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【情報リテラシー教育の実際】 第3回 情報リテラシーを身につけるために~イギリスで利用されている教材~

加納 寛子 (山形大学基盤教育院 准教授)

2014年2月 7日掲載

情報リテラシー教育において、筆者が現代的課題だと考えていることの一つに、基礎的な用語を知らない、用語を覚えることを軽視していることがあげられる。筆者の講義を受講している、山形大学の理学部・地域教育文化学部・人文学部の学生(主に1年生であるが8年生なども含む)のべ251名〔92名(2009年)72名(2010年)87名(2011年)〕に行った授業内の小テストで、画像の拡張子などを知らないために、友達から送られたメールに添付されたファイルがウイルスなのか写真なのかの区別をつけられなかった学生がいずれの年度も約9割であった。情報リテラシー教育の基礎として最も重要な用語を覚えることを促すために、後述のクイズサイトの利用は有効であるだろう。また、ネットワークの仕組みを知らないために、なぜ友達のメールにウイルスが添付されることがあるのか、なぜ友達が添付した覚えのないファイルが添付されているのか、説明できる学生がほぼ0%であった(同テスト結果)。どういった仕組みでインターネットで情報がやりとりをされているのかを知らないままインターネットを利用している状態では、様々な新しいインターネット犯罪が起きている現代社会において、未然に危険や犯罪を防ぐことができない。用語を覚え、仕組みを理解することは、情報リテラシー教育において、最も根幹となるべき部分である。

また、情報的な見方・考え方を育成するためには、アルゴリズムの理解が必要不可欠である。アルゴリズムとは、狭義ではコンピューターで計算を行うときの計算手順のことであるが、広義では問題解決の手順や処理方法を指し、ビジネス界でも仕事を効率よく行うために必要な要素ととらえられている *1。アルゴリズムは説明を聞いたからといってすぐに身につくものではなく、発達段階に応じて問題解決経験など実際の体験を通して学ぶことにより少しずつ身につくものである。そのため、アルゴリズムの理解には、プログラミングロボットなどを利用し、小学校段階から、少しずつアルゴリズムの理解を身につけていくことが有効である。

そこで、今回はイギリスの情報リテラシー教育で利用されている教材をいくつか紹介する。イギリスでは5歳から情報リテラシー教育が実施されている。日本でも小学校低学年向けの情報教育で使えそうな教材が多数ある。中には手作りできそうな教材もある。

  1. インターネット・コミュニケーションをロールプレイング形式で学ぶ教材
    ブログやSNS、LINE、ゲームチャットなど、子どもたちがインターネットを介したコミュニケーションを行うツールが増え、それらを介したネットいじめや、諍いが時々起きる。普通に発言をしたつもりが、相手を傷つけてしまうこともある。Feel Think Say Card Setは、そうならないためにネットコミュニケーションのロールプレイングをシミュレーションできる教材である。吹き出し型のボードがセットになって入っている。
    例えば、誹謗中傷がネット上に書き込まれたときの気持ちを、被害者、傍観者の立場でボードに書いてみんなに見せ、その発言に対してディスカッションをするなどの使い方がなされる。

  2. ブログやメールで起きる危険を体験的に学べるシミュレーションソフト
    Wiki、ブログ、SNS、Webメールやポッドキャスティングなどの技術を使用することによるリスクを、頭でわかっていても、実際の場面では判断ができない子や、インターネットは危険と過度に恐怖心を抱いて、初めからほとんど利用しようとしない子どももいる。実際のツールを使って危険に出遭ってしまってからでは遅い。Broadband Detectives Softwareは、インターネット上の危険をシミュレーションしながら安全に学べるソフトウェアである。また、Email Detectives Softwareは、メールでのやりとりをシミュレーション形式で学べるソフトウェアである。

  3. プログラミングを学ぶロボット
    パソコンで簡単なプログラムを組み、それに併せて動くプログラミングタイプのロボットが、多数開発されている。その一つが、Moway Robotである。自分でレースコースを描き、その上を走るようにパソコンを用いてミニカーに記憶させると、その通りに走るロボットである。Pro-Botは複数台の車をプログラミングによって制御し、コントロールすることができる。Bee-Bot Floor Robotは、蜂の形をしたプログラミングロボットで、タブレット端末でその動きを閲覧したりコントロールすることもできる。

