CHILD RESEARCH NET

HOME

TOP > 論文・レポート > ネットジェネレーションの教育 > ソーシャルメディアが媒介する社会~東日本大震災~

このエントリーをはてなブックマークに追加

論文・レポート

Essay・Report

ソーシャルメディアが媒介する社会~東日本大震災~

要旨:

東日本大震災では、Twitterなどの簡易電子掲示板などを利用した情報交換が頻繁に行われた。デマ情報や、不快な印象を与える発話も少なくなかったが、点在する避難所の状況を知る手がかりともなった。そこで、どれくらいの発話がやりとりされ、それらの発話は、肯定・否定傾向等どのような特徴があったのかTweetSentimentsを用いて分析した。
1.はじめに

2011年3月11日宮城県沖を震源として発生した東日本大震災は、マグニチュード(M)9.0を記録し、その震源域は岩手県沖から茨城県沖までの南北約500km、東西約200kmの広範囲に及んだ。その後も同年4月7日宮城県沖を震源にM7.4、同年4月11日福島県浜通りを震源にM7.1などの大余震も記録した[1]。この地震により、最高到達点40.5メートルを記録した大津波が発生し、東北地方と関東地方の太平洋沿岸部に壊滅的な被害をもたらした[2]。この地震と津波の影響により、水・電気・通信・燃料等々のライフラインはことごとく断絶し、人・物・情報の伝達が困難となった。震災直後は公衆電話も不通となったが、しばらくして通信機器の充電ができる環境になると、Twitterなどの簡易電子掲示板などを利用した情報交換が頻繁に行われるようになった。

被災地にサーバーを置く地元のプロバイダ経由のメールのやりとりができなかった頃にも、Twitter等は稼働しており、文字数制限があり、シンプルであるため、混雑する公共の通信環境であっても利用することができた。不特定多数が無責任な発話をするためデマ情報や、不快な印象を与える発話の数も少なくなかったが、点在する陸の孤島状態の避難所の状況を知る手がかりともなった。そこで、どれくらいの発話(本稿ではツイートと同義とする)がやりとりされ、それらにはどのような傾向があったのか、東日本大震災に関するTwitterの発話、ハッシュタグ#jisinを利用している発話、「地震」「震災」「津波」のキーワードを含む発話を、TweetSentimentsやTwitraqを用いて分析した。


2.ツイート数

ツイート数は、Twitraq[3]を用い、「地震(図1)」「震災(図2)」「津波(図3)」を含むツイート数を示した。「地震」「震災」「津波」を含むツイート数の推移を見ると、震災直後の大津波が来た3月に「津波」を含むツイートが急激に増えた(図3)。だが、その後頻発する余震では大きな津波が発生することはなく、急激に発話数は減っている。

report_03_14_1.jpg
図1 「地震」を含むツイート数 (縦軸は件数)

report_03_14_2.jpg
図2 「震災」を含むツイート数 (縦軸は件数)

report_03_14_3.jpg
図3 「津波」を含むツイート数 (縦軸は件数)

一方、「震災」を含むツイートは6月に入り急激に増えている(図2)。おそらく震災直後、被災地の人は少なくとも「震災」という言葉は発しなかったと思われる。むしろ震災から3ヶ月経ち過去の出来事として客観視できるようになってから「震災」という言葉がよく発せられるようになったため、6月に急増したのであろう。

また、「地震(図1)」を含むツイートは4月、5月と徐々に増え、5月は約81万件と最も多いツイート数であった。3月の頃は、水も電気も復旧していない地域が多く、通信機器にアクセスできなかった人々が利用するようになったためではないかと考えられる。そして、6月に入り余震の頻度も減り、徐々に減り始めている傾向ではないかと考えられる。

当然この3つのキーワードを含まない震災に関連するツイートは多数存在し、それらはカウントできていないことを付記する。


3.ツイートの発話地域や性別に関する特徴

震災に関連したツイートを行った人々の発話地域や性別には特徴があるのか、Twitraq[3]を用い、「地震(図4)」「震災(図5)」「津波(図6)」をツイートに含む発話地域を示した。

 少ない←―――→多い
report_03_14_4.jpg report_03_14_5.jpg
図4 「地震」を含むツイートの分布
(地図上で赤くなっているほど Twitterの推定利用者分布に比べて多い都道府県となっている)



