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【ノルウェー子育て記】第9回 先生の年齢

私はこれまでにスウェーデンとノルウェーの小学校、中学校、そして高等学校に2人の子どもを通わせました。そして現在はノルウェーに住んでおり、長女が高校生で次女が中学生です。

長女が高校生になってからは、あまり保護者として学校に行くこともなくなりました。今年はいよいよ彼女も高校3年生になるので、同級生たちは次々と18歳のお誕生日を迎えています。ここノルウェーでは18歳から法的に成人年齢に達したとみなされるので、保護者が学校に呼ばれることはほとんどありません。高校を卒業したら大学へ進むのか、それとも就職をするのか。「まずは自分で考えてから判断する」と本人が言っているので、私もなるべく干渉せずに、時々その話を聞くくらいです。頼もしいような、でも同時に寂しいような。親として子離れの準備を始める時期が来たようですね。

一方、中学生の次女は、まだ義務教育を受けているので、学校との連絡は頻繁にあります。毎学期の三者面談、毎週送られてくるお知らせ、保護者会や季節の行事など。小学校ではスウェーデンでもノルウェーでも成績表などは無く、かなりのんびりした環境で過ごしてきました。勉強のことも大事だけど、三者面談で担任の先生と話すことといえば、子どもたちの友だち関係や、生活のことが中心だったような気がします。

ここ10年間ほど、スウェーデン、ノルウェーの2つの国の小学校と中学校で保護者の立場になってみて、ふと思ったことなのですが、学校にいる先生たちが総じて若いなあということに気付きました。まだ半分大学生のような雰囲気の先生が結構いるのです。私自身がどんどん年を重ねているので、当たり前と言えば当たり前ですが、特にノルウェーに来てから、何かの集まりで学校へ行くと、元気な若い先生が多いんだなと思っていました。スウェーデンもノルウェーも、小学校の休み時間は必ず校庭に出ていくことが決められていました。寒くてもしっかり防寒着を着て、外で遊ぶ。このようなときには、必ず先生がそばにいて見守ってくれているのですが、若い先生がフットワークも軽く一緒にいてくれるので、頼もしい気がしました。全体の保護者会でも、前に並んでいる先生方の中に比較的若い人が多いなあと感じました。

それを裏付けるような興味深いデータを、ノルウェーの統計局(www.ssb.no)で見つけましたので、それを紹介します。少し前になりますが、2022年の調査では全国の小学校の教員78,466人の年齢を調べると、ほぼ半数に近い47%の先生が40歳以下となっています。2015年から2022年までの統計では、40歳以下の先生の割合が年々増加しています(図1 )。


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40歳未満 40歳以上

図1 2015年から2022年の小中学校の教師の年齢別の割合  出典: ノルウェー統計局

中でも増加傾向にあるのは、20代の先生の割合です。2015年には全体の16%であったのに、2022年には21%に増えています。先生の全体の割合に対して若い先生の数が増えている理由のひとつとして、教員の雇用形態が正規教員ではなく臨時採用教員である場合が多いことがあげられるそうです。当然のように、そのような仕事は正規職員よりも給料は低く安定していないので、まだ家族をもっていないような若い年齢層の人が就くことが多いのだと思います。その少し上の30代の先生は、全体の中で26%ほどになりますが、この割合は近年は安定しているそうです。

40歳以上の先生の割合はどのようになっているかというと、2022年の時点で全体の53%です。この割合は若い先生が増えていくのに反比例して減少しています。なかでも40代の先生の数は少なくなっているそうです。

さらに統計局のデータによると、先生の平均年齢が下がっている一方で、最終学歴で大学院の修士号を取得している人の割合は年々増えているとのことです。確かにこちらの大学では、教育学を学ぶ学生の中に現役の先生がいることは珍しくありません。教員として就職してから、自分の能力を向上させるために大学院へ通うことが可能です。そのために、あえて臨時教員となって仕事をしながら修士課程に通うという人もいるそうです。近年では、就職に際してなるべく良い条件で仕事に就くために、修士号は必須だということが、理数系だけではなく文系の学部でも多くあります。そういう状況に対応するためにも、仕事に就いてからも勉強が続けられるような職場環境があることは非常に大事だと思いました。またそのことが、学生たちのためにもなり、学校の学習環境を良くしていくのではないでしょうか。

学校の先生には様々な年齢層の人がいるのが理想だと思います。経験豊富な先生もいれば、若くてエネルギッシュな先生もいるというような環境が、子どもたちに良い影響を与え、社会勉強につながっていくのかもしれません。学校の先生の人柄や生き方は、子どもたちに大きな影響を与えるはずです。いくつになっても向上心のある先生方がたくさんいてくれるっていいなあ、と思いました。


参考文献

筆者プロフィール
下鳥 美鈴

ベルゲン大学(ノルウェー)文学部外国語学科准教授。東海大学文学部北欧文学科卒業。ストックホルム大学で修士課程を終え、ウメオ大学(スウェーデン)で博士課程を修了。言語学博士。
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