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【ニュージーランド子育て便り】 第12回 永住権の取得

要旨:

家族で永住権を取得した。永住権を取得しても、生活に大きな差はないが、いつまでも住み続けることができる安心感を得て、社会の一員である感覚は増した気がする。この地で子育てをすることについて、改めて考えてみたい。

先日、私たちは家族でニュージーランド(以下、NZ)の永住権を取得することができました。永住権というと、日本ではそれ程馴染みがないため、なぜ取得するのだろうか、もう日本には戻れなくなるのだろうか、などといった疑問を持つ方もいると思います。しかし、実際は「NZに永住しなければならない」という縛りがあるわけではなく、「NZに永住してもいいですよ」というビザのことを永住権と言います。そのため、永住権を取得してから様々な理由で母国に帰る方も、別の国に行く方もいます。ただ、このようなビザがあることは、NZに生活の基盤がある以上、大きな安心に繋がります。NZの永住権は専門家に頼まなくても、自分でも申請することが可能です*1。一般的には、①永住権が欲しいという意思表示(ウェブ上での申請)、②必要書類の提出、③移民審査官による審査という3ステップを経て、審査に通ると永住権を取得できます*2。この間、必ずしもNZにいる必要はないので、日本からも申請できますし、恐らく読者の方の中に申請可能な方もいるでしょう。

永住権の取得は有料で、私たち家族3人の場合には、冒頭の①②③のステップでそれぞれ①510ドル(掲載時のレート、1NZドル=約85円、およそ43,350円) 、②1,800ドル(およそ153,000円)、③の審査を経て最終的な永住権の発行の際に683ドル(およそ58,000円)を支払いました。最後に支払った683ドルは、各種移民向けサービスの運営資金でもあるようなので、必ずしも「永住権発行代金」というわけではないようですが、合計3,000ドル近くのお金はそれなりに大きなお金です。それでも海外で生活をしてみると、外国人にとってビザがいかに大きな存在であるかわかります。外国人は、永住権以外の場合は、特定の仕事をする、特定の学校に通う、長期滞在する、という様々なことが期限付きのビザによって許可されています。永住権の場合は、活動の制限や期限がないので、自由度の大きな生活を送ることが可能です。また、教育、医療、社会保障、選挙権と様々な制度の受給権にも繋がります。

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ヨットが浮かぶオークランドの美しい海

特に子ども連れにとって切実なのは、公立のプライマリースクール(日本の小学校にあたる)やセカンダリースクール(日本の中学校、高校にあたる)の授業料だと思います。NZ人には無料ですが、 外国人の場合、永住権を持っている親の子どもと、就労ビザがあり一定額以上の収入のある親の子どものみ無料になります*3。そうでない場合は年間10,000ドルを超える授業料を払わなければなりません*4。 この授業料負担の仕組みについては、NZに来るまで知らなかったのでとても驚きました。日本では、外国から来たクラスメートが公立の学校に授業料を80万円以上も払っているなんていう状況は想像もしないと思います。私自身は、日本の制度の方が通っている子どもたちにとって良いのではないかと思ってしまいますが、NZは移民が多いので、国の財政上そのようなことは難しいのかもしれません。英語の補助などの特別なサポートもつけますから、実際に外国人の子どもの方がコストはかかってしまうようです。ですから、子どもと一緒にNZに来る人たちは、出身国に関わらず永住権が欲しいと思うのも当然だと思います。

現在3歳半の娘はこの1年近く週に3日間プリスクール(保育園*5)、1日はプレイグループ*6、1日は習い事というリズムで生活をしています。そして各々で娘のことを見守ってくれる知合いができて、毎回娘に声をかけてくれます。プリスクールでは先生方がそこでの娘の様子を話してくれ、プレイグループや習い事では、周りのお父さん、お母さんたちも、娘の成長を気にかけて声をかけてくれます。NZに来た当初は、週に5日、保育園や幼稚園に通わなくても構わないということ(というよりは、5日通うと負担額が大きすぎるというのも現実ですが)が、生活のリズムを乱すような気がしていました。しかし、今は1つの場所にとらわれることなく、様々な人に娘が見守られている感じがとても快適です。むしろ、1つの学校に通うことになるプライマリースクール以降は大丈夫かな...と思うほどです。

