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【元・学生パパがみたドイツ育児】 第5回 ドイツのドキュメンタリー番組が映しだす育児の現状

柳原 伸洋(東海大学文学部ヨーロッパ文明学科講師<ドイツ近現代史>)

2013年5月10日掲載

ドイツの出生者数は2010年に67万8000人となり、ドイツ統一(1990年)以来の最大数を記録しました。しかし、その翌年は逆に前年比で1万5000人減となり、少子化問題が解決されたとは言えないのが現況です。ドイツでも、第2次メルケル政権のクリスティーナ・シュレーダー家族大臣の下で、様々な少子化対策が実行されています。なお、家族大臣の正式名称は、「家族・高齢者・女性・青年」大臣であり、シュレーダー家族相は1977年生まれの若き女性大臣で、在任中に育児休暇を取得した経験のある人物です。

話を少子化問題に戻しますと、ドイツでも全ての政策がうまくいっているわけではありません。そこで今回はドイツの抱える問題として、ベビーシッター制度についてお話ししたいと思います。本記事は、2011年にドイツ第二放送で放送されたドキュメンタリー番組『愛の代価 誰が私の子どもの世話をするのか?』を主に参考にしながら、シッターや保育所の問題について考えていきます。この問題は、現在の日本社会にも当てはまるでしょうし、将来に直面するかもしれない事態も見えてくるかもしれません。

このドキュメンタリーは、放送作家の妻とカメラマンの夫が制作した番組です。彼らもまた、3児の父母であり、特に放送作家である母親は、子どもを預ける場所やシッターが見つからないために、職場復帰が困難な状況です。

日本と同様にドイツにおいても、女性が仕事と家庭を両立させるのには多くの障害があります。加えてドイツの家族の19%が、いわゆる一人親の家庭である点も無視できない事実でしょう*1。ただし、2013年から、ドイツ連邦政府は、保育所の増設、シッター制度の充実や柔軟化等を決定しています。労働時間や形態が可変的(フレキシブル)になった今日においても、安くない雇用料に見合った、信頼に足るシッターを見つけることは難しいのです。

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比較的、父子の割合が多いベルリンの公園。
ただし、これもワークシェアリングがうまくいっている家族に限られてしまう。

本ドキュメンタリーはまず、費用の点を問題にしています。たとえば、 1ヶ月、計80時間のシッターを雇うとすれば、だいたい、1000ユーロ、1ユーロ120円で計算すると、約12万円の支出になります。ただし、これをすべて個人が支払う必要はなく、収入にもよりますが、国からおよそ半額分の補助金を得ることができます。しかし、この公的なシッター制度において、時間的に融通のきくシッターをみつけることは困難です。通常、公的に登録するシッターは「午後のみ」や「夕方だけ」など、シッター側(被雇用者側)の都合が優先されているからです。

ここに私の研究テーマである現代史の視点から補足すると、育児と仕事の関係には、戦後ドイツの歴史的な背景も関係しています。ドイツでも日本と同じく、大家族で暮らす家族のあり方が変化したことで、祖父母に頼るということも難しいのです。ここで、祖父母に子育てを頼むことの是非はともかく、実際問題として、「選択肢が少なくなった」ということだけは指摘できるでしょう。

では、その「選択肢」のひとつである保育所はどうなのでしょうか。このドキュメンタリーは、次にドイツの保育所問題を扱っています。保育所も場所によっては不足しており、日本の待機児童問題に似たところがあります。また、私立の保育施設はたくさんあるのですが、人件費の高いドイツでは月に7万円程度はかかってしまうとのことです。

私の実体験からすれば、これらに加えて地域の偏りもあるように思われます。特に首都ベルリンでは、外国移民が多い地域で子育てすることを嫌うドイツ人もいます。それで、子育て世代が集中する地域(たとえば、本連載で何度も登場したプレンツラウアーベルク地区)が生まれてしまい、局所的に保育施設が足りていない状況があります。

しかし、同時にベルリンでは、労働力の多くを外国人に頼っているわけです。ドキュメンタリー番組『愛の代価』で、番組後半にクローズアップされているのが、東ヨーロッパ出身のシッターです。彼女たちは安い賃金で時間に融通をつけて働く場合が多く、重宝されているとのことです。しかし、その多くは不法労働というのが実情。では、彼女たちを公式に登録すればいいのではないかということですが、シッターにはドイツの基準に沿った資格が必要なことから、ドイツの移民政策の中で彼女たちが公式な労働ビザを入手することは多くの場合難しいようです。

この移民や外国人労働者をめぐる問題は、日本ではそれほど顕在化していませんが、すでに介護分野では議論されているように、今後はドイツと似たような問題に直面することもあるかもしれません。

少子化問題は、決して「関係者だけ」の問題ではありません。これについて考え、解決の方策を探るためには、社会内部の各所で複雑に絡み合った問題に取り組んでいかなければならないのです。このドキュメンタリーは、制作者自身がまずは「自分の事」として直面したテーマを社会全体の問題へと展開させながら、ドイツの少子化や育児をめぐる問題の複雑な部分と正面から取り組もうとしています。

縦割りで別個に考えるのではなく、「自分自身」を起点にしながら様々な社会問題を貫いて考える方法が、現在求められているのではないでしょうか。


筆者プロフィール
Yanagihara_Nobuhiro.jpg 柳原 伸洋(東海大学文学部ヨーロッパ文明学科講師<ドイツ近現代史>)

1977年京都府生まれ。2006年7月から2009年11月、2011年8月から2012年3月まで、ドイツ・ベルリンに滞在。NPOファザーリング・ジャパン会員。著書に、歴史コミュニケーター及びライター・伸井太一として、東西ドイツの製品文化史を紹介した『ニセドイツ』(単著、社会評論社、全3巻)や『徹底解析!!最新鉄道ビジネス』(分担執筆、洋泉社、Vol.1、2)がある。
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