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【国際都市ドバイの子育て記 from UAE】 第9回 豪華イフタール

前回「ラマダン中のドバイ 夜の部」で、日没後初めてとる食事、イフタールについてご紹介しました。

ラマダンが近づくと雨後の筍のようにあちこちに建てられるラマダン・テント。

ラマダン・テントは大きく分けて二種類あり、一つは喜捨の一環として無料でイフタールを配る非商業用のテントで、基本的に断食をしている人が対象。冷房完備、簡古素朴なテントで、出稼ぎ労働者、肉体労働者の憩いの場となっています。 もう一つは、ホテルが商業用に用意する豪華絢爛ラマダン・テント。非ムスリムでも断食をしていなくても、お金さえ払えばだれでもイフタールを楽しむことが出来ます。

テントは屋外に建てられる場合と、屋内でテント風内装が施されている場合とがあり、食事だけでなくラマダンのデコレーションにも工夫が凝らされているのが特徴で、高級ホテルがしのぎを削ります。人々は雑誌やウェブサイトで組まれる『今年注目のラマダン・テント』の特集をチェックして、イフタール・プランを練ります。予約必須で、ラマダン最初の週は出足が遅いため比較的予約が取りやすく、ディスカウントするところもありますが、最終週はかなり早い時期から予約が必要です。今回はドバイならではのゴージャスなラマダン・テントをご紹介します。

豪華ラマダン・テント パレスホテル・バージアルアラブ・アトランティス

私たちが行ったのは、おすすめラマダンテント・ランキングで必ず上位に名前が出るパレスホテル(Palace Hotel Down Town)のレストラン『イワン(Ewaan)』のイフタール。お値段は大人240AED(約7200円)。2016年は「ランボルギーニ・イフタール」と銘打って売り出し、ホテルのエントランスに世界屈指の高級車「ランボルギーニ」がずらりと展示されていました。このように、毎年各ホテルが趣向を凝らしてしのぎを削ります。

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ちなみに、ドバイではパトカーにランボルギーニを採用しているというのは有名な話。ドバイでのランボルギーニ遭遇率は高く、金色のランボルギーニを目撃したことも。

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エントランスを入ると、ラマダンの象徴でもあるファヌースというランプを中心とした素敵なラマダンコーナーが。

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こちらはホテルロビーの噴水。ラマダンの象徴である三日月をピンクと白の花びらで形作ります。

パレスホテルは屋内テントで、通常とは一味違うラマダン・テント風アレンジでした。

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照明が暗く、ナイトクラブのような怪しげな感じ。

次に紹介するのは、ドバイのアイコン的存在、7つ星ホテルのバージ・アル・アラブ。レストランを予約しないと中に入れないことで有名です。帆の形をしたホテルの最上階部分に出っ張ったところはヘリポートで、富豪が自家用ヘリコプターで乗りつけます。

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そのバージ・アル・アラブのイフタール・デコレーションは三日月とランプでした。

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おそらくドバイで一番人気のあるのは、こちら。世界一の人工島パームジュメイラに位置する5つ星ホテル、アトランティス(Atlantis The Palm)のレストラン、アサティア(Asateer)のラマダン・テント。

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アトランティスは、水族館、ウォーターパーク、プライベートビーチなどが併設されているリゾートホテル。アラビア湾の景色も楽しめる。

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ラマダン・テントは2400平方メートルの広さがあり、700ものランプで飾り立てられている。もはやテントというより、スタジアムのような規模。 ここのラマダン・テントのオープニングの夜には、ドバイのセレブが勢ぞろいします。

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パレスホテルの大人な雰囲気とは違い、白を基調とした明るくエレガントな内装。


断食明けに配慮したイフタールメニュー

ホテルのイフタールは普通ビュッフェ形式です。日没の20分前くらいから、ゆっくりと飲み物と食べ物を取り自分の席に用意します。一日断食をした人は、すきっ腹にいきなりがっつくのは禁物。まずは、一日の渇きをいやすための水分を補給。定番は、中東で人気のこちらのフルーツ・ジュースです。

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左からカマル・エディン(Kamaradine)=杏子のジュース *1、タマルヒンディ(Tamarhindi)=タマリンド・ジュース *2、ジャラブ(Jallab) *3=デーツ・ジュース。どれも胃腸にやさしく、断食後の弱った体に甘さが染みわたります。

そして、ラマダンになくてはならないデーツ(なつめやし)。胃腸に優しく、預言者ムハンマドが一日の断食の後に食べたという記述がコーランにあることから、必ず登場します。

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デーツを幹に貼りつけ、木に見立てたディスプレイ 。


果物、ドライフルーツ、ナッツも断食後に推奨される食べ物。これでもかというくらい棚に並べてあります。

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こちらは、インドの周辺国でよく食べられる炊き込みご飯、ビリヤニ(Biryani)。ラマダンに関係なく年中人気のメニューですが、イフタールには、豪華版ビリヤニが欠かせません。

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マトン・ビリヤニ
 
フィッシュ・ビリヤニ

ホモス(ひよこ豆のペースト)、タブーラ(パセリのサラダ)などのアラブ料理はもちろんのこと、何種類ものサラダ、ピザやパスタ、デザートと、目移りしてしまうほどの料理が並んでいます。