  4. 情報リテラシーの授業向けワークシート
    情報リテラシーを指導する立場の教師は、自分自身が子どもの頃には、その教科がなかった世代も多く、指導法や教材も定着していない。それを補うため、授業で使うワークシートがネット上に公開され、誰でも自由にダウンロードできるサイト(Teaching ideas)がある。ネット上でのルール(コンピュータ室での契約書)などについて書かれたパワーポイントも置かれている。
    また、タブレット・スマホ指導のためのパワーポイント教材が置かれているサイト(the guardian Teacher Network)もある。タブレット・スマホ指導の教材を見てみると、スマホはこんなに危険だ、こんな犯罪に巻き込まれる、といった危険を指摘する内容ではなく、ゲーム機で数式を表示した挿絵が表示され、数学にも利用できる、こんな利用方法もあると、適切な利用を提示するようになっている。この点が、おそらく日本の子ども向け教材と大きく異なるだろう。恐怖心をあおって、利用させない方向に持っていくよりも、適切な利用方法を提示し、トラブルに巻き込まれたり、不快な思いをしたりすることなく、長く使い続けるための方法を教えるべきであると筆者は考える。この教材は、まさに私が普段強調している趣旨と一致する教材で、危険があるからと使用を禁止するのではなく、ネットトラブルの対処方法や未然に回避する方法を学び、使いこなしていく趣旨の教材になっている。

  5. クイズ形式で学ぶサイト
    イギリスには、高校卒業認定試験がある。これに合格をしないと大学を受験することができない。この認定試験にも情報の科目があり、認定試験向けの情報の学習サイト(Teach-ICT.com)もある。無料のクイズサイトとはいえ、コンピュータシステムの項目であっても、コンピュータの種類、入力デバイス、出力デバイス、アクセシビリティー、メモリ、ストレージデバイス、ストレージユニット、オペレーティングシステムのタスク、オペレーティングシステムの種類、ユーザーインターフェイスの10項目に分かれ、7種類~16種類のクイズが用意されている。コンピュータネットワーク、コミュニケーション(携帯電話などのコミュニケーションツールについて)、データ・情報と知識(データ形式の種類などについて)、法律(コンピュータの悪用や、著作権などに関する法律について)、ソフトウェア、表計算シート、データベース、健康と安全(情報機器の使用によって引き起こされる症状や危険について)、ITシステムの保護(ハッカーやウイルスへの対策について)、等々の大項目の下に、さらに小項目があり、それぞれ数種類のクイズが用意されている。例えば、通信手段に関するクイズの場合、第1問目は、「誰かに緊急を要するメッセージを送るときには、どの通信手段を使いますか?」という質問で、電話、手紙、チャットルーム、Faxなどが選択肢としてあげられている。また、出力デバイスに関する問題の場合は、各デバイスの説明と、デバイス名前を関連づけるクイズになっており、誰でも楽しみながら学べる構成になっている。
まとめ

上記に紹介したイギリスの教材の多くは、企業や教師、ボランティアの人たちが自発的に作成した教材である。義務教育の正規のカリキュラムとして情報教育がなされてきたからこそ、これだけ多くの教材が開発されてきた。これらの情報リテラシー教材を用い、情報リテラシーの基礎である用語の理解、仕組みの理解、アルゴリズムの理解を行い、さらには情報的な見方・考え方を育てることにより、新たなネット犯罪に対しても適切に対処できる人材が育つのではないだろうかと考える。

情報リテラシーは、顕在的カリキュラムの要素が高い数学のように、明確な答えが即座に出されるものではないため、身についたリテラシーが活かされる場面は、クリアに数値で測ることはできない。少しずつ培った情報リテラシーの学習成果は、潜在的カリキュラムの要素が高く、一人一人の血や肉となり、何か起きたときの判断力や分析力などに転化されるものである。

とはいえ、イギリス政府も、情報リテラシーの潜在的カリキュラムの要素に対する評価は低いようだ。2014年度からは、プログラミング中心のコンピュータ教育へ、大きく変更をする計画を打ち出した。イギリスの科学技術の遅れは、国力の低下につながるため、初等教育段階からプログラミングを教え、科学技術立国を目指そうという方向転換を政府が図ったのである。

30年近く情報リテラシー中心のICT教育を実施してきたイギリスでさえ、プログラミング教育へ方向転換を図るなど、学ぶべき内容の軸がぐらついている。世界中で、様々な情報リテラシー教育が試みられているものの、模索状態が多く確固たるフレームは定まっていない。

次回は台湾の情報教育の実態を報告する。


筆者プロフィール
加納 寛子 (山形大学基盤教育院 准教授)

現在、山形大学基盤教育院 准教授。専門は情報教育、情報社会論。文部科学省委託事業「子どもの安全に関する情報の効果的な共有システムに関する調査研究」では、Mind Mapによる子どもの心の動きとGPS情報をリアルタイムに保護者に伝えることによる、犯罪を未然に防ぐ対策を推進してきている。また、科研費研究では「高等教育における情報リテラシー格差是正に資する研究」をテーマに、情報リテラシー格差と家庭環境や生活習慣、得意教科等との関連の調査を実施している。さらに、三菱財団研究助成を受けた「ニート・フリーターおよび不登校児童・生徒とITの関わりに関する調査」では、職業の志向性と家庭環境や生活習慣、得意教科等との関連の調査を実施した。東京学芸大学教育学部卒業、同大学院教育学研究科修士課程修了、早稲田大学大学院国際情報通信研究科博士後期課程満期退学。
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