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テクノロジーと共に育つ、アメリカのキンダーガーテン教育の例~withコロナ

要旨:

2020年に新型コロナウイルス感染症(以下、コロナ)が全世界で大流行し、私たちの生活は大きく変化した。特に、アメリカで学校が閉鎖され、教育の機会が失われたことは、子どもたちにとって大きな出来事であったと考える。本稿は、長引くコロナと共存しながら、新しい教育の形とともに成長する学校現場と子どもたちの様子をアメリカからお伝えすることが目的である。オンライン授業を経て、対面授業に戻った教室でのノートパソコン(Chromebook)の利用、宿題、教師とのコミュニケーションも、すべてがオンラインの環境に移行している様子を報告する。

キーワード:
デジタル教育、デジタルネイティブ、メディアリテラシー、キンダーガーテン、就学前教育、チャータースクール
はじめに

長かったオンライン/ハイブリッド型授業が終わり、2021年9月の新学期*1からは多くの学校(併設のキンダーガーテンも含む)が対面授業を再開しました。コロナを考慮し、オンライン授業を続けたい家庭は、オンラインを選択することができますが、8~9割の家庭が対面型を選び、学校に戻りました。アメリカの就学前教育についての記事で、アメリカの教育制度に関してご紹介しましたが、アメリカでは5歳のキンダーガーテンから義務教育が始まります。今回は、コロナの中、キンダーガーテンという大きな節目を迎えた息子が、チャータースクールで受けているデジタルツール満載の教育環境についてお伝えできればと思います。チャータースクールとは、学区や学力に関係なく通うことができる、多くの生徒に開かれた独自の教育方針をもった学校です。学校が独自の予算をもっており、教育のカリキュラムが他の学校と異なるところがあります*。ここでご紹介するのは、あくまでもたくさんあるチャータースクールの中の一校の学習環境なので、地域や学校によって差があることを前提に読み進めていただければと思います。

デジタルネイティブたちの学習環境

学校が始まった初日、ノートパソコン(Chromebook)がクラス全員に無料で支給されました。息子のリュックがいきなり重くなって帰ってくると、息子が早速Chromebookを中から取り出して使いこなしていることに驚嘆しました。パソコンはロックがかかっており、ログインのために個別のQRコードが発行されていました。5歳の息子が、QRコードをかざして、パソコンのロックを解除するのを見たときは、デジタルネイティブ*2という言葉が脳裏に浮かびました。Chromebookと同時にタッチペン*3も支給され、5歳の子どもたちは、鉛筆ではなく、タッチペンで書く練習を始めます。アメリカの教育では、キンダーガーテンから読み書きが始まるので、彼らは、アルファベットの書き方を、タッチペンで学ぶことになります。Chromebookは、キーボード部分を折りたたむとタッチパッドとしても使うことができ、画面を直接タッチするタッチパッド式とキーボー入力、どちらでも作業ができます。

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支給されたChromebook

鉛筆と比べると、Chromebookのタッチペンは細く、キンダーガーテンの生徒には握るのが大変そうだと思いました。

クラスの中心はオンライン・プラットフォーム

学校からは、「教室では紙を使わないことを目指しているので、オンラインで課題を進めます」とメールが来ました。宿題や参考になる資料などはすべてオンラインの教育プラットフォーム(Google Classroom)にアップロードされており、親の最初の仕事は、Google Classroomにログインすることでした。ワンピースを着たアメリカ人女性のような先生のイラスト付きの画面に、たくさんの課題が出されているのを見て、時代を感じました。

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ノートパソコンで宿題を確認する様子
ノートはもうない!? 宿題の提出方法

私たちの時代の日本では、宿題をしたノートを翌朝学校へ持っていき、先生に提出するシステムだったと思います。一方、息子たちの場合、Google Classroomに学校でやる課題、家でやる宿題が用意されており、学校でも、オンライン上の課題をこなします。何時のクラスの課題と書かれたところにアクセスし、その課題をアプリで開き、終わったら、オンラインで提出し、先生から「見ました!」とコメントが返ってくる仕組みです。課題はオンライン上にあるので、親も、子どもがどこまでできたかを確認することができます。そもそもアメリカでは全国で統一された教科書がなく、使う教材は担任に任されているシステムなので、日本の学習とは少し異なるかもしれません。日曜の20:00までに提出することになっている息子のオンラインの宿題は、提出方法や時間の設定などが、私の大学時代の課題のようだなと感じます。

学校では、プリントの課題とオンライン上の課題、半分半分でやっているようで、Google Classroomにある課題を印刷したものに鉛筆で記入し、持ち帰ってくることもあります。教室には、大きな壁かけモニターが設置されており、その画面で理科のビデオを見たり、教育系のYouTube動画を見ながら授業を進めているようです。カリキュラムは子どもの集中力に合わせて30分ごとに区切られており、テンポよく進んでいるようです。

連絡帳の代わりに毎週のメール

私の記憶では、日本では連絡帳を使い、毎日黒板に書かれた明日の持ち物を書き写していたのですが、アメリカでは連絡帳というものはなく、週末にメールが送られてくるシステムです。メールには、宿題と来週の予定が書かれています。学校のイベントなどは、ペアレンツスクエアというアプリでリマインダーまで送られてきます。息子の通う学校では、子どもの体調が悪い場合などには、先生から保護者に直接ショートメッセージ(SMS)が送られてくるシステムになっています。何か質問があるときは、SMS、メール、電話を利用したり、お迎えに行く際に直接聞くことができます。

読書もデジタル。読み上げ機能まで...

