CHILD RESEARCH NET

HOME

TOP > 論文・レポート > 子ども未来紀行~学際的な研究・レポート・エッセイ~ > 【仲間関係のなかで育つ子どもの社会性】 第9回 学習へのやる気

このエントリーをはてなブックマークに追加

論文・レポート

Essay・Report

【仲間関係のなかで育つ子どもの社会性】 第9回 学習へのやる気

酒井 厚(山梨大学教育人間科学部准教授)

2013年10月18日掲載

要旨:

夏休みも終わり新学期が始まった。受験生にとっては追い込みの大切な時期であり、最後まで目標に向かって頑張って欲しい。心理学では、人が行動を起こし、ある目標に向かってそれを維持する過程を“動機づけ(モチベーション)”と呼び、子どもの学習へのやる気についても、多くの研究を積み重ねてきている。今回はこのやる気について取り上げ、親や教師が子どものやる気を高める上で必要な関わり方について考えてみたい。
1.新学期のスタート

8月下旬に差し掛かった頃、軽井沢行きの鈍行電車に乗っていると、学生服を着た高校生の一群に遭遇した。あまりの賑やかさに耳が向いてしまうと、「夏休み終わるの早すぎ!」とか、「これから毎日授業とか考えられない」、「二学期って長いよね」など、思い思いに新学期へのストレスを、それでも久しぶりに会った友人と楽しそうに話していた。長野県は全国でもっとも夏休みが短い県ではあるが(Benesse教育総合研究所,2009)、こうした意見は全国の子どもたちに共通するものであろう。1年間で最も長い休暇を終えた後に最も長い就学期間を迎えるのだから、なかなか勉強に向かう気になれないのはよくわかる。それでも、とくに受験生にとっては、二学期が追い込みの時期であるから、夏休みに集中して勉強した子も疲れたなどとは言っていられない。それぞれの目標に向かって最後まで頑張り続けてほしい。

子どもに勉強に励んでもらいたいという思いは、親や教師に共通するものであり、子どもが積極的に取り組むためにはどう接すれば良いか、色々と悩むことであろう。そこで今回は、親や教師が子どもの学習へのやる気を高める上で必要な関わり方について、心理学の知見をもとに考えてみたい。

2. 自律性を育む

学習へのやる気は子どもによって異なり、親や教師に促されないと勉強が始められない子もいれば、自分から積極的に楽しんで取り組む子もいる。心理学では、こうしたやる気の差を、本人がどれだけ自律的に取り組もうとしているかの程度によって4つの状態に分けて考える(Deci & Ryan, 2002)。例えば、自律性が最も低い状態は、親に褒められたり欲しいものを買ってもらうためや、親にせかされたり怒られたりしないために勉強することであり(外的調整と呼ぶ)、少し自律性が高くなると、友だちよりも良い成績になりたいとか、恥をかきたくないなど、自己評価を維持するために勉強するようになる(取り入れ的調整)。さらに自律性が高い状態では、子どもは内容をもっと理解したくて勉強に取り組み(同一化的調整)、最も高い状態では、勉強に楽しさを見出すことができる(内的調整)(図1)。こうした子どもの自律性の発達は、親や教師の関わり方によるところも大きい。例えば、自律性の高い子どもの親は、普段から子どものやることに関心を持ち、子どもがやりたいと思う課題を自由に選ばせながら、少し難しい適度な課題を与えて挑戦する気持ちを促すといった特徴が見られる(Grolnick, Deci, & Ryan, 1997)。また、日本の小学生から高校生までを対象とした大規模な調査では、普段から親との会話が多い子どもの方が、少ない子どもに比べて、勉強する理由に「問題が解けるとうれしいから」とか、「いろいろな考え方を身につけることができるから」といった自律的な内容の回答が多いことも報告されている(ベネッセ教育総合研究所,2005)。教師に関しても同様に、子どもが自分で課題を決めて責任を持って組り組むように促し、個々の学習レベルを尊重して目標を設定し、子どもにやさしく忍耐強く関わるような場合に、子どもの自律性が育まれやすい(Meyer, 1993; Noddings, 1992)。このように、親や教師との関係性が良好であり、子どもが自分でやりたいことを見つけ、適度なレベルで取り組めるようにサポートされた学習環境であれば、子どもの自律性は順調に発達していくと考えられる。

report_02_183_01.gif(図1)

