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【移民の街トロントの子育て記 from カナダ】 第1回 「多様」で「寛容」な国、カナダ

森中 野枝

2015年10月30日掲載

要旨:

初回の今回は、筆者の家族が一年半滞在したカナダについて紹介する。国土の広いカナダは連邦制度を採用しており、地方分権が進んでいる。それぞれの州が、消費税率、公用語などを独自に決めることができる。また、カナダが世界で初めて採用した「多文化政策」は、移民が文化適応を自然な速度で行えるよう保障しており、「多様」で「寛容」なカナダを作り出している。

Keywords:
トロント、オンタリオ州、子育て、移民プログラム、学校
赴任に至るまで ~サプライズ続きの転勤~

私たち家族は、夫の転勤で2011年8月から2013年3月まで1年半、カナダ・トロントに住む機会に恵まれました。

カナダ転勤の辞令があったのは、2011年3月。夫はそれまでに11年間中国・北京に駐在し、日本に帰国して3年目のことでした。私は学生時代2回北京に留学、結婚後駐在員の家族として再び北京に滞在、2005年に第一子を出産しました。2008年に日本で第二子を出産。夫の海外駐在はもうないだろうという判断で、私は産後徐々に仕事を再開し、4月から仕事を増やすため、長女の学童の手続き、次女の保育園探しに奔走していた矢先の転勤命令。まさに「晴天の霹靂」「寝耳に水」のサプライズ人事でした。

悩んだ末、私はあちこちに頭を下げて、仕事を辞め、カナダに家族で引っ越すことに決めました。カナダへの引っ越し前に今度は私のサプライズ妊娠が発覚、怒涛の引っ越しとつわりを乗り越えて、ようやくカナダの地を踏んだのでした。

そんなサプライズ続きで、大きな波に流されるように住むことになってしまったカナダ。中国生活が長く、北アメリカに縁もゆかりも興味もなかった私たちは、夫婦そろって英語はダメ。北米文化にも全く疎く、「なぜカナダなの?」という不満と「ここでやっていけるの?」という不安でいっぱいのスタートでした。そんな私が、妊娠・出産・子育てを通してカナダの「寛容さ」「多様さ」に触れ、カナダの大ファンになりました。その過程をみなさまにお伝えできればと思っています。

カナダ概観 ~国の大部分が寒帯・亜寒帯~

渡航前の私のカナダに対する印象は、漠然としていて「アメリカのような国」「広くて寒いのだろうなあ」という程度のイメージでした。私と同じような感覚の日本人は多いのではないかと思います。

カナダは、ロシアに続いて世界第2位の面積をもつ大きな国です。総面積は、998万㎡、日本の実に26倍。北は北極海、西は太平洋、東は大西洋と三方を海に囲まれ、南はアメリカと国境を接しています。国土のほとんどは北海道より北側に位置し、北極圏内の地域も少なくありません。太平洋沿岸の西海岸沿岸部を除くと、ほぼ全域が寒帯・亜寒帯気候に属しているので、寒いはずです。

人口は3,574万人で(2015年4月発表)、日本の約4分の1。国土が広くても、人が住むのに適している地域は限られていて、人口の大部分がアメリカとの国境沿いに集中しています。

国の公用語は、英語とフランス語。かつてイギリスとフランスの植民地が同時に存在し、その二つの地域が統合してカナダが独立したという歴史的背景があり、両言語話者に配慮して二言語国家となりました。英語話者は人口の6割程度、フランス語話者は2割程度。残りは、二つ以上の母語をもつか、英仏以外の母語をもつといわれています。法律で、お菓子などの商品パッケージには片面に英語表記、もう片面はフランス語で表記することが決まっていて、道路標識なども英語・フランス語が併記されています。

連邦制度 ~州の消費税率が0%の州と10%の州がある!?~

カナダには10の州(province)と、三つの準州(territory)があります。私たちはオンタリオ州の州都、トロントに住んでいました。「オンタリオ」とは、ネイティブ・カナディアンの言葉で「美しい水」という意味で、その名の通り、州西部には無数の川や湖沼があり、アメリカとの国境沿いにある五大湖のうち四つの湖がオンタリオに面しています。他には、バンクーバーのあるブリティッシュ・コロンビア州などが日本人になじみがあるでしょう。

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トロント郊外の紅葉


国土が広いため、その多様な状況に合わせて物事が決められるように、カナダでは連邦制度が採用されています。各州に強い権限が与えられていて、地方分権が進んでいるのが特徴です。

例えば、消費税率。州が「州の消費税」を独自に決定することができます。オンタリオ州で買い物をすると、13%の消費税がかかり、その内訳は、GST (Good and Service Tax)=国に支払う税5%とPST (Provincial Sales Tax)=オンタリオ州に支払う税8%。このPSTの部分を、州がその財政に応じて決めることができるのです。ちなみに、石油で潤っているアルバータ州では、PSTは0%。ノバスコシア州では、PSTは10%。住む州によってずいぶん差が出てくるのです *1

公用語も、それぞれの州で決めることができます。もともとフランス植民地があったケベック州では、フランス語話者が多く、公用語はフランス語のみ。ケベック州に入ると、道路標識がいきなり全部フランス語になってわかりにくいとよく聞きます。先住民の多い州は、先住民の言葉も公用語に定められています。

