「孤独・孤立対策推進法」の施行
コロナ禍を経て顕在化した人々の孤独感や孤立感。その実態を把握するために政府が行ったアンケート調査によってその詳細が明らかになりました*1。一方、2024年元旦には能登半島地震が発生し、被災地では今なお多くの困難に直面しています。世界では多くの戦争や紛争が発生し、インターネット時代にあってオンラインの世界での虚偽情報に翻弄され、真実が見えにくくなっています。こうした社会不安のある中、国の孤独・孤立対策は、ますます重要視される政策です。
2021年2月19日内閣府に「孤独・孤立担当大臣」が任命され、「孤独・孤立担当室」が設置されました。2018年1月にイギリスにおいて世界で初めて創設された「孤独問題担当国務大臣」に続いて、世界では2例目となる孤独・孤立問題を担当する国務大臣が日本にも置かれたのです。
そして、2023年6月に公布された『孤独・孤立対策推進法』*2が、2024年4月1日に施行されました。この法律は、「日常生活若しくは社会生活において孤独を覚えることにより、又は社会から孤立していることにより心身に有害な影響を受けている状態にある人々への支援等の取組について、その基本理念、国等の責務、施策の基本となる事項及び孤独・孤立対策推進本部の設置等について定める」法律で、「孤独・孤立に悩む人を誰ひとり取り残さない社会、相互に支え合い、人と人との『つながり』が生まれる社会を目指す」ものです。
この法律では、「孤独・孤立対策」とは、孤独・孤立の状態となることの予防、孤独・孤立の状態にある者への迅速かつ適切な支援、その他孤独・孤立の状態から脱却することに資する取組を進めることとして、以下の3点を基本理念として定めています。
- 孤独・孤立の状態は人生のあらゆる段階において何人にも生じ得るものであり、社会のあらゆる分野において孤独・孤立対策の推進を図ることが重要であること。
- 孤独・孤立の状態にある者及びその家族等(当事者等)の立場に立って、当事者等の状況に応じた支援が継続的に行われること。
- 当事者等に対しては、その意向に沿って当事者等が社会及び他者との関わりを持つことにより孤独・孤立の状態から脱却して日常生活及び社会生活を円滑に営むことができるようになることを目標として、必要な支援が行われること。
『こどもの居場所に関する指針』の策定の過程について
この孤独・孤立対策についてはこどもにとっても重要です。
こども家庭庁の設立が明記された2021年12月21日に閣議決定された『こども政策の新たな推進体制に関する基本方針』*3には、「こども家庭庁はこどもが安心して過ごすことができる場の整備に関する事務を所掌し、政府の取組を中心的に担う」こととともに、「こどもの居場所づくりに関する指針(仮称)を閣議決定し、これに基づき強力に推進」することが定められました。
そこで、こども家庭庁設立準備室が設置された2022年度の8月に、「こどもの居場所づくりに関する調査研究検討委員会」*4が設置され、5回にわたる会議を踏まえて2023年3月に報告書がまとめられました。そして、こども家庭庁設立後に設置された「こども家庭審議会」は2023年5月に内閣総理大臣からの諮問を受け、こども家庭審議会において3回、「こどもの居場所部会」*5において13回の議論を重ね、特に注目すべきこととして「こどもや若者等の意見を聴く取組み」を実施した上で、11月に「答申案」がまとめられました。
その答申案をもとに、2023年12月22日に『こどもの居場所に関する指針』*6が『こども大綱』*7と同時に閣議決定されました。
『こどもの居場所に関する指針』の概要
『こどもの居場所に関する指針』の概要は資料1の通りです。
この指針の理念は、「全てのこどもが、安全で安心して過ごせる多くの居場所を持ちながら、様々な学びや、社会で生き抜く力を得るための糧となる多様な体験活動や外遊びの機会に接することができ、自己肯定感や自己有用感を高め、身体的・精神的・社会的に将来にわたって幸せな状態(ウェルビーイング)で成長し、こどもが本来持っている主体性や創造力を十分に発揮して社会で活躍していけるよう、『こどもまんなか』の居場所づくりを実現する」ことです。
「こどもの居場所」とは、「こども・若者が過ごす場所、時間、人との関係性全てが、こども・若者にとっての居場所になり得る」ものであり、居場所とは、「物理的な『場』だけでなく、遊びや体験活動、オンライン空間といった多様な形態をとり得るものである」としています。
こうした多様な場がこどもの居場所になるかどうかは、第一義的には、こども・若者本人がそこを居場所と感じるかどうかによっています。その意味で、居場所とは主観的側面を含んだ概念であることから、「その場や対象を居場所と感じるかどうかは、こども・若者本人が決めることであり、そこに行くかどうか、どう過ごすか、その場をどのようにしていきたいかなど、こども・若者が自ら決め、行動する姿勢など、こども・若者の主体性を大切にすることが求められる」としています。
こどもの居場所の特徴については、
- 個人的であり、変化しやすいものであること、
- 人との関係性の影響を受けるものであること、
