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【移民の街トロントの子育て記 from カナダ】 第5回 トロントで出産

森中 野枝

2016年5月27日掲載

トロントの小学校の話、ナーサリーの話に続いて、今回は第三子をトロントで出産したことについてお話ししたいと思います。

2011年3月にカナダ転勤の辞令が出て、夫は5月にはカナダ入り。その直後に、私の妊娠が判明しました。つわりに苦しみながら、夫なしで引っ越し作業をこなし、12時間のフライトに耐え、トロント到着後は、長女の入学準備をしつつ、次女をナーサリーに入れて、家具を買って新居を整え、一息ついたところで、やっとお腹の中の赤ちゃんの番が回ってきました。

私の出産経験

私は長女を北京で、次女を日本で出産しました。北京では初産ということもあり、中国の芸能人や外国人に人気の外資系総合病院を選びました。自宅にいるようにリラックスできると人気のLDR設備を採用していて、L=Labor(陣痛) D=Delivery(分娩) R=Recovery(回復)を移動する必要がなく一部屋で行えるという病院でした。部屋は個室で広く、ソファー・トイレ・バスルーム・冷蔵庫も完備。ホテルのような部屋で夫の立ち合いのもと出産する・・・ことを夢見ていたのですが、結局陣痛を5時間経験した後、なかなか子宮口が開かず、LDR設備の甲斐もなく緊急帝王切開となりました。4300グラムの巨大ベイビーだったので、賢明な選択だったと思います。

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中国・北京で長女を出産

次女の妊娠も北京で判明しましたが、夫の帰任に合わせて妊娠5か月で日本に帰国しました。私の実家近くの医院で健診を受けたら、「前置胎盤 *1」であることが発覚。その日から絶対安静、トイレと食事以外はベッドで過ごすようにと指導され、臨月は1か月入院。産科の医師総動員で行われた帝王切開手術で、無事に出産しました。

北京で執刀してくれた中国系アメリカ人の女医さんは、手術に立ち会った主人いわく、非常に手際のよい手術をしてくださったそうで、手術後ドクターに「ビキニが着られるように横に切っておいたわよ」と言われました(着る機会はありませんが)。日本ではリスクの高い出産ということもあって、縦切り。執刀医が申し訳なさそうに「メスを入れるときに、赤ちゃんが動いちゃってねー」と言ったとおり、縦長の傷は真ん中でややカーブしています。

人生の一大イベントの出産には、誰でもそれなりのドラマがあるものです。カナダでの出産にはどんなドラマが待っているのか、とても楽しみにしていました。

医療費は無料、ファミリードクター制

出産の話に入る前に、カナダの医療制度についてご説明しましょう。カナダは「国民皆保険制度」を採用していて、移民を含めてカナダ国籍をもっていれば保険に入ることができ、医療費は無料 *2です。制度は州によって多少異なり、オンタリオ州は、OHIP(Ontario Health Insurance Plan) という保険制度で、私たちのような外国人でも一定の条件を満たし、かつ入国後3か月たてば加入することができます。私の場合、2011年8月11日にカナダに入国し、OHIPが適用されたのが3か月後の11月11日。OHIPが使えない間、3回の検診は自費で、エコー代、血液検査代で300ドル(約3万円)くらいを支払ったと思います。保険が適用されてから受けた健診代と出産(帝王切開)費用、入院費用は全て無料。北京での出産が、入院費用だけで100万円以上かかったのと対照的でした。

もちろん、この医療制度もパーフェクトというわけではなく、無料であるが故にサービスが悪く、専門医に見てもらえるまでの待ち時間が長いのは有名です。救急病院に行ったら3時間待たされた、肩を骨折しそのままの状態で手術まで1週間待たされたなどという話は珍しくありません。しかし、移民の多いカナダで、移住初期の生活が不安定な時期でも基本的な医療が保障されているのは、社会全体にとって大きなメリットがあるといえるでしょう。

もう一つ特徴的なこととして、ファミリードクター制があげられます。日本のように、中耳炎は耳鼻科、湿疹は皮膚科といきなり専門医にかかるのではなく、まずはファミリードクター(かかりつけ医)に見てもらい、必要があれば専門医を紹介してもらうという仕組みになっています。長女が学校に通うために必要な予防接種歴の証明書もファミリードクターに作成してもらうため、私たちは、カナダに入国してすぐに周先生という香港系のドクターと連絡を取りファミリードクターになってもらうようお願いしました。この周先生、英語はもちろん北京語、広東語を完璧に操り、奥さまが日本人なので日本語にも対応できるため、狭い待合室はいつもアジア系患者で込み合っている人気のドクター。まずは、この周先生に産婦人科医を紹介してもらうのが出産への第一歩でした。

妊婦健診

産科医を紹介してもらうのに時間がかかるのではとの心配も杞憂に終わり、ほどなく周先生から受け入れ病院が見つかったとの知らせがありました。周先生に紹介されたのは、Hamber River Hospital という総合病院のDr Grace というヒスパニック系の恰幅の良いおばちゃんドクターでした。健診はすべて英語。当時、英語に全く自信がなかった私でしたが、夫はもっと頼りにならなかったため、腹をくくって自分でやるしかありません。健診前日は、妊娠関連の英単語をピックアップし、ドクターとのやりとりを想定し、繰り返し練習。待合室でノートを見ながら試験前の学生のようにブツブツ復習し、健診に挑みました。

