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就学前教育から、オンライン授業に触れる子どもたち~With コロナ

要旨:

2020年に新型コロナウイルス感染症(以下、コロナ)が全世界に大流行し、私たちの生活は大きく変わった。特に、アメリカで学校が閉鎖され、教育の機会が失われたことは、子どもたちにとって大きな出来事であったと考える。本稿では、アメリカの就学前教育の概要、オンラインクラスと対面式クラスのハイブリッド式の様子、コロナ下の家族の様子、生徒と先生の関係性について紹介していく。

キーワード:
アメリカの教育、就学前教育、デジタルネイティブ、オンラインクラス、Pre-K、Withコロナ
はじめに

アメリカの教育というとどんなイメージをおもちでしょうか? 自由、個性を尊重するクラスルーム、カラフルな掲示物、生徒の多様性などでしょうか。アメリカの教育制度は、日本と異なることが多く、アメリカの方が進んでいるなと感じるところ、日本の方が優れているなと感じるところなど面白い部分がたくさんあります。私は、アメリカの東部で夫と4歳の元気な男の子と暮らしています。3歳で初めてオンラインによる保育を受けた息子との経験を振り返りながら、研究者として、母として、両方の視点から、アメリカの就学前教育に関してお伝えできればと思っています。

尚、幼児教育の枠組みの中のPre-Kクラスではありますが、いわゆる学校の「授業」に近い内容であるため、以降はその活動を「授業」としてご紹介いたします。

アメリカの学校教育制度
まず、アメリカの教育制度について簡単に説明します。アメリカは広く、日本のように統一された教育システムがなく、各州によって教育の制度が異なります。私の住むアメリカ東部では、キンダーガーテンから、12年生までが義務教育とされています。日本でいう、6・3・3制の教育は、アメリカでは5・3・4制、6・2・4制というように、学校によって異なります。 report_09_426_01.png
アメリカと日本の教育制度の違い

https://www.us-lighthouse.com/life/daijiten/school-and-education-system.htmlを参考に筆者作成)

アメリカの学校は、9月に新学期が始まり、6月に終わることが一般的です。学年の区切りも一律ではなく、地域によって異なります。9月で区切る州や1月で区切る州など、まちまちです。誕生月によっては、1つ学年を下げることも可能ですし、子どもの学習の進捗状況に合わせて飛び級したり、低学年だと同じ学年を2年履修したりと、子どものニーズに合わせた教育を受けることが可能です。日本の3年保育の年中にあたるPre-K(4歳児保育)に通わせるのかどうかは親の任意とされており、施設は私立の州が多いですが、州や地域によっては公立のPre-Kもあります。本稿では、アメリカ東部の公立のPre-Kの様子をご紹介したいと思います。

アメリカの学校の選択肢の多さ

アメリカには、学校の選択肢が多くあります。公立校、私立校の他に、後述するチャータースクール、マグネットスクール、ギフテッドスクールというものがあります。さらに、ホームスクーリングも盛んです。

公立校は、住む場所により学区が決まっており、住所によって決められた学校へ進学することになります。学区の評判がよい地域は、必然的に家賃相場が高いという現実があります。

私立校は、一人の先生あたりの担当生徒数が少なく、学校独自のカリキュラムを取り入れていることが多いです。地域によりますが、アメリカの学費は、日本に比べて、非常に高いです。

ギフテッドスクールとは、特別な才能がある子どもを対象に、子どもの能力にあった教育を提供する、「出る杭」をとことん伸ばす教育です。試験での選抜が主ですが、先生からの推薦で入学できる場合もあり、公立校、私立校ともにあります。

チャータースクールとは、地域住民や教員などが州や学区の認可を受けて運営する、公設民間運営校で、学区に関係なく生徒を受け入れています。独自の予算をもっており、それぞれの理念や教育方針に基づくカリキュラムが学校ごとにあります。

マグネットスクールとは、様々な教育レベル、人種、文化的背景などをもつ生徒を幅広く受け入れている学校です。抽選で入学者を決めるため、学区に関係なく通うことができます。カリキュラムは学校により異なり、演劇やアート、サイエンスなど学校ごとに力を入れている科目があります。

ホームスクーリングという、自宅学習を選択する事もできます。コロナ前は、アメリカの子どもの約3~4%の生徒がホームスクーリングを選択していましたが、コロナの影響で2021年6月の調査(1)では、約6%の生徒が自宅学習していると言われています。自宅学習を選択し、その分ダンスや演技、音楽など子どもの得意なことに時間を割く家庭もあります。

休校の先に待っていたのはハイブリッド型授業

コロナによる影響が始まった2020年の3月から、一時期、授業がお休みの期間がありました。その後、学校によって、オンライン授業が始まり、コロナが少し落ち着いてからもそれを継続している学校、あるいは対面式授業を再開する学校など、学校によって対応は様々でした。息子の通う学校では、ハイブリッド式を導入しており、オンライン授業と、クラスを少人数に分けた分散登校での対面授業が行われていました。子どもの安全面を考慮し、オンライン授業のみを希望する場合は、引き続き、オンラインのみを選択することができます。

