CHILD RESEARCH NET

HOME

TOP > 論文・レポート > 子ども未来紀行~学際的な研究・レポート・エッセイ~ > 【一人一人の違いに寄り添うために】第8回 悪い子なんていない

このエントリーをはてなブックマークに追加

論文・レポート

Essay・Report

【一人一人の違いに寄り添うために】第8回 悪い子なんていない

English

ヒロック初等部を開校して、丸2年が経ちました。校則もなければ、やらなきゃいけないこともない。学校に遅刻しても問題ないし、来ても来なくてもいい。学んでも学ばなくてもいいし、そこにペナルティはない。まさに「自由」を地で行くような学び場です。

そう聞くと、外部の大人からはこんな不安や心配の声が数多く寄せられます。「そんなに自由だと、子どもたちは好き勝手にするんじゃないの?」「ケンカやイジメ、トラブルだらけになっちゃうんじゃないの?」と。その気持ちも分からないわけではありません。だからこそ、今の多くの公教育では、校則や決まり、スタンダードなどを設けて、大人の意にそぐわない行動に対して規制しているわけです。

しかし、少なくとも小学校に上がる年齢になった子どもたちは、そんな野生動物のようではありません。ちゃんと周りを見ているし、相手の気持ちを考えているし、全体のバランスを見て判断できるだけの力を十分にもっています。

同じ仲間たちと毎日、一つ屋根の下で生活をしていれば、もちろんケンカやトラブルは起こります。そして、それはむしろ学びの「確変(パチンコ用語で、確率変動の略。突如、大当たりの確率が一定時間上がること。ちなみに筆者はパチンコをしたことはありません。(笑))」だと思っています。

道徳的なことは日常でもよく話すし、思いやりの心の大切さは子どもたちも頭では理解しています。しかし、理解しているからといって、それが腹に落ちているか、言動が伴っているかというと、そう簡単なものではないですよね。実際に自分の身の回りでリアルに起こったトラブルを通して、他人と生きることの難しさや尊さを実感できるもの。だからこそ、ヒロック初等部もリアルな学び場にこだわって作ったし、むしろトラブルが起きるのを待ちながら日々生活を送っていると言っても過言ではありません。

子どもたちのケンカやトラブルは、正直快いものではありません。できれば子どもたちには傷ついてほしくないし、対応するための私たちの時間も大きく割かれます。しかし、子どもたちにとっては、そこでしか得られない貴重な学びがあるのも事実。だからこそ、スタッフの間では、トラブルが起こった際には「このためにやっているんだよね」と意識的に確認し合うようにしています。

実際にあったトラブルとその対応について、一部を改変してご紹介します。

とある放課後、「A君がB君を殴った」という情報が入りました。大人の第一次感情としては、「A君に注意しなきゃ」と思いがちです。しかし、ここで私たちは、自分の感情にブレーキをかけます。確かに暴力はいけない。でも、A君はなぜ暴力をふるったのだろう?

翌日、B君を呼んで話を聞きました。B君いわく「いきなりA君が殴ってきた。それで腹が立って、僕も殴り返した。でも最初に殴ってきたのはA君だから、A君が悪い。謝ったとしても許したくない」とのこと。「それはびっくりしたよね、腹も立つよね、痛かったね」と、B君の気持ちに寄り添います。

続いてA君にも話を聞きました。「B君に、僕が大好きな習い事を馬鹿にされた。それで腹が立って、最初はやめろって口で言ってたんだ。でも、ヘラヘラして全然やめてくれなくて、それで殴っちゃった。殴るのは悪いと分かってる。でも、謝る前に殴り返されたから、謝る気持ちもなくなっちゃった」とのこと。ここで、いつも確認することがあります。「A君は、B君を傷つけたいって前から思っていたわけじゃないんだよね? 実際、B君は殴られて傷ついた。これが、傷つけたいと計画してやった行為なら『成功』だし、傷つけたいわけじゃなかったら『失敗』だと思うんだよね」するとA君、「傷つけたかったわけじゃない。やめてほしかっただけ。だから失敗しちゃった」と打ち明けてくれました。「そうだよね、私もA君が、人を傷つけたいと思っているような子じゃないことはわかっているよ」と声をかけると、A君は色々な感情があふれ出てきたように涙を流しました。

その後、双方の了承を得た後に二人を呼んで、一部始終を確認。お互いが気付いてなかったことや勘違いしていたことを初めて知った様子でした。

こうやって、世界の見方は広がっていくんですよね。納得できないことはちゃんと聞く。「本当はこうしてほしかった」ということも、ちゃんと伝える。「でも、A君はこんな気持ちで、B君はこんな気持ちだったんだってさ」とフォローしながら進めました。「B君はさ、A君が『傷つけたい』と思って殴ってきたと思う?」と聞くと「いや、それはないと思うんだけど...」と言います。子どもたちだって、友達がそんな風に思っているはずはないと信じているもの。だからこそ、つじつまが合わなくて混乱しているわけだし、そのまま双方の言い分を聞かずに「A君は悪いやつ」になる前に、ちゃんと答え合わせしてあげたいよね、と思っています。

結局二人は、今でもよく遊ぶ友達同士です。再び辛いことが起こらないように、自分たちでルールを決めて遊んでいます。またケンカすることもあるでしょう。そのたびにまた、話し合ってすり合わせればいい。大事な友達だからこそ、ちゃんと考えるし、ちゃんと学ぶんだよなぁと思います。

「誰かを傷つけたい」と思っている子なんて本来いないし、「みんなに迷惑をかけて悲しませたい」という動機で動く子なんていない。みんな、他の子と関わりたかったり、構ってほしかったり、大切なものを守りたかったりして、それが結果として「悪い」と思われてしまうような言動として表れてしまっているだけなんだと思います。悪い子なんていない。「君が悪い子なんかじゃないって、当然私は分かっているよ」、そう言ってあげられるだけで、子どもたちは「本当の悪人」に落ちるのを避けられるんだろうなぁと思っています。

筆者プロフィール
minote_profile_pics.png
蓑手 章吾(みのて・しょうご)

HILLOCK(ヒロック)初等部 校長。元公立小学校教員で、教員歴は14年。教鞭を持つ傍ら大学院にも通い、人間発達プログラムで修士修了。プログラミング教育で全国的に有名な前原小学校では、研究主任やICT主任を歴任。2022年4月、オルタナティブスクール・HILLOCK(ヒロック)初等部を開校。著書に『子どもが自ら学び出す!自由進度学習のはじめかた』『個別最適な学びを実現するICTの使い方』(ともに学陽書房)、共著に『知的障害特別支援学校のICTを活用した授業づくり』(ジアース教育新社)、『before&afterでわかる!研究主任の仕事アップデート』(明治図書出版)などがある。
このエントリーをはてなブックマークに追加

TwitterFacebook

インクルーシブ教育

社会情動的スキル

遊び

メディア

発達障害とは?

論文・レポートカテゴリ

アジアこども学

研究活動

所長ブログ

Dr.榊原洋一の部屋

小林登文庫

PAGE TOP