CHILD RESEARCH NET

HOME

TOP > 論文・レポート > 子育て応援団 > 【スウェーデン子育て記】 第13回 性教育は難しい

このエントリーをはてなブックマークに追加

論文・レポート

Essay・Report

【スウェーデン子育て記】 第13回 性教育は難しい

先日、我が家の長女が10歳になりました。元気で10年を過ごせたことに感謝すると同時に、初めての子育てで色々あったなあ、と感慨深く感じた誕生日でした。

ティーンエイジャーになるまでは、まだもう少し間がありますが、娘はすっかりお姉さんらしくなってきました。背丈がどんどん高くなり、横を歩くと目線がかなり近くにあります。履いている靴も私の物とあまり変わらないサイズになってきました。いつも一緒に遊んでいるお友達も、ちょっと会わないでいると、びっくりするほど大人っぽくなっているのが驚きです。このくらいの年齢では男の子よりも女の子のほうが成長にともなう身体の変化がはやい気がします。男の子の方は、中学生くらいになって急に背丈が伸び始め、声変わりもして大人っぽくなるようですね。

こうなると親として気になるのは子どもへの性教育の事。女性の体の変化については、周りの友達とのあいだで情報交換があり、いろいろ聞いているようです。女性の生理のことに関してはいろいろ質問されることもあるので、その都度きちんと説明をするようにしています。しかし、もう少し踏み込んだ性教育というものはまだ家庭ではしていません。

子どもへの正しい性教育は、子育てをしていくなかで決して避けては通れないもの。必要不可欠であると同時に、とても繊細で難しいテーマです。それは日本でもスウェーデンでも変わらないようで、私自身の経験ではスウェーデンの親御さんたちの間でも、子どもたちへどのように、いつ、伝えるのかという点で多くの議論が交わされている様子です。私の印象では、日本よりもかなりオープンに性教育が行われている様子ですが、やはり積極的に推進する派と、慎重派に意見が分かれることも多々あるそうです。

スウェーデンの小中学校における性教育

スウェーデンの小中学校における性教育は、1955年にカリキュラムのなかに導入されています。その当時は小中学校で性について教育する国というのはほぼなかったそうで、この点においてスウェーデンはかなりの先進国であったそうです。現在でもこのカリキュラムの存在は守られています。2005年には性教育を導入してから50年、ということで政府機関からの記念出版物も出ています(資料1)。

学校での性教育に50年の歴史があるとはいえ、実際に性の授業がすべての学校でスムーズに行われているかというとそうではないようです。2007年に国会に提出された議案提出書には、小中学校の教師を目指す学生のためのすべての大学教育カリキュラムの中に、性教育への指導法を必須科目として導入するべきという提案があります(資料2)。つまり、大学の教育学部の授業のなかでは、子どもたちにどのように性教育を行うか、というテーマで指導が行われていないこともあるようです。教師がきちんとした指導方法を会得しないままでは、子どもたちに正しい指導が行えないのも無理はありません。資料2によれば、教師を目指す学生のうちのおよそ6パーセントしか性教育の指導法を学んでいないそうです。このような教育の不足だけが原因とは限りませんが、2005年に行われた調査では15歳から24歳までのクラミジア感染率が増加傾向にあるという報告もあるとか。スウェーデンの教育委員会(Skolverket, http://www.skolverket.se/)が1999年から行っている調査でも同様の報告があり、各学校、または各教師によって子どもたちへの性教育の充実度は異なっているそうです。

1933年に設立され、スウェーデン国内の性の問題、または性教育などを扱う政府機関であるRFSU (Riksförbundet för sexuell upplysning, http://www.rfsu.se/)からは、小中学校における性教育の指導方針や指導法に関しての提案が出されています。こうした指導法を参考にしたとしても、生徒それぞれの反応は異なるでしょうし、また特に小学校では生徒によって性への理解度も様々でしょうから、これはかなり難しい問題だと思います。

このように考えると、実際に小中学校で行われている性教育のほとんどが、それぞれ担任の先生の判断にゆだねられているという状況のようです。経験豊富なベテラン教師なら、生徒に合わせた指導もできるでしょうが、若い先生などはきっと躊躇して十分な指導ができないのかもしれませんね。そんなことを考えていた矢先、娘が通う3年生のクラスではまさにこのテーマで先生に質問がぶつけられたそうです。この先生は教師経験の長い方なので、「こういうことは、決してふざけてする話ではない」ということを前置きしたうえで、簡単に男女の身体の違いについて話してくれたそうです。小学校では臨機応変に対応するようですね。

ちなみに私の知り合いの息子さんが通う中学校では、専門家が学校に呼ばれて詳しい性教育を行ってくれているそうです。そこでは、具体的に避妊法やコンドームの使い方なども教えてくれるとか。これはかなり良い指導法ではないでしょうか。普段から顔をあわせる親や教師ではなかなか言いにくいことも、しっかり説明してくれるのは大助かりです。ただ、性教育はそのまま社会問題にもつながるテーマです。性病の問題や、望まない妊娠をしてしまうことなど、大人が教えなくてはいけないことはたくさんあります。

何歳から?ボーイフレンド・ガールフレンドの家にお泊まり

初めて聞いた時には非常に驚いたことですが、スウェーデンでは高校生くらいになると、自分のボーイフレンドまたはガールフレンドの家に親の許可をもらってお泊まりをすることがあります。友達の家にお泊まりをすることは小さいころから頻繁に行うスウェーデン人ですが、これが高校生になるとちょっと事情が異なってきます。私の日本人のママ友たちの間でも折に触れて話題になることですが、問題は何歳からそれを許可するか、ということ。スウェーデンのパパやママが意見交換をするネット上のページでもこの点に関しては様々な意見があるようですが、一般的には15歳から16歳ごろからボーイフレンド・ガールフレンドの家に泊まりに行くことが認められているようです。しかし家庭によって実際の判断は異なります。お泊まりは許しても同じ部屋には寝させないとか、お泊まりをさせる前にはしっかり話し合いをして、そのうえで避妊具も渡す、など。ティーンエイジャーをもつ親御さんの気持ちはまだわかりませんが、遠くない将来の問題です。そうなったときに親としての私がどのような話を娘とするのか、今はまったく予想がつきません。



資料1 Hela livet - 50 ÅR MED SEX- OCH SAMLEVNADSUNDERVISNING
資料2 議会提出書 Carina Hägg、 Motion till riksdagen 2007/08:Ub274

筆者プロフィール
下鳥 美鈴

東海大学文学部北欧文学科卒業。ストックホルム大学で修士課程を終え、ウメオ大学(スウェーデン)で博士課程を修了。言語学博士。
このエントリーをはてなブックマークに追加

TwitterFacebook

インクルーシブ教育

社会情動的スキル

遊び

メディア

発達障害とは?

論文・レポートカテゴリ

アジアこども学

研究活動

所長ブログ

Dr.榊原洋一の部屋

小林登文庫

PAGE TOP