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分散登校のスケジュール

対面式の際は、クラスサイズを小さくするため、月曜日と火曜日に登校するコホートAと木曜日と金曜日に登校するコホートBに分けられました。水曜日は隔週で登校、隔週でオンラインクラスです。ランダムで職員・生徒へのPCR検査が実施され、陽性者が出ると2週間オンライン授業のみに変更しており、スケジュールが安定しない日が続きました。

対面式クラスの様子

クラスの人数は8人で、マスク着用、ソーシャルディスタンスが義務付けられました。ランチの際は、窓を開け、各自離れた席で食べ、私語は慎むようにと指導されていたようです。換気のため窓が開いているので、とても寒いらしく、ダウンジャケットを着たまま授業を受けている生徒もいたようです。校庭で遊ぶ時間、アートの時間など、子どもたちは学校に戻って、友達に会えることがとても嬉しそうな様子でした。アートクラスの時間に作った作品を家に持って帰ってきた子どもの笑顔を見た日には、学校での日常の生活がとても貴重だと感じました。同じクラスでも、コホートAとコホートBの子どもは会うことができないので、手紙が掲示されていたり、作った作品について説明が書かれていたり、先生が生徒たちの架け橋となってくれていました。

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(左)コホートAがアイスクリームショップを作り、コホートBがそこに作品を加えたもの
(右)対面授業でアートの時間に作ったロケットブースター
  
オンラインクラスの様子

オンラインクラスは、ビデオ会議システム(Zoom*1)を介して行われ、時間は集中力が保てるように30分間が基本です。

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オンラインクラスの時間割

Morning meetingの時間は、子どもたちが近況をシェアする時間と、先生による読み聞かせがあり、最後には国語と道徳のような授業が行われました。Centersは算数や理科のような内容で、数や形、色、パターンについて学びました。午後のSmall Group Activityでは、3名の生徒と先生でゲームをしながら算数を学びました。

中でも一番感謝しているのが、その短い時間の中で、全員が発言できる機会が与えられていたことです。学校で先生にいろんな出来事を報告できるように、Zoomクラスの中でも、先生とコミュニケーションをとる時間が設けられていました。短い時間だけれど、16名の子ども(Pre-Kは2クラスあり、息子がいるコホートBのオンラインクラスは16名)が一人一人発言し、それに対して、きちんとコメントを返してもらっていました。ですから、先生のきめ細やかな力量には、毎度感服するばかりでした。最初は手探りだったオンライン保育の中で、先生たちは常に努力し、子どもたちに学びの機会を与え続けてくれました。子どもたちは、先生と話すのを楽しみにしており、学校には行けないけれど、一人一人が「大切に思われている」と感じられる貴重な時間だったと思います。おもちゃを見せたり、レゴの作品を見せたり、週末に行った場所の話をしたり、一方通行ではない、子どもが主役になれる場があったことは子どもたちの心にとって重要であったと感じます。

現代っ子はミュート解除もお手のもの

子どもたちは長く続いたオンライン授業により、Zoomの操作にはだいぶ慣れてきていました。4歳の子どもですら、親が隣にいなくとも、自分でミュート解除のボタンを押して、発言できる子どもがほとんどでした。中には、子どもが勝手にミュートを解除したために、家庭内のスペイン語会話が聞こえてくるという、アメリカらしい場面もありました。子どもたちは、Zoomの使い方をよく知っていて、親が見ていないことをいいことに、Zoomの画面にホワイトボード機能を使って落書きする子どもなどもいました。デジタルネイティブ世代は本当にできることが多く、侮れないなと思いました。

オンライン授業での子どもたちの相互作用

子どもたちは、授業の途中で質問があったり発言したい場合は、手をあげて先生が名前を呼んでくれるのを待ち、指されてから発言します。一人の子どもが「〇〇先生、先生は一番素敵な先生です!」と先生に伝えると、他の子どもたちも次々に同じことを繰り返すという、心温まる場面もありました。一人の生徒が、「この学校とこのクラスが大好きです」と言うと、「私もこの学校とこのクラスが大好きです」と優しさが伝染していく場面は、心が洗われるような気持ちでした。オンライン上で、新たなリーダーシップも垣間見えたような気がします。

子どもたちの目が輝く時間

オンライン保育の中で、一番盛り上がったのは理科の実験の時間でした。いつもは集中力が切れてしまうことがあるオンラインクラスでも、理科は別物です。全生徒が、画面を食い入るように見ていました。これは、エレファント・トゥースペースト(象の歯磨き)という過酸化水素水を使った実験の様子です。

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象の歯磨きの実験の様子(写真: Petrovskyz, CC BY-SA 4.0.

