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【誰一人取り残さない「こどもまんなか社会」の実現を目指す「こども家庭庁」】その2:こどもの意見表明権の保障

要旨:

2023年4月1日、「こども基本法」が施行され、こどもの人権保障を中核的任務とする「こども家庭庁」が設立された。こども基本法には、国及び自治体にはこどもの意見表明機会の保障と意見を反映する責務が定められており、こども家庭庁は国及び自治体における「こどもまんなか」を実現するために、その取り組みを進めている。その基本姿勢と具体的な取り組みを通して誰一人取り残さない「こどもまんなか社会」を目指している。

キーワード:

こども基本法、こども家庭庁、こどもまんなか、こどもの意見表明権、こどもの最善の利益
こども家庭庁が進める、こどもの視点、子育て当事者の視点に立った政策の推進

2023年4月1日に設立された新しい官庁である「こども家庭庁」の基本姿勢*1は、①こどもの視点、子育て当事者の視点 ②地方自治体との連携強化 ③NPOをはじめとする市民社会との積極的な対話・連携・協働、です。

本稿では、特に「こどもの視点、子育て当事者の視点」に立った取り組み、すなわち、こどもや若者の意見を年齢や発達の程度に応じて政策に反映することについて考察したいと思います。

「こどもまんなか」の視点で考察する時、特に「こども基本法(令和四年法律第七十七号)」の第三条で6項目の基本理念*2が示されているうちの、「三 全てのこどもについて、その年齢及び発達の程度に応じて、自己に直接関係する全ての事項に関して意見を表明する機会及び多様な社会的活動に参画する機会が確保されること、四 全てのこどもについて、その年齢及び発達の程度に応じて、その意見が尊重され、その最善の利益が優先して考慮されること」と規定されている点が、注目されます。

これは、子どもは一人の人間として、その意見を言う権利が保障されており、その意見は尊重され、彼らの最善の利益が優先して考えられなければならないということを明示しています。

そして、「こども家庭庁設置法(令和四年法律第七十五号)」第三条*3では、「こども基本法」の「基本理念」に基づいて、「こども家庭庁の任務」について、「こども家庭庁は、心身の発達の過程にある者(以下「こども」という。)が自立した個人として等しく健やかに成長することのできる社会の実現に向け、子育てにおける家庭の役割の重要性を踏まえつつ、こどもの年齢及び発達の程度に応じ、その意見を尊重し、その最善の利益を優先して考慮することを基本とし、こども及びこどものある家庭の福祉の増進及び保健の向上その他のこどもの健やかな成長及びこどものある家庭における子育てに対する支援並びにこどもの権利利益の擁護に関する事務を行うことを任務とする。」(下線は筆者による)と規定しています。

こどもの意見表明権の保障について

こども家庭庁の任務についての規定において、特に「こどもの年齢及び発達の程度に応じ、その意見を尊重し、その最善の利益を優先して考慮することを基本」とあるとともに、こども基本法(令和四年法律第七十七号)第十一条*4は「こども施策に対するこども等の意見の反映」について、「国及び地方公共団体は、こども施策を策定し、実施し、及び評価するに当たっては、当該こども施策の対象となるこども又はこどもを養育する者その他の関係者の意見を反映させるために必要な措置を講ずるものとする(下線は筆者による)と規定しており、「こども等の意見を反映させるために必要な措置」を国や地方公共団体に義務付けています。この地方公共団体には教育委員会や法律や条例に定めるところにより置かれる従来から設置されている子ども子育て会議や青少年問題協議会といった審議会などの附属機関を含むと解されています。

この「政策決定過程におけるこどもの意見反映」を推進するため、こども家庭庁設立準備室では2022年度に「こども政策決定過程におけるこどもの意見反映プロセスの在り方に関する調査研究」を実施し、その在り方について、モデル事業の実施を含め、検討を進めました。その検討を踏まえて、11月14日には自治体に向けて「こども基本法に基づくこども施策の策定等へのこどもの意見の反映について」*5と題する事務連絡を発出しています。この事務連絡では「こどもの意見を年齢や発達の程度に応じて積極的かつ適切にこども政策の策定等に反映するための質疑応答集(Q&A)」を提供し、ホームページ*6にも公表しています。

