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【産科医の海外留学・出産・子育て記】第8回 保育内容

要旨:

とんでもなく高いアメリカの保育料に戸惑いながら、3人の娘を預かってくれる保育園を探しまわった日々、大学院のハードな勉強の中、よくあきらめずに続けられたものだと思います。夫の所属先の福利厚生団体直轄の保育園に、補助金も得て3人をまとめて預けられるようになったときには、本当にほっとし、暗闇に光が差してきたような感じがしました(前回参照)。今回は、ようやく落ち着くことのできたそのC保育園の話を中心に、我が家の娘たちが経験したアメリカの保育園生活についてご紹介します。
個別のメニューが豊富

保育園の保育内容で、面白いな、と感じた日米における違いのひとつは、集団行動が中心ではあるものの、個別行動が多いというところです。

日本で子どもたちが通っていた保育園では、朝、子どもを送りに行って目にするのは、みんなで一緒に園庭にいて、お砂場遊びをしているといった様子でしたが、アメリカの保育園では、朝、送りに行くと、部屋のあちこちにいろいろな種類の遊び道具が置いてあり、子どもたちはそれぞれ好きに遊んでいます。レンガのおもちゃ(3匹の子豚のように家を作るそうです)、色とりどりのサテンの布(放り投げてふわふわ落ちてくる様子を楽しんだり、頭や身体に巻いてドレスごっこをしたりします)、直径50センチほどのプラスチックのお皿に山盛りのひげそりクリームが載っていて、その中にゴムでできた蜘蛛や虫のおもちゃが乗せてあるスペースもありました。また、水槽に張った水に船や魚、葉っぱのおもちゃが浮かんでいたり、あるときはその中にドロドロの粘土が入っていたりで、それはもう子どもが夢中になりそうな光景でした。

朝だけでなく、夕方のお迎え時間帯にも、テントが張ってあったり、いろんなコスチュームが置いてあったり、つなぎ合わせて絵を作るパズルや、ジグソーパズルが机1つにつき1つずつ置いてあったりと、子どもたちが思い思いに遊んでいました。

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部屋の中にテントが二つつなぎ合わせて置いてあり、
子どもたちは大喜びです。

見送り風景

子どもを送りに行くと、部屋の窓から親に手を振る「Good-bye window」という場所があります。別れがたくてグズグズしている子どもに向かって保育士さんが「Good-bye windowに行ってらっしゃい」と声をかけると、子どもも分かっているのか、その窓に貼り付きます。大人は部屋の外から子どもに手を振り、仕事に出かけるという、小さな儀式が形作られていました。

また、保育園に預けている親は、子どもとの別れ際も、とても愛情たっぷりで大袈裟です。ぎゅーっと抱きしめてキスの雨を降らせるのはもちろん、「愛してるよ」「大好きだよ、かわいい可愛い○○ちゃん(Pumpkin-pie, Sweet heart, Darlingなど)」と呼び掛け、窓から見送る子どもに対して投げキッスをし、いつまでも手を振り...。それを見て子どもも安心して遊びに移っていくのです。これを見て、いいな、と思った我が家では、2年間のアメリカ留学ですっかりこのスタイルが身につき、帰国後の今でも朝別れるときはぎゅっと抱きしめて、窓の外から投げキッス!が続いています。

知育授業

5歳児になると、アルファベットを覚えます。

大きな紙を切り抜いてアルファベットの文字を作り、壁中に貼ります。そして、保育士が「Aで始まる言葉は?」と子どもに問いかけながら、挙げられた単語をその紙に書いていきます。Aで始まるAligator(わに)の絵が貼ってある保育園もありましたが、このように、子どもたちに単語を出させ、同じCでもCatとChocolateとは発音が違うなど、楽しみながら学ばせているところがいいな、と思いました。

また、時々、子どもたちの親にボランティアを募り、歯科医の親に歯の健康や丈夫な歯をつくるための栄養、磨き方について話をしてもらうかと思えば、動物の専門家の親には動物の話をしてもらうなど、園外講師を呼んでの時間もありました。私たちも寿司作り(実際には折り紙で寿司作りのまねごと)の時間を受け持ったことがありましたし、単に日本の童謡を歌って披露した、ということもありました。ボストンには日本食レストランも多く、寿司はある程度ポピュラーでしたが、それでも、黒い海苔に対してなじみのない子どもたちが「今度、寿司を食べてみよう」と言ってくれたのはとても嬉しい思い出です。

また、あるとき、太陽系の惑星の絵を子どもたちで描いて、天井一面に貼っていたことがありました。太陽系の惑星の名前を太陽に近い方から順番にすべて覚えている子どもを見て、すごいな、と思いました。

