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外国につながる子どもの教育支援 ―親の日本語力は子どもの日本語力と将来にどう影響するか―

要旨:

日本在住の外国につながる子どもたちの教育支援の一つとして日本語教育があげられるが、学校等で行われる支援だけではなく、家庭での支援も重要である。本調査では、幼児期と児童期の子どもに焦点をあてて、親の日本語力が子どもの日本語力や将来とどう関係するかについて分析を行った。その結果、親の日本語力が低いと、子どもの幼児期や児童期の日本語力も低く、将来の進路選択も閉ざされる傾向が見られた。したがって子どものみならず、今後は親を支援する視点をもつことも大切であろう。

キーワード:

在日外国人、外国につながる子ども、幼児期の日本語支援、親子の日本語力、地域支援、在日ブラジル人
1.「外国につながる」親子の日本における状況

現在、日本には外国につながる子どもが増加し続けており、15万人以上の小・中学生が在住している(文部科学省, 2022)。義務教育段階の子どもだけではなく、高等学校に在籍する外国につながる子どもや、就学前の乳幼児を加えると、さらにその数は増える。外国につながる子どもは、親の国籍も子ども自身の国籍も様々で、その中には日本国籍しかもっていない者や無国籍者も含まれており、さらに彼らの母語や継承語*1も多様である。

日本で公的な義務教育を受けるためには日本語での学習が前提となっているが、外国につながる子どもの中には日本語をあまり理解できない者から、年齢相当の日本語を使いこなす者まで幅が広い。同様に、その親も、日常会話程度の日本語に不自由する者から、仕事で日本語を使いこなす者まで様々である。親が在住国の言語を理解する程度は、子どものことばの習得や将来の進学とどう関連しているのだろうか。また子どもの日本語力に大きな影響を与えるであろう親に対して、学校や地域の人々はどう支援していったらよいのだろうか。以上の観点から日本に在住する外国につながる子どもの中でも人数の多いブラジル人親子を対象に、親子の日本語力、親の子どもに対する高等学校進学の期待や子どもへの心配ごとについてアンケート調査を行った。

2.親子の日本語力の関係性

アンケート調査は、コロナ禍であることも考慮し、Googleフォームを使用したオンライン・アンケートを2020年秋に行った。日本在住のブラジル人で、日本の幼稚園・保育所・こども園・小学校に通っている4~12歳の子どもをもつ親を対象に、ポルトガル語で調査をした*2。その結果、41人の親から回答をもらった。回答者の学歴は、87.5%がブラジルで高等学校以上を卒業して来日していた。したがって、大多数の回答者はポルトガル語が母語であるという特徴をもっている。日本での滞在年数は、平均13.58年であった。親の日本語力は、親の日本語使用の困り感として回答された測定値を用い、子どもの日本語力については、親から見た子どもの幼児期の日本語使用の程度、親から見た子どもの児童期の日本語使用の困難度を測定値として使用した。また親の日本語使用の困り感は、日本語使用必要度の観点から生活の中で体験するであろう11の場面*3について回答してもらった。

分析の結果、第一に、親の日本語使用の困り感の程度は生活の各場面によっても異なっていたが、最も困っていたのは、「事故などで警察に行って事情を説明する」「学校で子どもの成績や進路について先生と話す」「子どもたち同士のトラブルについて、子どもの友達の日本人の親と話す」など、何かトラブルがあったり、きちんと理解しなければいけない場面での日本語使用についてであり、65%以上の親が困り感を抱えていた。

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図1 親の日本語使用における困り感

第二に、親の日本語使用の困り感と子どもの幼児期の日本語使用度(頻度)との関係も場面によって異なっていたが、ピアソンの相関分析の結果、「スーパーでの買い物」などそれほど複雑な日本語を使用しない場面においても、日本語使用で親が困っている程度が高いほど、子どもは幼児期に近所の友達と遊ぶ際にも日本語を使わない傾向が見られた(r=.36, p<.05)。 第三に、親の日本語使用の困り感と子どもの児童期の日本語使用の困難度との関係では、両者の関係性がより強く見られる場面が幼児期に比べて多くなり、特に「スーパーでの買い物」の場面では日本語使用の困り感を親がもっているほど、子どもが学校で教師や友人と話したり遊んだりする場面(教師と:r=.54, p<.01; 友人と:r=.54, p<.01)、学校での授業(r=.38, p<.05)や家庭での宿題場面(r=.54, p<.01)での日本語使用困難度が高くなった。