 少ない←―――→多い
report_03_14_6.jpg report_03_14_7.jpg
図5 「震災」を含むツイートの分布



 少ない←―――→多い
report_03_14_8.jpg report_03_14_9.jpg
図6 「津波」を含むツイートの分布



「地震」を含むツイートでは女性の方が多く、「震災/津波」を含むツイートでは男性の方が多い傾向が見られた。また地域ごとの特徴としては、いずれのキーワードに関しても「宮城」のツイート数が最も高く、「地震/震災」を含むツイートでは福島が2番目に多く、「震災」を含むツイートでは岩手が2位であった。いずれのツイートも甚大な被害を受けた被災地3県である岩手・宮城・福島が高い割合を占めた。


4.TweetSentimentsによる発話分析

4-1. TweetSentimentsとは

TweetSentimentsでは、肯定的な発話(positive)と否定的な発話(negative)の比率を指数(Apply sentiment index 以降ASIと省略する)で表す。ASIを求める式は図7に示した。また、すべての発話は肯定(緑)から否定(赤)で分類され、その様子は図8に発話例は図9に示した。

report_03_14_10.jpg
図7  Apply sentiment index(ASI)の計算式



report_03_14_11.jpg
report_03_14_12.jpg
図8  Apply sentiment index(ASI)による分類


---[Positiveな例]---
3月11日に発生した「東日本大震災」で被災された方々のために義援金を募集します。report_03_14_13.jpg

---[Negativeな例]---
官邸の致命的ミスは、有事を発動して、強制避難させなかったため、病院や避難所において震災関連死との疑われる死者が既に500人(NHK 報道ニュースより)を超えている。菅総理の責任は重い。report_03_14_14.jpg

図9 発話例



4-2.発話傾向

震災に関連したツイートを行った人々の発話は肯定・中間・否定(Positive/Neutral/Negative)に関してどのような傾向があるのか、TweetSentimentsによって、分析を行った。「地震」「震災」「津波」「#jishin」「#jisin」を含むツイート分析の結果を表1と図10に示した。

表1に示すApply sentiment index(ASI)の値と、図10に示すPositive/Neutral/Negativeの比率を見ると、「地震」を含むツイートは74%が否定的な発話をしていることがわかった。具体的には「また地震。ゆれてるー (ノ_ё)ウゥ・・・ゥ・・・ゥ・・・」「地震嫌い。゜゜(´□`。)°゜。ワーン!!」等のように、余震が来たときなどにつぶやかれた発話が複数見られた。

一方で、「津波」を含むツイートは69%が肯定的な発話をしていることがわかった。具体的には「茨城県南部が震源地だったようです。停電してたんですね。大丈夫ですか?津波の心配は無いみたいなので、落ち着いて行動して下さいね。」等のように、余震が起きた際につぶやかれたと思われる発話が多かった。余震で大きな津波が来たことはなく、心配は不要、安心であるなどの内容のツイートが複数見られた。

   津波   震災   地震   #jisin   #jishin 
Index[0-100]: 76.0 63.0 19.5 37.5 52.0
Positive: 69 57 13 18 30
Negative: 17 31 74 43 26
Neutral: 14 12 13 39 44
 Total Analyzed:   100   100   100   100   100 

表1  Apply sentiment index(ASI)の値


report_03_14_15.jpg
図10 Positive/Neutral/Negativeの比率

「震災」を含むツイートは57%が肯定的な発話であった。「震災復興を応援歌 世界がひとつになるまでは名曲だよね°゚°。。ヾ( ~▽~)ツ ワーイ♪」等のように、復興に関する内容や、頑張ろう東北等のキーワードと共につぶやかれているツイートが複数見られた。図5に示したように、「震災」というキーワードは、震災直後よりも、落ち着きを取り戻しはじめた6月に多くつぶやかれていたことも合わせて考えると、「震災」というキーワードを使っていること自体震災を客観視しており、復興を願ったり、希望につながる肯定的な発話につながったのではないかと考えられる。

