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10. 学童期の子どもの学習意欲、エラー検出能力と学業成績

小林 登 (CRN 所長、東京大学 名誉教授、国立小児病院 名誉院長)
片岡 宏隆 (ベネッセ教育開発研究センター)

2010年9月22日掲載

要旨:

現在、日本では、子どもたちの学習意欲が問題になっている。今回は、子どもたちの学習意欲と、自分の間違いの原因帰属について考えてみた。紹介されている関連論文は、アメリカ東部の小学校3~5年生の子どもを対象とした、Fisherらの論文 "Motivational Orientation, Error Monitoring, and Academic Performance in Middle Childhood: A Behavioral and Electrophysiological Investigation." である。この論文では、状況や課題の種類ではなく、持っている意欲の違いによって、原因帰属の仕方が決まるという可能性が示唆されている。
わが国では、不登校や慢性疲労症候群、さらには睡眠障害などに関連して、子ども達の学習意欲が問題になっているが、今回は、学童期の子ども達の学習意欲と、子ども達が自分の間違いをどのような原因のためだと考えるのか(原因帰属)について考えてみることにした。紹介するのは、フィラデルフィアにあるテンプル大学心理学教室のKelly R. Fisher, Peter J. Marshall, and Ajantha R. Nanayakkara の、小学校3~5年生の子ども達を研究対象とした論文 "Motivational Orientation, Error Monitoring, and Academic Performance in Middle Childhood: A Behavioral and Electrophysiological Investigation." MBE誌Vol.3, No.1, p56-63, 2009 である。

従来から、教育現場で見られる子ども達の学習意欲というものは、学業成績に関係するとともに、成績に対する情動反応とも関係すると言われてきた。また、学習意欲には、そもそも内発的なものと外発的なものとがあり、そのどちらを強く持っているかによって、子ども達の成績に対する原因帰属が異なるとも言われている。

内発的な意欲の強い子どもは、学ぶこと自体に好奇心を持ち、知識や技能を広げ、自ら探索することを楽しむことが出来る。また失敗を、自分の知識や学習法を再評価する機会として捉えるため、持続的な努力や忍耐力、適切な情動反応を示す傾向があると考えられている。

外発的な意欲の強い子どもは、周囲の人に認められることに喜びを感じるため、失敗した時に外部の責任にしやすかったり、ネガティブな感情を抱きやすいので、学習意欲が低下してしまい、学習を止めてしまう傾向が強いと言われている。

これらの現象を担う脳内メカニズムは、まだまだ不明の点が多い。意欲は、前頭前野・視床下部・脳幹などが関わる報酬系(reward system)と関係が深いと言われるが、前帯状皮質(ACC, anterior cingulate cortex)にある「作業モニタリングシステム」(performance monitoring system)も関係するとも考えられている。ACCは皮質構造を持ち、海馬や扁桃体とつながって大脳辺縁系を構成し、注意の調節、反応の選択、情動の調節など幅広い機能を有し、性格にも関係すると考えられている。

ACCにある作業モニタリングシステムは、選択反応時間課題(speeded reaction time task)で間違った時に現れるエラー関連陰性電位(ERN, error-related negativity)の発生に関与していることが理論的に示されている。このような自分の間違いに鋭敏に反応するACCの機能は、成績の原因帰属の過程に重要な可能性がある。

したがって、本研究では、アメリカ北東部の小学校3年生、4年生、5年生を対象として、意欲の違いや試験の結果に対する原因帰属の違いとエラー検出機能との関係を、選択反応時間課題を行っている時のエラー関連陰性電位を測って検討した。なお、意欲はHarter's Intrinsic Versus Extrinsic Motivational Orientation in the Classroom (1981)、全般的知能はWechsler Intelligence Scale for Children、学力は学校の成績表を用いて測定した。

選択反応時間課題テストは、Eriksen Flanker Test法を用いて行った。このテストでは、スクリーンの中央にある5つの矢の映像を見て、真ん中の矢とまわりの矢の方向が一致したかどうかを答えてもらう。間違った場合を誤反応として、その時現れるエラー関連陰性電位を脳波から算出した。子ども達が自分の誤反応の原因がどこにあると考えているのかを、質問紙を用いて明らかにした。

本研究の結果は、誤反応をしたときのエラー関連陰性電位が大きい程、学習に対する内発的な意欲が高く、成績も良く、誤反応の原因を「努力」などの自分で調整可能な要因におく傾向が強かったことを示した。

報告者らは、この選択反応時間課題を用いた研究は、学校での学習と大きく異なるが、成功・失敗についての原因帰属の仕方は、学業成績の場合と類似していたと述べている。この結果は、状況や課題の種類ではなく、持っている意欲の違いによって、上手くいかなかった原因をどう考えるかが決まる可能性を示唆していると言える。

内発的な意欲の高い子どもが課題に失敗した時、大きなERNを示す理由は、
1) エラーの検出や結果を振り返る脳内プロセスに情動が深く関与しているため
2) 外発的な意欲を持つ子どもと、認知的な情報処理の過程が異なるため
と、少なくとも2つの可能性が考えられる。

当然のことながら、この脳内プロセスのシステムの形成には、シナプスの量的変化が激しい乳幼児期の「シナプス刈り込み」も関係しているかもしれない。換言すれば、育児・保育・早期教育の在り方も、学習意欲の形成や原因帰属に関係しよう。

このような知見を一般化するには、より多くの子どもを対象として、詳細な研究を行う必要がある。また、このような教育の理念と、脳の神経生理学的な現象とを対応づける研究により、脳科学の教育学への導入がさらに発展するものと考えられる。研究の方法論は更に検討する必要があるが、今回対象にした子ども達の年齢より若年児の研究が、特に重要な役を果たすかもしれない。


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