以上のように、幼児期、児童期ともに親子の日本語力は関連性をもっており、特に幼児期に比べて児童期の方が親子の日本語力の関連性はより強いと言えよう。また親の日本語力が低いと、生活・教育上の情報を入手する範囲も狭くなり、親が自ら子どもに与えられる情報も狭まる。したがって親の日本語力が低い場合には、保育所等の就学前施設や学校からの支援がいっそう必要となるだろう。

3.幼児期と児童期の日本語力の関係

親子の日本語力については関連性があることが明らかになったが、子どもの発達的な観点からも見てみよう。子どもの幼児期の日本語使用度と児童期の日本語使用の困難度との関係はどうだろうか。幼児期の「きょうだい間で日本語を使う」時以外すべての場面で、児童期の日本語使用の困難度との間に有意な相関が見られた。特に幼児期に就学前施設での友達や先生との間での日本語使用度が低いほど、児童期に日本人の友達との間でけんかになった場合の日本語使用の困難度が高くなっていた(友達と:r=.61, p<.01; 先生と:r=.64, p<.01)。すなわち幼児期での日本語を用いたコミュニケーションは、その後の同輩集団内でのコミュニケーションの円滑性にも影響を与えると思われる。また幼児期において就学前施設での友達や先生との間で日本語を使っている程度が低いほど、小学校での授業における日本語使用の困難度も高くなった(友達と:r=.52, p<.01;先生と:r=.49, p<.01)。

以上のことから鑑みると、就学後からだけではなく、幼児期の日本語教育にも今後力を入れる必要があるだろう。特に親の日本語力が低い場合には、家庭内での使用言語も親の母語である場合が多い。このことは子どもの母語の発達という点では望ましいが、その一方で、家庭内で日本語に触れる機会が少ないことを意味している。そのため就学前施設における日本語教育、すなわち保育者との積極的な日本語使用や丁寧なやりとりといった質の高い言語活動の提供が重要となる。但し、幼児期はその発達段階を考慮して、就学後の日本語教育とは異なった方法で行われることが必要であり、その方法については塘(2023)を参考にしてほしい。

4.親の日本語力と子どもに期待する高校進学

外国につながる子どもの障壁の一つに日本の高等学校進学がある。日本での高等学校進学率は98.9%(文部科学省, 2022)となっており、将来自分が望む職を得るためにも高等学校卒業資格は重要である。しかし外国につながる子どもたちの中には、日本語力が低いために、進学を断念したり中途退学したりする場合も多い。本研究の結果から、親の日本語力と、日本の高等学校進学を親が子どもに期待する程度との間に有意な正の相関が見られた。

特に「子どもたち同士のトラブルについて、子どもの友達の日本人の親と話す」(r=.41, p<.05)「事故などで警察に行って事情を説明する」(r=.36, p<.05)などのトラブル処理や、「銀行での手続き」(r=.35, p<.05)「子育て支援、災害情報の取得」(r=.33, p<.05)「日本人と職場で仕事」(r=.43, p<.01)など様々な生活情報の入手や仕事場でのコミュニケーションで親が日本語使用に困り感を抱いている場合には、日本の高等学校進学を子どもに勧めない傾向が見られた。

外国につながる子どもたちの在日期間は、コロナ禍の影響もあり長くなる傾向がある。このような中で子どもは日本語力がつかないままに、義務教育段階を修了していくが、だからといって母語もしくは継承語のポルトガル語が年齢相当水準に達しているかというとそうとも言えない。どちらにしても中等・高等教育への進学の道が困難になるのである。このように高等学校に進学するか否かが、親の日本語力と関係する可能性があるのであれば、親の日本語教育や、子どもの日本語習熟度についての正確な情報を親に伝えていくことが重要であろう。自分自身が日本語を使用できない親は、日本での高等学校進学の重要性を認識できなかったり、子どもの日本語習熟度を正確に把握できなかったりすることがよくある。学校現場では子どもに対することばの支援が中心になるが、教育委員会等の支援も得て、日本の高等学校進学のシステムや、子どもの日常の学習状況を親に対して分かりやすく伝えていくことも必要であろう。

