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【ニュージーランド子育て・教育便り】第31回 スピーチコンテスト

要旨:

娘の小学校では、毎年ターム3(3学期)になると子どもたちがスピーチ原稿を作成し、スピーチのコンテストが行われます。原稿準備の段階、話す練習の段階で、担任の先生から具体的に多くの助言をもらい準備をしていきます。その後、クラスでのスピーチ発表から始まり、地域の大会に出るまで、都度選抜されていきます。今回は娘がスピーチを仕上げる様子や選抜の仕組みについて紹介します。

娘の小学校では、毎年ターム3(3学期)になると、1か月ほどの時間をかけて子どもたちがスピーチ原稿の作成や発表の準備をし、その上でスピーチコンテストが行われます。娘の小学校の場合には、現地の3、4年生(7歳から9歳前後)は任意参加、5、6年生(9歳から11歳前後)は全員参加としているようです。そこで習うスキルは、いずれ仕事でも役立ちそうなので、傍で見ていて少し羨ましくもあります。今回は、子どもたちがどのようにしてスピーチ原稿を書き上げるのか、またコンテストがどのように行われるのかを取り上げたいと思います。

スピーチ原稿の作成

はじめに原稿の作成が行われます。テーマは、年齢相応の内容で説得力のあるものであれば、なんでも構わないそうです。多くの子どもたちがテーマに選ぶ内容は、気候変動、その次にペットなどの動物に関するものだそうです。中でも気候変動をテーマに選ぶ子の割合は圧倒的に高いそうで、ニュージーランドの子どもたちの環境問題に対する関心の高さをうかがわせます。原稿の構成や内容に関する助言や評価としては、聴衆を惹きつける導入部、文章構成、終わり方、適した語彙を使うこと、適した形容詞を使うこと、(必要に応じて)ユーモアを交えること、文章の長さのメリハリなどがアドバイスされ、子どもはアドバイスに従って何度も書き直すようです。宿題として途中で何度か娘が家に持ち帰ってくることもありました。書き上げた原稿は最終的には、スピーチをする時に手もとで参照できるような、小さいサイズの紙に段落ごとにまとめます。また、話しながら目を落としたときにすぐに読みたい場所を見つけられるように、キーワードや文章の最初などをハイライトするなど工夫をしておくように言われるそうです。

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手もとに用意する原稿

ちなみに、娘は去年、気候変動でも動物でもなく「学校に食堂が用意されるべき」というテーマでスピーチ原稿を書いていました。日本の小学校で1年生を数週間体験させて頂いたときに食べた温かい給食と、現在通っているニュージーランドの小学校に自分で詰め込んで持参する質素なお弁当とでは、はるかに日本の給食の方が美味しいそうです。そんな思いがこもっていたのか、私が原稿を読んでも、学校に食堂があったらいいなと思わせる内容になっていました。

話す練習

原稿が素晴らしい内容であっても、話し方にはまた別のスキルが要求されます。しっかりと聞き取れるような明快で大きな声、声の抑揚、休止の入れ方、スピード、ハンドジェスチャー、アイコンタクト、リラックスしていること、気持ちを入れる、全体としてまとまりのある出来栄えにする、など多くのことをアドバイスされるそうです。時間制限もあり、2分30秒から3分の間にまとめる必要があります。原稿を家に持ち帰ってきて、その時間内にスピーチが収まるのかを練習するように、という宿題もありました。保護者宛のメールにも、「多くの子どもたちがコンテストで選ばれない理由は、緊張しすぎて早口で話してしまうことにより2分30秒以下で終わってしまうことなので、練習を手伝ってあげてください」とありましたが、これも本気で親が手伝うとなると、それなりに労力が必要だと思います。我が家では、簡単に時間を計ってみたら運よく丁度いい時間内に収まっていたので、あとは本人に任せてしまいました。

コンテスト

こうして時間をかけて作り上げたスピーチ原稿と話し方の練習にもとづき、子どもたちはコンテストで発表を行い、順位がつけられます。選抜者を選ぶコンテストの流れですが、3回の校内選考(①クラス発表会②2学年合同の発表会③全校生徒の前での発表会)を経て、本戦(④)である地域のスピーチ大会での発表となっています。最初にクラスでの発表の結果、5~8名くらいを選びます。ここで選ばれた子どもたちが、2学年合同の発表会に進みます。そこで、3・4年生からは3名、5・6年生からは6名が選ばれます。そして、この9名で全校生徒の前での発表があり、そこでの評価が高かった3名が学校代表として、地域の大会へと進むという流れになっています。

昨年、娘は5年生として③の全校生徒の前での発表会にまで進むことができました。しかし、スピーチが早口になりすぎないように意識したところ、逆に制限時間をオーバーしてしまったとのことでした。それでも選ばれる過程の中で、いろいろな先生からコメントやアドバイスを頂き、勉強になったようです。

このようにスピーチ原稿の作成、発表の仕方、コンテストの実施にかけている時間やエネルギーを鑑みると、ニュージーランドの学校教育の中でかなりスピーチが重視されているように感じます。スピーチに対して情熱があり、熱心に練習をしているお子さんもいる様子です。また、このスピーチにおけるジェスチャー、アイコンタクト、ユーモアの取り入れ方などは、文化的な背景も異なる日本の教育を受けてきた私には、とてもアドバイスしきれないと思う類のものでもあります。一年に一度、普段の会話とは違う正式な場で、どのように説得力のある話し方をするのかを学ぶ機会という面でも、このスピーチに関する取り組みをありがたく感じます。

なお、今年も3学期のスピーチシーズンとなり、娘のクラスでは発表会が行われたところでした。帰宅してからも娘は、先生やクラスメイトからもらったフィードバックも興味深く読んでいました。ところが、その翌日からニュージーランドは全土のロックダウンになってしまい、学校閉鎖が続いています。遠隔教育では、スピーチではない学習内容を勉強中です。再び、子どもたちが自由に声を出して、人前で発表できるような機会が早く訪れることを願っています。



筆者プロフィール
村田 佳奈子

東京大学大学院教育学研究科修士課程修了。幅広い分野の資格試験作成に携わっている。7歳違いの2児(日本生まれの長女とニュージーランド生まれの長男)の子育て中。2012年4月よりニュージーランド・オークランド在住。
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