- 立地や地域性、技術の進歩などの影響を受けるものであること、
- 目的によって性質が変化し得るものであること、
- 多くのこどもにとって学校が居場所になっていること、
- 支援する側と支援される側との相互作用があること、
- 地域づくりにつながるものであること、
さらに、こうした目指す姿の実現に向けて、こどもの居場所づくりを進めるに当たっては、以下の4つの基本的な視点が重要であるとされて、これらの視点に順序や優先順位はなく、相互に関連し、また循環的に作用するものであるとされています。
- 【ふやす】~多様なこどもの居場所がつくられる~
- 【つなぐ】~こどもが居場所につながる~
- 【みがく】~こどもにとって、より良い居場所となる~
- 【ふりかえる】~こどもの居場所づくりを検証する~
『こどもの居場所に関する指針』の実現に向けて
上記のように、『こどもの居場所に関する指針』は、まさに「こどもまんなか」の社会づくりを進めることです。そこで、この指針に基づき、「こどもの居場所」の適切な確保を実現するためには、こども政策担当部署がリーダーシップを取る方法や、教育委員会がリーダーシップを取る方法など、地域の実情に応じて関係者が連携・協力できる体制を構築することが期待されます。特に、福祉部門と教育部門との連携が重要です。具体的には、各自治体に於いて関係者による協議会などの会議体を置くことなどが考えられています。
『こども基本法』第11条では、都道府県は国の『こども大綱』を勘案して、都道府県こども計画を作成するように、市町村は国の大綱と都道府県こども計画を勘案して、市町村こども計画を作成するようにと努力義務が課せられています。「こどもの居場所づくり」についてもこの指針に基づいて、都道府県や市町村のこども計画に位置づけて、計画的に推進していくことが求められます。
その際に、すでに、こどもの居場所として、むしろ多世代交流の重要な居場所としても増加しつつある「こども食堂」をはじめ、未就園の乳幼児の親子にとって有意義な居場所として定着してきている「ひろば事業」など、社会福祉法人やNPO法人等の民間こども・子育て支援団体の活躍が必要です。まさに、「こどもまんなかのこどもの居場所づくり」については、住民と民間と行政との三者の協働が不可欠です。
注記
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*1『孤独・孤立の実態把握に関する全国調査(令和3年人々のつながりに関する基礎調査)』
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*2『孤独・孤立対策推進法』
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/suisinhou/suisinhou.html -
*3『こども政策の新たな推進体制に関する基本方針』
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/kodomo_seisaku/pdf/kihon_housin.pdf -
*4「こどもの居場所づくりに関する調査研究検討委員会(座長:東京大学先端科学技術研究センター湯浅誠特任教授)」
https://www.cfa.go.jp/councils/ibasho_iinkai -
*5「こどもの居場所部会(部会長・甲南大学マネジメント創造学部前田正子教授)」
https://www.cfa.go.jp/councils/shingikai/kodomo_ibasho/ -
*6『こどもの居場所に関する指針』
https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/816b811a-0bb4-4d2a-a3b4-783445c6cca3/3eb8e811/20231204_policies_ibasho_07.pdf -
*7『こども大綱』
https://www.cfa.go.jp/policies/kodomo-taikou
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/kodoku_koritsu_taisaku/zittai_tyosa/r3_zenkoku_tyosa/index.html
清原 慶子(きよはら・けいこ)
慶應義塾大学大学院修了後、東京工科大学メディア学部長等を経て、2003年4月~2019年4月まで東京都三鷹市長を務め、『自治基本条例』等を制定し、「コミュニティ・スクールを基盤とした小中一貫教育」「妊婦全員面接」「産後ケア」を創始するなど「民学産公官の協働のまちづくり」を推進。内閣府子ども子育て会議・少子化克服戦略会議委員、厚生労働省社会保障審議会少子化対策特別部会委員、全国市長会子ども子育て施策担当副会長等を歴任。現在は杏林大学客員教授、こども家庭庁参与、総務省行政評価局アドバイザー・統計委員会委員、文部科学省中央教育審議会・いじめ防止対策協議会委員などを務め、「こどもまんなか」「住民本位」「国と自治体の連携」等による国及び自治体の行政の推進に向けて参画している。