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学校と家庭の関係:アメリカの学校教育への保護者のかかわり

今回は、アメリカの学校現場や教育政策で特に注目を浴びている、Family Engagement(学校と家庭のつながり)についてお話ししたいと思います。Family engagementは、直訳すれば「家庭のかかわり」になりますが、アメリカの教育政策や研究では、学校と家庭が連携して、またはパートナーとなって子どもたちの教育をサポートするという意味で使われます*1。このFamily Engagementですが、近年は多くの州の教育指針や評価に含まれているように、「よい」学校と教育を目指すうえで欠かせない要素として考えられています。アメリカの学校カリキュラムは州や区によって異なるのですが、私たちが住んでいるロードアイランド州では、子どもの学校に関するアンケートが年に一度、保護者に配られます。学校がどのくらい家庭と連絡をとろうとしたか、保護者の要望に応えているか、どのくらいボランティアの機会があったか、保護者が学校を信頼しているかなど、さまざまな質問項目が含まれています。今回はリサーチ内容とともに個人的な体験も交えながら、アメリカのFamily Engagementの状況についてお伝えしたいと思います。なぜFamily Engagementが強調されるようになったのか? 問題点は? 実践例は? などを通じて、その根底にある学校教育の考え方についても触れていきたいと思います。

学校と家庭の関係

私には、16歳と12歳の2人の子どもがいます。長男がロードアイランド州の公立小学校に通うようになり、まず驚いたのは保護者がボランティアとして学校に関わる、教室内に入る機会の多さでした。学校行事(作品展示会、マラソン大会など)や学校の環境整備(校庭の園芸、遊具組み立て)だけでなく、図書館でのお手伝い、休み時間や昼食の時間のモニター、そして教室内で先生方の授業の補佐など、さまざまな機会があります。中学や高校にあがると、教室内でのボランティアの機会は減りますが、それでも学校行事や学内イベント (コンテストなど)、ときにはクラブ活動にボランティア招集がかかることがあります。これらはすべて、強制ではなく、希望する保護者が参加する形になっています。学校により異なるでしょうが、参加へのプレッシャーはあまり感じられません。子どもたちの学校では、準備されたアプリやウェブ上の登録フォームに、希望する保護者が名前と参加できる日・時間(1時間~3時間くらい)を記入します。ボランティアには、父親も多く参加しています。フレックスタイムを採用している職場が多いこと、子どものイベントやケアなどで休みがとりやすいことなどが大きな要因でしょう。加えて、学校でのボランティアは義務でなく、保護者も楽しみながら参加し手伝うもの、子どもの学校生活を知るよい機会と考えている保護者が多いと感じました。このように学校を訪問したり教室で過ごす時間が増えると、保護者は学校の様子や先生方の教え方を知ることができ、先生方と話す機会も増え、それが子どもの学習のサポートにつながるというリサーチ結果がでています。また、学校を家庭やコミュニティに開放することは、学習面だけでなく、家庭と生徒が学校を「コミュニティ」としてみるようになり、学校への愛着を高める効果もあるようです*2

そもそも、なぜfamily engagementは、アメリカの教育政策や学校現場でこれほど強調されるようになったのでしょうか? 長い間、「教育」は学校が担う領域として考えられてきました。そこから家庭の役割に注目が集まるようになったのは、1966年に発表された「コールマン・レポート」の影響があります*3。これは、アメリカの教育格差を理解するためにColeman率いる研究チームが行った、大がかりな調査です。膨大なデータ分析を行った結果、生徒の学力の決定的な要因は、家庭であると発表されたのです。もちろん、この結果は、学校の役割を過少化するものではありません。ただ、それまでのアメリカの教育政策や議論は学校の質や学校間の格差に集中していたため、この結果はアメリカの教育界にとって衝撃的だったのです。この調査結果により、学力格差を縮めるには、学校の力に依存するだけでは限界があると考えられるようになったのです。

保護者への負担と格差

学校と家庭の連携は、現場の方々からみると難しい問題に見えるかもしれません。学校と家庭の境界線があいまいになると、保護者が学校に「介入」するのではないか、学校は多様な要求にどう対応するのか、また教師の自主性は保たれるのかといった心配がでてくるかもしれません。日本では、学校に苦情や要求を突きつける保護者に対して、「モンスター・ペアレント」という言葉が広く使われるようになりました。モンスター・ペアレントは、学校と家庭の関係を焦点に生まれた言葉です。アメリカでは、学校に対して要求や提案、時に苦情をつきつける保護者に対して、モンスターという印象は生まれにくい状況にあります。家庭が学校に対して個々の子どものニーズに合うように要求を伝えるのは、当たり前として捉えられているからです。例えば、特別なニーズをもつ子どもたちには、学校が保護者と話し合いながら個々に合った教育を提供するのが法律で義務づけられています。能力が高めと評価された子どもには、小学校低学年からギフテッドという、より高度な学びの機会を提供する公立学校もあります。それぞれの子どものニーズは多様で、同じ教育方法が多くの子どもに適切なわけではないので、保護者が要望を伝え、子どもに合った教育経験を学校や先生方に要求することは、ある程度自然な行為であると考えられています。ただし、中高生に対して、手取り足取りサポートする親に対しては、「ヘリコプター・ペアレント」という用語があります。ヘリコプターが上で旋回しているように、子どもの日常や教育に事細かく目を向け介入している親は、子どもの自主性や自立を妨げるため好ましくないという視点から生まれた言葉です。ただ、こちらは親子関係に注目したものです。全体的に、保護者が学校、特に小学校の方針とやり方に対して、意見を述べたり提案をすることは、それほど否定的にはみられない傾向があります。個々の生徒の学習に対応するには、少なくとも理想的には、生徒・家族の要望や意見を反映しながら、システムや運営方法を変えていく必要があると考えられているからです。