3.ご褒美の注意点

さて、頑張っている子どもには何かご褒美をあげたいと思うのが親心である。学習に対する自律性の高い子どもでも、努力したことをわかりやすい形で認めてもらえればうれしいに違いない。ただし、喜ばしいことのように思えるご褒美が、かえって子どもの自律性を低めてしまう場合がある。

レッパーら(Lepper, Greene, & Nisbett, 1973)は、幼児のお絵かきに対するやる気が、報酬を与えられることでどのように変わるかについての実験を行った。対象となった幼児は、普段からお絵かきで遊ぶのが好きな子どもたちであり、別室に招かれて「お兄さんのために、君の好きな絵を描いてくれる?」と頼まれることになった。その際、3分の1の子どもは、絵を描く前に「絵を描いてくれたら、この素敵な賞状(子どもが好きそうなきらびやかな物)をあげるよ」と伝えられ、終わった後に賞状が渡された。他の3分の1の子どもは、あらかじめ伝えられることなく描き終わった後に賞状が渡され、他の3分の1の子どもは何も渡されなかった。すると、数日後にこの子どもたちが園で自由に遊んでいる場面を観察して比較したところ、賞状をあげると先に言われてから描いたグループの子どもたちは、他の2つのグループに比べて、お絵かきで遊ぶ時間が減ってしまっていたのである。この結果は、子どもの自律的な活動に予期した形で報酬が与えられてしまうと、子どもの活動理由が報酬をもらうことにすり替わってしまい、自発的に取り組む意欲が低下することを示している。同様な結果は、他の年齢段階の子どもを対象とした多くの研究で認められており、これらの研究によれば、ご褒美をあげる際には前もって教えないこと、頻繁に与えないことが重要であると考えられている(Deci, Koestner, & Ryan, 1999)。

4.友人との比較

ここまでお話してきたのは主に、子どもと1対1の場合の接し方であるが、教室における教師の場合は、学習意欲や成績の異なる複数の子どもたちと同時に関わることになる。そのため、子どもの個々のレベルを把握して、それぞれに合った対応をすると同時に、子ども同士の関係性にも留意する必要がある。子どもの学習へのやる気と学級運営に関する研究によれば、子ども一人ひとりが自ら選択した課題に取り組む機会に恵まれ、その子自身が以前よりもどれだけ成長したかが評価の対象となる学習環境であれば、子どもの学業に対する有能感(自分はこれだけできるという前向きな意識、コンピテンスと呼ばれる)は発達していくとされる(Ames, 1992)。また、子どもは友人同士で協力し合って課題に取り組むことで、一人ではできないことを達成する経験を通じて学習へのやる気を高めていく(Wentzel & Caldwell, 1997)。

その一方で、勉強のできる子が何かと得をし、子ども間の競争が激しく、友人との優劣の差を過分に意識させられるような教室環境では、学業に対する有能感は育まれにくい(Maehr & Midgley, 1996)。もちろん、子どもが自分の能力を知る手段として友人と比較することはよくあり(Festinger, 1954)、中学生を対象とした調査からも、自分より成績の良い友人と比較して目標を定めることで成績が向上することがわかっている(外山, 2006)。しかし、こうした比較が学習へのやる気につながるのは、学業に対する有能感が十分に発達している子どもの場合に多く、有能感の低い子どもは、他者と比較されて評価されることに関心が向いてしまうため、自信のないことや難しい課題を避ける傾向にあり(Elliott & Dweck, 1988)、結果として学習へのやる気が低下してしまう恐れがある。子どもが学業に対する有能感を発達させていくには、自分がどれだけできるようになったかに意識を向けさせると同時に、友人との比較が単に自己評価を低めて自信をなくすことにつながってしまわないように気をつけてあげたい。

