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論文・レポート

【ニュージーランド子育て・教育便り】 第6回 子どもの身を守るための教育

村田 佳奈子

2018年8月17日掲載

要旨:

娘が小学校に入学してから、およそ二年に一度の頻度で、自分の身を守るための教育を受ける機会がありました。そのプログラムは警察が作成しているのですが、教育内容について、保護者が警察から事前に聞く機会もありました。その内容について紹介したいと思います。

ニュージーランドの不名誉な点ですが、子どもへの虐待は先進国の中では多い方だと言われています。格差が大きく貧困世帯が少なくないこと、多様なバックグラウンド・文化をもつ人がいることなどが要因なのかもしれません。あるいは、他の国よりも実態が把握されているということを示すのかもしれません。いずれにしても、ある程度の年齢を過ぎたら自分の身を守る知識をもったり、警察がどのように守ってくれるのかを知っておくことはとても大事なことだと思います。

私が感心したのは、警察が提供している「Keeping Ourselves Safe」というプログラムです。このプログラムは、虐待(身体的、性的、心理的、家庭内暴力、ネグレクト、サイバー)から子どもたちを守ることを目的として1986年に作られ、改訂が重ねられているそうです。「Keeping Ourselves Safe」が行われる時には数日(1週間程度)に渡り毎日数時間の時間が割かれています。プログラム自体は警察が提供していますが、教師が子どもたちに話すことが中心で、一部警察官が直接子どもたちに話す機会を設けているようです。対象年齢はYear0(5才)からYear13(17才)までで、年齢に応じて内容も変化します。小学校低学年の子どもたちには、身体の名前を覚えること、自分の身体のボスは自分であるということ、自尊感情をもたせるようなアクティビティ、助けを求めること、といったことがメインで行われています。そもそも、なぜここに自尊感情が含まれているかということですが、それがなければ自分の要求を口に出して言うことができないため、自尊感情をもたせることが大事だということでした。これは私にとって勉強になった視点でした。娘が習っていて印象に残ったことは、自分が不快な接触をされたら「Stop it! I don't like it!」と言うことでした。これを5歳の入学直後に習っているためか、友だちに嫌なことをされた時にすぐこの言葉が出ている子どもたちが多い様子を見ると、とても効果的な練習だと思います。また、プライベートゾーンは大事なので見せないということもここで習っていました。

更に、身体の名前を正しく覚えるということについても、このプログラムでは重視しているとのこと。小さな子にも性器の名前を含め、正しく身体の名称を教えるべきだということです。実は、警察から直接このプログラムの内容の説明を聞くきっかけとなったのは、ある保護者が性器の名前を子どもに教えて欲しくないという働きかけをしたことがきっかけでした(注)。日本では「おちんちん」「おまた」くらいの名称で普通に浸透しているのに、事前に議論するほどのことなのだろうか、と思いながら説明会に参加したのでした。ところが、実際参加してみると確かにとても大事だと感じます。例えば暴力にあっても身体の名称が分からなければ被害を訴えることができません。「背中を蹴られた。」「頭を殴られた。」などの訴えは身体のパーツを知っているからこそ可能な訴えなのだと知りました。そしてことが深刻になり性被害などになると、益々大事になるそうです。子どもを対象に性犯罪をする場合、性器の名称をごまかして犯行に及ばれることも多く、せっかく被害を訴えた子どもを救えない可能性を高めてしまうのだそうです。例には「今日もゴルフをして遊ぼう」と言って毎日父親から性的虐待を受けていた男の子が、教師に「父親が毎日ゴルフをして遊ぶ・・・」と訴えたために、救うことができなかったケースをあげていました。そして、私も当時、英語で娘がどれだけの身体に関する言葉を知っているだろうかということについて不安になりました。外国人の多いニュージーランドで、共通語として身体のパーツを教えるということは非常に意味のあることのように思います。また、娘が小さな頃、日本では公共の場で「おちんちん」などと大声を出されると恥ずかしいから教えないようにしているという声も聞いたことがありました。私にはその当時、それについて特に意見はありませんでした。しかし今では、一時的には子どもが関心をもってしまって大声で恥をかくようなことはあっても、総合的に考えると、教えておいた方がよいのかなと思えます。

また、ニュージーランドではスリープオーバーといって、小さな子どもがよく友だちの家に泊まりに行ったり、泊まりに来たりします。娘も5歳を過ぎたくらいから、頻繁に友だちの家に泊まりにいったりしていますし、わが家にも娘の友だちがよく泊まりにきています。もちろん子どもにとって楽しい遊びのような感覚ですが、他の家のルールを学んだり、自立心を学んだり、友だちをもてなしたりということを学ぶ機会を子どもにもたせたいということで、お互い泊まりあいをさせる親が多いようです。しかしこういった機会は、日本では頻繁にはないので、どういった危険がありうるかについての意識はあまりしたことがありませんでした。ですが警察の方から「あなたは自身の家族がとても安全で、付き合いのある家族が安全なら、それで自分の子どもは安全だと思っていませんか。例えばスリープオーバーで子どもが泊まりに行った日、その家の親戚もたまたま泊まりに来ることになった。年上の兄弟の友達も泊まりに来ることになった。その人の事は、どこまで信頼できますか。」といったことを聞くと、確かに親としても、自分の生まれ育った環境ではないからこそ危険を見抜けないこともありうるのだなと思い知らされます。

娘自身にどの程度このプログラムが身についているのかはよく分かりません。ただ、警察からこういったことを学ぶ機会があることは、特に移民の親という立場から、非常にありがたく思っています。私の力だけでは、この国の事情や言語を鑑みながら、年齢に適した身体に関することを十分に教えることなど到底できません。ただ一方で、一部にはこういった教育プログラムそのものに感情的な反発を覚える人もいるのだなということも実感としてわかりました。前述した、子どもに性器の名前を教えることに難色を示した保護者はと言えば、警察の説明を聞いても、結局自分の子どもにはこのプログラムを受けさせたくないとのことでした。このプログラムでは、年齢が進むと、性行為における「同意」とはどういった意味なのか、など学ぶ内容が深くなっていきます。このような内容は、大人であっても、また特に日本からニュージーランドに移住し、滞在をしはじめる大人でさえ学ぶ価値のある内容のように思います。



筆者プロフィール

村田 佳奈子

日本で7年間企業に勤める。退社後、2012年4月よりニュージーランド(オークランド)在住。
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