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【ニュージーランド子育て便り】 第10回 移民を対象とした「ニュージーランドの教育制度」ワークショップ

要旨:

移民国家のニュージーランドには、移民向けに多様なサービスが存在する。今回は、移民向けに開催された「ニュージーランドの教育制度」ワークショップについて紹介したい。内容は、ニュージーランドの教育制度の全般的な概要に加え、ESOLサポート、学校出席への意識、母語の維持についてなど、移民特有の内容まで幅広い。移民同士で学ぶことも多く、ワークショップは非常に有意義であった。

移民の多いニュージーランド(以下、NZ)では、移民向けに様々なサービスが存在します。私たち家族が何度も足を運んでいるのはARMS(Auckland Regional Migrant Service)です*1。ここでは、移民を対象に就労支援、教育制度、医療制度、ファイナンシャルプランニング、不動産購入といった生活関連のワークショップや、手頃な料金で受けられる英語の授業を開催しています。今回、私は、NZの教育制度の概要を説明するワークショップに参加しました。移民向けにどのような内容が話されるかは、読者の方にも興味深いと思いますのでなるべくワークショップの内容に沿う形で概要を紹介します*2

幼児教育(ECE:Early Childhood Education)

・対象年齢 誕生~6歳になるまで

・ECEは義務ではないため家で育てることも可能であるが、子どもの発達にとって利用することは良いとされている。

・ECEは、Te Whariki(テ・ファリキ)というカリキュラムに基づいて行われている *3

・ECEに含まれるものは、デイケア、キンダーガーデン、プレイセンター、プレイグループなどで多様な選択肢がある*4。ECEの管轄は教育省である。

・午前中や午後だけのところから1日のところまで、多様な選択肢があるので自分たちの生活スタイルや教育方針に合うサービスを見つけて契約する。

・通常、学区はないため、職場の近くのサービスを利用することもできる。

・3歳になると、週あたり20時間分の利用料金の補助を利用することができる。

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キンダーガーデン
義務教育期間

・義務教育年齢
 6歳の誕生日から16歳の誕生日まで、全ての子どもは学校に行かなければならない(日本のように一斉に入学するのではなく、誕生日を迎えた順に入学する)。学費は基本的にはかからない。寄付を求められるが支払いは任意である。

・学校と対象年齢
 -プライマリースクール対象年齢5歳~10歳
  5歳の誕生日を迎えると、プライマリースクールに通うことができる。6歳からは義務となる。
 -インターミディエートスクール対象年齢 11歳~12歳
 プライマリースクールと統合されている学校も多い。
 -セカンダリースクール対象年齢 13歳~19歳
  High SchoolまたはCollegeという名称が多い。男子校、女子校と別れている場合もある。   (セカンダリースクールの対象年齢が幅広く紹介されたのは、留年や学校に通うことのできる年齢である19歳の学年末になるまでを加味してのことだと思います。)。

*5歳からプライマリースクールに行きはじめた子どもを例に図示すると、下のようになります。(筆者による作成でワークショップ資料ではありません。)

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・学校の選択
学校による違いが大きいので、必ず事前にアポイントメントを取り学校を訪問することを勧める。教育評価レポート*5も各学校の特色を知るための参考になる。Decile Rating*6は単なる経済的な指標なので学校選択の際には参考にしないこと。なお、公立校は学区があるので学区内居住者が優先される。

・ESOLサポート*7
NZ以外で生まれ両親が英語話者でない場合、ESOLサポートは5年まで、NZで生まれ両親が英語話者でない場合、ESOLサポートは3年まで受けることができる。特別なニーズのある子どもの場合(学習障害やADHDなど)、ESOLサポートの期間は延長される。

・子どもの成績の見方
成績は国の定めている平均と比べて、上中下として表されることが多い。英語を習得途中の子どもの場合、個人としては伸びているにもかかわらず、成績はずっと「平均以下」となることがある。このような子どもには、英語の習得度を示すELLP(English Language Learning Progression)という成績を出している学校も多い。ELLPの場合、より子ども個人の成長が分かる形で成績が記載されるため、子どもの成長の度合いが分かるだろう。