5.一緒に学ぶ

このように、子どもの学習へのやる気を高めるには、自律性と学業に対する有能感を育むことが重要であり、その前提には親や教師、友人との関係の良好さがあると言えよう。

今年の夏休みは、職場の近くの図書館が多くの子どもでにぎわっていた。その理由は、昨年にリニューアルオープンした開放的な建物だからというばかりでなく、夏休みの自由研究や工作へのヒントを教える企画が用意されていたこともあるだろう。子どもたちは、親や友人と一緒になって、楽しそうに宿題に取り組んでいた。

親や教師には、子どもが他者と良好な関係を築く意味でも、一緒に学ぶ機会を多く作ってあげて欲しい。一緒に学んだその楽しさは、きっと勉強の楽しさにつながっていくことだろう。



引用文献

  • Ames, C. A. 1992 Classrooms: Goals, structures, and student motivation. Journal of Educational Psychology, 84, 261-271.
  • Benesse 教育総合研究所 2005 「第1回子ども生活実態基本調査報告書」
  • Benesse教育総合研究所 2009 「小学生夏休み調査-小学生の保護者を対象として-」
  • Deci, E. L., & Ryan, R. M. (Eds.) 2002 Handbook of self-determination research. Rochester, NY: University of Rochester Press.
  • Deci, E. L., Koestner, R., & Ryan, R. M. 1999 A meta-analytic review of experiments examining the effects of extrinsic rewards on intrinsic motivation. Psychological Bulletin, 125, 627-668.
  • Elliott, E. S., & Dweck, C. S. 1988 Goals: An approach to motivation and achievement. Journal of Personality and Social Psychology, 54, 5-12.
  • Festinger, L. 1954 A theory of social comparison processes. Human Relations, 7, 117-140.
  • Grolnick, W. S., Deci, E. L., & Ryan, R. M. 1997 Internalization within the family. In J, E. Grusec & L. Kuczynski (Eds.), Parenting and children's internalization of values: A handbook of contemporary theory (pp. 135-161). New York: Wiley.
  • Henderlong, J. & Lepper, M. R. 2002 The effects of praise on children's intrinsic motivation: A review and synthesis. Psychological Bulletin, 128, 774-795.
  • Lepper, M. R., Greene, D., & Nisbett, R. E. 1973 Undermining children's intrinsic interest with extrinsic reward: A test of the "overjustification" hypothesis. Journal of Personality and Social Psychology, 28, 129-137.
  • Maehr, M. L., & Midgley, C. 1996 Transforming school cultures. Boulder, CO: Westview Press.
  • Meyer, D. K. 1993 What is scaffolded instruction? Definitions, distinguishing features, and misnomers. In D. J .Leu, & C. K. Kinzer (Eds.), Examining central issues in literacy research, theory, and practice (pp. 41-54). Chicago: National Reading Conference.
  • Noddings, N. 1992 The challenge to care in schools: An alternative approach to education. New York: Teachers College Press.
  • 外山美樹 2006 「中学生の学業成績の向上に関する研究-比較他者の遂行と学業コンピテンスの影響」『教育心理学研究』 54, 55-62.
  • Wentzel, K. R., & Caldwell, K. 1997 Friendships, peer acceptance, and group membership: Relations to academic achievement in middle school. Child Development, 68, 1198-1209.
筆者プロフィール
report_sakai_atsushi.jpg 酒井 厚 (山梨大学教育人間科学部准教授)

早稲田大学人間科学部、同大学人間科学研究科満期退学後、2002年に早稲田大学において博士(人間科学)を取得。国立精神・神経センター精神保健研究所を経て、現在は山梨大学教育人間科学部准教授。主著に『対人的信頼感の発達:児童期から青年期へ』(川島書店)、『ダニーディン 子どもの健康と発達に関する長期追跡研究-ニュージーランドの1000人・20年にわたる調査から-』(翻訳,明石書店)、『Interpersonal trust during childhood and adolescence』(共著,Cambridge University Press)などがある。
このエントリーをはてなブックマークに追加

TwitterFacebook

遊び

メディア

特別支援

研究室カテゴリ

所長ブログ

Dr.榊原洋一の部屋

小林登文庫

PAGE TOP