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【スウェーデン子育て記】 第30回 子どもの政治への関心

少し前の話になりますが、今年(2018年)の9月にスウェーデン議会の総選挙がありました。移民政策をはじめとして、いろいろな課題を抱える現在のスウェーデン社会において、今回の選挙は特に注目されており、テレビ、新聞、ラジオ等の各メディアでは議論が連日のように続いて、この選挙の行方には大きな関心が寄せられました。この選挙運動期間中、私自身も地方選挙への投票権をもつものとして、機会があるごとに報道に耳を傾けていました。家族や友人との会話でも政治の話題がのぼりました。ネットでは、わかりやすくそれぞれの政党のマニフェストを比べたサイトなどもあり、私には大変ありがたいものでした(資料1)。

これまでの選挙と比べ、今回の選挙では驚いたことがありました。それは、子どもたちの会話にも、政党のマニフェストに関しての話題が出てきたことです。いろいろ聞いてみると、小学校では低学年から民主主義などについて学ぶ時間が設けられており、各政党の基本政策についても勉強するそうです。これまでにも何回かスウェーデンの選挙を経験していますが、子どもたちから選挙の話を振られるということはなかったので、新鮮でした。国営テレビのホームページでも、子ども向けに選挙をわかりやすく説明したページが設けられ、かなり充実した内容になっていて驚きました(資料2)。

小学生で選挙に関心をもち、友達や家族と選挙の行方について話し合いをするなどということは、私自身の子ども時代にはあっただろうか、と考えてみましたが、おそらくそんなことはあまり無かったように思います。小学生のうちは、政治は大人になってから関わるもの、というような意識だったので、恥ずかしながら浅い知識しかもっていませんでした。しかし、考えてみれば自分が大人になってから生活していく社会のしくみを学んでおくことは決して無駄にはならない、大事な知識だなと改めて考えさせられました。

子どもたちにどう教えるか

子どもたちに選挙や民主主義について教えることは、思ったより簡単なことだと専門家は言います。子どもに教えるべきことは、難しい政策や社会の現状ではなく、まずは身近な話題を例にして、民主主義の概念を伝えることだそうです。

例えば、夕食の献立を何にするかということを5人家族で決めるとします。ここでは5人家族の一人ひとりが政党だと仮定します。夕食の献立というのは、家族内で共有し、解決するべき課題です。2人はハンバーグ、2人はカレーライス、そして残りの1人がお好み焼きを食べたい、と言ったとします。夕食の献立は民主主義のもとにおいて多数決で決めることになります。この場合、お好み焼きが良いと言った1人がハンバーグかカレーライスのどちらかに意見を変えることで献立が決まるので、この1人は重要な決定権をもつことになります。ここに、決定権という権力の差が出てしまいますが、また同時に今までハンバーグかカレーライスと言っていた人もこの時点で意見を変更することができるので、ここにも新たに別の意見が挟まれる可能性がでてきます。

つまり、この例を通じて子どもが学ぶべき大事なことは、誰でも大事なことの決定には意見を出して参加することができるということ。そして、どのような方法で、どんな風に物事が決定されるのか全ての家族のメンバーが知ることができる、ということだそうです。このように全ての意見は同じ価値をもって扱われる、という大前提のもとに民主主義は成り立つわけですが、それと同時に多数の意見が採用されるということも、子どもたちが学ぶ大事なことです。例えば100人の子どものうち99人がアイスクリームが好きと答え、1人がアイスクリームが嫌いだと答えた状況があるとします。この場合は、1人の反対意見があるにも関わらず全体として「子どもたちはアイスクリームが好きである」という結論になります。

大多数の意見が全体の総意とみなされる、ということはこのような例によって子どもたちに分かりやすく説明することができます。今更ながら、大人の私でも納得するわかりやすい説明です。

立候補者の年齢

今年9月の投票日当日は、天気も良かったので娘たちを連れて投票所へ向かいました。日本と同じように近所の小学校が投票会場になっており、朝から大勢の人で賑わっていました。娘たちはそれぞれ自分の考えで好みの政党があったようで、私にも「どの政党に投票するの?」と聞いてきましたが、そこは親子とはいえ個人的な情報なので、娘には秘密です。私は地方選挙への投票権があるので、住んでいる地域のコミューン(自治体)に立候補している人の名前を選んで投票します。投票用紙には立候補者の年齢と現在の仕事が書いてあるのですが、驚いたのはかなり若い人が多く立候補していたことです。スウェーデンでは18歳から成人と認められ、選挙権も与えられます。もちろん立候補も18歳からできるので、18歳や19歳の学生が地方議会に何人か立候補していました。これも子どもの頃から学校や家庭で政治に親しみ、政治に関心をもつようになった結果だろうなあ、と思います。今回の投票率は納得の87パーセントとの結果!若い年齢の人からお年寄りまで、全ての年齢で大きな関心があることがわかります。

日本でも18歳から選挙権が与えられることになりました。子どもたちにはもっと選挙や社会のしくみに興味をもって学んでもらい、選挙に参加できる年齢になった時に自分の意思で投票できるようになってもらいたいと思います。


資料1 https://partiguiden.nu
資料2 https://www.svt.se/barnkanalen/lilla-aktuellt-valet

筆者プロフィール
下鳥 美鈴

東海大学文学部北欧文学科卒業。ストックホルム大学で修士課程を終え、ウメオ大学(スウェーデン)で博士課程を修了。言語学博士。
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