健診は、異常がなければ1か月に1回。臨月は1週間に1回。健診内容は非常にシンプルで、体重測定、尿検査、問診、回によっては心音を確認します。尿検査は用意されている検査紙を使って自分で尿たんぱくを調べて異常があれば申告するというシステム。患者側から特に要望がなければ、無駄なことは極力しないというスタンスでした。日本では毎回丁寧にされる足のむくみ検査などは一切なし。エコーも、22週に1回したのみ。最初はシンプルすぎて不安でしたが、段々と逆に日本の医療が手厚すぎるのかもしれないとも思いました。

女の子の名前

22週のエコーで「女の子かもしれない」と言われ、私自身も「三姉妹」だったのもあり、私の中では「三姉妹の母」になることがとても自然なことに思われました。臨月になると、どんな名前にするかが宴会のたびに話題になり、五大湖のエリー湖にちなんで「エリー」、カナダの国旗にちなんだ「楓」、赤毛のアンにちなんだ「アン」などカナダっぽい名前が候補に挙がりました。ベビー用品は特に購入せず、周りから女の子のおさがりをもらったり、帰国する知り合いから安く買ったりして用意。ただ、一つだけ新しく買ったものは、ベビーカーカバー。出産予定が2月で、3月には朝夕の長女と次女の学校の送り迎えに新生児を毎日連れ出さないといけません。寒いトロントの冬を乗り切るための分厚いベビーカーカバーを新しく購入、色は迷わずピンクにしました。

出産

手術日1週間前に実家の母がカナダ入り、出産前後は長女と次女の世話を一手に引き受けてくれました。朝、早起きしてお弁当を作り、3歳と8歳の子に用意をさせ、バス停まで連れていくのは、慣れている私でも一仕事です。一番大変なのは、着替えをさせること。普通の服を着せて、その上にスノーパンツ、スノースーツ、手袋、帽子、マフラーをさせて、スノーブーツを履かせて、さあ出ようとしたところで、「おしっこー」なんて言われると、また最初からやり直しです。窮屈な服装が苦手な次女は、この恰好をさせるととたんに機嫌が悪くなり、バス停に着くまで、ずっと泣いているなんてことはよくありました。2月は極寒のカナダ、慣れない雪道、時差ボケもあって、手伝いに来てくれた母たちは本当に大変だったと思います。私の母が2週間滞在した後、義母も2週間来てくれました。おかげで、私は安心して出産に臨めました。

出産は予定帝王切開で、2月6日が手術日。カナダでは自然分娩の場合、出産後問題がなければ半日から一日で自宅に帰ります。帝王切開は二泊三日。日本は帝王切開なら1週間から10日は病院でゆっくりできるのに、海外はそうはいきません。北京で緊急帝王切開を受けた時も同じく二泊三日で、手術当日から傷が痛む中無理やり歩かされて、このまま家に帰って赤ちゃんの世話ができるのか不安になって涙が出た記憶があります。

病室は、4人部屋の大部屋は無料。その日に出産が少なければ、大部屋を独り占めということもあります。2人部屋や個室も空きがあれば入ることができますが、自費となります。私も個室をとるかずいぶん迷いましたが、第三子で気持ちに余裕があったこと、好奇心も手伝って大部屋に入院することになりました。

手術日当日。前日から絶食し、9:30に病院到着。荷物を持って、大部屋に入ったらまだ入院患者は誰もいませんでした。手術着に着替え、手術準備室で待機。今日手術を受ける予定の患者さんが、皆手術前の検査を受けています。どうも緊急手術が入ったようで、ここで1時間くらい何の説明もなく待たされました。

いよいよ手術の時刻になり、手術室に入り、腰椎に麻酔を打たれました。医師が麻酔が完全に効いていることを確かめてから、執刀開始。夫も立ち合い、後ろから話しかけてくれます。首元をカーテンで仕切られているため、私には手術の様子は全く見えません。お腹をぐっと押される感覚があり、すぐに赤ちゃんの泣き声が聞こえました。意識がもうろうとする中、ドクターが「男の子よ!ほら、見て!男の子よ!」それに続いて夫の「男の子だ!」と興奮する声が聞こえ、赤ちゃんを抱っこしました。私は何がなんだかわからず、「男の子の名前なにも考えてないのに・・・」と、夢なのか現実なのかよくわからないままリカバリー室に連れて行かれました。

リカバリー室で1時間待機した後、病室に戻ると、夫がねぎらいの言葉もそこそこに、いそいそと手帳を取り出し「色々考えたんやけど、子どもの名前は、Nがいいと思う。直球の"直"という漢字を入れたいんや」と熱く語りだしました。長女の時も、次女の時も、名前決めにはほとんど口を出さなかったのに、やっぱり男の子はうれしいのかなと思いながら、疲労困憊の私はうなずくしかありませんでした。

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産まれたばかりの長男


  • *1: 胎盤が通常より低い位置に付着し、子宮口にかかっていたり、覆っていたりする状態。前置胎盤のうち5~10%で胎盤と子宮が癒着して離れない「前置癒着胎盤」になる可能性があり、ハイリスク出産といわれている。
  • *2: 医薬品は自己負担。

筆者プロフィール
森中 野枝

都立高校、大学などで中国語の非常勤講師を務めるかたわら、中国語教材の作成にかかわる。
学生時代中国・北京に2度留学したあと、夫の仕事の都合で2004-2008 北京に滞在。2011-2013カナダ・トロント滞在。現在はアラブ首長国連邦ドバイに住んでいる。
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