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【ニュージーランド子育て・教育便り】 第7回 ニュージーランドでの妊娠・出産 (1)

要旨:

昨年、第二子となる息子をニュージーランドで出産した経験から、何度かに分けてニュージーランドの妊娠・出産事情をご紹介したいと思います。初回は、8割の妊婦が選択する助産師主導による出産と、産科医主導による出産の違いについてご説明します。

昨年6月にニュージーランドのジャシンダ・アーダーン首相が女の子を出産し、6週間の休暇(parental leave)を取得し復職しました。政権交代直後、37歳の女性の首相が誕生したことにもびっくりしましたが、首相に就任後ほどなくして妊娠したというニュースにも更に驚きました。妊娠中も軽やかに仕事をこなす彼女の姿は、決してどの女性にとっても可能なことだとは思いませんが、女の子を育てている親としては希望を感じるものではありました。アーダーン首相は、特に女性に非常に人気があるように感じます。

そしてさかのぼること1年以上前になりますが、私も2017年に第二子となる息子をニュージーランドで出産しました。こんな風に女性の首相が活躍できる社会における妊娠・出産はさぞかし素晴らしいのだろうと思われるかもしれませんが、私自身の経験を振り返ってみると、ニュージーランドの出産や産後のケアでは日本とは違う大変さの方が多く思い出されます。

ニュージーランドでは、市販の妊娠検査薬などで妊娠が分かると、まず家庭医(GP:General Practitioner)のところへ診察を受けに行きます。市販の妊娠検査薬が妊娠4週目から使えるものが多くて驚きました。GPに行った後は、健診や分娩の担当者を選ぶのですが、8割ほどの人が妊娠中から産後のケアまでを担当する助産師(midwife)を選び、残りは開業産科医を選んだり、その中間的なサービス(自費による助産師と産科医のシェア)を利用したりします。助産師を選ぶ場合には健診・分娩を通じて無料ですが、産科医を選ぶ場合には自費医療となり、オークランドの場合には4,500~5,000NZドル(約35万~40万円)程度かかります。ただし超音波検査などは追加料金がかかる場合が多いようです。

助産師を選んだ場合、健診は助産師の診療所または妊婦の自宅で受けることが多いようですが、出産する場所はオークランドの私の住んでいる地域の場合、多くは公立病院となります *。妊娠の経過に何も問題がなければ、妊婦健診から出産・産後まで産科医にみてもらうことはありません。出産時に異常があった場合、緊急ボタンが押され、当直の産科医が駆けつけるというシステムになっています。このように緊急事態で産科医が駆けつける場合には、自費医療の料金は課されません。何人かのお母さんから、この緊急事態になった経験を聞きましたが、日本で同じ事が起きたときよりも精神的肉体的負担は大きそうでした。

産科医を選んだ場合、特に異常がなくても出産には優先的に産科医が立ち会ってくれます。健診は、産科医のいるクリニックで受けますが、出産は助産師を選んだ場合と同様に公立病院です。開業産科医といっても、その産科医は公立病院にも勤務していて兼任しているケースが多いのが日本とは随分違うと思いました。ニュージーランドは病院の数は非常に少なく、住んでいる地域にある複数の病院から自分に合う病院を選択するようなことができる環境ではありません。海外のニュースでは、首相が一般の人と同じ病院で出産したことを褒め称えるものもありましたが、ニュージーランドではそもそも社会的立場、貧富の差に関わらず誰もが同じ病院で出産するのです。また、オークランドでは多くの人が病院で出産しますが、地方では、自宅出産を望む人も多いようです。

私の場合、第一子の経験から、出産するのであれば医師のサポートが必要であろうと思っていました。ニュージーランドでは、助産師による出産に関しての情報はたくさんありますが、産科医による出産がどのようなものなのかについての情報は英語でさえ乏しく、相談に適した人もおらず本当に困ったことを思い出します。そんな折、私が息子を出産した1年前の年に、立て続けに4人の親しい人たちが出産をし、そのうち2人は産科医を選び、1人は助産師と産科医のシェアを選び、1人は散々迷った挙句、高いので助産師にしたと言っていました。こうして、彼女たちの情報を大いに参考にすることができたのです。彼女たちと話した感覚では、あくまでオークランド在住の、海外在住経験のある夫婦という場合になりますが、実際は産科医を選びたい人はかなり多いような印象をもちました。産科医を選ぶのは、前回の出産で緊急ボタンが押されて急な処置を経験した人、前回が海外での出産で助産師のみの出産に戸惑いを覚える人、私のように前回の妊娠出産時に異常があった人、ドライな健診を望む場合などが多いと思います。一方、助産師が消極的な選択かといえば決してそんなことはありません。毎回1時間くらいの健診を受け、助産師との人間関係を築き、病気のような管理ではなく出産を迎えたいという場合は、助産師による出産は理想的だと思います。こうした助産師との出産をポジティブに捉える人も多くいます。

産科医の値段は、年々上昇しているようで、どこのクリニックも、私の一年前に出産した友人に聞いた値段よりも概ね1割ほど上昇していました。恐らく今年はもっと高くなっているでしょう。初めに助産師を選んでも、妊娠中に異常が見つかったりして産科医を紹介された場合には、無料で産科医によるケアをうけることができるそうです。

私が妊娠前に気になっていたのは、産科医を選んだ場合、途中で手術や入院などを要する状態になった場合、その費用はどうなるのだろうかということでした。そうした場合には、例え産科医に依頼していても、公立の病院で無料で治療を受けられるそうです。そのため、例え産科医を選択しても4,500~5,000NZドル程度以上の費用がかかることはありません。天井なしに出費がかさむということがなく、安心できる仕組みです。

このような選択肢があるのは、ニュージーランドでは都市部ならではで、都市部を少し離れればそもそも産科クリニックは開業していません。そのため産科医を選択できるのは、ニュージーランド全土でみれば限られた地域に住む人だけなのかもしれません。オークランドの都市部という私の住む地域でさえ、距離的に現実的な選択肢は1つしかなく、仕方なくそのクリニックを選びました。人気があり早々に予約が埋まってしまうクリニックもあるようです。

更に私の住む地域の病院では、産後は、出産日を含め2泊で退院となるのですが、その後は助産師が家に訪ねて来てくれてサポートをしてくれるという仕組みになっています。そのため、長い妊娠期間、出産、産後のすべてに渡り1人の信頼できる助産師が支えてくれたら、それは本当に深い人間関係、信頼関係ができて素晴らしい経験になることが多いのかもしれません。私のように産科医を選んだ場合でも、私の産科クリニックには助産師が数名働いていて、その人たちが産後のサポートをしてくれるために家に訪ねてくれる仕組みがありました。産後6週間目程度にはクリニックにて産科医による健診があり、その後は、定期的に子どもの健診をしてくれるサービスに引き継がれます。私が体験したエピソードは次回以降、ご紹介したいと思います。


  • * 助産師は公立病院の場所や器材等のリソースを利用することができます。

筆者プロフィール
村田 佳奈子

東京大学大学院教育学研究科修士課程修了。幅広い分野の資格試験作成に携わっている。7歳違いの2児(日本生まれの長女とニュージーランド生まれの長男)の子育て中。2012年4月よりニュージーランド・オークランド在住。
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