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【産科医の海外留学・出産・子育て記】第6回 ボストンで保育園探しに大わらわ Part I

吉田 穂波(ハーバード公衆衛生大学院リサーチ・フェロー・医師、医学博士、公衆衛生修士)

2013年1月25日掲載

要旨:

ハーバードに入学できることになり、喜んだのもつかの間、次の課題は、自分が学生生活を送るにあたって、子どもの保育環境を手に入れられるか?ということでした。日本にいながらボストンの保育園をあたってみても、なかなかうまく保育園に入れる方法が分かりません。それもそのはず、日本とは違う保育園システムと、予想外の高い保育料と、そして言葉の壁で、現実が見えていなかったのです。渡米後に明らかになったさまざまな違いをひとつずつ乗り越えながら、アメリカの保育園制度がやっとわかってきました。
渡米前の準備

大学院から合格証が届いたのが3月。渡米の5か月前でした。ビザの発行手続き、夫婦双方の仕事の引き継ぎ、夫の海外留学先探し、保育園探しで、7月に三女の出産予定日が迫っているのも忘れてしまうほど慌ただしい日々でした。中でも、まだ生まれていない三女を含めた保育園探しは一番苦労しました。何としてでも大学院が始まる前には預けられるところを見つけなければなりません。そこで、大学院の学生課や、ボストンに住んでいる先輩や友人のつてをたどって情報をもらいました。

英語でインターネット検索やメールのやり取りをするのは大変時間のかかる作業です。どこをどう探せばいいのかもわかりません。アメリカではすべてが個人の責任と判断に任せられており、公的な保育園というものがありませんでした。根底にあるアメリカ人のものの考え方としては、何事も個人の努力で獲得するのがよしとされ、公的なサポートを受けない代わりに、自分の家族や地域、社会のあり方は自分たちが好きなように整えるというものでした。文化、宗教、人種が多様なこの国では、例えば、州の政府が州民からの税金を使って公的な福祉サービスを施すことに対する抵抗があります。お年寄り、学童、子ども、よっぽどの貧困層に対しては最低限必要なものを保証しますが、後はすべて自助努力で、保育料の公的な補助も低所得者層に限られていました。ほとんどの働く親は私立保育園を利用しており、園ごとに料金設定や運営基準設定がなされています。

保育士の資格

驚いたことに保育士の資格試験というものがなく、高校を卒業したての若い人でも、その園が定める一定の研修を受ければ保育ができます。例えば、ある保育園に行くと、その保育園が選んだ保育士認定試験のお免状が壁に飾られているのですが、別の保育園に行くと、別の機関の保育士研修修了証が張られている、という具合です。修了証はとても体裁が良く、試しにその研修内容を見せてもらいました。こんなスキルがついたらさぞかし素晴らしい保育士さんなのだろうな、と思うのですが、実際に会ってみると、高校を卒業したばかりの若い女性が、携帯をいじりながら仕事をしているという具合です。

あまり手間のかからない乳児クラスの部屋では、経験年数の少ない若い保育士が多く、おしゃべりしながら、赤ちゃんをバウンサー(簡易ベットのようなもの)に乗せ、バウンサーを足で揺らしてあやしながらおしゃべりを続ける、というような光景でした。さすがに、動きが激しく話も分かる2歳児以降ではもっとベテランの保育士がつき、遊びや絵本の相手をしていますが、保育士のレベルの差があまりにも開いていることに、私は信じられない気持ちでした。もっとも、これは、私たちが最初に利用した最も安い保育園での様子でしたし、この保育園では数か月おきに保育士が辞めていき、くるくると担当の保育士が替わるので驚きました。最後に通った保育園(後述する保育園補助を受けてやっと入れた、最も高額の保育園)では、ある程度レベルのそろった保育士さんがずっと担当してくれましたので、園によって保育の質も内容もバラバラなのだな、と思いました。

幼児期の様々な制度

調べていくうちにだんだんわかってきたことですが、アメリカには、 Child care centersという保育園と、Family child careという、家庭内で保育する(日本で言う「保育ママ」の制度で、一般家庭で子どもを預かってもらうスタイル)とがあります。

日本の幼稚園にイメージが一番近いのがPreschool(プリスクール)で、これは新年度が始まる9月1日に2歳9か月になっていることが条件です。出願期間は入園する前年の11月からその年の2月頃が多く、新年度の半年前の3月にはもう入園が決まっています。たいていは朝9時からお昼まで、あるいは午後2時まで預かってくれます。公立・私立ともに市や町の学校の年間カレンダーどおりに進められ、夏・冬・春休みなどの長期休暇中はサマースクールなどに別途通わせることになります。

