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【9月】仙台の「子育てのうたコンサート」

要旨:

所長が「NHK子育てのうたコンサート~心育む歌・親から子への贈り物」に、日本子守唄協会会長として出演したときの様子が紹介さてれいる。子守唄を通じて、子育てを立て直し、優しさいっぱいの社会にしたいという熱い想い、また、子どもの心を育てるという直接の影響だけではない、子守唄の深く大きな意義の可能性について語っている。

先月の9日、NHK仙台放送局の関連団体から招かれて、東北大学百周年記念会館 川内萩ホールで開かれた「NHK子育てのうたコンサート~心育む歌・親から子への贈りもの~」に、日本子守唄協会会長として出演した。NHKのこのような番組に出演したのは、東京で開かれた1991年、1992年に続き三回目である。

 

東京での番組出演とは違って、今回は前日の8日の午後、開催当日の午前と2回もリハーサルが行われ、仙台に1泊2日の滞在となった。NHKの直接関係者はフルに2日間の仕事で大変なことだったであろうと思うと共に、コンサートの模様を東北地域でテレビ放映1)することに対する強い熱意も感じた。

午後から始まったコンサートは1時間半、しかし、私の出番はコンサートの中間で「子育てと子守唄」についてコメントを申し上げる15分足らずであったので、関係者の費やした時間とエネルギーとは比ぶべくもない。

仙台放送局の言う「子育てのうた」は、当然のことながら、子守唄だけの狭い意味ではない。童謡はもちろんのこと、子どもの好きな歌、親子が一緒に楽しく歌える歌ということである。出演者は東北にゆかりのある方々で、お名前は存じ上げていたソプラノ歌手の菅英三子さん、ピアニストの田原さえさん、それに仙台フィルハーモニー管弦楽団とその指揮者岩村力さん、仙台放送合唱団、NHK仙台少年少女合唱隊であった。司会は、うたのおねえさんのつのだりょうこさんと、アナウンサーの津田聰一朗さんであった。まさに、オールスターキャストと言える。

「子育てのうたコンサート」がどんな感じだったか想像していただくために、その流れを申し上げてみよう。管弦楽の伴奏による菅さんの美しいソプラノで「シューベルトの子守唄」が始まり、田原さんのピアノ伴奏で、東北地方の子守唄「ねんねこせ」(宮城・若柳地方)、「おらのおんぼこ」(弘前地方)が歌われた。「おんぼこ」とは「かわいい赤ちゃん」という意味だそうである。続いて、仙台放送合唱団女性コーラスが「金五殿か五郎殿か」(岩手・紫波地方)を歌った。ここで再び管さんによって、管弦楽の伴奏で東北地方以外の有名な子守唄「竹田の子守唄」(京都地方)と「中国地方の子守唄」、そして新しい子守唄「思い出の子守唄」(作詞:別所実、作曲:池辺晋一郎)の3曲が歌われた。「竹田の子守唄」ではコーラスも入り、淋しさもあるあの独特の感じを強めていた。

次は私の出番の「ちょっとトーク、子守唄と育児」であったが、内容はいつも申し上げていることであり、2005年8月や2007年6月の所長メッセージ で申し上げた以上のことはない。2)

続いて、つのだりょうこさんが独唱したり、岩崎健一郎さんの指揮によるNHK仙台少年少女合唱隊と合唱したりして、楽しい子どもの歌を8曲歌った。「にじのむこうに」(作詞作曲:坂田修)、「手遊びメドレー」として「むすんでひらいて」(作詞不詳、作曲:ジャン=ジャック・ルソー)、「大きな栗の木の下で」(イギリス民謡)、「パンダ・うさぎ・コアラ」(作詞:高田ひろお、作曲:乾裕樹)、「げんこつやまのたぬきさん」(わらべうた)が歌われた。続いて、親子が一緒に歌える歌として「おもちゃのチャチャチャ」(作詞:野坂昭如、作曲:越部信義)、「大きな古時計」(訳詞:保富康午、作曲:ヘンリー・クレイ・ワーク)、そして「さんぽ」(作詞:中川季枝子、作曲:久石譲)であった。いずれもとても楽しい演奏であった。皆さんのお好きな歌もたくさんあるのではなかろうか。

そして最後に、管弦楽団の演奏によって、世界の名曲の中の子守唄が3曲続いた。ハチャトゥリアンのバレエ組曲「ガイーヌ」からの子守唄、フォーレの「子守唄」、ストラヴィンスキーのバレエ組曲から「火の鳥の子守唄」であった。フォーレの「子守唄」には、コンサートマスターのバイオリンの独奏も入った。いずれも名演奏で、その昔、N響会員として聞いたコンサートを思い出した。

いよいよフィナーレ、参加した全員がステージに上がり、会場の皆さんと一緒になって「ゆりかごのうた」(作詞:北原白秋、作曲:草川信)を歌った。最近、トロントの子ども病院で皇后さまが歌われた歌である。もちろん私も、子守唄を歌う時にいつも感じる母なる存在への感慨、その優しさにひたりながら歌った。

わざわざ仙台のNHKから呼ばれた大きな理由は、日本子守唄協会の会長という立場にある。初代会長であり、それこそ子守唄研究家の松永伍一先生が亡くなられて、西舘好子理事長の強い要請で次の会長を引き受けたが、子守唄の文学的側面、社会的側面、歴史的側面についてはほとんど勉強したことがない。私自身は、子守唄を、母親ばかりでなく父親も、そして子育てに関係している人なら誰でも一緒に歌ってもらいたい、そして、わが国のどの町でも、耳を澄ませば子守唄が聞こえてくるようにして、子育てを立て直し、優しさいっぱいの社会になるよう世直ししたいというのが本来の目的である。今回は、日本子守唄協会の会長としては面映ゆい出演であった。

私達は今、豊かな社会、欲しいものならほとんどのものが手に入る時代に生きている。しかし、心の豊かさとなると、どうであろうか。子どもの教育問題から始まって、犯罪など多様な行動問題、なにか日本社会にガタがきてしまったようである。人々はいつもイライラし、ちょっとしたことでも殺人事件になってしまう現実を、われわれは毎日テレビで見たり、新聞で読んだりしているのである。

子育て問題でも、子育てする母親や父親が、わが子と心の絆を結べず、子育てをちゃんと出来ないばかりでなく、暴力を振るってしまう。この子ども虐待による悲劇は、わが国のどこかで、週に2人の子どもが亡くなる程にまでなってしまったのである。

したがって、子守唄は、子どもの心を育てる直接の影響の意義もあるが、親に対する子育て意欲の強化ばかりでなく、社会全体に優しい雰囲気を醸成して、豊かな人間関係をつくり上げるのに有用だと私は思っているのである。

NHKが、子守唄ばかりでなく童謡や唱歌などを、テレビやラジオのFMで、毎日あるいは毎週同じ時間帯に流していることは、以前から素晴らしいことであると思ってきた。今回、図らずも仙台の子育てコンサートに出席させていただき、その感をあらためて強くしたのである。

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〔注〕
1) 8月29日午後放送
2) 「子守歌を唄いながら楽しく子育てをしよう」(2005/08/05)、「日本子守唄フォーラム2007 in 壱岐」に参加して(2007/6/1)
https://www.crn.or.jp/OFFICE/MESSAGE/BACKNO.HTM

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