モンスーンが明けて、数多くのヒンドゥー教のお祭りが終わると、今度は結婚式シーズンがやってきます。11月半ばから12月にかけて、市内のあちらこちらでお祝いの太鼓の音が聞こえ、華やかなドレスを身にまとった女性や正装した男性がホテルや結婚式会場に集います。運が良ければ、街中で新郎新婦が馬車に乗って会場に向かう姿を見ることができます。私は11月末にインド人の友人の息子さんの結婚式に招待され、初日に行われたムンバイ随一の歴史あるホテルのパーティーに出席しました。
儀式1 | お祈り | |
儀式2 | 指輪交換 | |
儀式3 | 歌とダンス | |
儀式4 | お祈り | |
儀式5 | 火祭りの儀式 | |
儀式6 | 新婦へ朱印付与 | |
儀式7 | お祈りとダンス | |
儀式8 | 結婚式 |
招待状には4日間に分けて行われる儀式の日時と場所とともに招待客のドレスコードが書かれています。
インドの結婚式は、3日から5日かけて行われます。「婚約式」「指輪の交換式」に始まり「サンギータ」と呼ばれる歌とダンスの祝い、「お祈り」「結婚式」など、いくつもの儀式が数日に分散されて行われます。日本のような3時間程度のパーティーではなく、一つ一つの儀式に時間を費やし、それぞれ会場も異なり、新郎新婦の衣装も招待客の服装も毎回変わります。招待客は、自分の参加したい儀式を自由に選ぶことができ、事前の参加申し込みも不要です。各儀式によって招待客の顔ぶれも異なりますが、新郎新婦の親戚や親しい友人たちは、全ての儀式やパーティーに参加をするそうです。
開宴時刻は土日は午前から夜まで、平日は夜が多く、平日の仕事が終わった後に自宅に寄って、着替えをして出かけても十分間に合います。私は家族とともに「指輪の交換式」に出席するため、夜の8時半ごろにホテルに到着しましたが、まだ招待客の半数ほどしか集まっておらず、午後10時ごろになってやっと続々と人々が訪れ始め賑わいを増していきました。ホテルの宴会場に入ると、まずは中央にヒンドゥー教の神様(ドゥルガー神)の大きな祭壇が設けられています。その前にはシアター形式で椅子が100席ほど並べられ、神聖な儀式の最中は着席をして静かに新郎新婦を見守ります。また、音楽が始まり人々が自由に踊り始めると、パーティーの料理スタンドが壁際にずらりと並びます。円形のテーブルセットも用意されていたので私たちはそこに移動して着席することができましたが、多くの人々はところ狭しと立ったまま立食パーティーを楽しんでいました。こうして300余名のゲストが食事をしたり、音楽に合わせて歌ったり、踊ったりして、自由にパーティーを楽しみ、数日に及ぶ結婚式の幕が開きます。


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赤ちゃんや子ども連れの出席者も多く、きれいなドレスを着た子どもたちが親に連れられて、新郎新婦に挨拶をしたりお祝いの言葉を述べたりしていました。日本のようなご祝儀やギフトを贈る習慣はないそうで、パーティーには手ぶらで行くのがマナーのようです。結婚式を執り行う親族が、ゲストをもてなすのがインド流の結婚式なのだそうです。ホテルの宴会場に用意されていたお食事やおつまみには「Sushi Roll」や「Vegetable Tempura」と書かれた日本食(和食)も用意されており、それがとても人気があり、あっという間にお皿が空になっていくのを見て、日本の料理も少しずつインド人の中に浸透しているのを感じました。