息子の学校では、ブック・ショッピング(book shopping)と言って、本を貸し出してくれる日が週に1回あります。毎週、先生が生徒のレベルに合った新しい本を選んで、袋に入れてくれます。そこで借りてくる本は、紙媒体なのですが、その他に、電子書籍やアプリも併用しています。電子書籍のアプリ(TumblebookやEpic)は、電子書籍を読めるものと、読み上げ機能がついているもの、オーディオブック、ビデオがあります。例えば、「おさるのジョージ」の読み上げ機能がついた本を選ぶと、今読んでいる単語がマークされてどこを読んでいるかがわかるようになっており、文字を読みはじめの子どもたちには読書の助けになっています。

通知表もオンライン

私たちが子どもの時代は、学期末になると、先生たちがハンコを押して成績を記した通知表が配られていたと思います。息子の学校では、通知表や成績もオンラインで管理されており、学校専用のサイトを通して成績を見ます。これはアメリカの高校などでも使われているシステムで、小テストから、全体の成績、クラスの中のどのあたりの順位なのかも表示されます。この他に、学期ごとの進捗がメールで送られてきます。

スマートスピーカーで鍛えられた息子の音声入力

生まれた時から、ビデオ通話することを知っている子どもたちは、私たちが思う以上に大人の行動を見ています。何も教えていない状況で、器用に絵を描き出した時は、言葉を失いました。ですから、デジタルネイティブには、音声入力もお手のものです。

息子は、学校に行きだしてから、音声入力の使い方を習得して、私たちに見せてくれました。我が家ではスマートスピーカーで部屋の照明を管理しているので、デジタル機器に音声で指示を出すことに慣れているのだと思います。検索アプリを開くと「ダース・ベイダー」などと言って、音声入力と検索を使いこなしていました。続いて「ゴジラvsダース・ベイダー」などと言って入力して面白い画像を検索する姿を見て少し怖くなり、チャイルドロックを設定する必要性を痛感しました。

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ペンを使って、イラストを描く様子
デジタル教育と親の視点

デジタル教育のマイナス点を挙げるとすれば、サポートする親がオンラインで行う作業が多いことです。読書用のアプリ、成績用のサイトなど、息子が学校教育を受ける中で必要になるアカウントをそれぞれ作成し、設定してほしいといった、家庭への指示メールがたくさん送られてきます。慣れていない家族にとっては大変なのではないかと感じました。多くの情報がメールで送られてくるので、情報についていくのが大変な時があります。他の保護者と話していると、「メールを見落としていた!」、「まだアカウントを作っていない」という話になることがあります。

また、デジタルデバイスとの付き合い方は、大人も子どもも苦労しているところではないでしょうか。読書用のアプリも理科のビデオも、どれも創意工夫されおり、子どもにとってはとても魅力的です。しかし、一度やり始めると、切り上げることが難しく、夕飯の時間になっても「まだやりたい!」朝起きたら、すぐに、「パソコンを開きたい!」という日もあります。デジタルデバイスとの付き合い方は、何歳であっても難しい課題だと思います。

その一方で恩恵もたくさん受けています。デジタルネイティブである現代の子どもたちは、場所・時間関係なく、質の高い教材に容易にアクセスすることができます。理科の実験でも、今までであれば本でしか得られなかった知識が、オンラインで容易に詳細な手順まで見ることができます。言語の学習は、親がネイティブでなくとも、ネイティブの人が読み上げてくれるアプリや動画にアクセスして、子どもたちはネイティブの発音を聴くことができます。教室で教えているような、フォニックス(発音)のビデオにアクセスができ、教材を無料で印刷することができます。語学学習をしたいと思ったら、見せるテレビの言語を英語、スペイン語、フランス語等、簡単に変更することができます。パソコン一台あれば、彼らの興味のあるものにアクセスすることができ、楽しく掘り下げて自宅で学習できる環境が整っていると思います。

おわりに

生まれた時から、コンピュータやスマートフォンに囲まれて育ってきた子どもたちの未来はどのようなものなのでしょうか。本稿では、宿題、連絡帳、本、通知表が全てデジタル化されている、アメリカのオンライン・プラットフォームを活用した教育についてお伝えしました。2021年11月の時点で、アメリカでは、ワクチンの接種年齢が5歳まで引き下げられ**、withコロナ教育の形がまた変化しそうなところにいます。様々な教材に容易にアクセスできる時代に生きる子どもたちの未来が輝かしいものになることを願っております。


    【脚注】
  • *1 アメリカの学校は、9月始まり、6月終わりのところが多い。夏休みは約3ヶ月近くある。
  • *2 デジタルネイティブとは子どもの頃や学生時代からインターネットやコンピュータのある環境で育った世代のこと。
  • *3 タッチペン(別名スタイラス)Chromebookのタッチパネルに対応。


筆者プロフィール

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吉田 明尚(よしだあきな)

臨床心理士/公認心理師、研究者。慶應義塾大学卒業。上智大学大学院 総合人間科学研究科 博士前期課程卒業。母子支援の分野に従事。都内の大学附属病院、総合母子保健センターにて、子どもの発達検査、フォローアップ、研究に携わる。区の心理相談員、1.6歳児健診、3歳児健診の心理士として、これまで1200人以上の保育者の相談に乗ってきた。保護者のカウンセリングの他、ペアレントトレーニングや心理教育、お子さまのプレイセラピー、発達検査などを担当する。
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