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【発達障害児からみるやさしい世界】 第1回 ショウくんとの出会いと別れ

連載開始にあたり

初めまして。鳥取大学の角南(すなみ)なおみと申します。専門は教育心理学、学校臨床心理学です。これまで学校現場に様々な形で関わらせていただいています。最初は教師として、次にカウンセラーとして、研究者として。

小学校で教壇に立った時のことです。手を挙げずに発言を繰り返し、1回挙手して指名されないと大声で文句を言う子どもに、"話が伝わらず、なんて関わりにくいんだろう"と思いました。後に専門的に学び、その子には注意欠如・多動症(Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder:以下、ADHD)傾向があったことがわかりました。

その後、子どもとの関わりを心理学的視点から学び直すため、大学院修士課程で臨床心理学を専攻し、発達障害についても多くを学びました。発達障害のある子どもさんから聞くお話は、私が最初に感じていた印象とは全く違うものでした。

修士課程修了後、教師と同時にスクールカウンセラーとしても、学校に関わりました。それから数年後、発達障害を含む、教師と子どもの関わりについて研究を行うために博士課程に進み、今も人生の師と仰ぐ先生との出会いがありました。

現在は医学部で主にコミュニケーション教育を担当し、地域の教育委員会、多くの先生方の協力のもと研究も継続しています。並行して、スクールカウンセラーとして多くの子どもさん、保護者、先生方から直接お話をお聞きし、学んでいます。臨床心理士、教育学という立場での研究と経験に基づき、"発達障害傾向のある子どものために周囲の大人に何ができるのか"をコンセプトに、子ども理解を深めるため、いろいろな観点からみなさまに問いかけていきたいと思います。初回は、発達障害の定義と私の心に残る大切なエピソードをご紹介します。

発達障害の2つの定義

発達障害という言葉を聞く機会が増えています。おそらく聞いたことがないという方はいないくらいに。それでは、発達障害とは? と聞かれると、即答できる方は多くないと思います。時々、発達障害という言葉だけが一人歩きをしている印象を受けることもあります。 そこで、本稿では、発達障害児(もっとも私は発達障害という言葉に馴染めず、発達特性という言葉を使うことが多いですが)からみる世界を少し一緒に覗いていただきたいと思います。 

まず、発達障害における教育的定義と医学的定義という2つの定義について、今回は上述したADHDを取り上げ、少し触れておきます。それぞれ、文部科学省(2003)1、American Psychological Association(2003/2004)2から引用します。

教育的定義 

「年齢あるいは発達に不釣り合いな注意力、及び/又は衝動性、多動性を特徴とする行動の障害で、社会的な活動や学業の機能に支障をきたすものである。また、7歳以前に現れ、その状態が継続し、中枢神経系に何らかの要因による機能不全があると推定される」(文部科学省,2003)

医学的定義 

「機能または発達を妨げるほどの不注意と多動性-衝動性、またはそのいずれかの持続的な様式」(American Psychological Association,2003/2004)

本稿では、ADHDの医学的定義としてDSM-5を参照しています。DSM-5は2013年にAmerican Psychological Association(米国精神医学会)から刊行された「精神障害の診断および統計マニュアル」の最新版です。DSM-5の改訂前のマニュアルにおいて、ADHDは「注意欠如および破壊的行動障害」という行動に関する領域として、広汎性発達障害、学習障害、摂食障害等とともに「通常、幼児期、小児期、または青年期に初めて診断される障害」という大きなカテゴリーに包括されていました。DSM-5では、ADHD、自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorder:以下、ASD)、限局性学習症(Specific Learning Disorder:SLD)は小中学校入学前に明らかになる機能障害として新設された「神経発達症群」クラスターに分類されました。

一方、我が国においてADHD、ASD、SLDは、発達障害者支援法により2005年からすでに発達障害として包含され、先進的な検討が行われていました。発達障害の概念だけでなく医学的診断基準も時代によって変化しています。ですので、今私たちがもっている知識や捉え方も今後変わっていく可能性は十分にあるといえます。