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ワインフェスティバルにて(NZはワインの産地でもあります)

最近の娘を見ていてNZに来てよかったと思うことの1つに、娘自身がバイリンガルになろうとしていることがあります。娘の保育園の先生はほとんどが海外出身の先生で、英語の他に1~2カ国語話すことができます。そのためか、娘は大人が2カ国語以上を話すことが普通だと思っているようです。ある日、NZ人の先生が英語しか話せないと分かったときは「ママ!〇〇先生は、言葉1つしか話せないんだって!」と、目を真ん丸にして驚いて帰ってきました。保育園でも、生活の様々な場面においても、多くのバイリンガルのロールモデルがいます。NZに来るまで私は、日本語が分からない人の前では英語で話すべきだと思っていましたが、NZではそういうポリシーを持つ必要もないようです。母語が話したい時には、母語を話して良いようです*7。道を歩けば多言語が飛び交っています。そんな雰囲気も、娘が日本語を恥ずかしがらずに話そうとする背景にあるのだろうと思います。

また、国際結婚がごく普通のことという捉え方も、日本にいたらもてなかったのではないかと思います。「〇〇のパパはインドの人」「〇〇のパパはフランスの人」「○○はママがロシアの人」「〇〇はママが日本人で、パパがキウイの人(NZ人のことを「KIWI(キウイ)」と言う)」と、何の疑問を持つ風もなく話しています。そんな国際結婚のカップルが普通ですから、子どもたちの容姿も実に様々です。一時期「ママは髪の毛と目が黒いね~。」「私も目が黒い。」など、容姿を周りと比べていることがありましたが、周りの容姿も様々で、アジア人らしい特徴が目立つという状況にもなりません。大きくなったら月並みに見た目に多少悩む日も来るのかもしれませんが、いろいろな大人が娘に「可愛い」と声をかけてくれたことを、覚えておいてほしいものです。

もちろん、NZで生活するのは良いことばかりではなく、いろいろな人が生活しているせいか、あるいはNZの国民性なのか、予定通りに運ばないこともたくさんあります。日本的な見方をすれば、いろいろなことが「適当」です。でも、よく言えば「おおらか」「柔軟性がある」。そのせいか逆に私自身の子育てにも完璧が求められているような気もしません。日々トラブルシューティングをしながらの子育て生活という感じもありますが、こうして永住権の取得を機に振り返ってみると、NZの良い面が思い浮かび、この国で暮らすことができて良かったなと思います。せっかく頂いた永住権ですから、多少はNZ社会の役にたつ家族でいたいと思います。

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ブッシュウォーク(森林散策)


  • *1 自分で行わない場合は、弁護士やイミグレーションアドバイザーといった専門の職業の人に依頼することになる。
  • *2 詳しくは移民局のHPを参照 
  • *3 外国人の場合は、一定額以上納税していない場合は授業料を払うべき、という考えのようである。有料・無料になるケースについて詳細は教育省のHPに記載。また、NZ人、外国人に関わらず授業料が無料になる場合でも、寄附金を支払うことが多い。
  • *4 なお、大学などの高等教育機関も国民及び永住権保持者の授業料と留学生の授業料は異なる。(留学生の方が4-5倍ほど高額。)
  • *5 詳しくは、「第5回 デイケア(保育園)通い」を参照。なお、娘の保育園では3歳児クラス以降を「デイケア」ではなく「プリスクール」と呼んでいる。
  • *6 詳しくは、「第1回 プレイグループ」を参照。
  • *7 母語は尊重すべきという考えが一般に共有されているのは、尊重すべき言語として捉えられているマオリ語の存在も大きいだろう。なお、NZは英語とマオリ語とニュージーランド手話が公用語である。
筆者プロフィール
村田 佳奈子

お茶の水女子大学卒業、東京大学大学院修士課程修了(教育学)。資格・試験関連事業に従事。退社後、2012年4月~ニュージーランド(オークランド)在住。
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