一方、Daycare(デイケア)は日本の保育園のようなところで、 Child care centersのような大きな施設もあれば、教会に付属している小さな保育園もあります。長期休暇はなく、祝日を除き年中開いていて、時間も夕方まで預かってくれます。年齢別にInfants(乳児)、Toddlers(1~3歳児)、Preschool(4~5歳児)と分かれています。

Family child careは、家庭内で主に0歳児から3歳児までを預かってくれますが、大きい子になると動きが激しくなり、ちょっと家の中だけでは物足りないようです。勤務者が複数名いるところは、途中で外に散歩に連れて行ってくれるそうですが、保育士が1人だけの場合は様々な年齢の子どもを1人で見なくてはならず、大変そうでした。

プリスクールにするかデイケアにするかは、夕方まで預かってほしいのか(デイケア)、そうでないのか(プリスクール)、年間を通じて預かってほしいのか(デイケア)、長い休暇があっても良いのか(プリスクール)によって変わります。

なお、Kindergarden(キンダーガーテン)は9月1日に5歳になっていることが前提の義務教育で、ボストンの場合は公立でも全員が必ず入れます。日本の小学校が1年早く始まる、という感覚でしょうか。

高い保育料

アメリカでの留学生活は学生として勉強をしに行くわけですから無収入で、貯金が頼りです。日本ではダブルインカムでしたが、それでも、1人5万円の保育料は非常に高く感じていました。渡米後の資金を算段していた際は日本での生活費を前提に計算し、保育料は日本と同じ一か月5万円×3名分を想定していました。留学前に住んでいた自治体は保育料が高かったのですが、これは日本だからなのだろう、女性の社会進出が進んでいるアメリカならもっと働く親をサポートする制度が整っているだろうと思い込んでいました。

しかし、渡米前にインターネットでボストンの保育園を調べても、料金についてはいまいちピンときません。それは、「無収入だし、学生だし、公的な保育園があるだろう」という甘い目論見(もくろみ)があったのと、明確な料金基準が設定されていないことに加え、たまに料金が表示されている保育園を見つけても「あまりに高すぎて信じられなかった」からです。

たとえば、留学先のハーバード大学のウェブサイトに載っている学内関係者向けの

保育園情報ページには、以下のような料金表が載っていました。

  1週間当たりの登園日数 定員 1か月当たりの値段
Infants
(0―1歳児)
  14名  
  5 Days   $2,318
  4 Days   $1,934
  3 Days   $1,470
  2 Days   $1,007
Young Toddler
(2―3歳児)
  9名  
  5 Days   $2,135
  4 Days   $1,787
  3 Days   $1,360
  2 Days   $933
Toddlers(3―4歳児)   18名  
  5 Days   $1,894
  4 Days   $1,595
  3 Days   $1,216
  2 Days   $837
Preschool(4―5歳児)   55名  
  5 Days   $1,539
  4 Days   $1,311
  3 Days   $1,003
  2 Days   $695
*この当時のレートで1ドル= 約90円

学生や職員向けのウェブサイトは、専用のIDとパスワードが必要で、入学するまではこれ以上の情報は得られません。

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保育園は園庭がなかったので、代わりに近所の大学の体育館を使っていました。

本当に驚くほど高い!

渡米後、現地の新聞や書籍、親向けの商業誌などからの情報から、ニューヨークやボストンなど大都市の保育園は非常に高額で、マサチューセッツ州の大型保育園の保育料の平均は最低でも月額13万円、乳児では平均25万円、年間平均230万円という事実を知りました。

別表は、当時のハーバード大学医学部エリアの保育園の料金表(1日10時間、週5日の場合)です。それぞれ1時間単位の延長はありますが、1時間12ドル、つまり5分でもお迎えに遅れれば1人当たり1300円程度を払わなければいけないシステムです。

ハーバード医学部エリアの保育園の料金表(2008年当時)

施設名 乳児(Infants) 1~3歳(Toddlers) 4~5歳(Preschool)
Bright Horizon $2,155 $1,910 $1,578
Children's Hospital Boston $1,935 $1,654 $1,519
LMACCC $2,318 $2,135 $1,539
MGH $1,895 $1,643 $1,395
*この当時のレートで1ドル= 約100円
シッターさん、保育ママを探すも、渡米前に保育を確保できず

