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【移民の街トロントの子育て記 from カナダ】 第6回 トロントでの産後

森中 野枝

2016年7月15日掲載
産後~退院まで

前回は、第三子の出産についてお話ししました。22週のエコーでお腹の赤ちゃんは女の子と言われ、信じて疑わなかったのが、産まれて来たらなんと男の子。疲れと痛みとショックで産後しばらく意識がもうろうとしていました。

予定帝王切開手術は産むときは比較的楽ですが、手術後動けるようになるまでに時間がかかります。トロントでは、産後すぐに母子同室にして、母乳育児がスムーズにできるように指導されます。帝王切開といえども例外ではなく、病室に戻るとすぐに赤ちゃんが寝ているベビーベッドが私のベッドのそばに置かれました。日本で次女を帝王切開で出産した時は、最初の3日は授乳時以外、新生児室で預かってもらえたのになあーと思い出しながら、赤ちゃんが泣いても動けないため、おむつ替えなどのお世話は付き添いの夫に頼み、私はできるだけ休みました。食事は事前にメニュー表から選んでオーダーする形式となっています。術後食などなく、メニューには、ピザ、パスタ、ポテト、アイスクリームなど、産後に食べたいとは思えないものがずらり。母が作った和食弁当を夫に運んでもらってなんとか産後を乗り切りました。病院の食事は、夫と面会に来た子どもたちが嬉しそうに食べていました。でも、この食事もすべて無料。考えてみたら、すごいことです。

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産まれたばかりの弟を抱く次女

私が入院したのは、OHIP *1で全額カバーされる4人部屋でした。産後、疲労困憊の私は同室の人を観察する余裕など全くなく、とにかく少しでも休みたいとカーテンで自分の周りを仕切ってこもっていました。ほかの二人もそうだったようで、ほとんど物音が聞こえません。ただ、私の向かいのベッドにいたアフリカ系の女性だけは非常にパワフル。社交的な私の夫の調査によると、その方はちょうど1年前にこの病院で長男を出産し、今回、1年後の全く同じ日に次男を出産したという驚異的なお母さん。私と同じ出産直後にもかかわらず、とても元気で、その日に1歳の誕生日を迎えた長男のお祝いをしたり、やたらと友達や親族が訪ねてきたり、夜消灯直前に親族大集合してお祈りをはじめたりと、とにかく騒々しい。夜中は自分の赤ちゃんと同室の3人の赤ちゃんの声に頻繁に起こされ、寝たのか寝てないのかわからないような状態でした。

2日目。帝王切開は、組織が癒着しないよう、術後すぐに体を動かすように指導されます。早朝に尿のカテーテルを外し、トイレに歩いていくことから始まり、痛みをこらえて動きます。3度目の帝王切開手術で慣れているとはいえ、やはりつらいのは変わりません。手術直後はかいがいしくお世話をしてくれていた看護師さんも、2日目になると検温以外の時はほとんど顔を見せなくなりました。声掛けや説明もほとんどなく、こちらから積極的に質問しないと放っておかれます。周りの人が、赤ちゃんを沐浴させているのを見て、沐浴は自分でするんだと気づき、やり方をたずねました。聞けばやり方を教えてくれますが、向こうからのアプローチはなし。往々にしてそのような感じで、普段なら自分から積極的に聞いたりできるのに、弱っているときはすべてがつらく感じてしまう。何か手伝ってほしいことがあっても、英語で考えることが億劫で、ナースコールをあきらめてしまう。段々、このままここにいてもなにも手伝ってもらえないし、ゆっくり休めないし、あまりメリットはないのではないかと思い始め、本来なら2泊3日できるところを、1泊だけで逃げるように退院しました。退院前に痛み止めを飲まされ、痛みを抑えていたのをいいことに、病院からの帰り道、調子に乗ってちょっとだけと買い物に寄り、レジで並んでいたらだんだん血の気が引いてきて冷汗が出始めました。そういえばまだ帝王切開手術をしてから、24時間経っていないのだと気づき、慌てて家に帰りました。

