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【ドイツの子育て・教育事情~ベルリンの場合】 第9回 子ども音楽コース

要旨:

「ミュージック・カルーセル」と呼ばれる音楽コースでは、1か月に1つずつ楽器に触れていき、5か月間の講座が修了する頃には、合計5つの楽器を習うことができる。内容もさることながら、市が運営し、良心的な価格で提供しているとあって、大人気のこのコース、申込から2年間たって、息子もようやく受講を開始することができた。息子のクラスでは、バイオリン、チェロ、ドラム、ピアノ、そしてアコーディオンという5つの楽器を学んでいくが、どの楽器でも、楽器自体や音の出る仕組みを学び、その後、音の出し方を習っていく。日頃なかなか触れることが難しい楽器に触れることができる音楽コースを、行政が子どもたちに提供しているのは、非常に評価できることだと思った。

Keywords:
ドイツ、ベルリン、音楽コース、シュリットディトリッヒ桃子

皆さんご存知のとおり、ドイツはバッハやベートーベンなど偉大な音楽家を生み出した国です。また、保育園編第29回でもご紹介したように、ベルリンには世界的に有名なベルリン・フィル・ハーモニーやオペラハウスがあり、気軽に一流の音楽に触れることができます。そんな環境の中、楽器を習ったり、リトミックのクラスを受講する子どもも少なくありません。今回は、息子が通っていた、音楽コースをご紹介したいと思います。

「ミュージック・カルーセル」と呼ばれるベルリン市の音楽コースについて初めて耳にしたのは、まだ息子が保育園に通っている頃でした。クラスメートのママがその音楽コースで教えている先生で、情報を提供してくれたのです。彼女によると「レッスン頻度は週1回。1グループ5人くらいで、1か月に1つずつ楽器に触れていき、5か月間のコースが修了する頃には、合計5つの楽器を体験できる」というシステムだそう。コース修了後、子どもが、特定の楽器に興味をもち、本格的に習うことを希望すれば、その後、継続して個人レッスンの申し込みが可能、とのことです。

私自身も4歳から18歳までピアノを習っていましたし、ピアニストの友人によると「絶対音感を身に付けさせたいのなら、6歳までに楽器は始めるべきよ」ということだったので、息子にも早い段階で楽器に触れさせたい、と私たち夫婦は思っていました。ですから、上記の話を聞いて程なく「ミュージック・カルーセル」の受講を決めました。

ただし、この魅力的なコースはベルリン市が運営しているため、1か月28ユーロ(約3800円、2015年7月現在)とお手頃な価格であることもあり、市内の複数の場所で提供されているにも関わらず、なかなか入るのが難しい、ということでした。

私たちも早速、一番自宅に近い教室に申し込みに行ったものの、評判どおり大人気でクラスに空きはなく、ウェイティングリストに入れてもらうのが精いっぱい。気長に待つしかありません。そうこうして、なんと2年もの月日がたち、すっかり私たちの頭の中から「ミュージック・カルーセル」の文字が消えていた頃に「コースに空きが出たので、手続きをしてください」と書面連絡が届きました。

「やっと受講できるね!」と喜んだのも束の間、問題発覚!音楽のレッスン日が日本語補習校(保育園編第9回 参照)の授業日と重なってしまったのです。申し込みをした2年前には、補習校の授業日は別の曜日でした。しかし、音楽コースの空きを待っている間、補習校での学年も上がったので、授業の曜日が以前とは変わってしまったのです。とはいえ、2年間も待って、ようやく受講できるようになった音楽コース、このチャンスを逃すわけにはいきません。補習校の先生に相談し、この二つの習い事が重複している2か月間だけ、補習校をお休みさせてもらうことにしました。

こうして、ようやく受講できることになった「ミュージック・カルーセル」。習う楽器はコースが提供されている場所によって異なるそうですが、息子の通っているクラスでは、バイオリン、チェロ、ドラム、ピアノ、そしてアコーディオンという5つの楽器を、週1回、合計3回ずつ学んでいきます。場所は市民大学の校舎です。受講開始日に指定の教室に行ってみると、グランドピアノが置いてある大きな部屋に、30人ほどの子どもたちと其々の楽器の先生5人が集まっています。

ミュージック・カルーセルのスケジュール例:息子のグループの場合

2月 3月 4月 5月 6月
バイオリン チェロ ドラム ピアノ アコーディオン

先生の紹介、コースの説明と続いた後、子どもたちは5つのグループに分けられました。1つのグループに5-6人、同年代の子が割り振られています。結果、息子の最初の楽器はバイオリンとなりました。他のグループの子どもは、チェロ、ドラムなど別の楽器から始まりますが、月が替わると、次の楽器のレッスンへ移行する(例:チェロの次はドラム、ドラムの次はピアノ)ので、5か月間のコースを修了する頃には、全員が5つの楽器全てに触れることになります。ちなみに、このコースの名前の「カルーセル」というのは「回転木馬」という意味です。

