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【仲間関係のなかで育つ子どもの社会性】 第8回 リーダーシップについて考える(後編)

酒井 厚(山梨大学教育人間科学部准教授)

2013年6月 7日掲載

要旨:

本稿は、前回の「リーダーシップについて考える」の後編である。ここでは、子ども集団での理想的なフォロワーのあり方と、その発達に関わる大人の役割について論じた。
1.理想的なフォロワー

先日、大学内の教室間の引越しがあり、学生10数名に手伝ってもらうことになった。比較的大きな2つの部屋の中身を交換する作業で、棚や机、本など多くのものを移動させなければならず、丸一日かかることを覚悟していた。作業が少しでも効率良く進むように段取りを頭に描きながら、誰をリーダーにすべきか、いくつかのチームに分けるべきかなど色々と考えていた。しかし、いざ始まってみると、私のそんな心配はよそに、最初に来た学生の一人がリーダー役となって仕切り始め、その場の他の学生は皆フォロワーとして従い、そのフォロワーは少し遅れて来た学生に対してサブリーダーとして機能する、というように階層的な役割を自然とつくりあげて作業を効率よく進め、半日程度で2つの部屋の片づけは終わってしまったのである。

自称「日本一オーラのない監督」である元早稲田大学ラグビー蹴球部監督の中竹竜二氏は、集団内でのフォロワーの役割を重視する一人である。彼曰く、理想的なフォロワーシップが発揮された組織とは、リーダー(例えば、監督)を優秀なフォロワー(コーチ、スタッフ、選手など)が支え、徐々にフォロワーが自立してリーダーを追い越すほどに成長し、最終的にはリーダーにしかできないことがゼロになることであるらしい(中竹,2012)。その意味では、引越しの掃除監督であったはずの私はリーダーとしてはまったく役に立たなかったわけであるから、彼らがお互いの役割を尊重しながら、個々人が主体となって自発的に作業に取り組むことができる優秀なフォロワーであったことを見事に証明したわけである。社会や組織が円滑にまわっていくためには、フォロワーとしての個人の成長もリーダーシップの獲得に負けず劣らず重要である。この後編では、子どもが理想的なフォロワーとして発達し、集団でのリーダーとフォロワーの関係性が良くなるためには何が必要かについて、親や教師による関わりも含めて考えてみたい。

2.教員養成系の大学にいて思うこと

私は教員養成課程のある学部に勤めているので、学校生活を題材として学生とディスカッションする機会が多い。そんな時には、彼らに小学生や中学生だった頃を思い出してもらって、どんな活動や経験をしてきたかを話してもらう。すると、勉強や部活動について語る以外に、学級委員(長)であったとか、生徒会で頑張っていたと語る学生が少なくない。こうした私の素朴な印象は、約500名の大学生を対象にした調査(大森・林,2005)でも裏付けられており、教員養成課程の学生は(26%)、その他の学生(16%)に比べて、児童会・生徒会の会長・副会長など学内のフォーマル・リーダー経験者が多いという。

私が掃除をお願いした教員養成課程の学生たちも、小・中・高のどこかでフォーマル・リーダーを経験してきた人が多かった。リーダーとしての経験は、リーダーシップ行動を学ぶ機会であることはもちろんだが、同時にフォロワーにして欲しいこと、フォロワーとしての行動を考える機会でもある。また、その後にフォロワーになった時には、自分のときと比較して改めて良いリーダーについて考える。こうした経験の繰返しが多いほど、フォロワーにただ命令して作業を行わせることや、リーダーに責任を押し付けることが建設的ではないことがわかっていく。彼らは、今回の掃除の場面に限らず、授業中のグループワークや文化祭等の大きなイベントでも実にスムーズに作業を進める。学生の組み合わせがどのようであってもさほど変わらない。彼らがリーダーとしてもフォロワーとしてもうまく役割を担えるのは、過去の経験から、役割にかかわらずお互いを尊重しながら主体的に関わるスタイルが有効であると学んできているからだと思われる。

3. 革新型リーダーシップ

近年、主体的で自立したフォロワーを育てる試みとして、革新型リーダーシップ論(Burns, 1978)が注目されている。革新型のリーダーシップとは、端的に表現すれば、リーダーが高いモラル性(正義や平等、道徳性など)をもってフォロワーに接することで、フォロワーの業務に対する価値観や態度をより高次なレベルへと成長させていくことであり、リーダーが積極的にフォロワーの自立の促進をめざすところに特徴がある。子ども集団の場合には、親や部活動のコーチといった大人がリーダーとなり、フォロワーである子どもたちや選手を育成する場面に適用される(Morton et al., 2011; Tucker et al., 2011)。