また、地震関連のハッシュタグ(注1)#jishinや#jisinでは、それぞれNeutral(肯定とも否定とも分類されない)ツイートが、それぞれ44%、39%であった。おそらく、これらのタグを付けたツイートでは、地震速報(注2)やニュース、事実を伝えるツイートが複数含まれていたためだと思われる。特に#jishinは毎日余震の度に発信される地震速報(注2)に必ず付けられているタグであることから、#jisinに比べてNeutralの割合が若干高くなったのであろう。さらに、個人の発話が中心となっている#jisinに比べて、メディアによるニュース関連のツイートにも#jishinが利用されることが多いため、#jisinよりも#jishinの方が否定的なツイートが少なかったのであろう。

震災関連のツイートは、「地震」「震災」「津波」「#jishin」「#jisin」を含まないツイートも、このほか多数存在する。ハッシュタグすらつけられていないツイートもたくさん存在するが、震災時に利用された主なハッシュタグだけでも地震(#jishinあるいは#jisin)以外にも以下のようなものがあった。

○安否確認 #anpi
○救助要請 #j_j_helpme
○避難所や避難警告情報 #hinan
○医療系被災者支援情報 #311care
○現地の声 #311spp
○被災したペット、動物救護 #311pet
○青森県の情報 #save_aomori
○岩手県の情報 #save_iwate 
○宮城県の情報 #save_miyagi 
○山形県の情報 #save_yamagata
○福島県の情報 #save_fukushima
○茨城県の情報 #save_ibaraki
   その他も、#save_都道府県名

上記のタグのうち、安否確認#anpi、救助要請#j_j_helpme、避難所や避難警告情報#hinanは、コミュニケーションをとるためのハッシュタグではなく、緊急時の連絡や緊急連絡のために利用されたハッシュタグであるため、被災直後以外は利用されていない(誤用は除く)。

一方#311careなどは、被災者のストレス緩和や、心のケアなどのために、継続的に利用されている。
「【被災地の方へ】http://goo.gl/gt8bs 日本臨床心理士会などが心の相談緊急電話(0120-111-916)で開設。午後1時~午後10時。話すことで少しでも心が落ち着けば」
などのような、相談窓口の案内も複数見られる。このほかも、被災者を安心させたり励ましたりする内容のツイートが複数見られた。そこで、「#311care」を含むツイートについてTweetSentimentsによる分析を行った。その結果は、表2に示すように、肯定的なツイートが70%を占めた。

一方で、「#311care」を含むツイートであるにもかかわらず、否定的な内容として分類されたツイートも2%存在した。その内容は、
「【詐欺・悪質商法②】(実例)公的機関を思わせる名称を使って「家屋の耐震診断をします」というチラシを配り、高額契約をさせる/「被災地に送る古い布団を集めている」と訪問し、高額な布団リフォームを勧誘する」
などのように、詐欺や、悪徳商法の被害に遭わないように呼びかけるツイートが否定的なツイートとして分類されていた。類似したツイートが複数確認された。おそらく「詐欺」や「悪」等のキーワードにより、否定的な内容として分類されたのであろう。すべてのツイートを目視することは不可能であるが、「#311care」を含む数百のツイートを見た限りでは、否定的内容のものは確認できなかった。

Index[0-100]: 71.5
Positive: 70
Negative: 27
Neutral: 3
 Total Analyzed:   100 

表2 #311care ASIの値


5.結語

「地震」「震災」「津波」いずれのキーワードも甚大な被害を受けた岩手、宮城、福島のツイートが多かった。甚大な被害を受けた地域の人々にとっては、震災後もまだ過去の出来事として通り過ぎることができない出来事であったため、長く多くつぶやかれたのであろう。各個人が関心のあることをつぶやくツイートの分布は、まさに、地域ごとの関心のある内容の差異を表象している。

このことは、震災後、震災関連の番組がしばらく放送されていたことに対する捉え方など端々のつぶやきにも散見された。被災地では、震災から数週間経ち、ようやくぽつぽつと電気が復旧し、テレビを見ることができるようになり、テレビの映像で初めて何が起きたのかを知ることができてありがたいと、まじまじと震災関連のニュースを眺めたという声を聞いた。その一方で、被災地以外の地域では、震災直後もテレビを見ることができ、被災地の人はその映像を見ることすらかなわないという状況に思いをはせることもなく、何度も津波の映像ばかり放送され、早く通常番組に戻してほしいという身勝手な声も多々見かけた。