オンタリオ州の公用語は英語のみですが、フランス語話者も少なくありません。カナダは毎年20万人以上の移民を受け入れており、その40%がオンタリオ州に定住し、その多くがトロントに住むことから、トロントでは100以上の言語・方言が話されています。

トロントに引っ越して、初めて家具量販店のIKEAで買い物をした日のことを今でも鮮明に覚えています。ショー・ルームですれ違うグループごとに話している言葉が異なり、しかも私が今まで一度も耳にしたことのない言語が飛び交っています。サリーを着たインド人の女性がベッドに腰かけマットレスをチェックしている横を、ユダヤ人の大家族がコガモの行列のようにたくさんの子どもを連れてぞろぞろ歩いていきます。早口で甲高い中国語で話す女性グループの後ろには、ヨーロッパ系とヒスパニック系の新婚と思しきカップルが、ショー・ルームの家具を一つ一つ丹念にチェックしています。それはまさに世界の縮図。多言語環境の初体験でした。

多文化主義 ~充実した移民向けサポート~

移民国家として有名なカナダのなかでも、特にトロントは非常にインターナショナルな街です。トロントには、各国の出身者ごとに形成されたコミュニティが60以上あり、エスニック・タウンと呼ばれています。モザイク国家とはよく言ったもので、パッチワークのようにつぎはぎされたエスニック・コミュニティが肩を並べてひしめきあっています。道を一本渡っただけで、看板の文字、行きかう人々の言葉、服装ががらりと変わり、そこは全く別の国。おしゃれなイタリアンレストランが並ぶ「リトル・イタリー」、ハングルがあふれる「コリアン・タウン」、活気に満ちた「チャイナ・タウン」、エキゾチックな雰囲気漂う「グリーク・タウン」、トロントのダウンタウンで世界一周ができてしまいます。エスニック・コミュニティは隣り合っていても決して交わらず、淡々と自分たちの生活スタイルを維持しています。

このモザイク国家を制度的に支えているのが、カナダが世界に先駆けて採用した多文化政策(Multiculturalism)。多文化政策とは、カナダが異なる文化バックグラウンドをもつ国民によって成り立つことを公式に認め、それを国家のアイデンティティとした政策です。この政策では、移民が文化適応を自然に行うことができるよう保障しています。言葉に不自由な移民あるいは特別なスキルをもたない移民に対して特別のサポートを与えながら、移民の民族的、文化的アイデンティティを、将来カナダ社会に役立てるように奨励しています *2。なので、カナダ社会には、移民に文化適応を強制するような雰囲気は全くなく、つたない英語にも非常に寛容です。

例えば、新移民向けのサポートプログラムやESLクラス(非英語母語話者向けの英語クラス)が非常に充実しています。公共交通機関で通いやすい場所に設けられたESLクラスは、初級者から上級者までを網羅し、仕事の見つけ方や履歴書の書き方まで指導します。もちろんすべて無料です。大人のESLだけでなく、公立の学校の子ども向けESLクラスも充実していますが、トロントの教育委員会は、英語だけではなく、子ども向けの多言語学習プログラムにも力をいれています。用意されているクラスは、なんと50言語以上あります!ドイツ語、イタリア語、ポルトガル語などのヨーロッパ言語から、韓国語、中国語(3種類)、タミル語、ヒンドゥー語、チベット語などのアジアの言語、スワヒリ語、ヨルバ語、チュイ語などアフリカの言語まで、ありとあらゆる言語のクラスがあります。移民の子どもたちに母語を学ぶ機会を与えると同時に、移民の子どもに限らず自分の母語以外の新しい言語を学ぶ機会を子どもたちに提供しているのです。また、ベテラン移民が新移民のカナダ適応を手伝って、一緒に図書館に行って使い方を紹介したり、生活上の問題を話し合ったりするプログラムもあります *3。これは移民に対する手厚い政策のほんの一部に過ぎないのです。

このように、カナダ国家成立の歴史的背景や「二言語主義」「連邦制度」「多文化政策」などの様々な要素が、カナダの「多様性」と「寛容性」を形づくっているのです。娘たちは学校に通いながら、私は出産、子育てをしながら、その様々な恩恵を受けることができました。次回から、私たちの体験をもとに、「多様」で「寛容」なカナダを具体的にご紹介していきたいと思います。

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カナダに到着して2週間後。長女(6)と次女(2)。
ナイアガラの滝で、遊覧船「霧の乙女号」に乗って滝つぼクルーズを体験。

    • *1 半分の州ではGST、PSTを合わせたHST(Harmonized Sales Tax)と呼ばれる統合売上税を採用しているが、州が独自に税率を決められるという意味では同様である。
    • *2 篠原ちえみ「移民のまちで暮らす―カナダ マルチカルチュラリズムの試み」P35-36
    • *3 篠原ちえみ「移民のまちで暮らす―カナダ マルチカルチュラリズムの試み」P136-137

http://www.statcan.gc.ca/daily-quotidien/150617/dq150617c-eng.htm
http://www.ontario.ca/page/about-ontario

      *誰も知らなかった賢い国カナダ 櫻田大造

筆者プロフィール
森中 野枝

都立高校、大学などで中国語の非常勤講師を務めるかたわら、中国語教材の作成にかかわる。
学生時代中国・北京に2度留学したあと、夫の仕事の都合で2004-2008 北京に滞在。2011-2013カナダ・トロント滞在。現在はアラブ首長国連邦ドバイに住んでいる。
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