そのような柔軟な視点をもって、発達障害をもつ生徒さんのエピソードをお読みいただければと思います。

高校3年生のショウくんとの別れ

ADHDとASD特性のあるショウくん(仮名)とは、高校1年生の入学時からカウンセリングを通して関わっていました。主訴(問題となる内容)は、その発達特性により今後困難が生じると思われる高校生活への適応でした。ADHDとASDが併存すると、単独特性より社会的機能や適応能力、実行機能などがより低下する傾向があり(Murray,2010) 3、集団活動や対人関係、学習の取り組み等に関する困難感が大きくなります。そのため、周囲の理解と対応がより必要になります。

学習には問題がないものの、ADHD特性による不注意や衝動性から怪我が多く、またASD特性から状況判断に偏りがあるときには、先生に暴言を吐いたり、パニックになって学校を飛び出すこともありました。その都度、ショウくんと話をしたり、担任の先生と一緒に対応を検討しました。カウンセリングにも継続して来てくれました。

卒業式後の最後のカウンセリングのときのことです。もともと歌を歌うのが好きで、何度か聴かせてくれていたのですが、その日はいつもと違っていました。小さなスピーカーを持ってきていて演奏部分だけを流し、"お別れの歌"を歌ってくれました。私は、途中から涙が止まりませんでした。なぜなら、人の気持ちを理解するのが苦手なASD特性があるショウくんが、感謝の気持ちを伝える方法として、"私のために"心を込めて歌ってくれたのですから。

涙が止まらない私に、「先生はこれまでこんな別れが何度もあったでしょう?」と気遣ってくれました。これが、他者の気持ちの理解が難しいと言われる人の言葉でしょうか。そして、最後に、「別れは終わりじゃなくて、始まりだから」と、悲しむ私を慰めるように言ってくれました。特性とは何なのでしょうか。こんなにも温かい気持ちをもっているのに...。

ショウくんが以前に言っていた言葉が思い出されます。 「学校で騒ぎを起こしたり、先生に反抗したりしてるけど、今先生の前にいる自分が本当の自分なんです」 これは、カウンセラーとして私が彼の心理面の理解をしているということが根底にあったのを、ショウくんが感じ取ってくれたからこその言葉かもしれません。もう一つ挙げることがあるとすれば、妹をかわいがり、家族を大切にしているショウくんの内面にある多くの"優しさ"や"良さ"を私が感じ、"可能性"を信じていたことです。

私にとって大切なエピソードを最後までお読みいただき、ありがとうございます。発達特性のある子どもの理解が深まる内容をこれから少しずつ書かせていただく予定です。どうぞよろしくお願いいたします。



参考文献

  1. 文部科学省.今後の特別支援教育の在り方について(最終報告)
    https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/054/shiryo/attach/1361204.htm(閲覧日2022年9月8日)
  2. American Psychological Association(2003/2004) American Psychiatric Association.(2014).DSM-5 精神障害の診断および統計マニュアル.(高橋三郎・大野 裕、監訳・染矢俊幸・神庭重信・尾崎紀夫・三村 將・村井俊哉、 訳 )東京:医学書院.(American Psychiatric Association.(2013). Diagnostic and statistical manual of mental disorders. text revision DSM-5 (5th ed.))
  3. Murray, M. J.(2010).Attention-deficit/hyperactivity disorder in the context of autism spectrum disorders. Current psychiatry reports,12(5),382-388.
  4. 角南なおみ(2022).『発達障害傾向のある子どもの居場所感と自己肯定感を育む関わり』.今井出版.
筆者プロフィール
角南 なおみ

鳥取大学医学部 助教。専門は,教育心理学,特別支援教育,学校臨床心理学。公認心理師, 臨床心理士, 臨床発達心理士。子どもに還元する研究を目指し,“発達障害を含む多様な子どもと教師の関わり”について多方面から検討している。 好きな場所は,大学,図書館,カフェ。

著書に「発達障害における教師の専門性」(学文社),「発達障害傾向のある子どもの居場所感と自己肯定感を育む関わり」(今井出版),共著に「教育相談:やさしく学ぶ教職課程」(学文社),「これからの教師研究:20の事例にみる教師研究方法論」(東京図書),「自己理解の心理学」(北樹出版)などがある。

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