こども家庭庁は設立してすぐに、こどもや若者が様々な方法で自分の意見を表明し、社会に参加することができる、新しい取り組みとして「こども若者★いけんぷらす」*7を開始しています。この取り組みは小学1年生から20代の方であれば、誰でも、いつでも登録して、こども家庭庁と他省庁におけるこども・若者にかかわる様々なテーマについて、広く意見を伝えることができる仕組みです。「ぷらすメンバー」と呼ばれる参加者を随時ウェブサイトで募集しており、対面(リアル/オンライン)、ウェブアンケート、チャットなど様々な方法でこどもの意見を収集する取り組みです。

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図1 こども・若者の意見反映の仕組みづくり(出典:こども家庭庁ウェブサイトに基づき筆者作成)

こどもの意見表明権の保障の事例と留意点

こども政策の立案と実現には、こどもや若者の意見を年齢や発達の程度に応じて政策に反映すること、子育て当事者の意見を政策に反映することは不可欠です。 筆者が三鷹市長在任中にこどもや若者の声を聴き反映するために取り組んだ事例には、以下のようなものがあります。

  1. 「子ども憲章」策定に向けた市内小中学生児童生徒代表による「子どもサミット」の開催
  2. 校舎体育館等の建て替え時、公園の整備等の際の児童生徒の意見聴取
  3. 最年少5歳児を含む「市長と語り合う会」の実施
  4. 18歳以上の市民を「無作為抽出」で選出し、テーマを設定した討議会への参加や審議会委員を依頼し、18歳、19歳の市政への参加があった事例

こうした取り組みを推進する際には、下記のような点に留意する必要があります。

  1. こどもたちや、父母、保護者、子育ての当事者は自分の声を上げられる人ばかりではなく、本当に苦しい時には声は上げられないかもしれないので、安心して語る事ができる場づくりが必要です。言葉や文字にできない本音の声を傾聴し、言葉や文字に正確に変えていく場づくりが必要。
  2. 意見聴取の手法の多様化が必要。
  3. 「声なき声」を把握するためには、公募だけでなく「無作為抽出」で選定したこどもや若者、子育て当事者の意見を聴く機会をつくることは有効。
  4. 多様な対象から本音の意見を引き出すコーディネーターが必要。
  5. SNSやメール、オンライン会議等による意見表明・意見交換の場づくりが必要。
  6. 個人情報保護やセキュリティへの共通認識の醸成を図りつつ、SNSやメール等による相談事業の分析と反映は有意義。
  7. 大人が設置するのではなく、こどもや若者が自ら運営する意見交換機会の開催も有意義。
  8. 学校教育における「アクティブラーニング」「探求型学習」「こども熟議」「大人とこどもの熟議」などにおいてこどもや若者の意見を把握する取り組みが有用。
  9. 学校以外の社会教育や生涯学習における多世代交流の学習機会の整備も有用。

こども家庭庁には、こども政策に関する重要事項等を審議する「こども家庭審議会」等が設置され、内閣府及び厚生労働省から関係審議会等の機能を移管しています。この会議の委員には既に10代以降のこども・若者当事者が参画しています。この取り組みは、皆様に身近な自治体でも推進されていくことになりますので、ご注目ください。



注記

筆者プロフィール
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清原 慶子(きよはら・けいこ)

慶應義塾大学大学院修了後、東京工科大学メディア学部長等を経て、2003年4月~2019年4月まで東京都三鷹市長を務め、『自治基本条例』等を制定し、「コミュニティ・スクールを基盤とした小中一貫教育」「妊婦全員面接」「産後ケア」を創始するなど「民学産公官の協働のまちづくり」を推進。内閣府子ども子育て会議・少子化克服戦略会議委員、厚生労働省社会保障審議会少子化対策特別部会委員、全国市長会子ども子育て施策担当副会長等を歴任。現在は杏林大学客員教授、こども家庭庁参与、総務省行政評価局アドバイザー・統計委員会委員、文部科学省中央教育審議会委員などを務め、「こどもまんなか」「住民本位」「国と自治体の連携」等による国及び自治体の行政の推進に向けて参画している。
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