・学校の仕組み
公立学校は、コミュニティから選出された親の代表によって構成される学校理事会が運営している。学校理事会が選任した校長が日々の教育を実行していく。こうした仕組みもあり、NZの学校では、校長の責任や与えられている権限は非常に大きい。

・相談や報告について
移民は様々な問題を自分で抱え込みがちだが、何かあったら先生(特に校長先生)に相談すると良いだろう。国に帰る場合、休む場合などは、必ず先生に報告をすること。

*ワークショップでは触れられませんでしたが、NZの学校のほとんどが制服を着用します。

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プライマリースクール
NCEA(National Certificate of Educational Achievement)について

・NCEAは、セカンダリースクールで取得する国の定めた資格で、取得するとそれぞれのレベルの学力を有していることの証明となり、大学への進学に際しても用いられる。セカンダリースクールの3年目にレベル1、4年目にレベル2、5年目にレベル3を目指し勉強することになる。学校内の授業や試験などの成果のみではなく、学外の基準となる統一試験の成績も単位取得においては重要となる。

・レベル1~3とも最低各80単位の取得が必要である。各科目は選択制であるが、NCEAの各レベルで取得の要件も決まっている。レベル1取得単位のうち10単位が英語、10単位が数学であること。レベル2は取得単位のうち60単位がレベル2以上であること。レベル3は取得単位のうち60単位がレベル3以上、20単位がレベル2以上であることが要件である。単位の取得状況を子どもとコミュニケーションをとって把握していくとよいだろう。

・各科目は合格A(Achieved)、不合格NA(Not Achieved)で表示されることがほとんどだが、優秀であればM(Merit)、極めて優秀であればE(Excellence)となる。

・進学先により履修を要求している科目が違うため、キャリアガイダンスカウンセラーと相談した上で履修科目を決めることを勧める。

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セカンダリースクール(歴史のある女子校校舎)

全体としては、ESOLのサポート、学校を休まない重要性、母語を維持する重要性に関する説明に力点が置かれていたような気がします。社会的なコミュニケーションをとる言語は非常に簡単なので、子どもはすぐに話せるようになるそうです。しかし学習言語がそれに伴っているとは言えないため、ESOLのサポートは遠慮したりせずに必ず受けた方が良いということでした。実際にプライマリースクールの3年目くらいになり教材から視覚的なイメージがなくなると、英語が母語である子どもとそうでない子どもの差がついてしまいがちなのだそうです。また、学校は子どもが、相当具合悪くない限り行った方が良いと強調していました。移民である親は、何かと母国に子どもを連れて帰りがちですが、学校を休んでいかせる場合には「本当に子どもを連れて行く必要があるのか。自分(親)だけではだめなのか」よく考えて欲しいとのことでした。休んでいる期間がきっかけとなり勉強に取り残されてしまう子どもが多いようです。そして母語の大切さについては、母語に自信のある子どもは英語も自信をもって話せるようになるということでした。更には、親が中途半端な英語しか話せないならば、家庭内では英語で話さずに、親が自信をもって話せる言語で話す方が良いという話までありました。

教育についての基本的な情報は、インターネットなどで調べればある程度のことは分かります。しかし、移民向けワークショップが有意義だと感じるのは、スピーカーが専門家であることです。今回も、スピーカーは教育省の方が2名で担当してくれました。普段直接話すことのできない人を移民のために招き、質疑応答に時間をかけたっぷりと疑問に答えてくれることは、素晴らしいことだと思います。私自身は、別の参加者からの質問で学ぶことも多くありました。今回の参加者は私を入れて3名だけだったので、個人的な質問への回答時間が多く取られました。中学生のお子さんを持つ参加者が「私の娘は将来医者になりたいと言っている。どうすればよいですか。」といった質問をし、スピーカーからは、大学入試の仕組みまで詳しく聞くことができました。私が娘の担任の先生などから個人的に話を聞いていたら、そのような話は知る由もなかったと思います。娘はまだ3歳ですし、何事も身軽に変更をしていくNZですから、ここで紹介されたことは、数年後には変わっている可能性もあります。しかし、教育システム全体の概要について基礎知識をもっていることは子育てをする上での安心にもつながります。なお、もう1人の参加者は、独身で子どももいないけれど、移住したNZの教育事情を知っておきたいという理由で参加したということです。