授業は各1時間で、最初の45分間は保護者は教室の外に出なければなりません。しかし、毎回、最後の15分は、先生と子どもたちがその日の授業内容や成果を説明したり発表してくれるので、保護者たちは教室に入って、小さな音楽家たちの発表会を鑑賞することができます。

さて、授業内容ですが、どの楽器でも、まず楽器本体や各パーツの名称、そして音が出る仕組みを学びます。例えば、バイオリンでは、本体は木、弦はスチール、弓は馬の尻尾からできていることを学んでいました。子どものレッスンらしく、プリントに各自塗り絵をしながら、各パーツの名称を習っていた模様です(下記写真参照)。

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バイオリンレッスン初回で習った各パーツの名称

その後、バイオリンの授業では弦を指ではじく練習から始まり、一つの弦を押さえながら、弓を弾いて、長く音を出す練習に移行していきます。最初の練習では、なかなかうまく弦を押さえられない子もいましたが、3回目の最後の授業では、先生がメロディを弾くのに合わせて、子どもたち皆で伴奏パートのコードを弾き続けるなど、ちょっとしたオーケストラのようになっていたので、親バカながら感動してしまいました。

ちなみに、バイオリンやチェロ、アコーディオンは子どもサイズが貸し出されます。ちびっこたちが、小さな楽器を一生懸命弾いている姿は、なんとも可愛いものでした。

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子どもサイズのチェロで練習

ちなみに、市が運営しているこのコースですが、小学校編第7回でお伝えした「小学校のストライキ」期間は、音楽コースの先生たちもストライキを決行!その時に予定されていたチェロの講座は1回分お休みとなってしまいました。振替授業は行われる予定ですが、「こんなところにまで、ストライキの影響が及ぶとは!」と驚かずにはいられませんでした。

ところで、5つの楽器の中でも、息子の一番のお気に入り楽器は、ドラムでした。ロック好きの両親の影響を受けたのか、「僕もロックのドラマーになるんだ!」と、気分だけは一丁前で、弦楽器を習っている時から、ドラムの授業を心待ちにしていました。

しかし、そのドラムレッスンの初回では、使用したドラムは一つだけ。内容も打楽器の音の出る仕組みを習い、簡単なリズムを叩くだけだったので、ドラムセット演奏を期待していた息子はがっかりしていました。ようやく2回目から演奏するドラムの数が増え、ドラム最後のレッスンで発表会が行われた時には、フルのドラムセットを楽しそうに、生き生きと叩いていました。時々、リズムがずれるものの、その姿は、ロックドラマーさながら!あまりの大音量、そして彼の得意げな顔に、私たち夫婦を含め、見学していた保護者たちは思わず笑ってしまいました。

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ドラムのレッスン風景

当然、息子は「そのままドラムレッスンを続けたい!」と言っていますが、そうなるとドラムセットを自宅に購入して、毎日練習しなければならない、とのこと。私たちが住んでいる集合住宅ではなかなか難しいことです。ちなみに、楽器の個別レッスンを受ける場合は、ほとんどの楽器は貸してもらうことができますが、ピアノとドラムだけは、各自で準備することが必須とのことでした。

その後、ピアノ、アコーディオンと鍵盤系の楽器が続きましたが、やはり息子はドラムに心酔している模様。10代になってもまだ興味が続いているようであれば、貸しスタジオなどで練習してもらうおう、と思っています。

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ピアノのレッスンではキーボードも使用:クラスメートと連弾

このように、日頃なかなか触れる機会が少ない楽器を体験できる音楽コースに参加できて、息子も毎週楽しんでいました。財政的には厳しいベルリンですが、文化都市を謳うだけあって、このようなコースを、良心的な価格でベルリンっ子たちに提供しているのは、非常に評価できることだと思いました。ちなみに、前回の記事(小学校編第8回チャリティマラソン大会 )で少し触れましたが、ドイツは「証明書」社会らしく、このコース修了時にも「修了証明書」が手渡されました。

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コース修了証明書

最後に、興味深かったのが、学校帰りの子どもたちをレッスンに連れてきている保護者の中に、祖父母と思われる人が多かったこと。どうやら誕生日プレゼントとして、このコースを孫たちにプレゼントしている模様です。小さな子どもたちの楽器演奏を、目を細めながら見ているシニアたちの姿が印象的でした。

筆者プロフィール
シュリットディトリッヒ 桃子

カリフォルニア大学デービス校大学院修了(言語学修士)。慶應義塾大学総合政策学部卒業。英語教師、通訳・翻訳家、大学講師を経て、㈱ベネッセコーポレーション入社。2011年8月退社、以来ドイツ・ベルリン在住。
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