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【ノルウェー子育て記】第10回 何になりたい?(Ka vil DU bli?)

新学期が始まりました。ノルウェーの秋学期は8月の半ばに始まります。日本ではまだまだ暑い日の続く8月ですが、雨の多いベルゲンでは涼しい新学期のスタートでした。中学生の次女は2年生になりました。遊ぶことに忙しい毎日ですが、これからは少し勉強も頑張っていただきたいと思っている今日この頃です。といっても、高校進学への興味も高まっているらしく、高校のことでお友達と話をする機会も増えているようです。

2年生に進学してから、最初のお知らせが担任の先生から届きました。この先の高校進学を控え、まずは自分の興味のある分野を見つけていくことと、地域社会の勉強を目的として行われる、「何になりたい?(Ka vil DU bli?)」という活動が始まるというお知らせでした(参照1)。

私たちの住む西ノルウェーの自治体であるベルゲンでは、2008年からこの活動が始まりました。活動内容は主に2つで、その1つ目は職業体験です。中学2年生(ノルウェーでは9年生)が自治体の用意した約65の地域の企業、ベルゲン大学、自治体コミューン等の実際の職場を訪問します。目的は、生徒に実際の職場で体験をしてもらうことです。

この課題は2008年からは中学校の必須科目となっているので、学校で国のカリキュラムに基づいて十分に準備をした上で学外の企業を訪問します。学校や家庭でこの職業体験の前に予習をし、訪問後は体験をまとめるという課題があるそうです。また、訪問される側の企業も質の良い職業体験とするために十分に準備をします。職業の紹介、仕事の実演、そして体験の3つの課題が企業には与えられているそうです。この体験を通して生徒たちは、自分の興味がどこにあるのかということを考え、今後の勉強の進め方を考えるきっかけにするそうです。

日本でも文部科学省は中学生の職場体験活動について、詳細なガイドラインを示しています(参照2)。同様にノルウェーでも、子どもたちが色々な分野の職業の知識を得ることで、自分の興味の分野だけではなく、その他の職業にも関心をもつことを重要視しているようです。しかしコロナ禍の2020年から2021年頃までは、この活動に参加できる企業を自治体が提示することができませんでした。生徒は自分で体験可能な場所を探すことになりましたが、当時中学生だった我が家の長女は残念ながら職業体験ができる企業を見つけることができなかったので、私の職場である大学に来ました(【ノルウェー子育て記】第3回 中学2年生の職業体験週間)。しかし大学生もみんなオンラインのリモート授業に参加していたので、満足な職場体験にはなりませんでした。ですから、次女には今回、良い職業体験ができるといいなと思います。

さらに、「何になりたい?(Ka vil DU bli?)」にはもう1つ活動があります。中学3年生(ノルウェーでは10年生)を対象にして、興味のある履修コース(大学進学コースや職業コース)がある高校を訪問します。こちらも授業のひとつとして組み込まれており、教師が引率してついて行くこともあります。ベルゲンにいる約3,000名の中学3年生が自治体内の高校を訪問して、具体的な進学希望を決めたり、将来の進路を考えることになります。また、高校だけではなくベルゲン大学でも中学3年生を迎えて、実際の大学のプログラムを紹介したり、学問の紹介をすることがあります。大学への訪問は自由参加なので、大学側のどの学科が訪問を受け入れるかということはその年によって違いますが、私の勤める日本研究プログラムも中学生を受け入れたことがあります。メディアを通して日本語に興味をもった生徒が集まりました。まだ中学生ということもあり、大学進学を真剣に考えている生徒は多くないと思いますが、このような体験をきっかけに大学進学を目指すようになるかもしれません。

現在、ノルウェーではほとんどの生徒が高校へ進学しますが、高等学校は義務教育ではありません。ただ、高校のカリキュラムをスタートから5年ないし6年以内で終える生徒は8割弱ということです(参照3)。そして18歳で成人となり、色々なことを自分で決めるようになる高校卒業後は、大学に進学する人、仕事に就く人、まずは仕事をしてから進学する人など、進路は様々です。大学進学は、たくさんある進路の一つに過ぎないという環境や人々の考え方は、日本とかなり違うと思います。こういった状況も、中学生のころから自分で自分の進路を考えてみる、といった姿勢が定着している結果なのかなあと思ったりもします。

このような活動の結果を自治体が調査したところによると、非常にポジティブな意見が集まったそうです。生徒の95パーセント以上が、将来の進路を考えるのに役に立ったと言っています(参照1)。将来は、このベルゲンでの成功例を踏まえて、他の自治体でも同じような活動を計画するとのことです。我が家でもこれから次女とゆっくり話し合い、少しずつ将来の希望や夢などを聞く機会を増やしていこうかなと思います。


参考文献

筆者プロフィール
下鳥 美鈴

ベルゲン大学(ノルウェー)文学部外国語学科准教授。東海大学文学部北欧文学科卒業。ストックホルム大学で修士課程を終え、ウメオ大学(スウェーデン)で博士課程を修了。言語学博士。
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