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公園の遊具で遊ぶ

多くの移民の子どもを見ていると、適応の仕方は、その子どもによって様々だと感じます。娘の場合は、NZに来てから最初の3ヶ月ほどは、私が他の人と英語で話すだけで嫌がって泣いていました。焦っても仕方ないという思いもあり、その都度、私は英語を話すのをやめていました。しかし、最近では、英語しか話さない友達と楽しそうに過ごしています。それどころか、保育園のお迎えの時などNZ人の前では私にも英語で話しかけてくることもあれば、NZ流の振舞いを求めてくることさえあります。私は娘に付き合って(中途半端な!)英語で答えたり、見よう見まねのNZらしい振舞いをしたりもしています。また、NZの公園にはよく大人の背より高さのある遊具があり、多くの子どもが競うように元気に遊んでいます。こちらに来た当初、娘は、遊具の高さにも子どもたちの勢いにも圧倒され、とても怖がっていたものです。最近は、こうした遊具で遊ぶことも大好きです。娘がNZの生活や教育に馴染んで、楽しそうに過ごしている姿を見るととても安心します。日頃は、ついそれだけで私は満足しがちですが、ワークショップに参加しいろいろ考えさせられました。


  • *1: ARMSのウェブサイト
  • *2: ワークショップは、「ニュージーランドの教育制度」というタイトルだが、オークランドに来た子どものいる移民が、想定されている聞き手である。都市部で公立の学校に子どもを通わせる移民を対象にした内容であるという想定で読む方が正確だろう。NZの村落部、私学などでは事情が異なる内容も多いと思う。また、親として実際にどのように子どもの教育と向き合っていくべきかという視点が多かった。一般的な日本人読者に対して書かれる「ニュージーランドの教育制度」に関する内容やまとめ方とは、焦点の置かれ方が違うだろう。
  • *3: Te Wharikiは、マオリ語で伝統的な「(誰もが乗ることのできる)敷物」を意味する。4つの原則(エンパワメント(Empowerment)、全人的発達(Holistic Development)、家族とコミュニティ(Family and Community)、関係性(Relationships))と5つの要素(心身の健康(Well-being)、所属感(Belonging)、貢献(Contribution)、コミュニケーション(Communication)、探究(Exploration))を敷物の縦糸と横糸のように捉えている。Te Wharikiというタイトルは、これらの縦糸と横糸を織り上げるように子どもに適した教育を作っていくことを象徴している。より詳しくは、教育省のTe Wharikiについてのウェブページを参照。
  • *4: デイケア:日本の保育園に相当する。保育時間が長く早朝~夕方までのところが多い。私立のみなので料金は高額である。詳しくは連載第5回を参照のこと。
    キンダーガーデン:キンディと言われることが多い。公立のキンディは、利用者負担も多少あるものの基本的に公費での運営である。通常3歳のお誕生日を過ぎると園に空きが出次第入園が可能。午前中は4歳児、午後は3歳児が各2時間通う形態の園が多かったようだが、この数年で年齢ごとに時間を区別せずに朝から午後2時程度まで通える園も増えているようである。私立のキンディもあり、運営時間、教育方針、料金は様々である。
    プレイセンター:先生ではなく親が主体となり子どものために運営している幼稚園のようなところ。詳しくは連載第5回の脚注1を参照のこと。
    プレイグループ:小さな子どもたちが2時間程度、安全に遊び学べるような場所。詳しくは連載第1回を参照のこと。
  • *5: Education Review Officeが各学校を評価しているレポートのこと。教育評価レポートについては連載第6回の後半にも記載。
  • *6: Decile Ratingはその学校の学区に住む住民の所得や職業などから社会経済的指標を示す数値。連載第6回の後半にも記載。
  • *7: ESOLはEnglish for Speakers of Other Languagesの略。ESOLサポートは、母語が英語でない生徒が受ける英語のサポートのこと。ESOLサポートを受けるにあたっては、英語達成度の基準もある。(学校によりサポート形態も様々に異なる。)
筆者プロフィール
村田 佳奈子

お茶の水女子大学卒業、東京大学大学院修士課程修了(教育学)。資格・試験関連事業に従事。退社後、2012年4月~ニュージーランド(オークランド)在住。
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