また、「自分の親のルーツ」をあらわす図や写真を持ってきて、と言われたことがありました。指定された通り、親が生まれた土地の写真、小さい頃の写真、親戚と写った写真や日本が真ん中に位置する世界地図を保育園に持っていくと、保育士さんが画用紙に貼りクラス中の壁に貼っていきます。それらの家族写真から、中国、イタリア、エジプトなど、クラスメイトの多様な背景を実感しました。だれ一人、文化や出自の違いを気にする人はいません。アメリカ生まれだから威張っている、外国人だから肩身が狭い、ということはないのです。それぞれがそれぞれの違いを認識し、お互いに質問しあい、祖父母のルーツを考え、自慢し合う。子どもにとってはとても良い刺激になったようです。

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米国では、ヨーロッパ中心の地図を使います。我が家の子どもたちも、友達のルーツを知ることで世界の国々を覚えました。

園庭

私たちが利用した3つのうち2つの保育園は、独自の園庭を持っていませんでした。持っていた1か所では、土ではなく、木のチップを敷いていました。ここでは、ひとつのクラスしか園庭で遊べないほどの狭いスペースで、4クラスが1日に30‐40分ずつ交代して園庭を使っていました。医学部エリアには、川沿いの公園や大学構内の広い中庭というものはありますが、子ども向けの遊具のある公園はありません。C保育園の子どもたちは屋上に作られた遊び場で遊びました。また、広い園庭がない代わりに3歳以上の子どもは近くの女子大学の体育館を借りて走り回り、ここのプールで泳ぎ、身体を動かしていました。土に触れあって遊ぶことのない様子に最初は驚きましたが、独特の衛生観念があるのかもしれません。

おやつ

おやつは園で出ます。ワッフル、プチトマト、シリアル、ビスケット、米菓子、カップケーキ、りんご、バナナのどれかに牛乳、という感じでした。夏には、必ず1回「ICE CREAM SOCIAL(アイスクリームを食べながら懇親会)」というものが開かれます。親も招待され、バニラ、チョコ、イチゴなど何種類かのアイスクリームをカップに盛ってもらい、甘いソースやナッツ、M&M'sなどいろんなものをかけて食べながら、親同士、保育士同士、子ども同士が交流するという会でした。どこの保育園でも、大学でも、必ず開催されていましたので、アメリカの文化に根差したアイスクリームの存在の大きさを痛感したものでした。

子どもの誕生日会の日には、その子の家庭がおやつに差し入れをしたいものを選び、1週間前に、その食物のIngredients(食品成分表)を保育士に渡します。たとえば、カップケーキやスコーン、ドーナツ、ケーキなど、あらかじめスーパーで買っておいて、その箱についている食品成分表を切り取って渡します。すると、保育士が部屋の出入り口にその表と、クラス全員の名簿を貼りだし、お子さんに食べさせても良い場合には名簿にチェックをするように親に頼みます。あるとき、うっかり、その名簿にチェックするのを忘れていたら、お友達の誕生日会の日に保育園から電話がかかってきました。「○○(長女の名前)は食べたいと言っているが、これこれを食べさせて良いか」と聞かれたのです。確認の電話がなかったら、きっとうちの子は自分だけケーキが食べられなくて悲しんだだろうな、と思い、保育士さんの配慮に感謝したのでした。

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クラスメイトのお誕生日会の様子。大きなケーキと甘いスナックと風船がお決まりでした。

私たちが日本に一時帰国した際に買ってきたお土産であるエビせんべいを渡したら、同様に、食品成分表を求められ、苦労して英訳して渡したこともあります。何を食べるにも、アレルギーなどに対する配慮から、園で出すものにはすべて内容表示が求められ、必ず親に確認を取ってから子どもに与えるという方式が徹底されていました。

持ち物

園に毎日持参するものは基本的にお弁当のみで、小さなリュックサックに入れて登園します。朝、見送りに行く際、お弁当の内容をクラス全員の名簿に記入します。お弁当の残りは捨てるため、保育士がこの表に食事をどの程度食べたかという量を記入し、親はお迎えの時に「主食は全部、おかずの○○は1/3食べたんだな」とわかるようになっています。

着替えはロッカーの中に入れておくものの、汚れなければわざわざ取り替えることはせず、1日1回は必ず着替えをしていた日本の保育園との違いを感じました。土で遊ぶ機会がないため泥んこになることがないということ、涼しくて空気が乾燥しているので汗をかかないということもあるのでしょう。お弁当のほか、おむつをしている子はおむつを渡します。私たちが預けた最初の2つの保育園A、Bでは、朝、親がミルクを調乳し、液体の状態で持参して、冷蔵庫に入れておくことになっていましたが、C保育園では飲む直前に保育士さんが調乳してくれたので、ずいぶん楽でした。