そうなると、前述したように学校を開放すること、ボランティアなどを通して保護者が学校や教室で子どもに関わり、学校の様子を知ることは、学校にとっても必要なプロセスになるでしょう。もちろん、この背景には、保護者が収める区の税金で学校が運営されていること、家庭の要求に応じて学校や先生方が方針やカリキュラムを変えやすいシステムであることなどがあるでしょう。

もう一つ、よく耳にするのが、保護者への負担への懸念です。学校内のボランティアや行事への参加は、保護者の時間的・経済的・精神的負担になる可能性があります。学校と家庭の関係を調べたリサーチでは、ボランティア活動に積極的で先生方と連絡を頻繁に取るのは、全体的に経済的に恵まれた保護者であるという結果が出ています*4。経済的に大変な保護者は、いくつもの仕事をかけもちしていたり、勤務時間が長い傾向があります。また、小さな子どもがいたり(ベビーシッターを用意している学校もありますが)、車がなく公的交通機関を利用する家庭にとっては、学校に出向くことは大きな負担です。家庭のかかわりの強調が、教育格差を助長するのか、それとも縮小するのか、これは教育リサーチでも大きなテーマです。

ただ、前述したコールマン・レポートが示したように、家庭の経済状況による学力格差は、Family Engagementがすすめられる以前から顕著でした。問題は、Family Engagementの効果を何にみるかということです。実は、統計を中心としたデータ分析では、ボランティアなどで家庭のかかわりを強めることが、必ずしも子どもの学力向上につながるという結果は出ていません*5。けれど、学校と家庭のつながりを強めることは、人種が多様で、5人に1人の子どもが移民の家庭で育つアメリカでは、学力を超えた効果がみられます。たとえば、学校と家庭をつなぐことは、特に経済的に大変かつマイノリティが多い学校では、子どもたちの登校を促し、学校への愛着を強め、学習のモーチベーションを高めるという実践研究が多くでています。

ニューヘイブンの学校の挑戦

かなり先駆的な事例を紹介しましょう。コールマン・レポートの直後、Commer率いるイエール大学のチームは、学校と家庭をつなぐ大規模な試みをコネチカット州の公立小学校2校で行いました*6。経済的に困窮した人種的マイノリティの家庭がほとんどで、学力査定、不登校率、問題行動において学校区最下位と下から2位を占める学校でした。大学と学校が協力したこの試みでは、まず、生徒の問題行動に焦点をあてるのでなく、メンタル・ヘルスをサポートするチームを編成しました。生徒と家庭のニーズについて、徹底的な聞き取り調査を行ったのです。そこから浮かび上がったのは、黒人の保護者に共有された人種差別経験による学校への不信感や貧困・社会的排除からくるストレスでした。こうした待遇や理不尽さを子どもには経験してほしくないという思いがあるにもかかわらず、学校から理解が得られない、疎外されているという怒りを多くの保護者が共有していました。そうした中で、長期にわたり行われた取り組みには、家庭とのパートナーシップがあらゆる方面から組み込まれました。まずは、ソーシャル・ワーカー、特にコミュニティからのスタッフを巻き込んで家庭をサポートするシステムでした。また、1)教師と保護者が集まる機会を増やし、お互いが楽しい時間を過ごし理解しようとするコミュニティを作る、2)学校のスタッフや教師に保護者との信頼関係を築くために必要な視点やスキルを学ぶワークショップを行う、3)学校の運営や方針に対し、教師・保護者・学生から代表者を選び、それぞれの意見や要望を理解し話しあいながら反映していくというものでした。こうした学校と家庭のつながりを意識した取り組みを実践して15年後、この2校の学力は、地区33校のうち、上から3位と4位に浮上し、生徒の登校率が上がり、問題行動もほぼみられなくなったと報告されています。また最初は、50人に満たない保護者が参加していた学校のイベントも、3年後には300人以上が参加するようになったとのことです。長い年月をかけて、学校と家庭の信頼関係が築かれたのです。

人種的マイノリティの保護者は、自身が通った学校で差別を受けたり感じた体験などから、学校に対して不信感を抱きがちです 。また、他国で学校を経験した移民の保護者にとっては、アメリカの学校文化や教育システムはなじみがないものです*7。私自身も、子どもが小学校に上がる前、学校からの連絡がほぼないことに戸惑いました。就学前のオープンハウス(学校公開)で学校の様子は見れたものの、日本での学校経験から、小学校に上がる前に何か準備する持ち物などがあるのではないかと思ったからです。始まってみると、これといって決まった持ち物はなく、個々が好きなリュックに必要と思う文房具を持っていくようになっていました。教室には、先生が用意した共同で使える文房具がありました。ただ、こちらは、先生により方針が異なるようで、次男の入学前には、担任の先生から鉛筆やクレヨンなどの持ち物リストがメールで送られてきました。同じ学校内でも先生方によって方針や教え方、使う教材が異なるということも、子どもたちの経験を通じてようやく分かるようになりました。

なぜFamily Engagement?