過酸化水素水に石けんなどの液体を注ぐと、もくもくと上がっていく泡に、子どもたちが「おぉーーーー」と歓声を上げ、大興奮していました。必要な材料はこのサイトから確認できます。一度この実験をすると、歯磨きのたびに子どもが実験を思い出して、やりたがります。実験後、2週間くらいは「僕も実験した」「フードカラリング(食紅)を加えて、色をつけてやってみた」などと報告が続きました。

金曜日は毎週みんなで踊って週末を迎える

オンラインで迎える金曜日は、ダンスフライデーです。クラスの最後の5分間、Zoom越しで先生も生徒もみんなで踊ります。運動不足の解消のためでもありますが、金曜日はHappy Fridayということで、先生たちの気分の高まりも感じられます。ズンバというエクササイズを踊る日もあれば、ヒップホップの日も、「I like to move it」というパーティソングをかけて踊る日もあり、アメリカのパーティー教育はこんなところから始まるのだなと思いました。画面には子どもたちが歌って踊っている動画が共有され、真似して踊る子、自分のスタイルでかっこよく踊る子など、様々です。初めは恥ずかしそうにしていた子どもも、先生の元気な声に後押しされて、音楽が終わる頃にはみんなノリノリになっています。

オンラインクラスから見えたもの

オンラインクラスでは、家庭の経済格差が見える場面もありました。生徒の中には、ナニーさんがつきっきりでサポートできる家庭も何組かありました。4~5歳の子どもがオンラインレッスンを受けるとなると、まだサポートが必要なことが多く、課題をするのにも、親の手伝いが必要な時が多々ありましたが、ナニーさんがいる家庭では、子どもに付き添うのは親ではなくナニーさんでした。

また、オンラインの環境を整えるのは結構大変なことです。全ての家庭に、子ども用のパソコンや、タブレット端末があるわけではありません。例えば、3人家族であれば、全員が同時にオンライン対応を行う場合、父親用のパソコン、母親用のパソコン、子ども用のパソコンが必要になり、オンライン通信のタイミングが重なれば、3人分のスペースとイヤホンが必要になります。子どものオンライン授業が長引いたことで、親も子どもも同時にミーティングがあるという状況が日常茶飯事となり、親がつきっきりでサポートできない家庭も多く見受けられました。子どもが2人いる家庭の場合は、上の子のパソコンと、下の子のパソコンが必要になり、2人分のスケジュールを管理する必要があります。中学生、高校生になれば自分で管理することができますが、3歳、4歳、6歳の3人兄弟がいるお母さんは、全員在宅の日はスケジュールが目まぐるしく、身体がいくつあっても足りないと言っていました。学校側は、貸出用のパソコンを配布するなど、少しでも教育の機会が平等になるよう、工夫していました。

中には、親が忙しく、Zoomのクラスにログインしない家庭や、電車で移動中に参加している家庭もあり、本来であれば、学校で教育を受けられるはずだった子どもが教育の機会を逃がしてしまう場面もあるように感じました。先生がサポートしてくれるはずの勉強の機会が数ヶ月なくなってしまったことは、家庭での学習機会が少ない子どもにとっては、大きなインパクトがあったと思います。特に、アメリカは家庭の経済格差が激しく、家庭での学習環境、家庭にある教材や資源は大きく異なります。アメリカでは、ホームスクーリングを選択する家族もいますが、ホームスクーリングを選ぶ家族のうち、68%が白人家庭、15%がヒスパニック系家庭、8%が黒人家庭、5%がアジア系家庭と人種に偏りがあります(2)

おわりに

オンライン保育は大変なこともありましたが、クラスの中の様子を覗くことができる貴重な機会でもありました。わが子と同じ月齢の子どもの描く絵や、話し方を見ることができるのはとても興味深かったです。子どもならではの柔軟な発想に驚かされたり、先生にかける労いの言葉が大人のようで感心したりと、毎度短い時間の中で学びがありました。何より、オンラインでもつながりをもち続けられたことは、子どもにとって大切な心の拠り所だったと思います。先生からすれば、両親と子ども全員に見られている緊張感や、オンラインならではの事前準備などがあり、大変だったと思います。しかし、みんなが一丸となり、大変な時期を切り抜けることができました。2020年~2021年の怒涛の変化を頑張って支えてくださった先生たち、病院の医師や看護師さんなどの医療従事者の方々、全ての家族に拍手を送りたいと思います。

2021年9月から対面授業に戻ったキンダーガーテンについては、また改めてお伝えしたいと思います。



筆者プロフィール

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吉田 明尚(よしだ・あきな)

臨床心理士/公認心理師、研究者。慶應義塾大学卒業。上智大学大学院 総合人間科学研究科 博士前期課程卒業。母子支援の分野に従事。都内の大学附属病院、総合母子保健センターにて、子どもの発達検査、フォローアップ、研究に携わる。区の心理相談員、1.6歳児健診、3歳児健診の心理士として、これまで1,200人以上の保育者の相談に乗ってきた。保護者のカウンセリングの他、ペアレントトレーニングや心理教育、お子さまのプレイセラピー、発達検査などを担当する。
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