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【ザンビアの子育て・生活事情】 第2回 チテンゲ活用法

要旨:

チテンゲは、ザンビアの女性にとって欠かせず、腰巻(スカート)、伝統衣装の生地、頭に巻くターバン等に着用される他に、抱っこ・おんぶひもとして、また、踊りの時の腰巻としての用途もある。ザンビアでは、チテンゲで赤ちゃんを抱っこしながら母乳をあげる姿はよく見られる光景であるが、一時期は、HIVに感染している母親は母乳を慎むべき、と言われたこともあった。近年、ザンビアでも共働き夫婦が増え、男性の家事・育児参加が進んできている。
Keywords:
チテンゲ、チテンゲ抱っこ・おんぶ、母乳、HIV蔓延、男性の家事・育児参加、踊り

ザンビアの女性に欠かせないものがあります。それは「チテンゲ」と呼ばれる布で、女性の腰巻、伝統衣装の生地、頭にターバンのように巻く、等に使用されます。チテンゲは、基本は幅1メートル、長さ2メートル(卸売店では、用途に合わせた長さでも買うことができます)、柄は大きな模様が鮮やかな配色で描かれているものが多く、ザンビアの空と大地を背景に、ザンビアの女性が着用すると、とても見栄えがします。過去にはザンビア国内でもチテンゲ生産がなされていましたが、工場が閉鎖されてしまい、現在は隣国のコンゴ民主共和国やタンザニア等からの輸入に頼っています。

衣類としてのチテンゲ

ザンビアでは、慣習的に、女性が脚を見せる事は慎むべきとされていて、女性に求められる服装は、公式の場ではチテンゲで作った丈の長いドレス、日常ではシャツに腰から下はチテンゲを巻く、とされています。でも、近年は世界のトレンドに合わせたファッションを好む傾向が強くなり、若い女性の間では、スリムタイプのズボンや丈の短いスカートを履いている人達も見かけるようになりました。公式の場でも、チテンゲのドレスよりも、西洋のスーツを着用する人が増えてきています。男性はこの傾向が顕著で、ほとんどの男性がスーツを着用し、チテンゲ生地を使用した服を着る人は少数派です。ただ、冠婚葬祭、特にお葬式では、女性は下半身にチテンゲを巻く、という事が徹底されているように見受けられます。

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チテンゲの腰巻をつけた女性達(左端:筆者)

抱っこ・おんぶひもとしてのチテンゲ

チテンゲの用途としてもう1つ重要なのが、赤ちゃんを抱っこ・おんぶするための布(抱っこひも)です。まだ首が座っていない赤ちゃんは、チテンゲで包んで前に抱えて、お母さん、或いはその他の抱っこをする人の、首から肩にかけて結びます。首が座る時期からは、チテンゲで包んで背中におぶって、同様に結びます。幼い頃から、おままごとで遊ぶ際に、人形を使ってチテンゲ抱っこ・おんぶの練習をし、少し大きくなると、家族や近所の子ども達の子守りをする時に、本物の赤ちゃんでチテンゲ抱っこ・おんぶを実践し、母親になる頃には既に熟練している、ということが多いようです。見ていると、いとも簡単にチテンゲで赤ちゃんを包んで、さっと背中に持っていきおんぶをしますが、実際にやってみるとかなりのテクニックが必要なことがわかります。また、ザンビア人の母親達は、チテンゲ抱っこ・おんぶで赤ちゃんを連れながら、子ども連れでない人達と同様に家事、野菜売り *1等、活動的に動き回りますが、これも体が慣れているからこそできることで、慣れていない我々がやるとすぐに肩や首が痛くなってしまい、長時間続けるのは難しいことがわかります。

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マーケットで買い物をする、チテンゲで子どもをおんぶした女性

ザンビアの母乳育児

女性が脚を見せるのは慎むべきとされていますが、胸に関しては当てはまらないようで、街中や道端でも、チテンゲ抱っこをしながら、おっぱいを出して母乳をあげている母親の姿を見かけることがあります。ザンビアは、HIV(Human Immunodeficiency Virus/ヒト免疫不全ウイルス)が蔓延していて、HIVに感染している母親も多いため、母乳に関しては過去10年余りに渡って様々な議論がありました。母乳を介して、HIVが赤ちゃんにうつってしまう事もあるため、HIVに感染した母親は母乳をあげずに人工乳に代えるべき、というように言われた頃もありましたが、結局、現在はHIVの感染の有無に関わらず、全ての母親に母乳哺育が奨励されています。その理由は、母乳が免疫学的に優れているという事の他に、粉ミルクを賄える経済力がない人が多い(→お金がない時は、母乳をあげるしかない)、人工乳を衛生的に調整できる環境に住んでいない人が多い(→水がきれいでなかったり、容器が汚れたりしているため、作ったミルクが不衛生で、赤ちゃんが下痢を起こしてしまう)等より、母乳をあげることがHIVの母子感染予防と赤ちゃんの生存に効果的、という結論に達したからです。赤ちゃんが生まれて母乳をあげる、という自然なプロセスにも関わらず、ザンビアでは、HIVの蔓延のために、お母さん達を悩ませることとなってしまったわけですが、その反面、HIV対策という側面から、母乳に関する様々な議論や試行錯誤があったおかげで、母乳に関する教育や、母乳をあげているお母さん達のケアが以前にも増して充実してきた、というプラスの面も見られています。