また、毎週月曜日にお昼寝用のブランケット(薄手の毛布)とシーツを持参し、金曜日に持ち帰るという保育園もありました。C保育園では、保育園がブランケットを用意してくれたので、我が家としては楽でしたが、自分の家庭のものを使いたいという人は家から持参していました。

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個別行動の時間はそれぞれの机の上に、ジグソー・パズル、組み立てゲーム、お絵かきセットなどが置いてあり、好きなものを選ぶようになっていました。

毎日、父母と保育園の間で交換する連絡ノートのようなものはありませんでしたが、乳児クラスでは毎日の様子を保育士が記録した1枚の紙を貰って帰ります。ミルクの時間、おむつを替えた時間、遊びの内容が簡単に書かれていました。

言葉の壁、英語

アメリカに行ってから、子どもたちがどのように言葉の壁を乗り越えたのでしょうか?

最初に入った保育園では、何となく、周りの子どもの話す様子を聞きながら、保育士さんたちから言われることに頷いたり首を横にふったりして答えていました。さすが小さい子ども、すぐに仲の良い友達を作り、一緒におままごとなどをしますが、ただ、言葉ではなく、ジェスチャーや顔の表情によるコミュニケーションを使っていました。保育士さんたちが「今日は、話すかな?」とからかったり、何度も言葉を引き出そうと試みたりしてくれたのですが、なかなか英語が出てきません。家ではおしゃべりなので、どうしてかな、恥ずかしいのかな、間違えるのが嫌なのかな、とあれこれ心配しましたが、家の中ではあえて日本語だけで通していました。

渡米後一年経った頃、突然、それまで話さなかった長女の口から英語が飛び出しました。保育士さんが娘に、創作に使う色紙の色はどれがいい、と聞いた時、「pink!」と答えたのです。その日私が迎えに行くと、クラスのお友達が、「○○が話した!」「○○が話したよ!」と、嬉しそうに報告してくれました。保育士さんが経緯を話してくれるそばで、長女がはにかんでいます。その日から、それまで寡黙だったのが嘘のように、長女の口から言葉が溢れ出しました。

ある夏の日曜日、クラスメイトと、公園の野外コンサートに行くことになって、そのクラスメイトと電話していた時のことです。夕方のコンサートだったので、軽食を持って行こうという話になったのでしょう。長女が、 「I will bring rice balls!」(私はオニギリ持っていくわ!) と答えているのが聞こえてきます。思わず笑ってしまいました。電話口でのペラペラと英語を使った話しぶりと、オニギリをお弁当として普通に自慢している様子を聞いていると、子どもたちが英語を話さなくて心配していた少し昔のことが嘘のように思えたのでした。

おわりに

今でも、子どもたちは、ボストンにいた頃の話をすることがあります。
家が広かった、トイレとお風呂が二つずつあった、お誕生日会ではたくさんのバルーンを買って配った、などなど。渡米当時に生後一ヶ月だった三女は、帰国時には2歳になっていました。そして、ボストンでは4人目の女の子が産まれました。母親として、学生として、妊婦として、学生として、友人として、研究者として、一人の日本人として...何十倍も味わい深く意義深いボストン留学となりました。

一方で、日本の保育園がいかに恵まれているかも分かりました。一定レベルの質が揃っている保育士さん、栄養バランスに配慮した昼食とおやつ(おやつといっても、毎日、甘い物ばかりではない)が出ること、保育士さんからの的確なアドバイス。日本の保育園は、子どもの心身の発達や食育にも気を遣っており、この金額でこの保育内容を提供してくれているなら安い、と感じました。

筆者プロフィール
report_yoshida_honami.jpg 吉田 穂波(よしだ ほなみ・ハーバード公衆衛生大学院リサーチ・フェロー・医師、医学博士、公衆衛生修士)

1998年三重大医学部卒後、聖路加国際病院産婦人科レジデント。04年名古屋大学大学院にて博士号取得。ドイツ、英国、日本での医療機関勤務などを経て、10年ハーバード公衆衛生大学院を卒業後、同大学院のリサーチフェローとなり、少子化研究に従事。11年3月の東日本大震災では産婦人科医として不足していた妊産婦さんのケアを支援する活動に従事した。12年4月より、国立保健医療科学院生涯健康研究部母子保健担当主任研究官として公共政策の中で母子を守る仕事に就いている。はじめての人の妊娠・出産準備ノート『安心マタニティダイアリー』を監修。1歳から7歳までの4児の母。
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