産婦健診と子どもの予防接種

トロントでは産後の入院が短いため、退院してすぐに出産した病院に戻って健診を受けます。この産後3日目の健診で、医師から家族計画についての話がありました。まだ子どもを産む気があるのか、なければ避妊はどうするのかとズバズバと聞いてきます。産んだばっかりで次の赤ちゃんのことなんて考えられない~と、「出産の計画はありません」と答えると、矢継ぎ早に避妊手術の説明があり、受けることを勧められました。タジタジになり夫と相談しますと逃げてその日は帰宅。退院一週間後に再び健診に行き抜糸をしてもらい、避妊手術は受けないことを告げると、産後3か月以内の妊娠は母親に負担が大きいと説明があり、避妊についての具体的な指導がありました。指導の背景は定かではありませんが、私の出産時に同室になったアフリカ系のお母さんのことを考えると、すぐに妊娠する例が多いのかもしれません。産後は2回の健診で出産した病院との付き合いは終了。1か月健診は、出産した病院からもらったNew born recordという一枚の紙を持って、ファミリードクターの所へ行き、その後の母親と赤ちゃんの定期健診や予防接種は、すべてファミリードクターにバトンタッチされます。

トロントには母子手帳はありませんが、予防接種手帳というのがあり、いつどんな予防接種を打ったかを記録するようになっています。

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予防接種手帳の表紙

オンタリオ州では、就学時に受けておかなければならない予防接種リストがあり、一つでも未接種だと入学が許可されません。日本からトロントの小学校に入学するときは、まず日本で医師に依頼し受けた予防接種リストを英文で作成してもらいます。そして、カナダに入国しファミリードクターにそのリストを基に予防接種手帳を作ってもらって、学校に提出します。入学してからも、新たに受けた予防接種の報告を役所に届ける必要があります。長女の予防接種のアップデートの情報を届け忘れたときは、役所から何度もお手紙が届き、「予防接種を受けないと学校に来れなくなります」と警告がありました。

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予防接種手帳の中身

今回の妊娠・出産を通して思ったことは、カナダでは医療行為が非常にシンプルで無駄がないということ。健診の時に行われる検査項目も、日本のように決まりだから行うのではなく、医師が個別に判断して必要な検査を行うというスタンスのようです。私が入院2日目にあまり看護師さんにケアされなかったのも、私の術後の経過が順調で、特別ケアする必要がないと判断されたからだと思います。無料で国民に医療を提供するために徹底的に無駄を省いているのがよくわかりました。

そして、無駄がないというのは、時に殺伐としているのだなあとも感じました。入院中の看護師さんからの声掛けや気遣い。そういう一見無駄と思えることで癒され励まされているのだということも肌で実感しました。日本で病院に行くと無駄を省いてもっと医療費を削減すればいいのにと思っていましたが、自分が弱い立場に立ってみて、そのありがたみもよくわかりました。

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弟を抱く長女と、夫の同僚からいただいた出産祝い

退院後の生活

さて、3週間カナダに手伝いに来てくれていた母と義母が去ると、日常が戻ってきました。出産したのは2月6日、3月には赤ちゃんをベビーカーに乗せ朝夕の送り迎えが始まりました。トロントの3月はまだ真冬。産後間もない赤ちゃんを連れて極寒のトロントを自由に歩き回れるようにしてくれたのは、下の写真にあるベビーカーカバーです。赤ちゃんが女の子だと思っていたため、出産前にショッキングピンクのカバーを購入し、産後慌ててブルーに交換しに行ったといういわくつきのカバー。これが非常にすぐれもので、ジッパーを閉めるとそこはまるで移動する小部屋。暖かく快適で、外も見えるので飽きることのない空間になるのです。密閉性が高いため、空気穴もあます。夜出歩くときに安全なようにと蛍光テープを自分で貼ってまさに完璧なベビールーム。車を運転しない私がどれほど助けられたかわかりません。

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カバーをつけてベビーカーで外出する長男と姉2人

もう一つの最強アイテムは、この写真にある抱っこひも。夕方バス停に娘たちを迎えに行くと、次女が疲れて不機嫌になってぐずることがよくありました。長男がおんぶできるようになると、この抱っこひもをさっと取り出し長男をおんぶし、次女をベビーカーに乗せて帰るのが一番スムーズにいくパターン。長男は1歳になるまで、多くの時間をこのベビーカーと私の背中で過ごしました。

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抱っこひもでいつもおんぶされていた長男


  • *1: OHIP (Ontario Health Insurance Plan) という保険制度で、私たちのような外国人でも一定の条件を満たし、かつ入国後3か月たてば加入することができます。診察代、入院費用などはすべて無料。薬代は自費。
筆者プロフィール
森中 野枝

都立高校、大学などで中国語の非常勤講師を務めるかたわら、中国語教材の作成にかかわる。
学生時代中国・北京に2度留学したあと、夫の仕事の都合で2004-2008 北京に滞在。2011-2013カナダ・トロント滞在。現在はアラブ首長国連邦ドバイに住んでいる。
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