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【ニュージーランド子育て・教育便り】 第15回 子どもの音楽教育

村田 佳奈子

2020年3月19日掲載

要旨:

ニュージーランドでは小学校入学の年齢にあたる5歳頃から習い事として音楽を始めることが多いようです。学校の授業を抜けて音楽を習うことのできる仕組み、楽器のレンタルの仕組み、イギリスの音楽教育システムの試験に向けて取り組む様子など、ニュージーランドの音楽教育の在り方についてご紹介します。

ニュージーランドに来て以来、子どもの演奏する音楽を聴く機会が多くあります。その度に、子どもたちがとても楽しそうに自信をもって演奏していることが印象に残っています。ニュージーランドで子どもたちがどのように音楽を習っていくのか、今回はピアニストとしての演奏活動の傍ら、ニュージーランドで音楽の教育にも携わっている磯村健斗さんを知人に紹介して頂き、インタビューの機会を設けて頂きました。


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磯村 健斗(いそむら・けんと)

オークランド大学ピアノ科修士課程を首席で卒業(修士)。 これまでにオークランド・フィルハーモニアオーケストラ、クライストチャーチ交響楽団などとの共演他、国内外の多くの演奏家と共演。 アメリカ Heifetz International Music Institute の音楽祭にピアノ奨学生として参加出演。 また弟の磯村翔之(ヴァイオリニスト)と結成しているデュオ ISOMURA BROTHERS としてもニュージーランドを拠点に世界各地で演奏。 ニュージーランドで初めてTSUNAMIヴァイオリンを使用し、東日本大震災の復興支援チャリティーコンサートツアーを開催。 オークランド大学専属ピアノ伴奏者。


ニュージーランドで子どもたちはどのように音楽を習い始めるのでしょうか。

磯村: ニュージーランドの小学校では、学校の中で習い事として音楽を習うことができますi。小学校に入学した後の5-6歳頃に、この仕組みを使って初めて音楽に触れるという子どもが多いようです。申し込みをしている子どもたちは、学校の授業中に別の教室で音楽家iiからレッスンを受けます。レッスン時間は、グループレッスンまたは個人レッスンとして週に1回、20~30分ほどです。小学校の中で習うことができるため、保護者に送迎をしてもらう必要もなく、子どもたちは気軽に安全に音楽を習うことができます。特にグループレッスンの場合には料金的な負担も少ないためか、子どもの自発的な関心が契機となり、学校内で楽器に触れ始める子どもが多いように感じています。学校による違いはありますが、この仕組みは高校まであります。音楽に親しむことを目的にグループレッスンのまま習い続ける子どもも多いですが、より本格的に勉強していきたいと思っている場合には、徐々に個人レッスンに移行していきます。もちろん、最初から学校以外の場で個人的に習い事として音楽を習うことも多くあります。その場合でも、小学校に入学するくらいの年齢で習い始める子どもが多いようです。一方、ニュージーランドの小学校の先生が授業で音楽を扱う際は、簡単な歌を歌ったり、手拍子のゲームをするといった程度であることが多く、成績がつくこともありません。

子どもの習っている楽器の種類が日本に比べて多いように思います。なぜそのようなことが可能なのでしょうか。

磯村: 子どもが習うことのできる楽器の種類は、ピアノ、弦楽器、木管楽器、金管楽器、打楽器など多岐に渡りますiii。これだけ多くの種類の楽器を習うことを可能にしているのは、楽器を習うとなった場合に必ずしもその楽器の購入が前提とされていないということもあります。ニュージーランドでは楽器店の多くは、子ども向けに楽器の貸し出しプランを用意しています。例えば、ピアノの場合には1年間で1,300NZドル程度(約87,000円)、ヴァイオリン・ヴィオラ・チェロなどの弦楽器の場合は200~500NZドル程度(約15,000~36,000円)、フルート・クラリネット・トランペット・トロンボーンなど管楽器は250NZドル程度(約18,000円)でそれぞれ楽器を借りることができますiv。高価な楽器を習い始める最初のハードルを下げていることはもちろん、習っている楽器を途中で変えたり、複数の楽器を同時に習うということも少なくありません。ニュージーランドでは、高校の段階から学内にオーケストラがあることが多いのですが、多くの生徒が弦楽器をはじめとする高価な楽器を比較的簡単に借りることができるという仕組みにも支えられています。