ツイッターでフォローしあっている相手は、類似した環境の場合が多い。番組を震災関連の内容から通常の内容に戻してほしいという意見をつぶやく人のフォロワーの大半は、被災地の人ではなく、同調意見が多く、番組を戻すことを望む意見も多数つぶやかれた。映像を見ながら、震災から何週間か経った時点でも津波の映像を見ることすらかなわない人々、入浴も数週間できない人々、親兄弟を同時に失い天涯孤独になった子どもがたくさんいたことを、何人の親が子どもに語っただろうか。

被災地以外では、原発や震災後の生きづらさを十分に理解できるよう子どもに語ることは少なく、ネットでは何日も風呂にも入れていない状況に置かれた被災地の人々が、ハエがたかる中で炊き出しにぞろぞろ並び、ハエが飛び回る中で食事をすることを余儀なくされている様子の動画が流れた。そんな被災地の人々が、徐々に他県へ避難し始めたところ、受け入れる側の地域の人々に、被災地の人々を思いやる心が育っておらず「原発がうつる」などといったいじめが各地で起き、問題となった。

また、ボランティアによってがれきの撤去や片付け、掃除などを手伝ってもらいありがたかったという声と同時に、ボランティアとして被災地入りをし、撮影を拒む避難所の人々にカメラを向けたことが問題となり、一切ボランティアの受け入れを拒否する避難所もあった。

多くのツイッターのつぶやきを数ヶ月眺めると、日本は小さな島国であるのに、たった数百キロ離れたに過ぎない地域の人々の痛みを共有することができなくなったのではないかと、悲しく感じることもしばしばあった。ソーシャルメディアの普及により、遠く離れた人と人とが瞬時に関わり合えるようになればなるほど、関わりを持っている人々で構成された小さなムラ社会がすべてであるかのような感覚を持つ人が増えてしまったのではないか。最近の若い世代はテレビを見なくなった[5]と指摘されているように、興味の有無にかかわらず流れてくるニュースを能動的に漠然と眺めることが少なくなり、主体的に自分の関心があることを検索し、情報を収集する傾向になったのである。そして、類似した考え方を持つもの同士がつながりあい、共感し合える空間を築きあげている。グーテンベルグによる印刷技術の発見以降、入手可能な情報の枠組みはずっと拡大しつづけてきたが、ソーシャルメディアの普及により、距離にかかわらず手軽に共感空間を築けるようになったことが、かえって視野狭窄を起こしてしまう場合もある。ソーシャルメディアの普及に伴い互いに共感できる空間を築く一方で、つながっていない人々の存在に気づき、その人々の環境や、考え方にも共感できる心を育てることが、情報社会における教育の果たす役割ともいえよう。


------------------------------------------------------------------

注1 ハッシュタグ(hashtag)とは、Twitter上で利用する#記号と半角英数字で構成される文字列のことである。発言内に「#○○」と入れて投稿すると、その記号つきの発言が検索画面などで一覧できるようになり、関連した内容の発話が閲覧しやすくなる。Twitterのユーザーが自発的に使用するようになったルールである。
注2 地震速報の例 (筆者により部分省略)
 @earthquake_jp 地震速報
 【速報LV4】05日01時06分頃 岩手県久慈市近辺(N40.2/E142.5)にて(推定M4.5)の地震が発生。
 震源の深さは推定53km。#jishin
注3本稿は、参考文献[6]を加筆修正したものである。


参考文献
[1] 気象庁 地震情報
http://www.seisvol.kishou.go.jp/eq/suikei/eventlist.html
[2] 津波の最高到達点は40.5メートル 専門家チーム測量 2011年5月30日
[3] Twitraq http://twitraq.userlocal.jp/
[4] http://pbdspace.kj.yamagata-u.ac.jp/311/
[5] NHK放送文化研究所「国民生活時間調査」2010年報告書
[6] 加納寛子(2011)  東日本大震災におけるTweetSentimentsによる発話分析 日本教育情報学会第27回年会論文集 Pp.26-29.
このエントリーをはてなブックマークに追加

TwitterFacebook

インクルーシブ教育

社会情動的スキル

遊び

メディア

発達障害とは?

論文・レポートカテゴリ

アジアこども学

研究活動

所長ブログ

Dr.榊原洋一の部屋

小林登文庫

PAGE TOP