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【ニュージーランド子育て・教育便り】第43回 フードテクノロジーの授業

要旨:

現在8年生(year 8:13歳)の娘のインターミディエート・スクールでは、クラス全員をいくつかのグループに分けて、グループごとに数週間ずつ6つの専門科目を履修しています。6つの専門科目とは、フードテクノロジー、科学、ハードテクノロジー、語学(フランス語)、音楽、美術です。日本に似たような科目があるものでも、日本との違いを興味深く思う部分もあり、今回はこの専門科目の中のフードテクノロジーの授業について、取り上げたいと思います。

フードテクノロジーという科目は、日本の授業に置き換えると、家庭科の調理実習に比較的近いように思います。インターミディエート・スクールの1年目である昨年から、初めてこのような授業を経験し、今年は2年目です。

この授業では、2~3人のグループに分かれて調理をしているそうです。今まで作ったものは、「ピザ」「短時間で焼けるパン」「ナシゴレン」「アップルパイ」「肉詰めのパイ」「ジンジャーブレッド・クッキー」「ハンバーガー」「カルツォーネ」などです。レシピそのものは授業で教えられるのですが、細かな部分では創造性が求められ、ピザのデザイン、パイ生地のフチのデザイン、パンのデザインなど、その中に多少の独自性を入れる方が評価されるようです。フードテクノロジーのある日には容器を持っていき、作ったものを持ち帰ってくることもありますが、その場で食べてしまうことがほとんどです。

娘が美味しかったというものは、家でも作ることがあります。中でもナシゴレンとアップルパイが娘のイチオシだったのですが、こうした料理を娘と一緒に作ってみて気が付くのは、レシピに既製品を多く使っていることです。

例えば、アップルパイの場合、冷凍のパイシートを購入して4分の1にカットして焼くだけであったり、ナシゴレンの場合にも、既存のニンニクペーストやガーリックペースト(日本で言えばチューブ入りのようなもの)を入れたり、冷凍野菜を1カップ入れるなど、便利に使えるものを多く使うという考え方です。

ナシゴレンに至っては、「材料:100グラムのご飯」などと書いてあり、学校では既に炊かれたご飯が用意されていて、お米の炊き方は習わなかったとのことでした。

私の場合、ニュージーランドの冷凍食品を使い慣れていないこともあり、レシピを見て、「このように使うのか!」ととても勉強になりました。日本の家庭科の授業では、化学調味料で代用できそうな場面でもわざわざ一番出汁の取り方を習ったように記憶しており、対照的だなと感じました。

更に、習ってくる食べ物のメニューも、カフェや外食のメニューでよく見るものが多く、日常的な家庭料理とまでは言い切れないように思います。


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冷凍のパイシートを4等分して折って作るアップルパイ。


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冷凍野菜を1カップ入れて、炊きあがったご飯に混ぜて炒めるナシゴレン。


さて、調理と言えば日本の家庭科の授業を思い出すので、大人になる前に調理の基本知識や技術を身に着けて自立への第一歩を促す授業なのだろうかとも思ったのですが、娘に関して言えば、それほど、日々使う知識やスキルとして習得している意識が見られませんでした。いずれ親元を離れた時、自分の生活の中で料理をしなければいけないとか、栄養のバランスを考えなければならないといった話も、授業の中であまりされた記憶がないのだそうです。

「家で作りたかったら是非作ってみてとも言われるけれど、私たちが考えていることは作る楽しさを味わえる時間だということくらいだよ」と話しており、今後の生活における意味などはそれ程意識しないそうです。

面白いなと思って少し調べてみると、カリキュラムとして明記されているわけではないのですが、将来的に調理師になるような子どもたちへの導入として、インターミディエート・スクールでのフードテクノロジーという授業が位置付けられていることが多いようです。そのように考えると、日常生活の自立スキルと結びつけていない娘の考え方も、それほど特殊なものではないように思いますし、メニューの選定や調理の基本の流れは教えるけれど、随所に創造性を出して工夫を促していることなど、納得がいくことが多いように思います。

話題は変わりますが、数年前に、子ども向け料理教室を開催している人にお願いして、娘と娘の親友2人に手打ちパスタを教えてもらったことがありました。 彼女は、手打ちのパスタを小麦粉から作ったり、自分の庭で育てたハーブを持ってきてくれて、必要な時に必要な分だけ庭の葉っぱを取るやり方を教えてくれたり、ニンニクの使い方、切り方などを丁寧に教えてくれました。

料理することは毎日健康に生きるために必要なことだと若い人たちに教えたいと起業したのだそうです。

私が「日本では学校教育の中に家庭科という授業があって、家庭科の先生方は同じような思いで教えている方が多いように思う。素敵な料理ではなく、ご飯の炊き方や味噌汁の作り方といった基本的なことを習ったことを覚えている」と話すと、彼女が「日本はなんて素晴らしい国!」と感動して、家庭科の授業に非常に興味をもってくれて話が盛り上がったことを思い出しました。


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ニンニクの薄皮のはがし方やハーブについて説明を受けていた時の様子


同じ調理という行為ですが、ニュージーランドでは職業スキルの前段階として、一方日本では生活の自立スキルとして教えているように感じられて、非常に興味深く思います。また、私自身は長年、料理に対して生活のスキルとしての意味を強く感じていたのですが、子どもたちのように作る楽しさを味わうためにお料理をするというのも、日常生活の中にあってもいい感覚かなと思い始めています。

筆者プロフィール
村田 佳奈子

東京大学大学院教育学研究科修士課程修了。幅広い分野の資格試験作成に携わっている。7歳違いの2児(日本生まれの長女とニュージーランド生まれの長男)の子育て中。2012年4月よりニュージーランド・オークランド在住。
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