革新型リーダーシップの鍵となる行動は4種類ある。ここでは、それを基に作成された親のリーダーシップ的養育行動(Morton et al., 2011)の内容とともに紹介しよう。第1の「理想化された影響力」と呼ばれる行動では、リーダーは自分の信念と一致する行動を示しながら、フォロワーとの信頼関係を確立することを目的とする行動である。親子の場面で言えば、子どもにとって親が「尊敬できるような振る舞いをしているか」どうかを意味する。第2の「インスピレーションの活性化」では、フォロワーの目的達成への意欲を維持するように働きかけることが求められ、親であれば「子どもが達成できると信じていることを伝えているか」どうかが重視される。第3の「知的刺激」では、フォロワーが抱える課題や問題に対して本人を尊重しながら新しい視点で見るように促すことが必要であり、親が「子どものアイデアや意見を尊重しているか」や「問題を違う角度から見てみるように援助しているか」などがそれにあたる。そして第4の「個別の配慮」は、フォロワーを個々の存在として認識し、個人差をふまえた支持や元気づけを行うことを意味し、親の場合には「子どもの生活に心から関心を寄せ世話をしているか」どうかが評価される。 カナダの高校生を対象にした調査(Zacharatos et al., 2000)によれば、親がこのリーダーシップ的養育を実施している家庭の子どもほど、部活動で革新型リーダーシップを発揮することができると報告されていた。つまり、こうした親のリーダーシップ的な養育は、主体的なフォロワーとして子どもを成長させるばかりでなく、次世代の革新型リーダーとしての発達も促すのである。

4.リーダーとしてフォロワーとして

前編と後編を通じて述べて来たように、子ども集団におけるリーダーシップは、リーダー役の子どもが頑張るばかりでなく、フォロワー役の子も主体的に関わることで発揮されていく。理想的なリーダーやフォロワーになるには、どちらの役割も経験し、それぞれの立場から考える視点を持つことが重要である。そのためには、学校や地域などにおいて、様々な形態・内容のフォーマルな子ども集団をつくる機会を用意し、参加する子どもたちがリーダーとフォロワーの両方の役割を経験できるように役割の割り振りを工夫することもいいだろう。例えば、同年齢ばかりでなく異年齢での仲間集団を構成すれば、引っ込み思案な子どもも、年下の子への責任感からリーダー役割を上手に果たすことができるかもしれない。また、同年代ではリーダー役を担うことが多い子どもも、年長の子どものフォロワーとして学び、リーダーである先輩をモデルとして観察することで学ぶこともあると思われる。こうした集団の経験のなかで子どもたちのフォロワーとしての成長を引き出すためには、そこにかかわる親や教師といった大人たちが革新型リーダーシップを発揮して、子どもたちが主体的なフォロワーとして振る舞えるように働きかける必要がある。前述の元ラグビー部監督の中竹氏の場合には、個人面談を通じて一人ひとりの選手に良きフォロワーたれと語り伝えていたという。親や教師にも、子どもとの日々の会話のなかで、良きフォロワー(やリーダー)のあり方について伝えられることはたくさんあるのではないだろうか。



引用文献

  • Burns, J. M. 1978 Leadership. New York: Harper & Row. Morton, K L., Barling, J., Rhodes, R. E., Masse, L. C., Zumbo, B. D., & Beauchamp, M. R. 2011 The application of transformational leadership theory to parenting: Questionnaire development and implications for adolescent self-regulatory efficacy and life satisfaction. Journal of Sport & Exercise Psychology, 33, 688-709.
  • 中竹竜二 2012 まとめる技術:カリスマリーダー抜きで「勝つ組織を作る方法 フォレスト出版
  • 大森竹仁・林尚示 2005 生徒会活動を通した集団づくり:リーダーの資質を中心として 教育実践学研究, 10, 95-104.
  • Tucker, S., Turner, N., Barling, J., & McEvoy, M. 2010 Transformational leadership and children's aggression in team settings: A short-term longitudinal study, The Leadership Quarterly, 21, 389-399. Zacharatos, A., Barling, J., & Kelloway, E. K. 2000 Development and effects of transformational leadership in adolescents. Leadership Quarterly, 11, 211-226.
筆者プロフィール
report_sakai_atsushi.jpg 酒井 厚 (山梨大学教育人間科学部准教授)

早稲田大学人間科学部、同大学人間科学研究科満期退学後、2002年に早稲田大学において博士(人間科学)を取得。国立精神・神経センター精神保健研究所を経て、現在は山梨大学教育人間科学部准教授。主著に『対人的信頼感の発達:児童期から青年期へ』(川島書店)、『ダニーディン 子どもの健康と発達に関する長期追跡研究-ニュージーランドの1000人・20年にわたる調査から-』(翻訳,明石書店)、『Interpersonal trust during childhood and adolescence』(共著,Cambridge University Press)などがある。
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