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【ニュージーランド子育て・教育便り】 第14回 校長先生の交代

村田 佳奈子

2020年2月14日掲載

要旨:

ニュージーランドの小学校は学校によって大きく雰囲気が異なります。それは、地域から選出された学校理事会(BOT: Board of Trustees)のメンバーによって、地域のニーズに合った学校運営がなされるためです。このような仕組みの中、校長先生が代わるということは非常に大きなインパクトがあります。その様子をご紹介します。

ニュージーランドの小学校は、各学校によって大きな違いがあります。1989年に新教育法のもと教育委員会が廃止され、各学校は学校理事会(BOT: Board of Trustees)による運営に変わりました。この教育制度の大改革は、学校に大きな裁量をもたらし日本でも注目されるところですi。BOTは、各小学校のコミュニティ代表(多くの場合は保護者)5名、校長、選出された教員代表1名によって構成され、学校の教育で重視していくこと、施設の管理、人事権、予算の配分をはじめ多くの決定権をもっているのですii。BOTのコミュニティ代表に欠員が出ると、保護者宛てに郵送でBOT立候補に関する連絡が来ます。立候補者が揃うと、それぞれの候補者の立候補理由、プロフィールなどの情報、BOT投票用紙が再度郵送されてきます。保護者は期日までに学校に設置された投票箱に直接投票するか、郵送にて投票を行います。ほぼすべての連絡事項がメールであるニュージーランドの小学校において、このプロセスだけは郵送で行われます。仕組みとしては、学校運営に携わることのできる可能性を地域の誰もがもっており、その上で選挙によって選ばれた人たちが、その学校が属するコミュニティにとって必要な校長や教員を雇い、必要な教育体制を作っていくというわけですiii

さて、そんなBOTメンバーでもある校長ですが、年齢を重ねたり違うキャリアを考え始めたりして、校長職を退くことがあります。小学生の娘がいる私は、これまで娘が通った2つの小学校(A校、B校)でそれぞれ校長が代わるということを経験しました。その際の変化の多さといったら、めまぐるしいものでした。それぞれの学校について、校長先生が代わって起きたことをご紹介したいと思います。

A校で起きた変化

①教育方針の大きな変更
以前の校長は、低学年では敢えてICTを使うことをあまり重視せず、高学年になってから詳しい先生が担当するという方針でした。ところが、校長が代わると、この学校は遅れているから、全ての生徒に各家庭の負担で購入したiPadの持参を義務付けるという方針に変えていくという発表がなされました。これは、ICT教育が盛んなニュージーランドであっても、公立の小学校において実現するとニュージーランド初となるような、かなり極端な取り組みです。素晴らしいと興奮している保護者もいた一方で、多くの反対意見、特に兄弟の多い家庭からは金銭的負担に関する不満も出ました。更には、わが子に関わる決定事項については丁寧に保護者の意見を聞いていた以前の校長とは異なり、新校長は「私の校長としての権限で決定します。」というスタンスで、何事も一人で決定していくようでした。こうしたことからも、非常に極端に教育方針が変更されたことがお分かり頂けると思います。

②教員の変更・スタッフの変更・転校者の続出
A校の校長先生が代わったことによる子どもに直結する変化としては、教員が次々に去っていったことが挙げられます。事務職員まで去っていきました。そして、新校長と同じような教育方針に則って子どもたちを教えることができるような教員が、次々と新しく雇われていきました。また、新しい校長の方針に合わずに転校する子どもも続出しました。わが家は2つの学区が重なる場所に住んでいたので、最終的には保護者の意向を無視した教育方針に疑問を感じてしまい、娘をB校に転校させることに決めました。

B校に転校して数ヶ月、B校の校長も代わることになりました。しかし、B校の校長交代は、A校に比べるとソフトランディングしたような気がします。ニュージーランド初となるような派手な取り組みがなかったということも大きいと思います。また、新校長は、なるべく既存の教員や保護者と話し合いながら決めていくというタイプの方だったので、多くの教員・保護者が歓迎しているように見えました。それでも、教員数名や事務職員の入れ替わりなどの変化がありました。

B校で起きた変化

①校章の変更
新しい校長先生になってしばらくしてから、校章デザインのウェブ投票が行われました。その結果、過去のデザインとは似ても似つかないような、全く新しいデザインになりました。最近ニュージーランドでは、企業のデザインなども、固いデザインから柔らかく丸みを帯びたデザインに変わっていく傾向があるのですが、新しい校章もかわいらしいものになりました。日本では50年以上前につくられたであろう古めかしい校章も珍しくないと思いますが、こんなに気軽に校章が変わることが新鮮でした。

②制服の変更
娘がB校に転入してからすぐに体操服など一式そろえたのですが、校章の変更に伴い制服などのデザインも一新! こういった場合、日本では移行期間などがあって、旧デザインを許容される期間が設けられるように思うのですが、こちらではたとえ最終学年である6年生であっても、買い替えが推奨されました。そしてそれを不満に思っている保護者も特にいないようでした。こうしたわけで、わが家には1度袖を通した程度のほぼ新品のB校の旧デザインの制服、そして新デザインのかわいらしい制服の2種類が揃っています。

③学年編成の変更
旧校長は、クラス編成を学力順に上から区切っていくような編成にしていました。自然と、選抜組と非選抜組とに見えるようなクラス編成になっていました。学力の高い子やその親は満足していましたが、下の方のクラスに入っていた子どもの親などからは不満も伝え聞いていました。一方で新校長は、クラス間での学力的な差異がなるべく出ないようにクラス編成をしていきました。この変化に満足している保護者もいれば、以前の方が良かったという保護者もいます。とても優秀だったお子さんが、クラスメイトとの学力差が大きくなりすぎて転校してしまったということもありました。

校長先生の交代は、学校に新しい価値観や新しいエネルギーをもちこむという良い面も感じます。特に校長先生の交代直後、最初の2年くらいは、次々と変化が起こるのを実感しました。ともすれば教育の場が硬直化しがちな日本にとっても、示唆のある変化のもち込み方のようにも思います。わが家の場合は、以前のA校での経験で慣れていたこともあり、B校での交代の時には、どんなに教育環境に変化が起きても面白がって楽しむくらいの余裕がありました。とはいえ、方針としてはBOTを通じて地域に合った学校を作っていくということになってはいても、学校が選べる地域に住む子どもは校長先生の交代をきっかけに転校していくことも多いということを考えると、学区に縛られて選択肢のない子どもはかわいそうな気もしました。個々の校長先生が打ち出す学校の良さと個々の家庭や子どもの考えている良さが合うとは限りません。2回の校長先生の交代を経験しての感想になりますが、このように個々の裁量の大きい学校は、全ての子どもがもう少し柔軟に学校選択ができる仕組みとセットであれば尚良いのではないかと思いました。






筆者プロフィール
村田 佳奈子

東京大学大学院教育学研究科修士課程修了。幅広い分野の資格試験作成に携わっている。7歳違いの2児(日本生まれの長女とニュージーランド生まれの長男)の子育て中。2012年4月よりニュージーランド・オークランド在住。
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