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【誰一人取り残さない「こどもまんなか社会」の実現を目指す「こども家庭庁」】その3:こどものいじめの予防と対策について

要旨:

学校におけるこどものいじめについては、「いじめ防止対策推進法」に基づき、従来は文部科学省、自治体の教育委員会・学校を中心に対応してきたが、こども家庭庁の設立を前に、国では「いじめ防止対策に関する関係府省連絡会議」が設置され、事務局はこども家庭庁が担い、文部科学省の「いじめ防止対策協議会」と連携している。自治体では、教育委員会・学校と首長部局の連携の必要性が高まり、学校外からのアプローチによるいじめ解消の仕組みづくりに向けた手法の開発・実証が進められている。

キーワード:

いじめ、いじめの重大事態、いじめ防止対策推進法、いじめ防止対策に関する関係府省連絡会議、いじめ防止対策協議会
いじめの現状と防止への取り組み

コロナ禍以降、こどもの自死が増加傾向にあり、その中にいじめを原因とする事案があるとの報道に触れ、心を傷めている方は多いと思います。自分のこどもがいじめに遭っていないか、いじめをしていないか、不安な思いでいる子育て中の方も少なくないことでしょう。また、学校教育に関わる教職員や関係団体の皆様においては、いじめへの関心が高まっています。

「いじめ防止対策推進法(平成25年法律第71号)」*1では、「いじめ」を「児童等に対して、当該児童等が在籍する学校に在籍している等当該児童等と一定の人的関係にある他の児童等が行う心理的又は物理的な影響を与える行為(インターネットを通じて行われるものを含む。)であって、当該行為の対象となった児童等が心身の苦痛を感じているもの」と定義しています。同法に基づいて、国は「いじめの防止等のための対策に関する基本的な方針」を策定することが義務とされ、地方公共団体及び学校はその策定が努力義務とされました。地方公共団体は、関係機関等の連携を図るため、学校、教育委員会、児童相談所、法務局、警察その他の関係者により構成される「いじめ問題対策連絡協議会」を置くことができるとされています。

いじめは、どのこどもにも、どの学校でも起こりえる問題と言えます。そこで、「いじめ防止対策推進法」の公布以降、学校での積極的な認知等による早期発見・早期対応が進められてきたことから、2023年10月4日に公表された「令和4年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果」*2においては、資料1のように、従来よりも増加傾向が顕著で、いじめの重大事態の件数が923件(前年度706件)と増加するなど適切な対応が必要な状況です。

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資料1(出典:令和4年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果の概要
こども家庭庁が取り組むいじめ防止対策

いじめの問題には、学校、教育委員会などの学校設置者、国では文部科学省による取り組みが進められてきましたが、2023年4月に設立されたこども家庭庁においても、こどもの権利の擁護、最善の利益の保障などを担う任務を果たす一環として、いじめ対策についても担当しています。

「こども政策の新たな推進体制に関する基本方針」(令和3年12月21日閣議決定)*3には、「いじめに関し、こども家庭庁は、学校外でのいじめを含めたこどものいじめの防止を担い、関係機関や関係者からの情報収集を通じた事案の把握、いじめの防止に向けた地方自治体における具体的な取組や体制づくり等を推進する」とされています。これに基づき、「こども家庭庁設置法(令和4年法律第75号)」*4の第四条の所掌事務の条文において、「十七 いじめ防止対策推進法(平成二十五年法律第七十一号)の規定によるいじめの防止等に関する相談の体制その他の地域における体制の整備に関すること。」が規定されています。

こども家庭庁では主に3つの事項に取り組んでいます。

  1. 学校外からのアプローチによるいじめ解消の仕組みづくり
    いじめの長期化・重大化防止について、学校のみならず首長部局(都道府県知事・市区町村長)における取り組みをモデル化できるような仕組みづくりを行います。すでに「こども家庭庁設立準備室」の段階で、2022年に自治体を対象とした「地方自治体におけるこども政策に関する連携体制の事例把握調査」を実施する中で、「いじめに関する首長部局の第三者性を活かした事例」についても把握しています。たとえば、北海道札幌市が設置した子どもの権利救済機関「子どもアシストセンター」や、大阪府寝屋川市の首長部局にケースワーカーの経験や弁護士資格を有する職員を配置して設置された「監察課」では、いじめの相談窓口を設けて、速やかに対応し深刻化を防いでいます。
  2. 第三者性確保による重大ないじめ事案への対応強化
    いじめ防止対策推進法に基づく適切な対応と相まって、重大事態に至った事案の適切な対処の推進について取り組みます。
  3. いじめ防止に関する政府全体の体制づくりと取り組み
    いじめを政府全体の問題として捉え直し、こども家庭庁、文部科学省など関係府省の連携の下、社会全体でのいじめ防止対策を一体的に推進することとされ、2022年11月24日に「いじめ防止対策に関する関係府省連絡会議」が設置されています。

関係府省会議は、いじめ防止対策において、こどもが抱える様々な背景を把握するため、こどもの声にもしっかりと耳を傾けながら、学校や教育委員会が、警察や児童相談所、法務局等の様々な関係機関と情報共有を図り、連携して必要な支援を行うために関係府省の知見を結集し、検討課題を整理し、結論を得たものから随時速やかに対応していくために、関係府省申合せによって設立されました。構成員は、議長に内閣官房こども家庭庁設立準備室長(現在はこども家庭庁長官)と文部科学省初等中等教育局長、構成員は、内閣府、警察庁、総務省、法務省、こども家庭庁、経済産業省等の担当者です。事務局はこども家庭庁支援局です。