男性の家事・育児参加

チテンゲ抱っこ・おんぶはいまだに主流ですが、最近は市販の抱っこベルトも普及してきました。ザンビアでも、最近は共働きの夫婦が増え、男性の家事・育児参加が進んできており、男性が抱っこベルトを使用して赤ちゃんを抱っこしている光景も、よく目にするようになりました。赤ちゃんを抱っこしている男性で、チテンゲを使用している人はほとんど見かけません。これは、見た目の印象に加えて、技術と経験を要するチテンゲ抱っこ・おんぶは、男性にとっては難しい、という理由があるのかもしれません。父親がおむつ替えを手伝うという話も、少しずつ聞くようになりました。このところ、都市部を中心に開発が進んで、お金があれば色々な物が手に入るようになってきています。女性も働いて家計に貢献することで、より良い生活を送れ、子供にもより良い教育を受けさせることができるというのを実感できるからこそ、男性の家事・育児参加が進んできているのかもしれません。

一方で、貧しい人達の間では、女性の立場は依然として弱いという現状があります。学校に通いたかったものの、貧しいので、学校を中退して家業を手伝っている女性が沢山います。彼女達は、社会的にも経済的にも立場が弱く、男性を引きとめておく手段の1つとして妊娠・出産を選ぶ傾向があります。準備ができていないまま、若くして妊娠し、出産、子育てをするようになります。そのような若いカップル(夫婦)は、母親としての準備ができていないことによる母親自身の栄養不良、そして、生まれてきた赤ちゃんの栄養不良、父親としての準備ができていないことによる経済的な問題、父親としての自覚の不足等、悪循環の深刻な状況に陥ることがあります。

踊りの際の腰巻としてのチテンゲ

チテンゲの活用法としてもう1つ、踊りのときの腰巻、というのがあります。ザンビアでは、地域の集会や催しものなど、様々な機会に踊ります。ザンビア人は、ドラム(太鼓)の音が鳴り始めれば、リズムに合わせて、自然と体が動くようになっているようです。女性の踊りに特徴的なのが、激しい腰の振りで、上手な人の腰の動きは、まるで腰の辺りにモーターでもついているかのように、小刻みで速い振りがなされます。これは、骨格の違いもあると思いますが、幼い頃から、大人に混ざって踊って鍛えた成果といえます。踊りのときに、この腰の動きをより際立たせるために、腰の周りに帯のようにチテンゲを巻きます。催しもので観客がいるときは、上手に踊った人に、観客から称賛を示すものとして、腰に巻かれたチテンゲの間にお金(お札)が挟まれる、という習慣があります。もともとは、男性が結婚相手の女性を選ぶ際に、踊りを見て決めたということもあったようです。今では、そのようにして結婚相手を決める人はあまりいないと思いますが、踊りが上手であることは、いまだに男性にとって魅力的な要素の1つであるといえそうです。

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チテンゲの腰巻をした女性のダンサー


*1 ザンビア人女性は、家計を支えるために野菜売り等で日銭を稼ぐ人達が多い。
筆者プロフィール
aya_kayebeta.jpgカエベタ 亜矢(写真右)

岡山県生まれ。1997年千葉大学医学部を卒業後、東京大学医学部小児科に入局(就職)、東京都青梅市立総合病院小児科勤務を経て、2000年にJICA技術協力プロジェクト(プライマリーヘルスケア)の専門家としてザンビアへ渡る。その後、ザンビア人と結婚し、3人の娘(現在、小4、小5、中1)を授かる。これまでザンビアで、小児科医として、HIV/AIDSに関する研究、結核予防会結核対策事業(コミュニティDOTS)、JICAプロジェクト(都市コミュニティ小児保健システム強化)等に携わってきた。一方、3人の子どもの母親として、日本から遠く離れたアフリカ大陸で、ギャップを感じつつも、新たな発見も多く、興味深い子育ての日々を送ってきた。
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