・ストルテンベルグ首相は、インタビューの中で、彼ら自身、日常生活では子どものことを優先して考えていると答えている。

初めての子どもが生れたとき、家族の中で、自分は脇に置かれた感じがしたと報告している男性たちもいる。子どもが生れて最初の数日、数ヶ月は、母親が主に子どもを養育するのが自然なことであるようだ。ノルウェーでは母親の大多数が母乳育児をしており、出産によって物理的に子どもと離れた後もずっと、親子の強い絆を保つ役割をしていることは言うまでもない。最初の数日、数週間、父親たちは、自分にできることは、母親に休息が必要なときに手助けすることぐらいだと感じるだろう。父親としてのアイデンティティーを見つけることや、子どもの誕生という未知の状況下で自分のできることを見極めることの難しさも実感するのではないだろうか。赤ちゃんが生まれたときに、父親と母親が遭遇する困難の中で一番明白な違いがここにある。子どもとの生物学的な関係、母性に対する社会通念から、母親の仕事を概念化してしまえば、話は簡単かもしれない。ノルウェーの父親は、長い間子どもとは距離のある存在だったが、父親の役割をどう捉えるかは、そのかなりの部分を、父親になったときに個人個人がそれぞれに決めればいいことである。

親になってから時間が経つにつれ、家庭の中の父親の役割はだんだんはっきりしてくる。子どもの生活における父親の役割も重要性が増してくるはずだ。家族の生活がうまくいっているときは、母親と父親の役割の違いはわずかで、子どもの養育者として同じように重要な役割を担っている。また、男性の子どもの世話の仕方は、女性とは違うことも研究でわかってきた。父親は、子どもといるとき一緒に遊んであげるのが、とても大切だと考えている。父親は遊びの上手さで子どもの生活とかかわり、重要な役割を果たしていけばよいのではないだろうか。

女性と男性とで子どもとの関わり方が違っていることを述べたが、その共通点の方がより重要である。父親も母親も、子どもの世話を充分にしてあげられているかどうかが、一番気にかかるところである。養育の質は、一般的に以下のような基準で測ることができるだろう。親と子どもの関係における問題の取り組まれ方、子どもに必要とされたときの親の応じ方の程度、子どもの行動に対する親の一貫性、その他の項目に対する答えである。適切な養育には、ジェンダーの観点から生じる懸念をうまく乗り越えていくことも必要である。思春期の子どもはよい生育環境にあると、男であること、女であることの意味をうまく受け入れ、自己の中でよいイメージを統合することができる。そのためにも、子ども達は、母親の存在と同様に父親の存在を必要とする。父親は、男性としてのよいロールモデルを子ども達に示すことができるのである。子ども達が健全な大人の男性、女性へと成長するために女性のロールモデルが必要であるように、家庭における男性の存在は大切である。

子育てに加わらないことを選んだ男性たちの中には、子育てに参加するなど男の沽券にかかわると考える者もいる。このような恐れは、他の父親たちと会い、父親業について話し合うことで、和らげて行くことができる。男性たちは父親としての話を普通、同性同士でするものだろうか。一概には答えられない疑問である。ある男性たちの間では、ごく普通にされている話題であっても、自分の子ども、子育てについて話題にするのは有り得ないと考えている男性もいる。数年前、二人のノルウェー人男性がそれぞれ自分の父親としての体験を本にした("Pappaboka1)"『父親の本』、"Pappa for forste gang2)" 『初めて父親になって』)。二冊とも、男性は父親になることで、大きな変化を体験することを理解してもらうことを願って書かれたものだ。自分たちのアドバイスが読者の心に響くことを願って、父性の経験を他者と分かち合いたいと考えたのである。その内の一人、Finn Bjelke は、インタビューで、男性たちにたくさん買ってもらおうとは考えなかったと答えている。女性が買って、リビングルームのテーブルに置いてくれれば、夫たちが時折その一部でも見てくれるのではと望んでいたと語っている。

おそらく男性たちは、父親としての経験をあまり話したくないのだろう。とにかく子どもたちと一緒に何かをしたいという気持ちがとても強く、その思いに比べたら日々の父親としての体験を人に話す必要性などあまり感じないのかもしれない。逆に、父親としての経験を他の父親たちと話す多くの父親は、こうした会話はとても実りが多くて、自分の成長にもなると考えているのではないか。父親としての子育てを話すことで、実質的にも感情的にも自己の父性を豊かにすることができると思う。父親たちが子ども達の日々の生活に深く関わり始めたことで、男性たちの話題もがらりと変わり、父親業や子育てについて普通に話し合われるようになるだろう。男性たちが集まって子育ての話をするようになれば、互いの経験から学ぶとてもいい機会となる。親として何をすべきか、どう反省したらいいか学べるのだ。男性たちの間の父親業の会話は、新しいよい父親像を模索する足がかりになるであろうし、多くの男性たちが求めていることであろう。

男性たちが子育てに参加するには、まだ困難がある。ノルウェーでは、男女とも、父親は活発に子どもの生活にかかわるべきだと考えている。この見解は、労働市場における男女の平等の機会を促すものであると考えるフェミニストからも支持されている。父親の子育て参加は父親自身と子ども、両方にとって重要であると考える男女からもまた支持されている。父親にとっては、男性とはという概念を広げる可能性を与え、若い男性にとっては、彼ら自身の男らしさの新しい可能性を広げるものだ。子ども達にとっても重要である。男性と女性が日々の生活に普通に存在することが、その発達にとって重要であると考えられているからだ。

男性の子育てへの関わりが多くなったことによる肯定的結果の一つは、子ども達が男性、女性の両方の性の大人に育てられるということである。以前に比べて相当に大きな変化である。この変化がどれだけ根本的であるかは意見が分かれるところであるが、家事についてとなると今も女性が大きな負担を負っていることに疑問の余地はほとんどないであろう。それでもなお、こうした社会の変化の中、これまでのノルウェーでは見られなかったスケールで、若い女性たちが教育やキャリアを追及している。男性たちは子育てへの関わりを深め、若い女性たちの多くは、より高い教育を受けるようになってきている。二つの変化が同時進行しているのである。このような変化、発展はノルウェー社会、ノルウェーの子ども達の生活にさらなる新たな変化を生み出していくに違いない。

  

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1) Lars-Ludvig Roed: Pappaboka. Oslo: Cappelen. 2006
2) Finn Bjelke: Pappa for forste gang. Oslo: Gyldendal Norsk Forlag. 2006

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