知人の日本人留学生ファミリーは「夫の留学に妻が専業主婦としてついていく」パターンが多く、子どもを保育園に預けることは稀(まれ)でした。働きながら子供を育てる先輩女性医師からは、信頼できるシッターさんを雇った方が安くつく、と聞いていましたが、英語もままならない子ども3名、それもそのうち1人は生後1か月の乳児なので、子どもたちを1日中1人のシッターさんに任せることも想像しにくいものでした。しかし、働く親にとって保育園の確保は最優先・最重要課題です。手探りであちこち安い方法を探しました。

一時は、藁にもすがる思いで、渡米前に保育を確保できるなら、と、先輩女性医師に「Family child care」の方を紹介してもらい、手付金も払いました。しかし、月額の保育料が子ども3人で4785ドル(2008年6月時点で51万6780円)。これではあっという間に貯金が底をついてしまいます。悩んだ末、現地で探せばもっと安いところが見つかるに違いない、と、結局その方は断り、新学期の1か月前に渡米して現地で探すことにしました。

安心と安全をお金で買うアメリカでは、安い保育園に預けて何かあるよりはましと、ベビーシッター(英語ではNanny、時給1300~1500円)やFamily child care(保育ママ制度)(時給1000~1200円)を利用する方が時間の融通が利き、価格も保育園より低く抑えられるという話も聞きました。しかし、人種や文化のバリエーションに富むアメリカでは、宗教、価値観、良識、教育水準など、親が求めるものを満たす保育者を見つけるのはむずかしく、ベビーシッターによる児童虐待も連日報道されていました。

渡米後、3歳以下の子どもしか預けられない「Family child care」(保育ママ)の部屋をたくさん見学しましたが、その家庭の文化や宗教が色濃い様子と、まだ小さいとはいえ走り回れる子どもたちが赤ちゃんと同じ部屋で一緒に過ごしている様子に、年齢別のクラスのほうが安心できると思いました。

また、当たりはずれの大きいベビーシッターや保育ママより、可能であれば大規模で保育園評価組織の認定を受けている施設に入れたい、と感じました。

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保育園探しに振り回されるも講義は否応なく進む

Waiting Listに登録するにもお金がかかる

高額の保育園ですが、「Waiting List(待機児童枠申込リスト)」はいつも長く、必ずデポジット(返却されない手付金)を要求されます。50~150ドル(6000~17000円)と高く、複数の保育園に申し込んで入園枠を押さえておきたい親にはかなりの出費です。保育園側もこんな親の行動を見越して、気軽に待機児童リストに申し込めないよう、先手を打っているのでしょう。

親の中には、どこかの保育園に入れると他の保育園の申込リストに入れたことを忘れてしまう人もいます。園長が待機中の親に「枠が空きましたよ」と連絡をしてもつながらなかったり、「既に別の保育園に決まりました」という返事が返ってきたり。電話でのそんなやり取りで園長の1日が終わってしまうという苦い経験から、デポジットが定着したそうです。

というわけで、高くても保育園に入れただけラッキー、という状況で、高額の保育料に対し抗議行動が起こったりるということはないようです。ただ、私たちが渡米した2008年の秋には史上最悪の不況が米国を襲い、保育料が急に高騰したと報じられていましたし、知人の幾人かから、夫が、あるいは妻が失職して保育料を払い続けられなくなり、子どもを預けられなくなったという話も聞きましたので、家計を圧迫する保育料、そして、医療保険料に関しても、見直され始めてきたようです。

筆者プロフィール
report_yoshida_honami.jpg 吉田 穂波(よしだ ほなみ・ハーバード公衆衛生大学院リサーチ・フェロー・医師、医学博士、公衆衛生修士)

1998年三重大医学部卒後、聖路加国際病院産婦人科レジデント。04年名古屋大学大学院にて博士号取得。ドイツ、英国、日本での医療機関勤務などを経て、10年ハーバード公衆衛生大学院を卒業後、同大学院のリサーチフェローとなり、少子化研究に従事。11年3月の東日本大震災では産婦人科医として不足していた妊産婦さんのケアを支援する活動に従事した。12年4月より、国立保健医療科学院生涯健康研究部母子保健担当主任研究官として公共政策の中で母子を守る仕事に就いている。はじめての人の妊娠・出産準備ノート『安心マタニティダイアリー』を監修。1歳から7歳までの4児の母。
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