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日本のしつけ―子どもに親の価値観を伝える場

内田 伸子(お茶の水女子大学教授)

2011年12月 9日掲載

要旨:

日本のしつけについて、第一に、しつけの意味と意義について述べたいと思います。第二に、日本で大事にされている子どもに寄り添うしつけのあり方について述べ、第三に、日本特有のしつけはどのようなものかを韓国や中国と比較してみたいと思います。
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1.しつけの意味と意義

「しつけ」というのは、一般に大人の側からの働きかけを指すのが普通ですが、親の視点からだけでなく、しつけをされる子どもの視点からも考えてみるとき、しつけというものが、子どもの発達にとって無理な要求を子どもに押し付けてしまう場合も考えられます。

親は、わが子が社会の一員として適応的にふるまい、他人に迷惑をかけないようにという願いから、子どもに無理を押し付けている場合があります。親であれば、わが子が社会にきちんと適応していってほしいと願うのは当然でしょう。周りの目を気にするあまり、厳しすぎたり、逆に、甘やかしすぎたりでなかなかうまくいかないものです。子どもの発達という観点からみたときに、母親から与えられる規制やしつけは子どもにとってどんな意味があるのかを考えてみたいと思います。

「しつけ」を広辞苑で引くと「仕付」という項に次の四つの定義が書かれています。①しつけること。②田植、植え付け。③礼儀・作法を教え習わすこと。訓練、躾。④新調の仕立てがくるわぬように、糸で縁をあらく縫っておくこと。いずれも、曲がらないように、前もって準備するというニュアンスは共通しています。

「しつけ」と言うときには、ふつうは、③の意味で使っていると思われる方が多いと思います。しかし、私はしつけとは、もともと「着物を仕付る」という④の意味と結びついて根をおろしてきているのではないかと推測しています。仕付糸は着物が縫い上がるとはずされ、不要になります。はじめは要所要所をおさえていた糸が、やがては、「不要になる」、「はずされる」ということを前提にしているところが大切なのです。

親がはじめは要所要所で外側から枠組みを与え、行為や生活習慣を形作っておいても、やがて外からの規制が不要になり、「しつけ糸」なしに、自分の力でそのような行為や習慣を生み出してゆけるようになることが望ましいのです。

こう考えると「しつけ」においての目標は、他律から自律へ子ども自身が発達していくのを大人が援助することにあると考えられます。何をしつけるかはそれぞれの家庭の考え方があるものと思います。人に迷惑をかけないように振舞うことを大事と考えるのか、思いやりの心を第一にするのか、それとも他人から後ろ指を指されないようにしたいのか・・・・。

何をしつけようとするかは、子どもの年齢により、また親や家族の価値観により変わっていくものでしょう。何を選びとるにしても、大事なのは、いずれ子どもが自分自身で考え、判断して、自ら行動できるようになる日に備え、親が援助し、やがてその援助の手を少しずつ減らしていくということなのではないでしょうか。

親はどうしても社会への適応がうまくいくかどうか、他人に後ろ指をさされないように振る舞えるかという観点でしつけをとらえがちです。しかし、社会への適応の成功、失敗という結果だけからしつけをみていくのは、大人中心主義の形式的なしつけ論に終わってしまうのではないでしょうか。


2.子どもに寄り添う「しつけ」とは

次に子どもに寄り添う「しつけ」について考えてみましょう。

何でも母親にやってもらっていた乳児期を過ぎ、2歳頃からは母親の手を借りて衣服の着脱、食事の習慣、排泄の習慣、歯みがきなどの基本的習慣がつきはじめます。一人でやりたがることも多いので、そのときには励まして子どもがやりたいようにさせてあげてください。うまくできたら、「お着替えひとりでできたのね」と努力を認めてあげてください。思い通りにうまくできず、かんしゃくを起こすこともありますが、そんなときには「ほら、自分でできないじゃないの」などとは言わず、ちょっと手を貸してあげ、なんとかやり遂げるように励まし、援助してあげてください。

ボタンはめ、チャック締めなどは手先が器用にならないと無理かもしれません。子どもの育ちをよく見ながら、子どもに無理をさせないという原則でしつけてほしいと思います。

3、4歳頃には食事、排泄、洗顔、就寝などの基本的な生活習慣が身につきます。もちろん個人差は大きいので、これはあくまでも目安です。多少遅れても気にする必要はありません。また、お母さんから心理的に徐々に独立しはじめます。さらに家族から仲間や保育者などの他の大人との関わりが増え、新しい人間関係がつくられます。母親と別れて保育園や幼稚園にでかけ、友達の家にも一人で遊びにいけるようになります。ちょっとしたお手伝いなど、家庭の仕事にも参加することができるようにもなります。子どもができる範囲で食事やおやつづくりに大いに参加させてあげてください。食事や衣服の整頓、部屋のかたづけなど、基本的な生活の営みに関わり、お手伝いすることは子どもにとてもよい経験を与えることになるでしょう。