2022年度いじめ防止対策に関する関係府省連絡会議(第1回)において14の検討項目が提示されました。

<早期に対応すべき検討項目>

  1. 犯罪行為が疑われる場合の警察連携の徹底など、関係機関との連携の強化
  2. 被害児童生徒・保護者へのケアと加害児童生徒への指導・支援方策
  3. 保護者と学校がともにいじめ防止対策を共有するための普及啓発方策
  4. いじめの重大事態における総合教育会議の活用等・文科省による厳格な指導
  5. 重大事態の認知から調査開始までの迅速な処理に向けた検討
  6. 専門家による重大事態調査等に関する助言方法
  7. 重大事態に関する国への報告(任意)による状況把握の仕組み
  8. 重大事態調査における課題抽出に向けた報告書の分析方法の検討

<今後対応すべき検討項目>

  1. ネットいじめについての対応強化に向けた方策検討
  2. リスクマネジメント力のある教育長の確保方策
  3. いじめ対応における「第三者性確保」の方策
  4. 学校外からのいじめ防止対策アプローチの確立方策
  5. 被害児童生徒へのケアの方策(ICTも活用した積極認知の強化等)
  6. 学校教育におけるいじめ(や犯罪)についての学習の充実

文部科学省とこども家庭庁による「いじめ防止対策協議会」の共同設置

2023年7月13日付で、従来は文部科学省が設置していた「いじめ防止対策協議会」が文部科学省とこども家庭庁との共同設置とされました。本協議会は、「いじめの防止等のための基本的な方針」(平成25年10月11日文部科学大臣決定)*5に基づき、学校関係者や各種職能団体等の関係団体から有識者の参画を得て、いじめ防止対策推進法に基づく取り組み状況の把握と検証を的確に行うとともに、いじめの問題等に関して、関係者間の連携強化を図り、より実効的な対策を講じるため設置するものです。私は今年度初めて委員に就任しました。

2022年度のいじめ防止対策協議会(以下「協議会」)においては、早期に対応すべき検討課題として整理された「犯罪行為が疑われる場合における警察との連携の徹底など、関係機関との連携の強化」等の学校及び学校設置者に対して周知徹底を図る事項について審議、取りまとめが行われ、2023年2月7日に文部科学省から各都道府県教育委員会等に通知が発出されています*6

また、いじめの重大事態については2023年4月から各学校設置者から文部科学省に対して報告を求め、その情報をこども家庭庁とも共有しつつ、重大事態の対処や調査の実施について必要な助言や支援を行い、重大事態調査の適切な実施を図るとともに、重大事態調査結果を国において収集、分析し、調査の運用改善やいじめ防止対策の強化を図ることについても審議が行われました。

そこで、2023年8月9日に開催された今年度第1回の協議会では、今年度は、引き続き、関係府省連絡会議で整理された上記14の検討課題のうち、5番目以降の特に【いじめの重大事態】について審議することが確認されました。【いじめの重大事態】とは、いじめ防止対策推進法により「いじめにより当該学校に在籍する児童等の生命、心身又は財産に重大な被害が生じた疑いがあると認めるとき」と「いじめにより当該学校に在籍する児童等が相当の期間学校を欠席することを余儀なくされている疑いがあると認めるとき」と定義されています。

【いじめの重大事態】の対応については、調査組織の立ち上げの遅れや学校現場の負担増加等様々な課題が指摘されており、【いじめの重大事態】の国への報告等を通じた実態把握を行いつつ、これまでの本協議会での審議の結果等を踏まえ、①重大事態調査における調査すべき標準的な内容や期間の考え方の整理、②いじめ重大事態調査の迅速な処理及び調査の円滑化に向けて、学校設置者の体制整備、第三者委員の確保に係る方策、③重大事態調査の適切な実施に向けて、国の指針等の記載の充実・明確化等について審議することが確認されました。

こどもの視点に立つとき、【いじめられているこども】【いじめているこども】【その周囲にいるこども】について心身への影響など多面的にいじめから生まれている困難や悩みの状況から救い出し、決して深刻な事態に至らないように防止するために適切な支援体制が求められます。

10月20日に開催された今年度第2回の協議会では、令和5年10月17日付で文部科学省初等中等教育局児童生徒課長から全国の教育委員会に通知が発出された「不登校・いじめ緊急対策パッケージ」*7が共有されました。これは、いじめの重大事態化を防ぐための早期発見・早期支援を強化し、国による重大事態の分析を踏まえつつ、個別自治体への取り組みの改善に向けた指導助言及び全国的な対策を強化するための具体的な対応を確認しました。たとえば、いじめの重大事態について、重大事態として把握する以前にはいじめとして認知していなかった比率が約4割に上ることから、重大事態の発生の要因分析に努めるとともに、いじめ防止対策推進法の定義に基づくいじめの認知及び早期発見、組織的対応を徹底すること等の対策を実施することが提示されています。

いじめ防止対策に関するこども家庭庁と文部科学省はじめ国の各府省庁の取り組み、自治体や地域社会の取り組みへの注目と参画が必要です。


注記

筆者プロフィール
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清原 慶子(きよはら・けいこ)

慶應義塾大学大学院修了後、東京工科大学メディア学部長等を経て、2003年4月~2019年4月まで東京都三鷹市長を務め、『自治基本条例』等を制定し、「コミュニティ・スクールを基盤とした小中一貫教育」「妊婦全員面接」「産後ケア」を創始するなど「民学産公官の協働のまちづくり」を推進。内閣府子ども子育て会議・少子化克服戦略会議委員、厚生労働省社会保障審議会少子化対策特別部会委員、全国市長会子ども子育て施策担当副会長等を歴任。現在は杏林大学客員教授、こども家庭庁参与、総務省行政評価局アドバイザー・統計委員会委員、文部科学省中央教育審議会委員などを務め、「こどもまんなか」「住民本位」「国と自治体の連携」等による国及び自治体の行政の推進に向けて参画している。
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