今回から二回にわたり、日本とインドの文化交流についてレポートします。
日本の生け花と盆栽
インドには、日本の華道が伝わっています。ムンバイには小原流、池坊、草月流の3つの流派の教室があります。娘の小学校の友だちのおばあちゃまで、インドに日本の「生け花」が入ってきて初期の頃に師範の免状を取得された方がいます。週に3回、インド人の大人の女性を対象にお教室を開かれており、週に1回は子どもたちに「生け花」を教えていらっしゃるそうです。また、駐在の日本人の奥様から「生け花」を習い、興味をもたれたインド人の方が集まって勉強会をしたり、華展を開いたりするなど、日本の文化は若者だけでなく、主婦層にも根付いています。
また、盆栽もインドではとてもポピュラーです。日本にある松などの針葉樹はインドでは見かけませんが、様々な植物を小さな鉢に植えて、枝を剪定し形を整える本格的な盆栽を趣味としているインド人家庭も少なくありません。特に、ムンバイはほかのインド国内の都市に比べて、住宅事情があまり良くないため、市民のほとんどがマンションに居住しています。庭のある一戸建ての家というのは少ないため、家庭菜園や植木など、土壌からお手入れすることは難しい街です。そのような住宅事情でも手軽に、ベランダで緑を楽しめるとあって、小さな盆栽の需要は、年々伸びているそうです。
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日本の食材と和食
冒頭の結婚式の食事の話でもお伝えしましたが、お寿司やてんぷらがインドでも人気が出てきています。私が、ムンバイに引っ越してきた当初は、ホテルのビュッフェ以外で和食が頂けるレストランは、市内でも3軒ほどしかありませんでしたが、3年経った現在、その数がずいぶん増えているように感じます。レストランの多くは、他のアジアの国々の料理と併せて和食も取り入れているところが多いようです。
週末になると、日本料理専門のレストランは、地元のインド人で予約がいっぱいです。また、世界的にチェーン展開するコーヒーショップでも、ランチのメニューに蕎麦のサラダを出しています。蕎麦は健康に良いと、「ムンバイタイムズ」紙の日曜版のお料理コーナーにも時々紹介されています。ベジタリアン向けのお寿司やのり巻きなどは、キュウリ、かんぴょう、アボカドなどを具材にしており、これは日本とそれほど大きく違いはありませんが、「ノンべジ」向けの生の魚類を含むお寿司は、日本のように種類が豊富にあるわけではないので「まぐろ」か「サーモン」のお刺身がメインとなります。他には「いくら」や「とびっこ」や「かにかま」などがお寿司のタネとなっていることが多いです。生の魚を食べることができるインド人も増えており、お箸を上手に使って、日本蕎麦やラーメンを食べている人々も見かけます。日本の緑茶も本場インドの紅茶に負けず劣らず、人気があります。
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日本の食材は、地元の高級スーパーで手に入ります。最近は、みそ、しょうゆ、蕎麦、焼きのり、マヨネーズ、なども購入することができますが、非常に高価で日本の価格の3倍以上します。地域の日本人コミュティーの中では、日本の製法を学んだインドの個人商店が、それぞれ食パンやうどんや豆腐などの日配品を受注販売しています。手作りの新鮮な豆腐やこしのある手打ちうどんをインドで食べることができるのは、嬉しいことです。
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また、娘の通うインターナショナルスクールのインド人家庭からは、私たちが一時帰国の度に、日本食材や日本のおやつの購入を頼まれます。小分けの袋入りの醤油やフリーズドライの味噌汁や小袋入りのおせんべいなどが人気です。また、インドではさけるタイプのチーズが製造販売されていないので、とても珍しいらしく、娘のインド人の友人たちはチーズを細く割いて食べるのが楽しくてたまらないと大喜びしています。ガーリック味やトウガラシ味などのさけるタイプのチーズは、辛いもの好きなインドの子どもたちには、大人気です。
我が家では、インド人のお友達へのお誕生日には、おもちゃや文房具と一緒に日本のお箸と和紙で作られたメッセージカードをプレゼントしています。みんなでお箸の持ち方を練習してから、落とさないように素早く口の中に運び、まるでゲームのような感覚で賑やかに食事をする姿が見られます。また、和紙のカードはインド人の子どもたちよりもお母様に「とてもクールだわ」と喜ばれています。日本食のレストランで食事会をする時には、割り箸にも興味津津です。箸を割る時にきれいに真ん中で割れないととても残念そうにしています。


我が家で、インド人の子どもたちが食事をする際には、インド料理の他に、ベジタリアンの子どもにはチーズサンドイッチと和風ぺペロンチーノパスタ、しょうゆ味の玉子チャーハン、枝豆などを用意します。ノンベジタリアンの子どもは鶏のむね肉のから揚げに和風のしょうゆだれをつけるととても喜んでくれます。
また、他のインターナショナルスクールに通っているお子様がいらっしゃる日本人家庭でも、お誕生日会やお泊まり会などのイベントでは「のりまき」や「おにぎり」を作っておもてなしされている方が多いようです。
このように、昨今ではムンバイでも日本食のみならず世界のさまざまなスタイルの料理がレストランやスーパーで提供されるようになったため、子育て世代や若者の間では、異なる食文化に対しても「トライしてみよう」という精神が根付いてきています。こうしてインドの人々が、少しずつ日本の文化を受け入れて楽しんでくださることは、私たち日本人にとっても、嬉しいことだと感じます。
次回は、インドの若者のカラオケや子どもたちの空手など文化活動について、ご紹介します。