5歳頃になると弟妹の面倒を見たり、簡単なお買物ならできるようになります。家族の中での一定の役割を果たせるようになるのも、お母さんにとっては嬉しいことですね。今までは大人から言われて判断していたであろうことがいつの間にか身について、自分から状況を判断し、その状況にうまく対応することができるようにもなります。展示ルール(他人の気持ちを考えて自分の行動を統制する)が獲得されるので、いっしょに遊んでいる友だちの気持ちに配慮して自分勝手なふるまいを抑えたり、おもちゃを貸してあげることもできるようになります。

しつけは子どもの自律を助け、子どもの生き方の価値観のモデルでなくてはなりません。子どもの生活世界の拡大に伴い、子どもに対する親の期待や、価値観を押し付ける親も増えてきます。権威主義的な「押し付け」は子どもにとって圧力になり、自律性−−自分で判断したり、行動したり−−を阻んでしまいます。親は、あくまでもお子さんの主体性を大切に、子どもの自律への歩みに寄り添い、助けてあげてほしいと思います。


3.日本のしつけ―韓国や中国との比較

幼児の生活環境の違いは子どもの学力に影響するのでしょうか?

世帯収入、早期教育への投資額、親のしつけ方、蔵書数などが、子どもの読み書き能力や語彙力、小学校に入学してからの学力などにどんな影響があるかを日本と韓国と中国で比較してみました。3カ国とも、年長クラス(5歳児)になると、読み書き能力への世帯収入の影響はなくなります。しかし語彙力はしつけスタイルや家庭の蔵書数と関連していました。日本と韓国では、親子のふれあいを大事に、楽しい体験を共有しようとする「共有型しつけ」を受けている子どもの語彙が豊かでした。一方、中国では、強制型(子どもを強制的に従わせ、指示を多く行うスタイル)と共有型を折衷した「厳格・共有型」のしつけスタイルの家庭の子どもの語彙力が高くなることが明らかになりました。

この各国の子どもたちは、小学校1年生3学期に国語学力テスト(文章読解、三段論法推論、結論先行型の理由づけ作文、視写、漢字書き取り)を受けました。その結果、日本、韓国とも、幼児期の家庭の収入や早期教育への投資額、学習塾に通った経験の有無は、小学校1年の国語学力とは関連がありませんでした。国語の成績に影響したのは、語彙力としつけスタイルでした。幼児期に語彙が豊かで、共有型しつけを受けた子どもたちは国語学力が高く、逆に語彙力が低く、強制型しつけを受けた子どもたちは成績が低かったのです。

このことから日本や韓国では、しつけスタイルは、家庭の収入や早期教育への投資額などの経済格差要因の影響を小さくさせる、あるいは凌駕(克服)する鍵になることが見いだされました。夫の学歴や世帯の収入は、母親一人ではどうにもならないでしょう。しかし、子どもへの関わり方や「子ども観」は母親の心構えひとつでコントロールできます。

家庭の収入や早期教育への投資額に関わらず、家族が読書好きであり、幼児期から読み聞かせを行い、子どもとの会話を楽しみ、家族団欒を大事にする家庭の雰囲気の中で、子どもの語彙は豊かになり、考える力も育っていくのです。なによりも、子どもを大人と対等な人格をもつ存在として尊重する雰囲気の中で、子どもの自律性が育つのでしょう。

以上から、子育て中の親御さんに3つ提案したいと思います。第一に、読み書き能力(文字を読んだり書いたりする)は表面的なことです。肝心なのはリテラシーで、表現したくなるような思考力や想像力を育てることこそが幼児期の課題なのです。第二に、語彙力は学力の基盤となる大事な力です。子どもとのふれあいを大切に、楽しい経験を共有する「共有型しつけスタイル」の家庭で育ちます。第三に、親のしつけスタイルは経済格差を克服する鍵を握っています。親は、子どもを一人の人格をもった存在として尊重し、子どもの興味・関心、自律性を大事にしながら関わり、子どもと会話し、家族の団欒の時間を大切にしてほしいと思います。


日本・韓国・中国の親への提言(PDF)
報告書「【お茶大・ベネッセ共同研究報告書 No.Ⅱ】幼児期から学力格差は始まるか」のP41-43「第3部 討論 2.親への提言」部分を抜粋しています。

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本調査はお茶の水女子大学グローバルCOEプログラムの一環として行われています。
筆者プロフィール
report_uchida_nobuko.jpg 内田 伸子(お茶の水女子大学教授)

◆お茶の水女子大学大学客員教授・名誉教授・学術博士
◆専門:発達心理学・認知心理学・保育心理学
◆最新著書:『わかりやすい乳幼児心理学』(ミネルヴァ書房,編著,2008),『子育てに「もう遅い」はありません』(成美堂出版,2008),『幼児心理学への招待―子どもの世界づくり』(サイエンス社,2008), 『虐待を越えて、生きる――負の連鎖を絶ち切る力』(新曜社,2010)『子どもの暮らしの安全安心~命の教育へ』(金子書房,2010)
◆ベネッセ子どもチャレンジの監修やNHKおかあさんといっしょの番組開発、子ど も番組のコメンテーターなどを務めている。
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