ニュージーランドで子どもたちは音楽の試験に向けて熱心に勉強しているようです。試験の位置づけや内容はどのようなものなのでしょうか。

磯村: 教本の学習に加えて、大多数の子どもたちはイギリスで作られている2つの試験、英国王立音楽検定vまたはトリニティカレッジロンドングレード試験viを受けていくことになります。これらの試験が長い間ニュージーランドの音楽教育に活用されてきたためか、楽器を習い始めて1年くらい経つと、自然に多くの子どもたちがこれらの試験を意識するようになります。
英国王立音楽検定の場合には、実技試験は課題曲3曲の演奏、初見演奏、オーラルテストvii、スケール課題viiiで構成されています。また、実技試験とは別に音楽理論の筆記試験があります。音楽理論でグレード5に合格していなければ、グレード6以上の実技試験を受験することはできません。
トリニティカレッジロンドングレード試験は、どのグレードからでも受験することができますが、課題曲3曲の演奏、スケール課題に加え、初見演奏、オーラルテスト、即興演奏、音楽知識のうち2つが各グレードに応じて問われてきます。
試験という響きからは、厳しいイメージを受ける方もいるかもしれませんが、これらの試験はどちらかというと「せっかく楽器を習っているのだからやってみよう」という前向きなチャレンジとして子どもたちに捉えられているように思います。また、これらの試験に向けて対策していくと、結果的に多くの生徒が曲の演奏技術だけではなく、幅広い音楽の知識をバランスよく勉強していくことができるというメリットも強く感じます。更に、将来的に音楽を職業とする場合だけではなく、多分野をバランスよく努力し勉強していく力を証明するものとしても、これらの試験は社会的に認知されています。そのため、音楽の学習成果としてだけではなく、上記どちらの試験においても、特に一番上級にあたるグレード8を取得しているともなると、一般的な就職の際にも評価されます。

音楽の勉強をしていくと他の人の前で演奏する機会があると思います。子どもの演奏会にはどのような特徴があるのでしょうか。

磯村: 音楽の教師は、子どもたちが人前で発表する機会をなるべく多く設けようとしており、少なくとも1年に1度は人前で演奏する機会を設けていることが多いようですix。冒頭で説明したように学校で習う場合にも、学校の集会などで演奏を披露する機会が設けられます。このような機会は、特に子どもの頃は、今現在練習しているものを共有するといった学習発表のような要素が強いかもしれません。そうした性格上、全員に対して完成度の高い演奏を求めることが難しいという側面もありますが、音楽を学ぶにあたって他の子との仲間意識が芽生えたり、友だちに会いたいから今回は自分も演奏してみようといった、日常生活の延長線上で、多くの子どもたちが伸び伸びと演奏できることにつながっているという面もあります。年齢が上がり、より正式なコンサートで演奏したり、コンクールのような場に出る場合には、お互いに競ったり、失敗せず上手に演奏したいという気持ちが出てくることは自然なことだと思います。ただ、ここでも一番大切にされているのは、演奏の喜びをもてることのような気がします。

最後にニュージーランドの音楽教育の良さや課題についてはいかがでしょうか。

磯村: 現在、兄弟ともに音楽家として活動しているのも、ニュージーランドでの音楽教育の環境も大きかったように思います。歴史が浅く人口も少ない国なので、音楽の単科大学もありません。国内で演奏技術を極めていこうとする際の選択肢が限られてくるなど、課題を感じる面もあります。しかし、大らかな雰囲気の中で、5歳頃から大学以降の教育に至るまで、イギリス式の音楽教育を受けられることは、ニュージーランドで子どもたちが音楽を学習する際の良さではないかと考えています。



ニュージーランドの音楽教育については英語でもあまり多くの情報はないのですが、ニュージーランドには魅力的な音楽家も音楽を習っている子どもたちもたくさんいます。今回のインタビュー記事を通じて、ニュージーランドの子どもたちの音楽の習い始めから、学習内容、演奏会に至るまで、音楽教育の概観や子どもが音楽に触れているときの伸びやかな雰囲気が伝わればと思います。


  • i 学校による違いはありますが、音楽の他にも演劇、ダンス、サッカー、タッチラグビー、トランポリンなどを習えることが多いようです。習い事なので料金はかかります。
  • ii 学校の推薦および経歴・無犯罪証明書の提出などで教育省の書類審査を経て、学校と音楽家の間で年間契約を結びます。
  • iii ギターやドラムといったクラシック音楽以外の楽器も習うことができます。学校で習う場合には学校に来る音楽家の専門に依るため、習うことのできる楽器の種類は学校により異なると考えられます。
  • iv ニュージーランドの大手楽器店の情報を参考にしました。メンテナンス代、楽器の破損・紛失時の保険料を含みます。
  • v 英国王立音楽検定の試験の詳細については、https://nz.abrsm.org を参照してください。
  • vi トリニティカレッジロンドングレード試験の詳細については、https://www.trinitycollege.com/qualifications/music を参照してください。
  • vii 試験官がピアノで弾く音楽の拍子について答えたり、音楽的な特徴について説明したりすることが求められます。
  • viii 音階、半音階、アルペジオなどの知識や演奏技術が問われます。
  • ix こうした演奏会はその多くが、教会や学校の音楽講堂を借りて行われます。

筆者プロフィール
村田 佳奈子

東京大学大学院教育学研究科修士課程修了。幅広い分野の資格試験作成に携わっている。7歳違いの2児(日本生まれの長女とニュージーランド生まれの長男)の子育て中。2012年4月よりニュージーランド・オークランド在住。
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