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論文・レポート

【国際都市ドバイの子育て記 from UAE】 第8回 ラマダン中のドバイ 夜の部

森中 野枝

2018年10月12日掲載

前回「ラマダン中のドバイ 昼の部」で、ラマダン期間のドバイの様子、非ムスリムの生活などをご紹介しました。

ラマダンの一か月間、断食をする人は日の出から日の入りまで、食事だけではなく水も口にしません。敬虔なムスリムは、つばを飲み込むことさえ避けようとします。イスラム文化になじみのないものにとっては、ただの苦行のように感じてしまいます。しかし、実はムスリムの人たちはこのラマダンを心待ちにしているのです。

ラマダン前に子どもたちが通う日本人学校で生徒に配布された「ラマダン中の過ごし方」というプリント。日本人学校の先生が日本人学校に勤めるアラビア語の先生にインタビューをしてラマダンについて教えてもらうというラマダン理解のための企画で、以下のように書いてありました。

先生:断食をしてつらくはないですか。

アマルさん:貧しい人の気持ちが分かったり自分たちの豊かさが分かったりして、色々なものに感謝する気持ちが高まります。また、ラマダンの間は家族みんなで集まって食事ができるし、ごちそうが食べられます。なので先生が思うような、つらいことはありません。むしろうれしいことが多いです。

ここで触れられている、「家族みんなで集まって食事」とは「イフタール」、日没後の最初の食事のことで、家族、友人、勤務先の同僚などと食事を楽しむべきとされています。

今回は、このラマダン中の楽しみ「イフタール」について紹介します。

イフタールは大砲の音と共に

日の出から日の入りまで、飲まず食わずで日常生活を送る、ラマダン未経験の私でもその辛さは想像に難くありません。

日常的に交通渋滞が激しいドバイ。ラマダン中は時短勤務の影響もあって、帰宅ラッシュの時間帯が早まります。午後3:00頃には、主要道路は車で埋め尽くされ、飢え、渇き、渋滞、日没後に礼拝を繰り返すことによる寝不足でイライラしたドライバーたちであふれかえります。

皆が一目散に帰途につく理由はただ一つ。日没後のイフタールを家族、または友人たちと共に食べるため。家族や友人、同僚などとラマダンの苦労を分かち合い、食事ができる喜びを確かめて、絆を深めるいい機会なのです。

UAEでは、イフタールの始まりの時間=日没時間を各自で判断するのではなく、大砲の音で広く知らせる習慣があります。これはRamadan Canon(ラマダンの大砲)と呼ばれ、その様子は毎日テレビで生中継されます。イフタールのごちそうを目の前に並べてじっと大砲の音を待つ人々の姿は、ラマダンならではの光景です。2016年のラマダン中、家族でこの大砲打ち上げを見に行きました。

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ドバイでは5か所で打ち上げられます。私たちが行ったのは、世界一の高さを誇るバージ・カリファの目の前、ドバイ・ファウンテンのショーが繰り広げられる池のすぐそばです。ドバイ警察が準備から打ち上げまでを行います。

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観光として見に来ている人がほとんどで、発射前は和やかに大砲と記念撮影も可能。日が傾き始めあたりが薄暗くなり、打ち上げを今か今かと待ちます。

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打ち上げ係の警官は耳栓をし、トランシーバーで交信しながら打ち上げの指示を待ちます。観測委員会(Moon Sighting Committee)が日没を確認してゴーサインを出しているそうです。周囲が見づらくなった頃、観光客は大砲から20メートルくらい離れるように指示されます。

警官はぴしっと整列し、空砲を抱えて掛け声をかけながら大砲に向かって行進。空砲が「がちゃん」と大きな音を立ててセットされます。おもむろにスイッチが押されると間髪入れずに「ドーン」と爆音が鳴り響き、硝煙があたり一帯もくもくと立ちこめます。見物客はその音の大きさに騒然となり、子どもは泣き出すほど。日本なら100メートル以上離れるように指示されるレベルの音です。

大砲発射が済むと、一日断食に耐えたであろう警官たちは、おもむろにペットボトルの水を飲み干し、軽いスナックをつまんでいました。

イスラム教はポイント制?!

イスラム教について、高校の教科書レベルのことしか知らなかった私は、ドバイに来て本を読んだり「イスラミック講座」 *1を受けたりして、自分なりにイスラム教について理解を深めました。その中で、一番衝撃的だったのは、イスラム教はポイント制になっているということです。

イスラム教徒の六信 *2(六つの必ず信じないといけないもの)の中に、「天使 *3の存在を信じる」というのがあります。「すべての人間の両肩には2人の天使が座っており、その者の言動を残さず記録している」 *4 。両肩に乗っている天使のうち、右肩の天使はよい行いを、左肩は悪い行いをすべてノートに書き留め、「その記録はやがて来る最後の審判の際に、善悪を判断するための材料となる」 *5と信じられています。

ラマダン中は、日頃にも増して「よい行い」をすることが奨励されます。「よい行い」とは、『コーラン』や『ハディース』 *6に書かれている行うべきことで、例えば、困っている親戚を助けたり、疎遠になっている友達に連絡したり、日頃胸に引っかかっていたことを実行する絶好の機会でもあります。先の日本人学校のプリントにはこのように書かれていました。