5.親の日本語力と子どもへの心配ごと

親の日本語力と子どもに対する親の心配ごととの間にはどのような関連性があるのだろうか。「友達関係」、「成績や日本語力」、「発達の遅れ」の観点から、親の心配ごとについて、親の日本語使用の困り感との関係を分析した。その結果、親の日本語使用の困り感が高いほど、子どもの友達関係のトラブルについての心配ごとも高くなる傾向が見られた。特に進路や成績について先生と話す際に困難を伴ったり(r=-.42, p<.01)、子育て支援や災害情報などの情報を親が入手できないと(r=-.45, p<.01)、子どもの友達関係のトラブルに関する心配の程度も高くなった。子どもの成績や日本語力、そして発達の遅れについての心配も同様の傾向が見られた。

また近所の日本人と世間話をする際に日本語使用の困り感を抱いている親は、子どもの友達関係のトラブル(r=-.33, p<.05)、学校での成績(r=-.32, p<.05)、日本語の会話(r=.49, p<.01)、日本語の読み書き(r=-.35, p<.05)、発達の遅れ(r=-.34, p<.05)について心配する程度が高くなった。

以上のように親は日本語ができないと、子どもに対する心配事の程度も高くなる傾向が見られた。したがって子どもに対する支援だけではなく、親に対しても親の母語で子どもの発達相談をする場を設ける必要があるだろう。また子どもの友達関係のトラブルは文化による習慣の違いによって生じることも多い。例えば物の貸し借りについて、日本では鉛筆をちょっと借りる場合にも「貸して」という依頼を所有者に対してする必要があるが、親しい友人ならこのような依頼は必要ないと考える文化もある(齊藤編, 2011)。したがってこのような文化の違いによる習慣や考え方の違いについて親に説明する機会を設けることも大事な支援の一つになるだろう。

6.地域における親支援

日本では外国につながる子どもの保育・教育に関わる法制度が特に1990年以降徐々に整備されてきた。1990年の「出入国管理及び難民認定法」改正後に増加した外国につながる子どもたちに対して、中学校卒業程度認定試験の制度が設置された。2013年には外国人児童・生徒を含めた海外からの児童・生徒の受け入れから卒業後の進路までの一貫した指導・支援体制の整備への取り組みの要請が文部科学省からなされた。2014年には学校教育法施行規則の一部改正が行われ、児童・生徒の日本語指導が「特別の教育課程」として設置され、日本語指導についても手探り状態ではあるが、カリキュラムが蓄積されるようになってきた。

就学前の幼児期にある子どもとその家庭に対しても、保育所保育指針が2017年に改訂(2018年施行)され、「外国籍家庭など、特別な配慮を必要とする家庭の場合には、状況等に応じて個別の支援を行うよう努めること」といった、「外国につながる」家庭や乳幼児自身に焦点をあてた配慮事項が明文化された。同時改訂となった幼稚園教育要領や幼保連携型認定こども園教育・保育要領総則の「特別な配慮を必要とする幼児*4への指導」の中にも「海外から帰国した幼児や生活に必要な日本語の習得に困難のある幼児の幼稚園生活への適応」という項目が初めて入り、「海外から帰国した幼児や生活に必要な日本語の習得に困難のある幼児については、安心して自己を発揮できるよう配慮するなど個々の幼児の実態に応じ、指導内容や指導方法の工夫を組織的かつ計画的に行うものとする」と明記された。

その一方で、法律改正はされても教育・保育現場では現在でも十分な対応はできていない。特に就学前施設においては何らかの施策に取り組んでいると回答した市区町村の割合は10%未満と低い(三菱UFJリサーチ&コンサルティング, 2021)。外国籍の親に対する支援も進んでいない地域も多い。もちろん親は仕事で日常的に忙しいために必要な支援を受けたくても受ける時間がないという問題もあるだろう。また外国籍の人々を受け入れている企業が雇用者の日本語教育に力を入れているかといえば、必ずしもそうではないだろう。その一方で、民間レベルでは特に発達に障害をもっている可能性のある子どもの発達支援とともに、親の相談を丁寧に受けているところもある。また岐阜県大垣市などは親に対する就学前のガイダンスを行っていたり(内田, 2022)、UR賃貸住宅団地で住民同士の交流を行っていたりする地域もある(村澤, 2022)。このように地域の住民、地域行政や民間団体などの多様な機関による親支援は今後ますます必要になるであろう。