Culturally Relevant Pedagogyは、生徒や家庭の文化につなげる、または適した教え方という意味で、この20年、台頭してきた教育の理論と実践方法です。人種・言語・経済的マイノリティの子どもたちの教育を支えるため、多様な家庭の文化や経験を理解しながら、また良さを生かしながら進めていく教え方であり取り組みです*8。たとえば、学習意欲がない、学習態度がよくない子どもがいるとします。以前は、子どもたちの意欲や態度の向上には、個人の行動や心理を考えながら、ほめたり教え方を工夫する教授法や教室の運営の仕方に焦点が当てられていました。けれど、学校で教えていることが、子どもたちの慣れ親しんだ生活や経験からかけはなれているとき、興味は湧きにくいし、学習意欲はなかなか上がらないでしょう。また、「学ぶべき」知識を教えるという考えの根本には、決められた知識を子どもたちに教え込むという、一方的な、暴力的な視線が含まれている可能性もあります。こうした考えは、マイノリティ・移民・経済的に困難な家庭や生徒に対し、できない・やらない・努力しないといった「欠損的」視点を向けてしまうリスクがあるのです。歴史の解釈が時代や国によって異なるように、子どもの興味をひく、役に立つ知識は、文化背景や生活により異なります。長い間、当然とされていた教え方ではなく、子どもの文化や生活につながる学びの意欲や好奇心に目を向け、子ども主体のアクティブな学習がより注目されるようになっています。こう考えると、学校と家庭をつなくことは、学校にとっても大切な意味をもたらします。白人の教師が圧倒的多数を占めるアメリカでは、マイノリティ生徒と教師の文化が異なる場合が多いため、Family Engagementは、異なる背景のコミュニティや家庭の文化や価値観を理解するかけ橋となるからです。

近年、多くのFamily Engagementの事例が報告されていますが、効果的な実践方法は、コミュニティや家庭により異なります。それぞれのコミュニティと家庭の資源やニーズを学校側が理解・尊重し、保護者や地域のメンバーとかかわり協力しながら、子どもの学校経験と学びをサポートしていくという姿勢が、理想のFamily Engagementでしょう。実際には、アメリカでもこうした関係を築くことは簡単ではありません。家庭との関係を築くための研修やワークショップが少ないこと、分断が根強く人種や文化が異なる人々同士がかかわる機会が少ないこと、日々の多忙な業務に追われ先生方や学校もなかなかFamily Engagementに手が回らないというのが現状です。けれど、Family Engagementを推進する背景には、学力格差を克服し、多様なニーズに対応した民主主義的な学校をめざす、という近年のアメリカ教育の理想が反映されているのです。


    参考文献
  • *1 Weiss, H. B. (2010). Beyond random acts: Family, school, and community engagement as an integral part of education reform. National Policy Forum for Family, School, & Community Engagement.
    https://sedl.org/connections/engagement_forum/beyond_random_acts.pdf
  • *2 Pomerantz, E. M., Moorman, E. A., & Litwack, S. D. (2007). The how, whom, and why of parents' engagement in children's schooling: More is not necessarily better. Review of Educational Research, 77, 373-410.
  • *3 Coleman, J. S. (1966). Equality of educational opportunity. U.S. Department of Health, Education.
  • *4 Larearu, A. (2000). Home advantage: Social class and parental intervention in elementary education, (Second Edition). Rowan and Littlefield.
  • *5 Robinson, K., & Harris, A. L. (2014). The broken compass: parental involvement with children's education. Harvard Education Press.
  • *6 Commer, J. (2005). The rewards of parent participation. Education Leadership, 62, 38-42.
  • *7 Turney, K. & Kao, G. (2009). Barriers to school involvement: Are immigrant parents disadvantaged? The Journal of Educational Research, 102: (4), 257-271.
  • *8 Ladson-Billings, G. (1995). Toward a theory of culturally relevant pedagogy. American Educational Research Journal, 32, 465−491.
筆者プロフィール
yoko-yamamoto.jpg 山本 洋子(やまもと・ようこ)
米国ブラウン大学教育学部特任助教授。専門分野は、教育・家族・子どもの発達と文脈的要因(ジェンダー・社会階層・文化など)。現在、日米の幼児と小学生の子育てや教育プロセスを調査するプロジェクトのディレクターとして調査を遂行中。

※肩書は執筆時のものです

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