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【国際都市ドバイの子育て記 from UAE】 第10回 雨が降ると・・・

天気予報いらずのドバイ

海外に住んでいると、改めて日本は自然災害の多い国だなと感じます。地震、台風、豪雨、洪水、土砂崩れ、火山の噴火、大雪など、常に天変地異に見舞われている気がします。日本にいるときは、そんなもんだと思っていましたが、それは世界の常識ではないようです。

雨の少ないドバイに来て、日本の自然災害の大部分は雨によるものだと気付きました。台風も洪水も土砂崩れも雨が関わってきます。砂漠の国UAEは極端に雨が少なく、天気の心配をする必要がありません。ドバイに住んでいた4年間、私は一度もテレビで天気予報を見たことがありませんでした。昨日も晴れ、今日も晴れ、明日も晴れ、おそらく1週間後も晴れ、という天気が続くと天気予報をチェックしようという気持ちにならないのです。カナダに住んでいた時、朝起きて一番にすることが「テレビをつけて天気予報のチェック」だったこと (第1回参照)を考えると、まさにところ変われば品変わるです。

「ドバイに住むと国に帰りたくなくなるわ」と言っていたのは、私のイギリス人の友人。いつも日差しがサンサンと輝いている中東が過ごしやすいというのは、日本人だけではないようです。

雨が少ないだけでなく、曇りの日も少ない。夜は月が本当によく見えます。娘の塾の迎えにほぼ毎晩決まった時間にメトロの駅に行っていたことがあります。雲一つない夜空に月がはっきりときれいに見え、毎晩月の満ち欠けがはっきり観察できるのに驚き、「♪月の沙漠を~はるばると~」とはこのことか、と感心した覚えがあります。

雨が降ったら・・・

そんなドバイですが、年に1、2回程度、多い年では10回程度雨が降ります。雨が降るのは夏季(5~10月)ではなく、冬季(11~4月)限定。特に1、2月に集中しています。冬期は砂嵐の季節。地面も空気も砂でザラザラしたドバイに雨が降ると、まさに「恵みの雨」。街全体がシャワーを浴びて汚れをさっぱり落として、生き返るような感覚です。

天気予報を見ていなくても、雨が降るのを何となく察知できます。どこからともなく「雨が降るかも」という噂が流れてくるのです。私の経験では、その噂は80%くらい当たります。「クウェートで昨日雨が降ったからUAEでも降るかも」とか「1週間後に二日続けて大雨になるらしい」とか割と具体的な情報で、天気予報をまめにチェックしている奇特な人が情報源と思われます。雨の降らない国で、雨が降るとどうなるのか。今回は、ドバイの雨にまつわる体験をご紹介していきます。

日本にあってドバイにないもの

まず、クイズです。日本の街に普通にあって、ドバイにないものはなんでしょう?
 答えは・・・、「側溝」と「電信柱」です。
毎年夏に日本に里帰りすると、私は外国人観光客を案内するガイドさながら、子どもたちにこう注意を促します。

「いい?見てごらん。これは溝だよ。日本の歩道の端には溝があるよ。歩くときには、落ちないように気を付けるんだよ」
「いい?これが電信柱だよ。ちゃんと前を見て歩かないとぶつかってしまうよ」

これは冗談でなく、本当の話。実際に、長女は一時帰国中、夕方散歩をしていて溝に落ちたことがあります。海外暮らしが長い子どもは、日本の電信柱にぶつかると聞きます。なぜドバイに電信柱がないかというと、「電線が地中に埋められているから」。そして、なぜ溝がないかというと、「雨が降らないから」です。雨が降らないから溝がない。そんな排水機能ゼロの街で雨が降ると、道路はあっと言う間に冠水してしまいます。

下の写真は、2013年11月の写真。前日に降った雨が翌日も排水されず、道路が川のような状態になっています。この写真はまだましな方で、車が水没してエンジンが故障し、乗り捨てられることもあります。

report_09_319_01.jpg

こちらは、日本人学校の中庭の写真。ちょっとわかりにくいですが、ここは日本中庭と言って、真ん中に表面が青く塗られている4つの島があり、右から左に向かって北海道、本州、四国、九州の形になっています。普段は水がない部分に雨の水がたまり、雨水で太平洋と日本海が出来てしまいました。
report_09_319_02.jpg ここにも、排水設備がないので、ひたすらバケツで雨水をかきだします。
学校の建物を見てみると、廊下部分に壁がなく風通しがよく涼しい反面、雨が直接降り込んでしまう構造になっています。

雨が降ったらお休みで♪

道路も建物も、街全体が雨に弱い構造になっているドバイ。ハメハメハ大王ではないですが、ドバイに雨が降ったら、学校はほぼ確実に「お休み」になります。子どもたちが学校に行ってから降り出した場合、すぐにスクールバスで家に強制送還されます。日本人的感覚では、こんな雨でお休みだったら日本の梅雨の時期はほぼ全滅じゃないか、と言いたくなります。
でも、ドバイではしょうがないのです。

上の写真のように、雨が降るとすぐに道路が冠水し、交通渋滞がおきます。雨の日の運転に慣れていないドライバーが多く、スリップする車が続出。交通事故が多発し、交通がマヒしてしまう危険性があります。

雨が降った当日だけでなく、雨がやみからっと晴れた翌日も場合によっては学校がお休みになってしまうことがあります。スクールバスでの安全な登校が確保されないというのが理由です。

恵みの雨

雨が降った次の日は、世界の重要ニュースを抑えて「恵みの雨」がトップニュースとなります。UAE人及びUAEに長く住んでいる人は、雨は外に出て体中浴びるものと思っているらしく、あちこちで雨の中はしゃいでいる大人を見かけます。はしゃぎすぎて「雨が降りしきる中、喜んで屋根に上って滑って転落死」とか「雨水を流すためマンホールのふたを開けっぱなしにして幼児が転落」など、雨による事故が多いのも沙漠の国の特徴です。

中東生活が長い我が家の子どもたちも、日本に一時帰国中に雨が降ると、傘をさして長靴を履いて勇んで庭に出ていき、雨の中延々と遊んでいます。2、3回雨を経験すると飽きてくるのか、雨が降っても外に出なくなり、「楽しい雨」がとたんに色あせてしまい、「雨はつまらない、雨の降らないドバイはいいね」と言い出すのです。


参考文献 ハムダなおこ『アラブからこんにちは』p42~57

筆者プロフィール
森中 野枝

都立高校、大学などで中国語の非常勤講師を務めるかたわら、中国語教材の作成にかかわる。
学生時代中国・北京に2度留学したあと、夫の仕事の都合で2004-2008 北京に滞在。2011-2013カナダ・トロント滞在。2013-2017 アラブ首長国連邦ドバイ滞在。現在はサウジアラビア、ジッダに住んでいる。
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