外国につながる子どもは、日本国籍をもち日本語を母語とする子どもと同様に、日本の将来を担う存在となる。したがって今後とも、国が法制度の中で彼らの教育支援をさらに整備していくことが重要である。しかしそれだけではなく、地域の活性化も併せて考えると、外国人の親を一市民として支える地域の取り組みも忘れてはならない。今後の日本社会は、ますます多国籍化していく。一市民として地域で外国籍の親子を受け入れ、国籍に関係なく協力して地域活動を一緒に担い、日常生活の中で支え合う関係づくりをしていく中で、子育てをしている外国につながる親を支えていくことが求められる。親の言語状態が子どもに影響をもたらすという本研究の結果から考えても、子どもの保育・教育支援をするだけではなく、その親を支える視点をもつことが、今後の日本社会にとって必要になる。

本稿は日本に在住するブラジル人家庭を対象に分析した結果を紹介したが、これは何もブラジル人家庭だけの問題ではない。幼児期のことばの使用や発達がその後のことばの使用にも関連性があること、そして親子のことばの使用が関連性をもっていることを認識しながら、全ての子どもの保育・教育、そして親支援を行っていく必要があるだろう。


文献

  • 三菱UFJリサーチ&コンサルティング(2021)令和2年度子ども・子育て支援推進調査研究事業 外国籍等の子どもへの保育に関する調査研究報告書.
  • 文部科学省.(2022)令和4年度学校基本調査報告書(初等中等教育機関・専修学校・各種学校編)
    https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=datalist&toukei=00400001&tstat=000001011528&cycle=0&tclass1=000001172319&tclass2=000001172320&tclass3=000001172415&tclass4=000001172416&tclass5val=0 (2023年2月28日閲覧)
  • 中島和子(2005)「カナダの継承語教育その後:本書の解説にかえて」ジム・カミンズ、マルセル・ダネシ(中島和子・高垣俊之訳)『カナダの継承語教育:多文化・多言語主義をめざして』155-180. 明石書店.
  • 村澤慶昭(2022)「外国人の子どものためのノンフォーマル教育コミュニティの可能性:大学と企業の連携によるにほんご教室の運営支援」齋藤ひろみ編著『外国人の子どもへの学習支援』金子書房
  • 齋藤ひろみ編著(2011)『外国人児童生徒のための支援ガイドブック:子どもたちのライフコースによりそって』凡人社
  • 塘 利枝子(2022)「「外国につながる」乳幼児への発達支援」『発達172:子どものことば、再発見!』82-87.
  • 塘 利枝子・稲岡プレイアデス千春(2023)「ブラジルにつながる子どもの日本語使用の状況と支援:幼児期と児童期に焦点をあてて」『現代社会フォーラム19』1-18.
  • 内田千春(2022)「就学前の子供のためのプレスクール:大垣市の取り組み」齋藤ひろみ編著『外国人の子どもへの学習支援』金子書房

  • 注記

    • *1 継承語(Heritage Language)とは親から受け継いだことば(中島, 2005)。
    • *2 アンケート調査については日本語からポルトガル語に翻訳をして掲載した。質問項目内容の調整を一緒にしていただいた稲岡プレイアデス千春(金沢大学)氏に謝意を表します。
    • *3 生活の中で体験するであろう11の場面として以下を想定した。
      1. スーパーマーケットで買い物をするとき
      2. 近所の日本人と世間話をするとき
      3. 日本の学校で子どもの成績や進路のことについて先生と話をするとき
      4. 子どもたち同士のトラブルについて、子どもの友達の日本人の親と話をするとき
      5. 日本人と一緒に職場で仕事をするとき
      6. 病院であなたや子どもの病状について医者に説明するとき
      7. 役所で手続きをするとき
      8. 銀行で手続きをするとき
      9. 事故などで警察に行って事情を説明しなければならないとき
      10. 駅で切符を買ったり旅行の相談をするとき
      11. 日本での子育て支援、生活、災害などの情報について知りたいとき
    • *4 幼保連携型認定こども園教育・保育要領においては「園児」と記載されている。この後に続く文章内の記載も同様に「幼児」ではなく「園児」と記載されている。
筆者プロフィール
塘 利枝子(とも・りえこ)

同志社女子大学教授。専門は発達心理学と文化心理学。文化間移動をする子どもや在日外国人の幼少期日本語教育、児童期・青年期のアイデンティティについて発達的な観点から研究をしている。同時に彼らをとりまく文化・社会の違いについて、アジアや欧州の小学校教科書に描かれた子ども像や家族像についても研究している。
著書に『アジアの就学前教育』(明石書店、2006)、『社会・情動発達とその支援』(共著、ミネルヴァ書房、2017)『欧州の教科書にみる多様化する家族』(ナカニシヤ出版、2023)、など。
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