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【ネットジェネレーションの教育】 第4回 バーチャルペットは人に良い影響を与えるのか? (1)

要旨:

核家族化と少子高齢化が進み、独居で孤独を抱える人々が増えた現代社会において、ペットはますます人との関係を増していくのではないかと考えられる。だが、独居者の多くは、マンションやアパート住まいで、ペットが飼いたくても飼えない場合も少なくない。そこで、ネット上でかかわることのできるバーチャルペットについて、バーチャルペットは人に良い影響を与えるのかを調査し、リアルペットに代わる存在として、情報社会ならではのバーチャルペットと人との関係を本稿では考察した。

 

1.はじめに

 

少子高齢化や核家族化により、人と人の人間関係の希薄化が進む中、子どもたちの多くは孤独を感じるようになってきている。今からおよそ2年前ユニセフが行った調査 (Child Poverty in Perspective: An Overview of Child Well-being in Rich Countries, the United Nations Children's Fund (UNICEF)) の図6.3bによれば、孤独感を感じている (I feel lonely) と回答している15歳は30%を示し、日本が際立って世界1位である。ほかの国々は、大半が10%以下にとどまっている。 また、日本は自殺者の多い国としても知られており、WHOによる調査によれば、世界101カ国中、リトアニア、ベラルーシ、ロシア、カザフスタン、ハンガリー、ガイアナ、スロベニア、ラトビアなど国内に混乱を抱える国々に次ぐ世界第9位の自殺率の高さとなっている。10万人当たり24名が自ら命を絶っている。誰か一人でも自殺を思いとどめてくれるならば、人は自殺せずに済む。だが、人間関係の希薄化により、失業や健康不安、いじめなどの悩みを誰にも相談できないまま、ストレスに押しつぶされ自殺を図るのである。 そこで、孤独を抱え、自殺者の多い我が国の人々の心を癒し和らげるために一助を成す可能性の一つとして、ペットに着目した。 「動物愛護に関する世論調査(総理府 内閣総理大臣官房広報室、2000)」(全国20歳以上の者3,000人を対象。有効回収数(率) 2,190人。抽出方法は層化2段無作為抽出法。)によれば、36.7%が何某かの実在するペットを飼っている。同調査によれば、現在ペットを「飼っていない」と答えた者(1,387人)は、ペットを飼わない理由として、「十分に世話ができないから」を挙げた割合が43.5%と最も高く、「死ぬとかわいそうだから」(37.6%),「集合住宅(アパート、マンションなど一戸建てでないもの)であり、禁止されているから」(23.1%)などの順となっているとのことだ。詳細にみると、地域別で東京都区部では、「集合住宅(アパート、マンションなど一戸建てでないもの)であり、禁止されているから」が41.2%で理由の1位であり、年齢別では、20歳代、30歳代で、それぞれ高くなっている。 一方で、総務省統計局「社会生活基本調査(2006年)」によれば、インターネット普及率の全国平均は10歳以上で59.4%であるが、東京都は70.8%と全国平均を大きく上回った。 つまり、ネットは身近にあるが、集合住宅に居住しているものが多く、実在するペットを飼育しにくい環境にいるのは、東京都など都会に住む者のほか、アパートや寮などペットを飼育できない集合住宅に住んでいる学生らにも当てはまると思われる。 そこで、ネット上でかかわることのできるバーチャルペットについて、学生に対する調査から、バーチャルペットは人に良い影響を与えるのか考察した。

 

2.バーチャルペットの分類

 

ペットは愛玩動物としての役割から、現代では、コンパニオン・アニマル(仲間や伴侶としての動物)の役割に変わりつつある。ペットと人との関係について、教育的心理学的側面から研究しているイギリスのレスター大学教授のガンター (Gunter, B.)[1]は、ペットには3つの機能があるという。第1に、どのようなペットを選ぶかは飼い主自身を表現するものと解釈され、自己像 (self-image) を写し出す働きがある。2つ目にペットの飼育は社会的潤滑剤 (social lubrica) としての機能を果たし、他者との関係の量と質に影響を与える。3つ目にペットは仲間や伴侶といった役割を担い、人との関係を補完してくれたり、極端な場合には人の代わりになることもある。

 

1つ目の、どのようなペットを選ぶかといった自己像を写し出す働きは、リアル世界のペットもバーチャルペットも同じである。さまざまなバーチャルペットが登場してきており、中にはペットの性格なども選ぶことのできる場合もあり、リアル世界以上に好みのペットを選ぶことができる。

 

2つ目の飼育に関して、バーチャルペットはあまり必要としない場合も多いが、えさを与えたり世話を求めるバーチャルペットもある。

 