アマルさん:ラマダン期間中にした、よい行いは、天使がいつもより多いポイントでカウントしてくれて、天国に行く時にプラスになるのです。

つまり、ラマダン期間中はポイントアップ期間で、イスラム教で推奨される良いことをすると、いつもよりたくさんポイントがもらえるのです。

また、ラマダンは祈りの時期でもあります。ラマダン中は、ラマダン特有のお祈りが加わったり、時間が長くなったり、宗教心の高まる時期。また、ラマダンの最後の10日間に一日だけ「アル・カドル」という夜があり、その「アル・カドル」の夜にお祈りをすると千月分お祈りしたのと同じ効果があるのです。面白いのは、その10日間のうちどの日が「アル・カドル」の日か正確にわからないということ。わかっているのは、ラマダンラスト10日間の奇数日、つまり21,23,25,27,29日目のどれかの夜のどこかの時間帯ということだけ。よってムスリムはそのラッキーな日を逃さないよう、最後の10日間は夜な夜なお祈りに明け暮れるのです。 *7

庶民のラマダン・テント
 

ラマダンが近づくと、町のあちこちに突如こんなテントが現れます。

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これがいわゆる「ラマダン・テント」と言われるもので、主にモスクが設置しイフタールを提供します。裕福な人が自発的に自分の庭に立てて無料でイフタールをふるまうこともあります。

まだ日が沈む前から、大勢の労働者がいそいそと集まり、テントの前には脱いだ靴でこんもりとした山ができるほど。配られた「イフタール・ボックス」を手に、テントの中に入り、絨毯にじかに座って祈りながらじっと大砲の合図を待ちます。見ず知らずの者同士、膝と膝を交え断食の辛さを分かち合いながら食事をするのです。

イフタールの時間帯に車で信号待ちをしていた夫が、道端で配られているイフタール弁当をもらってきたことがあります。車の窓ガラスを「コンコン」とたたかれ、窓を開けると「ラマダン・カリーム(ラマダン、おめでとう)」と言いながら、イフタール・ボックスを手渡されたそうです。水、デーツ、ジュース、パンやサラダが入った、質素だけれど心のこもったイフタール・ボックスでした。

マクドナルドもラマダンメニュー

ラマダンの時期は、ほとんどのレストランが、安くておいしいラマダン特別メニューを用意しています。マクドナルドも例外ではありません。

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これは「ラマダンセット」として売り出されているマクドナルドのラマダンメニューです。

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目玉はこの「デーツ・カスタードパイ」。

「デーツ」とは、中東のパワーフルーツ「なつめやし」のこと。「神様からの贈り物」と言われるデーツは、アラビア半島の人々にとって特別な木と言われています。デーツの実は、わずか3粒で一日分の栄養素が取れるとも言われ、砂漠の旅には欠かせない食べ物です。 *8

断食明けの繊細な胃腸には、このデーツがいいとされ、イフタールの時に必ず最初に口にするのはデーツ。マクドナルドでも、ラマダンメニューにある、デーツ・カスタードパイ。この時期だけの限定メニューです。

さて、次回はドバイならではの、豪華ラマダンテントをご紹介します。


    参考
  • *1「日本UAE文化センター」(http://jp.ae/)で不定期に開かれる「イスラミック講座」、「UAE現地理解講座」。アラビックカリグラフィーや基礎アラビア語のクラスもある。
  • *2「イスラム教徒には、その実在を必ず信じなければならないものがある。神(アッラー)、天使、啓典、使徒(預言者)、来世、定命の6つで、合わせて六信と呼ばれる。」『イスラムがわかる!』菊地達也監修 p32。
  • *3 天使と聞くと、私たちキリスト教のエンジェルのようなかわいらしい天使を思い浮かべてしまいますが、偶像崇拝が禁じられているイスラム教の天使は、それとはイメージが異なる。
  • *4『イスラムがわかる!』菊地達也監修 p33。
  • *5 『イスラムがわかる!』菊地達也監修p33。
  • *6 『ハディース』とは「伝承」を意味するアラビア語で、イスラム教の開祖ムハンマドの言葉や行動の記録である。『イスラムがわかる!』菊地達也監修 p28。
  • *7 ドバイ千夜一夜 第748話 一夜で千月のご利益 ラマダンその12 参考https://blogs.yahoo.co.jp/dubai1428/ 33451648.html
  • *8 改訂『わたしたちのアラブ首長国連邦~ドバイと連邦を知ろう』ドバイ日本人学校 p92

筆者プロフィール

森中 野枝

都立高校、大学などで中国語の非常勤講師を務めるかたわら、中国語教材の作成にかかわる。
学生時代中国・北京に2度留学したあと、夫の仕事の都合で2004-2008 北京に滞在。2011-2013カナダ・トロント滞在。2013-2017 アラブ首長国連邦ドバイ滞在。現在はサウジアラビア、ジェッダに住んでいる。
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