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【スウェーデン子育て記】 第12回 スウェーデン流のしつけ

どこの国に住んでいても、子どもの躾についての悩みはつきないものだなあ、とつくづく考えることが増えてきました。イヤイヤ期、反抗期などは多くの子どもが通過するもの、ということを頭では理解できていても、実際に子どもがそういった時期を迎えると、どのような対応をすれば良いか戸惑うことがあると思います。私のまわりのスウェーデン人の友人からも、反抗期の子どもの躾に手こずる話はよく聞きます。

我が家の娘たちも成長するにつれて、何かを決める時など自分の考えをきちんと説明できるようになってきました。そういった成長は親として嬉しい反面、私と意見が合わなくなる場面が増えてきたことも事実です。例えば、もうすぐ10歳になる長女は、友人と過ごす時間が彼女の生活のなかで非常に多くの部分を占めるようになってきました。家族と過ごす時間と同じように、友人との時間が大事であることは私も理解していますが、まだ小学生である以上、外出する時間、帰宅する時間などは管理しなくてはいけないと思い、注意しています。それが彼女の考えと合わない時は、口論になることがしばしば。

お互いに意見を譲らないこともありますが、結局は親の立場として私の言うことを聞かせることのほうが多く、強い言葉を使ってしまってから反省することがしょっちゅうです。ママ友に相談すると、どこの家庭でも同じようなことがあると聞き、ホッとすると同時に、子育ては難しいと再認識しています。

子どもに何かを言い聞かせる時、スウェーデンではどうするのか。私個人の印象ですが、スウェーデン人の親が子どもを叱る時はかなり冷静で、大声をあげたりすることが少ない気がします。市街を歩いているときに泣き叫んでいる子どもを見かけることもありますが、両親は焦ることもなく冷静に対処して、話し掛けている様子です。周りに迷惑になるからと焦ってしまい、つい怒ってしまう私など、反省しきりの光景です。こういった子育ての態度は周囲の環境が作り上げた部分が大きいのではないか、と私は思います。子どもには、とにかく話して言い聞かせること。躾のための身体的・精神的な罰などありえない、というのがスウェーデンの子育て方法のひとつのようです。

体罰は犯罪

特に体罰に関しては一貫して絶対にダメ、というのがスウェーデン式の子育て。子どもがイタズラしたからと、お尻をペンペンとするのもいけないそうです。そこで、日本でも近年はよく問題にされる子どもへの体罰に関して、いろいろ調べてみました。スウェーデン中央省庁とNGOセーブ・ザ・チルドレンのスウェーデン組織が合同で出版している冊子(参考1)によると、スウェーデンにおいても1900年代の初頭までは、子どもへの躾の一環として、体罰がごく普通に家庭でも学校でも行われていたといいます。しかし1930年代に入り、教育者や心理学者などの有識者の間から、子どもへの体罰はその後の人格形成に害を及ぼすことが指摘され始めました。それが新聞で取り上げられ、多くの議論が重ねられることにより体罰禁止への意見が高まっていったそうです。第二次世界大戦終結後、家族や子どもの人権を重視する気風となり、社会全体で子育てを支えていくシステムが整っていくことになりました。

学校教育における体罰は特に重要視されたようで、1958年には教育機関における体罰は完全禁止となりました(参考2)。ちなみに隣国のノルウェーではこれよりもはやく、1936年に学校での体罰が学校法により禁止されています。しかしながら、親が家庭で行う体罰に関しては、「子どもの躾」と「子どもの人権」の主張の間で長い議論が続きました。体罰を肯定する意見の中には、体罰をすることによって規律を教えることができるとする考えがあり、さらには子どもの躾に関する問題は極めて個人的なもので、国家が関与することは人権の侵害であるという意見も取り上げられているそうです。 最終的に、1979年にスウェーデンは世界で初めて子どもに対する体罰禁止を法律で定めました。そののち、これにならって世界37カ国が体罰を禁止しています。この法律により、家庭内での体罰は減少したという報告があります(参考3)。1994年以前は、子どもたちに直接、体罰に関して調査をした記録はなかったそうですが、これ以降の子どもを対象とした調査では、家庭内で叩かれたことがあると答えた子どもの割合が1994年には35パーセントだったのが、2000年代には約13パーセントまで減ったそうです。

「もし、○○したら・・・」は言ってはダメ

スウェーデンでの子どもの躾には、とにかく話して聞かせることが最重要ということが言われます。でも何度言っても、子どもは言うことを聞かないものです。そこで子どもに言うことを聞かせるためには、いろいろなコツがあるといいます。

子どもの躾に関するスウェーデンのサイト(http://barnuppfostran.se/undvik-ordet-om/)では、子どもを躾ける時のアイデアがいくつか挙げられています。私もつい言ってしまいがちですが、「もし○○したら、・・・」という表現は子どもに対する脅しとなるとともに、ダメと言われるとやりたくなる子どもに、却ってその気持ちを起こさせるのでNGだそうです。その代わりに、子どもと話し合いができるように話を向けたり、別の選択肢を与えるのがいいとか。例えば:

① 話し合いができるように話を向けている例
「もし庭から勝手に出たら、お友達と遊ばせないよ」、とは言わないで、
「パパやママに言わないで庭を出たらだめよ。なぜかわかる?」と言う。

② 別の選択肢を与えている例
「もしまた道に飛び出したら、(罰として)お菓子は無しだよ」、とは言わないで、「歩道ではママの横を一人で歩いてもいいけど、道路を渡るときは手を繋ぐんだよ」と言う。

「もし窓に向かってボールを投げたら、(罰として)週末のパーティには行かせないよ」、とは言わないで、「ボールを投げてもいい場所をおしえてあげるよ。何かものを壊したらみんな悲しくなるでしょう。それじゃつまらないから」と言う。

(筆者による意訳)

一方的に禁止事項を作るのではなく、なぜダメなのかを説明し、子どもが納得できるようにする、というのが理想のようです。しかし、これが難しいからこそ悩むのが子育て、、、と思うのは私だけではないはず。子どもの意見を尊重しつつ、どうやって規律などを教えていくのか。どこの国でも、みんなが悩む永遠のテーマですね。



参考1 Aldrig Våld: http://www.regeringen.se/
参考2 SOU 2001:72, 2001, Barnmisshandel - Att förebygga och åtgärda
参考3 Janson, Långberg, Svensson, 2007, Våld mot barn 2006-2007

筆者プロフィール
下鳥 美鈴

東海大学文学部北欧文学科卒業。ストックホルム大学で修士課程を終え、ウメオ大学(スウェーデン)で博士課程を修了。言語学博士。
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