また、3つ目の仲間や伴侶としての役割は、リアルペットよりは弱いかもしれず、バーチャルペットを仲間と感じるか否かは、非常に主観的な問題であり、時として変わりうるものであろうが、十分役割を果たすことは可能であろう。リアル社会でもペットに同意を求めたり、語りかけたりする場面をよく見かけるが、ペットは応答することはできない。せいぜい「ワン」とか「ミャー」、返事をする程度である。それでもリアル社会でけんかをした後など、ペットに自分の正当性を説明し同意を求め、ペットが理解しているか否かにかかわらず、「ワン」などと返事を返されると、自分の仲間のように感じる経験をすることも少なくないだろう。

 

自分と自分の家族の絵を描くように言われると、子どもはペットを、他の家族のメンバーよりも、自分の近くに描くことがある。この理由の一つは、子どもにとって、ペットとの関係は、他の家族よりも、うちとけていると感じているからだという報告もある (Kidd, 1995) [2] 。この報告によれば、犬であろうと猫であろうと飼っているペットの種類には影響はなかったとのことである。

 

また、精神的な健康の維持にも効果があり、老人ホームの高齢者がペットとかかわることにより、抑うつ状態の改善に顕著な効果があるという報告もある (Mugford & M'Comisky, 1974)[3]

 

核家族化と少子高齢化が進み、独居で孤独を抱える人々が増えた現代社会において、ペットはますます人との関係を増していくのではないか。だが、独居者の多くは、マンションやアパート住まいで、ペットが飼いたくても飼えない場合も少なくないだろう。そのような場合に、リアルペットに代わる存在として、情報社会ならではのバーチャルペットと人との関係を本稿では考察する。

 

現在、様々なバーチャルペットが開発されており、nintendogs (任天堂のDS向けソフト) などのような非オンライン型のものと、オンライン型のものに分かれ、オンライン型のものを大きく分類すると、対話型と対話型でないものに分けられる。

 

対話型でないバーチャルペットは、マウス操作により、ペットをなでたり、えさをやったり世話をするタイプである。図1に、対話型でないマウス操作反応タイプのバーチャルペットの例を示す。なでると「ミャー」と鳴いて、クッションから飛び跳ねたり、おもちゃを採ろうとしたり、foodやmilkを与えると、音を立てて飲んだり食べたりする。

 

また、対話型のバーチャルペットは、3タイプに分けられる。1つは、図2のようにブログに貼るタイプで、ブログペットとも呼ばれる。ブログペットは、ブログの記述内容をランダムに読み出し、ペットがつぶやくように表示される。

 

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図1 マウス操作反応タイプ              図2 ブログ内容をランダムに読むタイプ

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図3 一対一記憶センテンスを表示させるタイプ


2つめは、ブログや任意のホームページに貼ることはできるが、ブログの内容は読み取らないタイプのペットである(図3)。そのかわり、一対一対応で記憶させた言葉や文章を、あたかもペットが対話しているかのように、表示させるタイプである。ペットに記憶させていない言葉が話しかけられると、「わからないなりー」などと、わからないという意思表示をし、教えてもらおうとする成長型のペットである。

 

3つめは、図4に示すような、アバター(自分の分身)とペットが、会話をしたり遊んだりするタイプである。「ただいま」と話しかけると「お帰りなさいませ」などと答える。どんなにわからない言葉を話しかけても、必ず返事をする点が、前者と異なる。また、「おいで」「おすわり」「おて」「おかわり」などの言葉を理解し、言葉で指示したことを動作で答えてくれる点が他のペットと異なる。

 

以上に示すような様々なタイプのバーチャルペットが、最近増えてきており、ガジェットとしてブログや個人サイトなどに貼られているものを見かけるようになってきた。

 

これらのバーチャルペットは、人にどのような影響を及ぼすのか、探索的に探っていくことにする。

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図4 アバターとペット対話型タイプ

 

<参考文献>
[1]Barrie Gunter(1999).Pets and People:The Psychology of Pet Ownership, Whurr Publishers.(訳:安藤孝敏、種市康太郎、金児恵(2006) ペットと生きる ペットと人の心理学、北大路書房).
[2]Kidd, A.H. & Kidd, R.M. (1995) Children's drawings and attachments to Pets. Psychological Reports,7791, 235-241.
[3]Mugford, R.A. & M'Comisky, J. (1974) Some recent work on the psychotherapeutic value of cage birds with old people. In R.S. Anderson(Ed.) Pet Animals and Society. London: Balliere Tindall, 54-65.
[4]Thomas Chesney, Shaun Lawson(2008) The Illusion Of Love: Does a Virtual Pet Provide the Same Companionship as a Real One?
[5]Shaun Lawson, Thomas Chesney(2008) Virtual pets: great for the games industry but what's really in it for the owners?
[6]Eric Lewin Altschuler (2008) Play with online virtual pets as a method to improve mirror neuron and real world functioning in autistic children, Medical Hypotheses 70, 748-749

 

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