早食いイフタール、溜め食い「スフール」

お皿に食べたい料理を盛ったら、ごちそうを前にひたすら日没の合図を待ちます。非ムスリムの私たちも、断食をしている人に気遣って合図があるまで食事に手をつけないのが通例です。

一日空腹に耐えたであろうムスリムの人たちが、てんこ盛りのお皿の前でじっと日没の合図を待っているのを見ると、その我慢強さに頭が下がります。

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部屋に用意された大画面のテレビでは、大砲発射のライブ中継が流されます。ドーンという音と共におもむろに食べ始めます。

高級ホテルのイフタールは、どこも大人一人200AED(=6000円) *4前後と、お得感はあるものの決して安くない値段。ゆっくりと料理を味わって食べたいところ。しかし、ムスリムの人たちは一気に食事をすませ、1時間もしないうちにあっという間に立ち去ってしまいます。

というのも、イフタール後、怒涛のお祈りタイムが待っているからです。まずは、大体日没の1時間半後にやってくるルーティーンの礼拝、イシャー(Isha) *5。イシャーは一日5回ある礼拝の最後のお祈りです。そしてその後、ラマダン時期限定のタラーウィーフ(Tarawih,Taraweeh)というアディショナルのお祈りが控えており、どちらもこなすためには、ゆっくり食事をしている暇はないというわけです。

お祈りに急ぐムスリムが去ってしまうと、レストランは閑散としてしまい、ウエイターたちは早々に後片付けを始めてしまいます。用事のない私たちもそそくさと退散します。しかし、ラマダンの夜の賑わいは、まだこれから。

一連のお祈りが終わって、夜10:00ぐらいからラマダン・テントは再び混雑し始めるのです。ラマダン中のもう一つの食事、「スフール」の時間です。「スフール」とは断食が始まる前(=日の出前)の食事の時間帯のことで、ラマダン・テントではイフタールが終わった後、いったん片付けて、またすぐに「スフール」のための準備をします。

ラマダン・テントの営業時間は、通常次のようになっています。

イフタール...日の入り~PM8:30
スフール...PM9:30~AM3:00

イフタールの営業時間が2時間と短いのに比べて、スフールは5時間以上。夜10:00ごろお祈りをすませたムスリムたちは再びラマダン・テントに集まります。今度は慌ただしいイフタールとは違い、ゆっくりリラックスして過ごします。

木曜日の夜 *6、ラマダン・テントでラマダンの夜長をアラブの人がどうやって過ごしているかというと、シーシャ(水たばこ)をふかしてだらだらとおしゃべりをしている人が一番多いそうです。その次はトランプで遊ぶ人たち。イラン人らしき女性だけのグループ、アラブ人男女混合グループ、UAE人男性だけのグループなどいろいろなグループがトランプをやっています。トランプと同じくらい多いのが、バックギャモンをやっている人たち。バックギャモンは二人でやるゲームで、これも男性同士、カップルなどさまざま。

イスラム教では賭け事は禁止されているため、トランプゲームでもお金を賭けることはなく、健全です。ちなみに、トランプやバックギャモンはラマダン・テントで貸してくれるそうです。

10:30ごろからゲームをはじめ、ラマダン・テントが閉店となる朝3時ぐらいまでしぶとくプレイする人も。夜明け前に家に帰り、ようやく寝床に入ります。 *7

「イフタール」の早食いと「スフール」の溜め食いでお相撲さん並みの一日二回ドカ食い。そして、夜は気の合う仲間とゲームをしてだらだら、昼間は寝て過ごす人も多い省エネ生活。断食と聞くと、ダイエットになるかと思いきや、逆に太ってしまう人が多いとか。辛く苦しい日中の断食とゲーム三昧の夜、緩急つけてラマダンを過ごす。イスラムの人がラマダンを楽しみにしているのが分かったような気がします。


  • *1 スーパーで売られている杏のペーストを使って作るジュース。
  • *2 タマリンドという枝豆のような果実の果肉を使ったジュースで、肝臓、腎臓、胃腸の調子を整え、ビタミン不足を補い疲労回復効果があるという。
  • *3 Jallab とは、キャロブ(carob)、デーツ(dates)、ぶどうの糖蜜(grape molasses)、ローズ・ウォーター(rose water)が入っている中東特有のフルーツ・シロップのこと。干しブドウと松の実を入れて飲むことが多い。
  • *4 6-12歳、半額、6歳以下無料。
  • *5 スンナ派の場合、5回目の礼拝は「日がとっぷりと暮れた」時点とされている。
  • *6 ドバイは金曜日と土曜日が休日。
  • *7 ブログ『ドバイ千夜一夜』より。「第478話 ラマダンのディープな夜の過ごし方」参照。
筆者プロフィール
森中 野枝

都立高校、大学などで中国語の非常勤講師を務めるかたわら、中国語教材の作成にかかわる。
学生時代中国・北京に2度留学したあと、夫の仕事の都合で2004-2008 北京に滞在。2011-2013カナダ・トロント滞在。2013-2017 アラブ首長国連邦ドバイ滞在。現在はサウジアラビア、ジッダに住んでいる。
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