みなさま、はじめまして。この度、ザンビアの子育て・生活事情について、連載をさせていただくことになりました。少し前までは、日本国内では、アフリカの情報に接する機会は限られていて、「アフリカといえば動物と草原」、という固定的なイメージを一般的にもたれていたのでは、と思います。最近は、日本のテレビ番組や新聞等でも、アフリカの事が取り上げられる機会も多くなっているようですが、ザンビアに特化した情報は、まだまだ限られていると思います。そこで、まずはじめに、ザンビアの紹介をさせていただきます。
ザンビアは、アフリカ大陸の南部に位置し、周辺を8つの国(ナミビア、アンゴラ、コンゴ民主共和国、タンザニア、ジンバブエ、マラウイ、ボツワナ、モザンビーク)に囲まれる内陸国です。世界三大瀑布の1つであるビクトリアフォールズは、ザンビアとジンバブエにまたがっており、世界各国から多くの観光客が訪れます。位置的には熱帯ですが、標高が1,000メートル前後と高く、1年を通じて過ごしやすい気候です。雨は、雨季(12月から4月)の間に限られていて、乾季(5月から11月)の間は、曇りの日でも、雨が降ることはありません。過ごしやすい気候に慣れているザンビアの人たちは、暑さや寒さに敏感で、暑い時期(特に9月から10月)には、「暑い、暑い。」と、弱音を吐き、寒い時期(6月から7月)には、ジャケットで完全武装しながらも、「寒い、寒い。」と、震えています。暑い時期でも、気温は33度前後、乾燥しているので、日陰に入ると涼しく、日本の蒸し暑い夏の不快さに比べれば、非常に過ごしやすくなっています。寒い時期は、気温は5度程度に下がることもありますが、寒さが長い期間続かず、暖房なしで過ごしても、しもやけができるようなことはありません。
ザンビアのマーケットの風景
歴史的には、1964年10月24日に英国から独立しました。2020年には、2回目の東京オリンピック開催が予定されていますが、1回目に東京オリンピックが開催されたのが1964年10月で、ザンビアの独立のタイミングと丁度重なっていました。選手たちは、開会式では北ローディア代表、閉会式ではザンビア代表、と、異なる国名で参加した、という逸話があります。ザンビア周辺の国々は、内戦等の紛争が絶えず、国内情勢が落ち着かない所も多いですが、そんな中、ザンビアは、内紛は一度もなく、平和を保ち続けています。ザンビアの民族は、70以上の部族から構成されており、その多様性が、危機的な対立に至ることなく調整できている要因の1つ、とも言われています。日常生活の中でも、敵対することを、極力避ける傾向が見られます。例えば、仲が悪い2人が、会議の席で一緒になった場合、普通に挨拶を交わし、笑顔で会話をして、見た目には、仲が悪いことには全く気付かれません。が、どちらかがいなくなった途端に、「実は、あの人は、こんなに悪い人だ・・・。」と、相手の悪口を言い出したりします。ザンビア人と関係を築くときには、相手がにこにこしているので大丈夫、と、そこで終わらせずに、周囲の人とも良い関係を築いておくことが重要です。また、ザンビア人は、何かを頼まれた時に、本当はできない事でも、「No(いいえ)」と言えずに、つい、「Yes(はい)」と、言ってしまう傾向があります。これは、相手の意向に表だって対立しないよう気を遣っていることの表れといえます。ザンビア人に何かを頼んだ場合には、「Yes(はい)」と引き受けてもらった後も、しっかりフォローアップをする、というのがコツです。
英国の植民地であった歴史の名残も各所に見られます。日本でも、最近導入されたそうですが、英国式のラウンドアバウト(環状交差点)は、ザンビアの道路でも利用されています。複数の道路が、円形の島を介して接続されていて、各道路からは、規則に従って出入りします。ザンビアでは、ここ5年くらいの間、中古車市場の拡大で、比較的低い価格で車が購入できるようになり、乗用車の数が急増しています。ラウンドアバウトは、交通量が少ない所での利用に向いているのだそうですが、車の急激な増加に対処しきれず、渋滞を生み出すポイントの1つとなってしまいました。朝晩の通勤ラッシュ時には、ラウンドアバウトの前後で、長い車の列ができます。車が長く留まっている地点というのに眼をつけて、道沿いには、新聞や、プリペイド式の携帯電話用テレホンカード等の路上販売をする人たちが列をなします。この路上販売の商品の種類は幅広く、他にも、おもちゃ、洋服、野菜、果物、時には、犬、鴨、ホロホロ鳥等の動物も売られていることがあります。(犬は番犬用 *1で、鴨、ホロホロ鳥は食用です。)
ザンビア人の食事は、主食が「シマ」で、おかずは、肉や魚と葉野菜の付け合わせ、という組み合わせです。シマというのは、ミルミルと呼ばれる白トウモロコシを乾燥させて粉にしたものに水を加えて炊いて練り上げたもので、トウモロコシの香りがほのかにしますが、味はほとんどありません。一つまみのシマを手で取って掌で練り、それに、おかずを絡めて食べます。近年は、都市を中心に、ファーストフードが出回るようになりましたが、シマを主食とした伝統的な食事は、根強い人気を保っており、町の至る所には、シマ・レストランがあり、昼時になると、ビジネスマン・ウーマンで賑わいます。主食はシマでないとダメ、という人も多く、ファーストフード店や、シマ以外のレストランでも、主食として、フライドポテトや、マッシュポテト、ライスと並んで、シマが選択できるようになっている所が多くなっています。
右:シマ、左:チキンとキャベツ
ザンビア人の保守的な姿勢は、服装や髪形にも表れています。これは、特に男性に顕著で、公式な場ではスーツ、カジュアルでもアイロンをピシッとかけたシャツとズボンを着用します。髪の毛を伸ばしたり、色を染めたりすることに抵抗があるため、大抵の男性は、短く刈り上げて、そり込みを入れたり、数ミリ単位で長さを調節する等、少しの変化でヘアスタイルを楽しんでいるようです。それでも、ここ数年は、若い男の子の間で、ズボンを腰までずり下げて履く(sagging)スタイルも浸透しつつあり、少しずつ変化は見られてきているようです。一方、女性は流行に敏感で、かつらや、細かい編み込み等を活用して、色々な髪型を楽しみます。直毛のショートヘアだった人が、休み明けに、編み込みのロングヘアに変わり、急な変化に驚かされる、ということが、よくあります。これは、直毛のショートヘアのかつらをかぶっていた人が、休み中に人工の長い付け毛(エクステンション)を編み込んだ結果で、女性の間では、ごく普通に行われていることです。ナチュラルな地毛にこだわる人もいますが、地毛は、黒く細い縮れ毛なので、伸ばそうとしても、途中で切れてしまいます。女性のおしゃれには、かつらや付け毛が必需品なのです。
ザンビアは、穏やかでフレンドリーな人たちが住む、平和でのんびりとした国ですが、実は、貧困、HIV/AIDS(エイズ)の蔓延、等、深刻な問題を抱えている国でもあります。出産時に妊婦や新生児が亡くなる数や、子どもが5歳になる前に亡くなる数も多く、人々が安心して生活できる状況にはありません。次回以降は、子どもに関する話題を通じて、ザンビアとザンビア人の魅力をお伝えしつつ、現実に抱えている問題や課題についても触れることができればと思っています。
*1 ザンビアでは、犬は、一般的には番犬として飼われていることが多く、ペットとして飼われていても、番犬としての役割を期待されています。